ここは、あの水晶の柱がある荒野のような世界。
ここに誰か、ローブで顔を隠した少女2人が足を踏み入れている。曇り空を横切る白い鳥を見上げ、一人の少女が首を傾げる。
「……あれ?ここって、鳥さん飛んでたっけ?」
「さあ?この世界は、生き物も全部いなくなってるはずなんだけど……」
”あの時”に、みんなみんな消えてしまった。無くなってしまった。
残ったのはこの大地と、水晶の柱だけ。
しかし今日来てみれば、ほんのわずかに変化が起こっていた。
「なんとなくだけど、ここに私たち以外の誰かの気配がする……それも複数」
「あー、なんか分かる気がする」
鳥が飛ぶようになっただけではなく、自分たち以外の別の誰かの気配がほんの僅かに感じるのだ。何かをしたのは、その人物だろう。しかし、一体誰が?
この場所を見つけたのは自分たちと後一人だけ。自分たちが鳥を放ったわけでもないし、失礼ではあるが後一人がそんなことをするとはなんとなく思えない。
じゃあ、誰が?あり得るとしたら、今仲間内で話題になっている、『ステフォン』の新しい持ち主さんの仕業なのだろう。
「……まあでも、“今の私たち”にはあんまり関係はなさそうだよね。『ブラック』はここにきてる訳でもないみたいだし、私たちもそろそろ帰ろうよ」
「うん……そうだね」
少しの疑問を抱えながら、2人はこの世界を後にする。あまり長居すると、向こうで待っている仲間達に余計な心配をかけてしまうのはよくわかっている。
……まあ、荒野と水晶だけの殺風景よりは、僅かにマシになったとは思うが。
「はいプリキュアしゅーごー!次は誰が行く?」
「あたし以外でお願いしまーす」
一方、どこか別の世界の闇の使者達。コンプリートからステフォンを取り戻すために戦っているのだが、この前はちょうどその彼女に一人負かされてしまったのだ。
「じゃあ、アタシが行ってもいいかな?」
「『ピーチ』が?」
「…手を上げたの一番早かったし、今回はピーチの番だね!」
「頑張ってね!」
「うん!任せておいて!」
ピーチと呼ばれた闇の使者の一人が、どこか別の世界へと飛んでいった。
<巡の世界 心野宮・繋家>
『う〜ん……あ、あれ?』
「あ、起きた」
『は、ハッピー!大丈夫?』
『スマイルプリキュア!』の世界から帰って数日経った頃の夜。
ダークネスハッピーから飛び出した光がステフォンに吸い込まれてから増えたであろう、プロトハッピーがようやく目を覚まして画面を覗き込む。
プロトハッピーはキョロキョロと周囲を見回す。慣れない景色だからか、少なからず混乱しているのだろう。
『こ、ここは……ステフォンの中?』
「……え、ステフォンって分かるの?」
『ま、待って!?
『ほぇ?』
『もしかして、“私が知ってる”方のハッピーだったりする!?』
『!!ま、まさか、本当に!?』
目を覚ました彼女の第一声に『ステフォン』という言葉が飛び出し、巡とプロトラブリーはそれぞれ驚きの反応を示す。プロトラブリーはさらに何か心当たりがあるのか、プロトハッピーに対してあることを問いかけてみる。その言葉に、今度は彼女が目を見開く番だった。
『ら、ラブリーだ〜!!』
『うわわっ!?は、ハッピー!?』
『よかった〜!無事だったんだね!』
『え、えぇ?!』
どうやら当たっていたようで、プロトハッピーはプロトラブリーに思いっきり抱きついた。感動の再会みたいな感じだが、気になることが多すぎて何も追いつかない。やっぱり彼女達は、同じ世界出身の知り合い同士なのだろう。
ダークネスの方と対峙した時とは違い、プロトラブリーが嫌がっている感じでもなくむしろちょっと嬉しそうだ。
ハッピーの中で何かがあったんだろうが、こちらは何もわかっていない。
「……ダークネスの方のハッピーが言ってたラブリーの知り合いっていうのは、あながち間違いではなかったてこと?」
『あ!君がステフォンを拾ってくれたんだ!ありがとう!』
「え、あ、うん。……え、っと、感動の再会?に水を刺しそうなんだけど、君たちは知り合い同士?」
『うん!』
『大丈夫!なんとなくそうだってわかる!』
見えない糸とか、絆とか。そういった見えない何かで彼女達は繋がっているのだろう。とりあえず彼女達が知り合いだとわかって一安心する。
一人ぼっちだった画面の中の二頭身の少女は、ようやく新たな同居人を迎え入れたようだ。
第3話:ダンス部の憂鬱?巡のお悩み相談室
『君たちは同じ世界出身で、その世界がなくなって、気づいたらラブリー以外が闇の使者の中に入っていたってこと?』
『うん。あたしもラブリーとおんなじで、覚えてないところがあるんだけど……』
『どうしてラブリーがステフォンの中に入っていたかとか、世界が無くなった原因とか?』
『うん……ごめんねぇ、全然教えられなくって』
『ううん、そんなに気にしないでよ』
『……え、私がいた世界って無くなってるの?』
『おっと……ラブリーに関しては、その部分の記憶も大きく抜け落ちてるっぽいね』
『え……えぇ〜!?』
『な、なんかごめん……』
昨日はプロトハッピーが目覚めて、色々なことが判明した。
一つ目、プロトラブリーは元々別の世界にいたはずのプリキュアで、プロトハッピーもその世界出身のプリキュアだということ。
二つ目、闇の使者の中にプロトハッピーと同じように、彼女達の元になる何かしらが閉じ込められているということ。
三つ目、プロトハッピーもまた、『自分の世界がどうして無くなったのか』の記憶を思い出せないということ。
四つ目、『ブラック』と呼ばれる闇の使者のリーダー格らしい人物に、「ステフォンとラブリーを取り戻せ」と言われたこと。
あの時、意識だけが世界に飛んだ際にかけられた「ラブリーの友達」というのは、きっとプロトハッピーのような子達なのだろう。闇の使者の中に閉じ込められているかつ彼女達も知り合いと名乗っていたので、もしかすると意識や感情・記憶は共有されているのかもしれない。
ここまでの話を聞く限り、「ブラック」という人物が何かしらの鍵を握っていそうだ。ただ、彼女も詳しいことは言っていないらしいので、直接本人と対峙した時にでも聞き出せばいいだろう。
あともう一つ。ラブリーに関してはハッピー以上に記憶喪失した部分が多いこともわかった。
あのハッピーと友達ということはちゃんと覚えているのだが、世界が無くなっていること自体に関しても忘れているようだった。
世界が無くなった時に、記憶がなくなるほどのトラウマレベルの高い出来事でも起きてしまったというのか。
確かに、プリキュアは日常や当たり前を邪魔されたくないから戦っているとたまに聞くが、守りたいものが守れずに壊されたとなるとたまったもんではない。……よほど、大変なことがあったのだろう。
「……ひとまず、ラブリーの友達を集めていくのが手っ取り早いか」
[巡ちゃん?]
「ほら、昨日言ったじゃん。意識だけが一瞬別の世界に行って、そこで出会ったサニー達に声をかけられたって」
放課後、教師からの頼まれごとで職員室に訪れた後の巡は、誰もいない廊下でラブリー達と会話する。ステフォンの音声は外からでは聞こえないようにしている。
「……もしかすると、あの世界のサニーが言ってたラブリーの友達って、ステフォンの中にいるハッピーのことなんじゃないかって」
[と、ということは!]
[闇の使者の中にみんながいるのかな!?]
「うーん、多分ね。もう一人くらいで同じことが起きたら確信できる」
意識だけが別の世界に飛ぶのは流石に聞いたことがないと昨日は返されてしまったが否定はしなかったあたり、サニーの言っていたことは本当なんだろうとぼんやりと考える。
もし、あの世界にまた飛ぶようなことがあれば、あの世界の彼女達に詳しく聞いておかなければ。
「あ!巡先輩だ!」
「…!その声は、恋華ちゃん?」
声をかけられて振り向くと、巡の知り合いであろう一人の生徒が駆け寄ってくる。
彼女の名前は
実は彼女、自他ともに認める『プリキュア』のガチのファンなのだが……。まあ、いずれ彼女の知識を借りることにもなるだろう。
「今日はどうしたの?」
「日南先輩にこれ渡したくって。アタシ、今日は家の用事で部活出られないから、自分のクラスに同じダンス部員もいないし、先輩も確か同じクラスだったってこと思い出して」
「今なら教室にいると思うし、あたしも教室に戻るところだったから渡しておくよ」
「いいんすか!?ありがとうございます!」
恋華からジャージの上が入った袋を渡され、彼女はそそくさとその場をかけていった。恋華は恋華で家が忙しいようだった。
その事情は一応小耳に挟んではいるのだが……それはまた別のお話。
[ジャージの上?昨日忘れてっちゃったのかな?]
「千夏ちゃんが?あの子基本ジャージの上着は脱いで体育するから忘れたのかな?まあいいや」
ひとまず自分の荷物を取りに行くのと、忘れ物を届けに行くために、自分の教室へと向かっていった。
「ちーなつちゃーん、いるー?」
「ん?あれ、めぐるんじゃん」
2-Bと書かれた教室のプレートがかかるドアを開くと、そこに探していた恋華の先輩こと、
ちなみに巡は、彼女によって『めぐるん』という愛称をつけられており、それが浸透してたまに彼女以外のクラスメイトからもそう呼ばれることもある。悪い気はしていない。
千夏は校則の範囲内で制服を着崩しているが、結構ギリギリである。風紀委員会にはまだ目をつけられていない。
「君の後輩が、忘れ物届けようとしてたっぽいよ。ほい」
「あ、やっべ。ジャージの上忘れてったっけか。ありがとめぐるん」
「お礼なら恋華ちゃんにも言ってあげてね?家の用事で来れなかったけど」
「わかったわかった」
巡の言葉に千夏は笑顔で返す。
彼女のノートには、勉強というより、部活のことについてのことが書かれている。
「部活ノート?」
「いや違うってば。私専用で、部活で教えられたところとか直した方がいいとことかアドバイスとか色々まとめて、自分でどうしていこうかなって考えてたの。ダンスの大会も近いし」
「へぇ……千夏ちゃんって、結構マメだねえ」
ノリと勢いがギャルで陽キャみたいなところはあるが、部活動への熱意は人一倍熱い少女である。幼い頃に見たかっこいいダンスに憧れ、実力もそれなりに高い。今自分たちの体育の授業でやっている創作ダンスでも、班の中での初心者を率先して引っ張っている。
「今ちょっと、自分のダンスに悩んでてさ」
「ダンスに?千夏ちゃんのダンスはかっこいいと思うけど……」
「いやまあそれはそうなんだけど…何というか、周りのダンス部の子と比べると、どうも自分がまだまだだなって感じがして……1年にめっちゃ上手い子が入ってきて、それで私らも負けてられないって思っちゃってるのかなって」
「対抗心的な?」
「そうそれ。的確。それで、結構練習やってるはずなんだけど、自分でも全然納得できなくって……やっぱ今まで通りのやり方から見直すべきなのかこれは?でも先輩のやり方試しても上手くいかなかったし……」
千夏も千夏で悩んでいることがあるようだった。これはおそらく、スランプというやつなのだろう。
何か、力になってあげたいが、ダンスやそう言った世界にはほぼ無縁な巡にとって、素人が口に出していいものかと感じてしまう。
その後も巡は千夏の話に耳を傾き続け、気づけば部活動の時間に。
「いやあ、ありがとめぐるん。話し相手になってくれて」
「全然いいよ。千夏ちゃんが少しスッキリしたんなら、あたしも、話聞くくらいしかできなかったし…」
「いやいや、聞いてくれるだけでも結構嬉しいからさ!じゃ、お互い頑張ろうね!」
千夏は荷物を持って更衣室の方へ向かって教室を出ていった。
教室は巡一人。ひとまず彼女も他人の席を借りて一旦腰をかける。
『さっきの子も、巡ちゃんの友達?』
「うん。ダンス部の。小学校の時からやってるみたい。去年のダンス部の全国大会のやつを動画で見せてもらったんだけど、すごかったんだよ」
それは、千夏に見せてもらった動画。去年の全国大会の時に、千夏は一年で大事なソロパートを任されていたようで、その時のダンスが圧倒的にキラキラ輝いて見えていた。きっと、実際に見るとその熱意がもっと伝わってくるんだろうなとは思ったくらいに。
「なんか、あんなに悩んでる千夏ちゃんも珍しかったな……。何か、彼女がもうちょっと気楽にダンスできるように何かしてあげたいんだけど、何かないかな……素人は黙っとれ的な案件……?」
『う〜ん……』
こうして巡の悩みを一緒に考えてくれるあたり、ステフォンの中のプリキュア達もお人よしのような一面もあるのだろう。
『ダンスのことで力になってくれそうなプリキュアっていたよね』
『そういえばラブちゃん達がいる!』
「え、いるの?そんな都合よくダンスをやってる子が」
『いるよ!……!って、巡ちゃん!タイミングよく“World Trip”が!』
「本当だ!すごいタイミングがいい!」
ステフォンを操作して『World Trip』を開くと、昨日と同じようにあの画面へと移行する。
昨日と違うのは、『スマイルプリキュア!』を表すマークが点滅せずに金色に変わっていること。そして、4時の位置にあるマークが赤く点滅していた。
そのマークは、ハートを四つ合わせたクローバーのようで。
『”フレッシュプリキュア!”のマークだ!またネオフュージョンの欠片と闇の使者かな?!』
『巡ちゃんの悩みも、もしかすると解決できるかもしれないね!』
「なるほど……君たち的には本当にタイミングがいいんだね。あたし、一回ちゃんとプリキュアを履修しようかな……」
ちょっと知識がなおざりになっている気がする。これは後輩の力を借りるのはすぐになりそうだ。
マークをタップすると、いつものようにあのワープホールが開かれる。この先に、闇の使者達と一緒にダンスをやっているらしいプリキュアが暮らす世界が待っている。
深呼吸をし、巡はワープホールの中に勢いよく飛び込んだ。
星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、教室との距離をどんどん遠ざけていく。出口も、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。
視界が、白い光で塗りつぶされる。
「プリキュア・エスポワールシャワー……」
「プリキュア・ヒーリングプレアー……」
「「フレッシュッ!!」」
『ナケワメーケ……ッ!!!』
青いスペードと黄色のダイヤの形をしたエネルギー弾が、ナケワメーケと叫ぶ異形の怪物に衝突する。エネルギー弾が怪物を浄化せんとジリジリと飲み込もうとするが、怪物は危機を察し、黒い液状となって地面に消えていった。
どうやら、逃げられてしまったようだ。
「ベリー!パイン!大丈夫!?」
青いプリキュアと黄色いプリキュアの元へ、一人のツインテールの少女が駆け寄る。彼女達の知り合いだろう。
「アタシ達は大丈夫よ。逃げられてしまったけど」
「ラブちゃんも怪我はなかった?」
「あたしも平気だよ!でも……」
ラブと呼ばれた少女は、変身を解いた幼馴染の二人には心配させまいと笑顔を見せるが、どこか気まずそうだった。それもそのはず。
「まさか、突然現れたナケワメーケに、ラブの『リンクルン』が奪われてしまったなんて……」
「一体どこにいっちゃったんだろう……」
どうやら先ほど現れた怪物によってラブの変身アイテムとも言うべき『リンクルン』が奪われてしまい、プリキュアに変身できずに逃げ回っていたらしい。
気まずそうな様子なのは、幼馴染達に任せっきりになってしまっている状況に対して、何もできなかった自分に嫌悪感に近いものを示しているのだろう。そんな彼女の様子に、二人は顔を見合わせ、声をかける。
「大丈夫よ。きっとまた現れると思うし、その時に取り返しましょ!」
「うん!だからラブちゃん、そんなに自分を責めないであげて?」
「美希たん、ブッキー……!うん……!」
励まされた少女の目が、ほんの僅かに紅くゆらめいた。
ここは四つ葉町の某所。この世界におけるプリキュア達が暮らす街だ。
ちょうど巡たちがこの世界に足を踏み入れる数刻前の出来事である。
<フレッシュプリキュア!の世界>
巡が降り立ったのは、野外ステージが設置されている大きな公園。四つ葉町公園と呼ばれる場所だった。
「ここが、フレッシュプリキュア?がいる世界かな」
『公園に出ちゃったね!……ラブちゃん達が練習してたりして』
『でも、まだ誰もきてないみたい……』
プロトラブリー達曰く、ラブちゃんという人物を含めたダンスチームの面々は普段、この公園で練習を行っているらしい。場所も広いしステージもあるし、近くには何かしらの移動販売のキッチンカーまっているから休憩場所もあって、かなり良さげな立地だ。
「あのワゴン、何か売ってるのかな?」
『あ!ラブちゃんが言ってたドーナツ屋さんってここじゃない?』
「へぇ。ラブちゃんって子が来るまで、そこで時間潰しても良さそうだね。……あ、でもお金使えるかな」
心野宮にもこういった名物になりうる移動販売のキッチンカーはいくつかある。その中でも巡が好きなのは、噴水公園によく止まっているクレープのお店『Mucha's Crepe』だろう。
あそこはどの商品も500円前後くらいの値段で美味しいクレープをいただくことができる。巡のおすすめは、苺やブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系のフルーツをふんだんに使った『ベリーベリーパラダイス』だ。
なんだかんだドーナツの移動販売は初めてかもしれない。
ちょっとしたワクワク感を抱いてその場所へ向かおうとした。
『ナーケワメーケーッ!!』
「……ん?」
『え!?』
やけに恐ろしい咆哮が聞こえた気がして振り向けば、そこにいたのは異形の怪物だった。視線は、巡の方に向いている。
「……あれ?あの怪物もドーナツ食べに現れたの?」
『そ、そんなわけないでしょ〜!?』
『というかあの怪物、ネオフュージョンの気配がするよ!』
「えぇ?ちょっと、紛らわしい現れ方をしないでよ。ま、大事になる前に相手取るよ」
異形の怪物は前回と同じ。ネオフュージョンの欠片が化けているだけのようで、相変わらず巡が持つステフォンの力を狙っているらしい。
絶対に取られてたまるかという意思を持って、巡は来て早々プリキュアの力を行使しようとステフォンを構えた。
「「ダブル・プリキュア・キックッ!!」」
『ナケワッ!?』
「あれ?」
しかし、どこからか飛んできた二人のプリキュアのキックに油断したのか、怪物はもろに喰らってゆっくりと倒れてゆく。
巡の前に降り立ったのは、ハッピー達とはまた雰囲気がガラリと違う、ピンクと赤のプリキュア。その胸には、カラフルな四葉のクローバーが揺れている。
もう一撃加えようと二人は構えるが、ソレワターセと吠える怪物は何か焦った様子で、どこかにいなくなってしまった。
『あ!また逃げちゃった!』
「……何だったんだ今の。やっぱりドーナツが食べたかったのかな」
『まだ言ってるよこの子……それより今のって!』
「ねえ、大丈夫?」
やっぱり何かがずれている巡は置いておいて、プロトラブリー達は先ほど助けてくれたプリキュアのことを知っているようだ。
金髪ツインテールのピンクのプリキュアと、ピンクのロングヘアの赤いプリキュア。彼女達がこの世界におけるプリキュアである『フレッシュプリキュア!』なのだろう。
「あたしは大丈夫。ありがとう……えっと、プリキュア?」
「…!私たちのことを知っているの?」
「あっ……話すとまあまあ複雑になるんだけど……」
「それなら、カオルちゃんのところでお話ししようよ!美希たんたちもまだきてないみたいだし」
「?」
変身を解いたツインテールの少女は、人懐っこそうな笑顔を浮かべた。
「じゃあ、巡ちゃんは、別の世界から来たプリキュアなんだ〜!」
「私がラビリンスにいたような、同じような感じなのかしら……?」
「多分せつなちゃんが思ってる感じだと思う。パラレルワールドってやつ」
キッチンカー前のテラス席。巡とピンクのプリキュアこと『桃園ラブ』と、赤いプリキュアこと『東せつな』は、ドーナツを囲んで座っている。ハートの形をした穴を覗きつつ、ドーナツを一口。
「それにしてもこのドーナツ、穴がハートの形してて可愛いし、何よりも美味しいね」
「でしょ?カオルちゃんとこのドーナツはサイッコーなんだから!」
キッチンカーの台所にいるサングラスでちょっと強面そうな店長は、陽気な笑顔でラブと互いに親指を立てている。
この人絶対いい人だと、巡はすぐに理解した。ステフォンでプロトラブリーたちが喋っても特に何も言うことなく、なんなら普通に受け入れてるあたり、彼は彼女達がプリキュアだと言うことを知っているのだろう。
プリキュアはもっと「クラスのみんなには内緒だよ」的なノリで秘密にさせる存在と思っていたが……。どうやら、そういうわけでもない世界もあるようだ。
「……それで、さっきのナキワメーケは、巡が持っているそのステフォンを狙っているのね」
『うん』
『ネオフュージョンは、ステフォンの力を取り込んで、たくさんの世界を壊して自分のものにしようとしてるのかも』
プロトハッピーが、かなり重々しい口調でそう告げる。おそらく闇の使者の中に閉じ込められていた時に見聞きしたでだろう記憶の断片をつなぎ合わせて考察しているのだろう。
ネオフュージョンは確実にクロだ。彼女達にとっても、巡やラブ達にとっても、放置していればまずいことが起きることになる。
だとしたらで浮かんでくる疑問も少しある。
「なら、どうして闇の使者はネオフュージョンの欠片と一緒に行動しているのかしら?」
「闇の使者って、さっき言ってた『黒いプリキュア』のことだよね。狙いが同じステフォンなんだし、よくないことに使おうとしているのかな?」
『それは……よく分からない……あの人、全然言ってくれなかったし』
「それに『奪う』じゃなくて、『取り返す』なのもちょっと引っかかるというか……。こればっかりは、闇の使者本人に聞かないとわかんないよね」
しかし、ネオフュージョンの欠片に逃げられ、闇の使者には今のところ遭遇していない。現状自分たちから呼び寄せる術がないため、再び向こうから現れるのを待つしかないようだ。
「それにしても、美希たんとブッキー遅いね……どうしたんだろう……」
「もしかして、私たちがさっき出会ったナケワメーケに遭遇しているのかも」
「その人達って、ラブちゃんとせつなちゃんの友達?」
「うん。同じプリキュアで、クローバーっていうダンスのチームを組んでるんだ〜」
同じダンスチームで同じプリキュア。ラブ曰く、美希たんとブッキーという少女達とは幼馴染同士らしい。
そういえば、ダンスをやっているプリキュアがいると聞いた時に偶然この世界にネオフュージョンの何かしらが現れたのを知って、巡はここに来たのを思い出す。
「そうなんだ。あたしの友達にもいるんだよね、ダンスやってる友達」
「ほんと!?」
「そう。小学生の頃から続けてるんだって。……今はちょっと悩んでるっぽいけど」
「え……?ど、どうしちゃったの?」
「実は……」
なんとも自然な導入で、今日の千夏のことをひとまず話してみる。あれはおそらくスランプだろう。
「それで、何か力になりたいというか……ラブちゃん達ならこういう時、どういう言葉をもらったら嬉しいって思うかなって」
「スランプで落ち込んじゃった時にかけられたい言葉かあ……」
「…巡は優しいのね。友達のために、たくさん悩んでくれるなんて」
「そうなの、かな?」
友人のことでも自分のことのように悩んでいる巡の姿を見て何を思ったのだろう。せつなは微笑ましいといった様子で優しい眼差しを彼女に向けている。
「それほど、その友達を大切に思ってるのね」
「まあ……彼女のダンス、初めて見た時からキラキラしていてすっごいなあって思ってて。どんなに周りが自分よりも上手で、自分じゃ追いつけないって思ってても……それでも、そのキラキラしたダンスは彼女だけのものだし、無くしてほしくはないなあって」
「それだよ巡ちゃん!」
「……え?」
ふと溢れた巡の呟きに、ラブがそれだと言わんばかりの勢いで彼女の手を掴む。
一体何がそれだったのか、今自分は何かしらの正解を無意識に踏んでいたのか、訳もわからぬまま繋がれた腕を上下に振られながら、
「『自分らしく』だよ!多分だけど、その子って今、自分のやってることがこのままでいいのかって悩んでるんだよね?」
「う、うん。話を聞いた感じだと……」
「ああ、そういうこと……」
せつなもラブが反応を示した理由をなんとなく察したのか一人頷く。
「スランプは誰だって通る道だと思うの。きっとその子は、それをどう乗り越えようかで悩んでいるんだわ」
「な、なるほど……あ、そうか」
そして巡もなんとなくではあるがそれを理解する。
あの時千夏は、「やり方から見直すべきか」ともこぼしていなかったか。
彼女も彼女でさまざまなやり方で自身のパフォーマンスをいいものにしようとしたのだろう。しかし、それら全てがあまり自分にはあっていなかったのかもしれない。
おそらだがく、今彼女は自分を見失っている気がする。そう察したのだろう。
「無理にやり方変えず、いつものあなたらしく、あなたのままで戦え!……ってことかな」
「”戦え”だとはまたちょっと話が変わってくるけど……うん、そんな感じ!」
少し巡が歪曲したが、伝えたいことは大体通じたっぽいのか、ラブはまたあの人懐っこそうな笑顔を浮かべる。
このラブという少女、どうやらかなり表情豊かな部類に入る方らしい。さっきも君も一緒に悩んでくれるんだと言いたくなるくらいには考え込んでいた。
「よし……とりあえず次であったらちょっと伝えてみよう。……そして話遮っちゃった気がするけど、美希たんたち大丈夫かな」
『そうだよ!』
『だ、大丈夫かな……』
「そ、そうだった!クローバータウンストリートの方に行ったら合流できるかな?」
「美希達の方に連絡しましょう……って、あそこにいるのって」
せつながスマホらしきアイテムを使って連絡しようとしたところ、ちょうど3人の少女達がこちらへ向かってくるのを見つけた。
この3人のうち2人が美希たんとブッキーであるのは間違いない。しかし、何やら不思議なこと起こっているようだ。お互いがお互いに困惑の声をあげる。
「……あれ?」
「……っ!?」
「は、はぁ!?」
「えぇぇ!?」
流石の能天気な巡も、この状況の不可解さに疑問符を浮かべる。
「あ、あれ〜っ!?」
「なんでぇ!?」
「なんでラブちゃんが、『2人』いるの……?」
連れてこられたもう1人の少女は、ちょうど巡が一緒に話していた桃園ラブと姿も声も瓜二つだったのだ。
続く…
次回更新日:4月21日(日)
過去回を載せてると、過去の話ってまだ平和で楽しいと思ってしまう