どっちが本物でしょね
ここは『フレッシュプリキュア!』の世界。
よく晴れた四つ葉町公園のとある場所。今日は絶好のダンス日和だ!……なんて呑気なことも言えるはずもなく。というか、そんなことを言っている場合ではない。
繋巡はステフォンの導き
ここへ訪れて早々にネオフュージョンの欠片らしき怪物と遭遇し、早速戦おうとしたところ、この世界で活躍しているらしいプリキュア達に助けられ、ひとまずことなきを得る。
彼女達との交流兼巡のお悩みも無事解決後、もう二人いるというプリキュアの仲間達もネオフュージョンの欠片と遭遇しているかもしれないということで探しに行こうとしたところ……。
「あ、あれ〜っ!?」
「なんでぇ!?」
「なんでラブちゃんが、『2人』いるの……?」
探そうとしていた二人のプリキュアが連れてきた人物が、巡がさっきまで一緒に話していた人物────『桃園ラブ』と瓜二つで、周りも当事者も混乱と困惑をしているところだった。
「えぇ……?えっと……ラブちゃんって双子?」
「『そんなわけないでしょ〜!?』」
あまりの不可解さに、思わず巡も落ち着こうと何かを言っているが、普段通りの能天気さと地味にズレた斜め上の回答が変に混ざり合ってしてしまい、プロトラブリーとラブに思いっきり突っ込まれた。
第5話:ステップを踏んで 決め手は……囮?
巡達の前に現れたもう一人のラブは、現れた怪物に変身アイテムを取られて変身ができないらしい。だが、巡が一緒に行動していた方のラブは普通に変身していたし、戦っていた。やっぱり、何かがおかしい。
『これって、絶対どっちかが闇の使者だよ!』
「あー、やっぱり?」
「巡の言っていた、プリキュアの姿とそっくりの……?」
プロトハッピーが何かを確信したのか、そう叫んだ。
そういえば、『スマイルプリキュア!』で闇の使者に出会った時もそうだった。その時も見た目は完全に『キュアハッピー』を黒くしただけで顔も性格も瓜二つの姿だった。彼女達が変身前の姿にもなれるとしたら、これはあり得ない話ではない。
「な、ならどっちが本物のラブだっていうの?」
「あたしだよ美希たん!」
「違うよ!あたしが本物だよ!」
「ダメだわ、どちらのラブちゃんも本物っぽい……」
「まあ本人達はどっちもそう言うしかないもんね……」
美希たんこと蒼乃美希の問いかけも虚しく、その意思を譲ろうとしない二人のラブに、ブッキーこと山吹祈里は頭を抱え、東せつなは二人を交互に凝視する。
お互いが本物と言い張りざるを得ない。残念ながら、それしか自身こそが本物だと証明する術がないのだ。これには巡やラブの仲間達もお手上げである。
ただ、ステフォンの中のプリキュア2人だけはそうでもないようで。
『ラブリー、もしかすると……』
『うん。多分だけど……!巡ちゃん、向こうのラブちゃんが闇の使者かも』
「え?」
『なんでかはわからないけど……纏う雰囲気が違うというか、優しくない何かがあるというか……』
どうやら、プロトキュアたちにとっては隠しているものがある程度お見通しらしい。それは感覚的なもので言語化が難しいんだろうけれど、そういうものがよくわかってしまうものなのだろう。
ラブリー達に疑われた方の向こうのラブは、困ったように笑う。
「や、やだなあ。ラブリー達までそんなこと言われちゃうなんて……」
『え……?』
「……おや?」
向こうの彼女は、まるでラブリー達のことを
ここは『フレッシュプリキュア!』の世界であって、
それなのになぜ、向こうの彼女は知っているのだろうか?風だけがふわりと、少女達の頬を撫でている。
「……そっちのラブちゃんの方にいる二人って、この子とよく似た女の子たちに出会ったことはない?」
なにか、向こうにいるラブが闇の使者かもしれないと言うことを証明する手立てを見つけたのだろう。巡は、ステフォンの画面に映る二人のプロトキュアを美希と祈里に見せて問いかける。
「……!いいえ、初めて見たわ」
「わあ……!とっても可愛いわね!」
「いやブッキー、そんなことを言ってる場合じゃないわよ」
「大丈夫。画面上だけども撫でられるよ」
『め、巡ちゃん!?言ってる場合じゃないよ!?』
「冗談だって安心して。……けど、これで大体見抜けたんじゃないかな」
若干気の抜けた会話が挟まるも、これで全員がどっちが闇の使者なのかがはっきりした。闇の使者がいる世界は、どうやらプリキュア同士で垣根を超えて、顔見知りか友達らしい。
「じゃあ、向こうのあたしが偽物ってこと!?」
「んー、なんのことかなー?」
「あっ、分かりやすくしらばっくれちゃった」
闇の使者だと看破された方のラブは、まるで「ご存知ないですね〜」とでも言っているかのような笑顔で目をそらす。それは最早、自分はそうだと認めていると言っているようなものだった。この少女、嘘をつくのが苦手らしい。
「いやあ……ごめんねぇ、美希たん、ブッキー。騙しちゃって」
「あ、あなたは一体……!」
「……でも、『偽物』だなんて酷い言い方しないでよね、こっちの世界のあたし。別の世界のラブなんだから、あたしだって『本物』だとしか言えないんだよ」
「え、えぇぇ……?」
騙していたことに関しては本当に申し訳なさそうだったが、偽物と言われてしまったことに関しては気にしている様子で、巡達の方に一歩前に出る。何かしらの嫌な雰囲気を察して、巡はステフォンを後ろに隠す。
「……やっぱり狙いはステフォンとラブリーってこと?」
「そうだよ?それ以外に何があるというの?」
「いやあ、ハッピーの時にも言ったんだけどな。目的がわからない相手には渡せないって」
「あたしたちだって、それが『必要』だからずっと探してたの。だから、ね?」
「何に必要なのかがわからないんだよなあ」
こちらに近づいて手を伸ばしてくる闇の使者から守るように、ラブが巡の前に立つ。
「……なんのつもり?」
「なんのつもりも何も、嫌な予感がしたから……巡ちゃんたちが、嫌がってる気がしたから!」
「ラブちゃん……」
「へえ……?」
闇の使者の方のラブの背後に、先ほど一瞬だけ現れた怪物が現れる。「ワケワメーケ」と咆哮を上げるそれは、確実にこちらを狙っている。戦闘になるのは不可避のようだ。
いつの間にか、闇の使者の方の姿も変わっていた。それこそ姿は『キュアピーチ』とそっくりの黒い衣装で、クローバーがあった場所は紅いクリスタルに変わっている。その目は、鮮やかな紅い光を灯してこちらを敵視している。
空は、いつの間にか黒く厚い雲に覆われ、薄暗い何かに包まれてしまっている。
『巡ちゃん!向こうはやる気だよ!』
「美希たん!ブッキー!せつな!」
二人の呼びかけに、それぞれの変身アイテムを構える。
「あたしは“闇の使者”のダークネスピーチ。美希たん達とはあんまり戦いたくないけど、あたし達の邪魔をするなら、こっちも全力で行くよ!」
『ナケワメーケェェェ!!!』
ようやく名乗りあげた闇の使者────ダークネスピーチが、勇ましく啖呵を切った。
「みんな、行くよ!」
リンクルンと、ステフォン。どこか形状の似ている変身アイテムが煌めく。
『チェインジ・プリキュア!ビート・アップッ!!』
「コンプリート・ステージONッ!」
光に包まれた彼女達の姿が、プリキュアの姿へと変わっていく。
「ピンクのハートは愛あるしるし!もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし!つみたてフレッシュ!キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし!とれたてフレッシュ!キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せの証!うれたてフレッシュ!キュアパッション!」
「レッツ!」『プリキュアッ!』
「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」
「……やっぱりなんかこの後に決め台詞か何か考えておいたほうがいいかな」
『えぇぇ……?』
『まーだ言ってるよこの子』
『ナケワメーケェ!!!』
相変わらず名乗った後の決め台詞への悩みをこぼすが、そこまで呑気に考えている暇はなく、怪物はコンプリートを通り過ぎてピーチ達の方へと向かって襲い掛かろうとする。怪物はコンプリートではなく、この世界由来のプリキュアを優先して狙うらしい。
「はぁぁぁっ!!!」
「おっと」
一方のコンプリートも、ダークネスピーチからの攻撃を受けて避けたり防いだりの防戦に徹する。ハッピーの時とは違い、純粋に拳と拳のぶつかり合いで勝負をつけようとでも言うのか。
「君がステゴロで戦うなら、あたしも……!ふっ!せいっ!」
戦いぶりに習ってコンプリートも拳と蹴りで応戦しようとするが、向こうが一枚上手なのか、ただただコンプリートが慣れない戦い方をしているだけか、動きが読まれてすぐに避けられてしまう。
お互いの蹴りがぶつかり合い鍔迫り合いのような押し合いになってしまうも、ダークネスピーチに押し込まれて大きく吹っ飛ばされる。
「うわっ」
「コンプリート!」
「大丈夫!?」
飛ばされた先は、ちょうど怪物と戦っていたピーチ達の方で、パインとパッションに心配される。しかし怪物の動きも激しいようで、休む間もなく立ち上がり怪物の腕から逃れる。
「うぅ……動きが早い……!慣れないことするとやりづらいね。ラブリー、君の力をまた使うことになるかも」
『私は全然大丈夫!コンプリートはコンプリートのやり方で、一緒に戦うよ!』
「ありがとう……!んじゃ遠慮なく」
『CureWeapon!Lovely!』
コンプリートの手にラブリーショットガンが召喚され、向けた銃口からは桃色のエネルギー弾が数発放たれる。エネルギー弾は怪物に当たり、撹乱させる。
「じゅ、銃!?」
「うん。キュアウェポンっていうらしい」
「びっくりはするけど、いいんじゃない?」
『やったあ褒められた!』
ベリーに驚かれるのも無理はない。銃を使うプリキュアは今の所、どこを探してもコンプリートしかいないだろう。
「ありがとうコンプリート!おかげで隙ができそう!ベリー!」
「ええ!」
エネルギー弾で怯んだ隙を逃さず、二人のプリキュアが大きく飛び上がる。
「「ダブルプリキュア・キックッ!!」」
息のあったコンビネーションで、怯んだ怪物の脳天に二人のキックが炸裂する。怪物は受け止めようとするものの、二人分の威力までは分散できず、ずしんと地面に沈みそうになっている。
すかさずパインとパッションも、怪物の足元に潜り込むように駆け出す。
「「ダブルプリキュア・パンチッ!!」」
沈み込む怪物の脚部らしき箇所に叩き込まれた二人の拳により、怪物はいよいよ体勢を維持できるのが困難になってしまったようで、後ろ向きに倒れ込んでしまった。起き上がるのに手間取っているのか、今のところ動き出すような雰囲気は感じられない。
「あれ?!うそ、倒されちゃった!?」
「今のうちに……!」
『PowerCharge!Sunny!』
こうも簡単に張り倒されてしまうのは想定外だったようで、ダークネスピーチが驚きの声をあげている。油断している今なら彼女の動きを止められるかもと確信し、コンプリートは炎のボールを彼女めがけて撃ち放った。
射程内にいる彼女は、炎弾が迫っていることに気づいて一瞬焦ったような顔を見せるも、すぐに冷静さを取り戻し、何やらその手を炎弾の方に突き出している。まさか、それを受け止められるとでもいうのだろうか。
炎弾は彼女に被弾し、風圧で硝煙と土煙が舞う。
「当たっ……てない?」
「あ、危ない危ない……」
「……えぇぇ?!」
『そんな!?』
姿を隠していた煙が晴れ、普通に元気なダークネスピーチの声が聞こえ、一斉に驚く。
あの炎弾は、彼女によって受け止められている。それも、彼女が展開したであろう、ハートの形をした黒い光のシールドによって。炎弾は火花を散らしながら、その壁を突き抜けようとしているが、破れる気配は全くない。
「これ出せるようになったの忘れてた!」
「忘れてたって……」
「それじゃあこれはお返しだよ!」
「え、うわっ」
展開された黒い光の壁は、炎弾を勢いよく弾き返し、コンプリートの方へと引き戻されていく。跳ね返された炎弾を避けるものの、標的を失った炎弾は体勢を崩された怪物に直撃する。当てられた怪物はその勢いで一気に体勢を戻した。
「あ、ごめーん!大丈夫?!でも勢いで起き上がれたから結果オーライだよね!」
『ナケッ!?』
「今サラッととんでもないポジティブ発言しなかった?」
『そ、それよりもさっきのって!』
まさか防御面に特化していたとは……。この様子では、遠距離からの攻撃は全て防がれてしまうようだった。
「ショットガンでの攻撃が効かないなんて……変に撃ち続けてもさらに弾き返されそうだし……」
『……そうだ!ハッピーの力は?』
『あたし?!で、できるかなあ……』
そういえば、プロトラブリーがなんらかの武器系統のアイテムとしてコンプリートと共に戦ってくれるというのなら、この前新しくきたプロトハッピーにもなんらかな力が宿っているのではないかと考えたらしい。当のハッピーの方は、自分にもできるかどうかを悩んでいるようだが。
「ハッピー、大丈夫。あたしを信じて」
『コンプリート……』
「多分だけど、闇の使者の中に君達の知り合いがいるんだと思う。一緒に、助けよ?」
『……!うん!』
『CureWeapon!Happy!』
キャリーに収納されたステフォンから音声が流れ、光の玉が飛び出す。それはコンプリートのどこかに飛んでいき弾け、何かに変わったようだ。手元にあるわけでもなければ、周囲に浮いているわけでもない。
『コンプリート!背中見て!』
「背中?……あ」
プロトラブリーに言われて自身の背中をチラリと見やる。
彼女の背中には、真っ白で大きな鳥の『翼』のような装飾が増えていた。翼の付け根部分には、キュアハッピーのリボンのようなものも見える。
「なるほど、『ハッピーウィング』ってやつ?でもこれでどうしろと……」
『試しにジャンプしてみて!』
プロトハッピーに言われるがまま、とんと地面を蹴って上に飛ぶ。白い翼は光を纏い、コンプリートは普通に跳ぶよりも高く、空を飛んだ。
まさかこんなに飛ぶとは思わず、プリキュアも闇の使者も怪物も、遠く飛んでいったコンプリートを見上げる。
「……!?わあ、街が眼下に広がってる」
『すごーい!めっちゃ飛んでる!!』
『こんなに飛べたのあたし!?』
「本人も驚いてるんだけど……ということは……!」
コンプリートは何かを思いついたのか、真下にいるであろうダークネスピーチに向かって一直線に急降下する。光を纏った突進で、あの黒い壁を突き破ろうと考えたらしい。
「うわっ!?」
「く……っ」
案の定、コンプリートの突進はあの黒い光の壁を出されて阻まれるが、ほんのわずかに押し込んでいる。
このまま貫けるかと力を込めるが、ダークネスピーチも負けてはいられない。彼女の体から、黒い闇の力が溢れ出す。
「この……っ!ダークネス・ラブサンシャインッ!!」
「う」
コンプリートを弾き飛ばすのと同時に、黒い光の波が彼女を撃ち抜こうと放たれる。
間一髪でコンプリートが空中で避けるものの、その風圧に煽られて地面に緊急着地する。勢い余って着地は失敗し、彼女は尻餅をついた。
「いたたた……やっぱりあの壁を避けないとダメかあ……」
『でも、あっちのピーチがこっちの動きを見ている限り、全部跳ね返されちゃうよ!』
『ど、どうしよ〜!?欠片の方もどうにかしないといけないのに……』
「あっちのピーチの意識が、あなたに向かなければいいのね?」
「……え?」
遠距離からの攻撃も直接的な突進も全て防がれる上に跳ね返される光の壁を潜り抜け、どうやってダークネスピーチに対して有効な手を打てばいいのか考えていると、その話を聞いていたらしいベリーが彼女に声をかける。
「それなら、いい考えがあるわ。ちょっと耳貸して」
「え、え……」
まるで余裕そうなベリーのウィンクに呆気に取られるものの、その作戦を聞いて「その手があったか」とでも言いたげな表情で目を輝かせ、納得する。他の3人もその話を聞いて、顔を合わせて頷く。
「私たちは、ベリーの合図で一斉に技を放てばいいのね」
「隙はなんとか作って見せる。コンプリートはその力をうまくぶつけて」
「オッケー頑張る」
ここは彼女の作戦を信じて乗ってみよう。
そう思って、彼女は作戦通りに怪物の方に飛んでいく。言い換えれば、ひとまずダークネスピーチはベリーが相手取るということになる。ベリーが前に出る時、ピーチと拳を小突き合う。これが、彼女達の信頼の証なのだろう。
「ピーチ!アタシが相手よ!」
「え、えぇ!?」
「あなたに何があってこんなことをしているのかはわからないけど……これ以上悪いことを重ねさせないためにも……!!」
「ちょ、ちょっと!あたし、目的はステフォンだって────」
「問答無用!悪いの悪いの飛んでいけ!」
「ああああああ!もうっ!」
ダークネスピーチは慌てたのちに腹を括り、あの黒いハートの光の壁を再び展開する。ベリーがこれから放とうとしている浄化技を跳ね返そうというのだろう。
一方のベリーは、手でスペードの形を作り、青い光を集めている。
「プリキュア・エスポワール────」
「……っ!」
「────シャワーッ!!」
ベリーは放とうとした青い光を、ダークネスピーチ……ではなく、振り向いて後ろの怪物の方に向かって放ったのだ。予想だにしていない動きに、身構えていた彼女は思わず壁を無くしてしまう。
怪物に当たった青い浄化の光は、同じく油断していた怪物を再び転ばせる。
「っ!そっち!?」
「プリキュア・ヒーリングプレアーッ!」
「吹き荒れよ、幸せの嵐!プリキュア・ハピネスハリケーンッ!」
怪物は、パインが放った黄色い浄化の光と、パッションが持つパッションハープによって呼び起こされた赤いハートと白い羽根の旋風に飲み込まれて、そのまま浄化されてしまう。
「“ベリーソードは囮”ならぬ、“エスポワール・シャワーは囮”よ!」
「えええええ!?何それぇ!?」
『PowerCharge!Berry!』
「っ!」
眩い光の中から、青い光を纏いながらこちらへ翼を背負って飛んでくるコンプリートが飛び出し、この数秒で起きた出来事に頭が追いつけていないであろうダークネスピーチの方へと向かっていく。鳥や天使を思わせる翼から、ロボットアニメに登場するようなかっこいい形状になっていることには気づいていない。
向かっていくのは、何もコンプリート一人だけではない。
「悪いの悪いの飛んでいけ!プリキュア・ラブサンシャイン・フレッシュッ!!」
ピーチが放ったピンクのハートのエネルギー弾が一緒に放たれ、コンプリートと共に標的を穿とうと一直線に螺旋を描きながら飛んでいく。
自分が置かれている状況がまずいことは分かっているようで、すぐさまあの黒い光の壁を展開されて阻まれてしまう。しかし、今度は展開するのが少し遅かったせいか、コンプリート達の方が若干押し込んでいるようだった。
「ぐ……っ」
「一人の力だけで弾かれてしまうというのなら……!」
「二人の力で、押し切ってみせる……!」
「「はぁぁぁぁぁ!!!」」
パキリ。壁にヒビが入って、少しずつダークネスピーチを押し込んでいく。
彼女もこのまま押し切られてたまるかと言わんばかりに踏ん張るが、一人で二人分のパワーを抑え込むには流石に無理があったようで、ヒビはどんどん広がっていく。
『コンプリート!』
「大丈夫だよ、ハッピー……!あたしも、気合い入ってる……っ!!はあああああ!!!」
「うわ……っ!?」
パリーン!
まるでガラスが割れたかのような小気味良い音と共に光の壁は砕け、その勢いにダークネスピーチが大きく吹き飛ばされた。
『今だよ!』
「こっちもあげちゃう!プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!!」
空中から放たれた無数のハートが、身動きできないダークネスピーチの体に降り注ぐ。
やはり闇の使者は完全な浄化ができないようで、一時的に彼女達を無力化することしかできないらしい。ハートの激流から解放された彼女は、仰向けになって倒れ込んでいる。
そんな彼女の胸の紅いクリスタルから、桃色の光が飛び出して、コンプリートの手の中にゆっくりと飛んでいく。
「うぅぅ……まさか、こんなことってぇ……」
「なんだろう、自分がやっておいていうのもアレなんだけど、なんか申し訳なくなる」
「申し訳なくなるならステフォンを渡せばいいのに……」
「そ、それとこれとは話は別だよ」
流石にしばらくは動けないだろうと思って話しかけてみるが、相変わらずステフォンは狙われている模様。今なら彼女達闇の使者の目的を聞けるかもと思い立ち、コンプリートは倒れているダークネスピーチの方に駆け寄ろうとする。
しかし、それは『第三者』の突然の乱入によって歩みを止めることになる。
「!?」
「え!?」
「……!え、なんでここに────わわっ!?」
腹部を見せた黒いコスチュームに、長い前髪を横に流した茶髪のショートヘア。背中から生えるのは、異質な黒い翼。今の所背中しか見せていないその人物は、倒れっぱなしのダークネスピーチを担いで、またどこかへ消えようとする。
「ちょ、ちょっとまっ────っ!?」
呼び止めようとした直後、異様なほどに殺気立った紅く煌めく瞳で睨み返されて動けなくなってしまった。流石に能天気なコンプリートも、これには尋常じゃない何かを感じてしまう程度だったようだ。
そのまま声も名前も聞けないまま、ダークネスピーチを連れてどこかへいなくなってしまった。
空が元の青さを取り戻し、張り詰めていた空気が緩くなったのを感じた途端、コンプリートは思わず座り込んでしまう。
「コンプリート!?だ、大丈夫!?」
「あ、あたしはなんとか……いやあ、びっくりした……」
「なんだったのかしら、今の……」
『闇の使者の仲間?でもあの後ろ姿って……』
プロトキュア達には、今の人物に思い当たることがありそうだった。
それについて何かを聞こうとしたところ、ダークネスピーチの方から飛び出したあの小さな光の玉が、ステフォンの画面の中に吸い込まれていった。
瞬間、ステフォンからは白い光が溢れ出し、コンプリートの視界を白く塗りつぶしてしまう。
「……まただ」
ステフォンから溢れた白い光が収まると、そこは公園ではなくてあの場所。灰色と水晶の柱と薄暗さだけで構成されたあの不思議な世界。
相変わらず顔と視線しか動かせないが、見渡してあの水晶の柱を探す。そのうち、コンプリートが今回立っていた場所は、この前とは違う水晶の柱の近く。見上げると、そこにはやはり、見覚えのあるプリキュアが眠っていた。
「……今度はピーチか……」
眠っていたのは、キュアピーチだった。
ハッピーの時といい、彼女達はこの世界のプリキュアなのだろうか。一体何があって水晶の中で眠っているのかが謎だが。
そしてその柱からは、淡く優しい桃色の光が。それは厚い雲が覆う天へと伸びていく。
光が収まり辺りを見回せば、何やら見慣れないものが増えていた。
大小様々な円形のステージのような足場が複数個、宙に浮いて出現していた。足場は雲の先まで階段のように続いていそうだが、体を動かせない今の状態では詳しく確認することは不可能だろう。
台には、この前出現した白い鳥達が羽を休めている。木が一本も無いこの場所にとって、こう言った足場は大切かもしれないけれど。
「あなたが、アタシたちを呼んでくれたのね」
「……あ」
声をかけられて振り向くと、そこには出現した台の上に乗ったベリー・パイン・パッション達が立っていた。彼女達もやはり体が透けていて、まるで幽霊みたいな状態だが。
「ごめんなさい、驚いちゃったでしょう?」
「いや、まあサニー達に出会った時もそうだったから慣れちゃったんだけど……そうだ。サニー達は……」
「ウチらはここにおるでー」
「……え、あれ?」
この前と同じ世界ならば、先に出会ったサニー達はどこに行ったんだろうと思った矢先、サニーの声を耳にして振り返る。しかし、そこにいるのはオレンジ色の光の玉だけで……。しかし、光の玉からはサニーの声が聞こえているので、さすがのコンプリートも驚きで何度も瞬きする。
「ちゃうねん!あんな感じに人型になるの、めっちゃ力使うんや!やから今は省エネモードでこれやねん」
「は、はあ……」
「サニー!あなた達もいたのね!」
「あ、フレッシュプリキュアのみんなだ!」
どこからか、黄色や緑、青の光の玉も飛んでくる。多分ピース、マーチ、ビューティだ。
「久しぶり〜!元気?」
「一応は元気よ!」
「良かった〜!もう会えないかと思ったよ〜」
「お変わりなさそうでなによりです」
「あの光がなかったらずっと彷徨っていたところよ」
「あ、あのー……」
プリキュア同士で再会を喜び合う会話が飛び交う中、コンプリートは意識が途絶える前に大事なことを聞いてみることにする。この前と同じなら、視界が少々白みだしているからそろそろ元の世界に意識が戻ってしまいそうだった。
「この世界って、いったい何?」
「そうねぇ……一言で言うなら、『私たちの世界』だった場所かな」
「だった……?それってどういう……あ、やべ、また意識が……」
「嘘!?もう行っちゃうの!?」
パインが告げた答えをもう少し詳しく掘り下げようとするが、またしても意識が引き戻されそうだった。多分今は、これ以上聞ける状態ではないだろう。
「と、とりあえずこの調子でやっていけばいいの、かな……?」
「……ええ。また、ピーチ達のことを助けてくれたら、ここにくることができるかもね。その時に話せることができればいいんだけど……」
世界は明転し、意識は再び元の世界へと戻される。
「……!」
「あ!コンプリートが起きた!」
『だ、大丈夫?』
ピーチ達の呼びかけに意識が戻り、景色は四つ葉町の公園へと戻る。
やっぱりあの水晶の柱は、どこにも見当たらない。夢にしては現実味を帯びたようなビジョンだったが、いまだに謎のままだ。
『もしかして、前にコンプリートが言ってた世界に行ってたの?』
「うん。やっぱり、闇の使者の中からラブリーの友達を助けないといけないっぽいのかも……。そうだ、ステフォンの中はどう?」
『そうだった!見て!今回も増えたよ!』
ステフォンの画面を覗けば、前と同じように、中の住人が増えていた。
猫耳と尻尾がついた二頭身なことには変わりないが、今回はキュアピーチ似の精霊────プロトピーチが増えていた。前回と違うのは、今回は目を覚ますのがすぐだったらしい。
『……っ、あ、あれ!?ここってステフォンの中……?』
『ピーチ!』
「あ、起きた。今回は早い」
「あたしだ!ちっちゃいあたし!」
『うわ、うわわわっ!?』
「ってごめん!驚かせちゃった!?」
目を覚ましたプロトピーチは、興味津々にステフォンの画面を覗き込む自分そっくりのプリキュアの顔に驚いて何歩か後ずさる。雰囲気からしておそらくプロトハッピーの時と同じく、闇の使者と記憶は共有しているようだ。
「ねえ、君に色々聞きたいことがあるんだけど────」
ぎゅるるる。
コンプリートが彼女に闇の使者やネオフュージョンに関して色々聞こうとしたところ、突如彼女のお腹から空腹を知らせるハーモニーを奏でた。
前のように疲れ果ててよろめくことは無くなったものの、代わりに自身の空腹感に来るようになってしまったようだ。
「……おっと失礼。普通にあたしのお腹が鳴ったみたい」
「もしかして、お腹空いてる?」
「それじゃあ、先にドーナツ食べようよ!」
「え、わ……」
いつの間にか変身を解いたラブにコンプリートは手を引っ張られ、あのドーナツのキッチンカーの方に駆け出してゆく。
話を聞くのは、楽しい談笑の後かもしれない。
<巡の世界 心野宮・私立光星中学校 2-B教室>
「めぐるーん、昨日はありがと」
「いやいや、あたしは話聞いただけだよ」
翌日の教室にて。朝のHR前の自由時間、巡の席の前に現れた日南千夏に話しかけられる。昨日よりもどこかすっきりしたような感じだった。
「『無理に変えるより自分がやりやすいやり方でやれば大丈夫』だなんて、めぐるんらしいアドバイスのおかげだよ。おかげで気楽に練習できるようになったからさ」
「そっか。それならよかった。今度の大会も応援してるからね」
「まっかせなさい」
「あ、巡先輩!ちょっといいすか!?」
自信満々な千夏の意気込みを聞いている最中、教室の前に柑崎恋華に呼ばれ、彼女の方へ赴く。恋華の手には、何やらノートらしきものが数冊見えている。
「あ、これが噂の」
「そうです!これ、アタシのレポートです!ぜひ『履修』に活用してください!」
「ん、何それ」
「千夏先輩!聞いてください!巡先輩がとうとうプリキュアの沼に来てくれるかもしれないんです!」
「え、まじ?同志増えんじゃん。私のおすすめフレプリとハピプリだけどどう?」
「いや君も割とファン側だね?」
気になって一緒についてきた千夏が覗き込む。あるノートの表紙には、『個人的プリキュアレポート Vol.1』と書かれている。
昨日巡は『フレッシュプリキュア!』の世界から戻って、千夏にアドバイスをしにいった後、ついでにまだ帰宅途中だった恋華に、巡はあるお願いをした。
それは、「プリキュアシリーズへの理解を深めるためのに色々教えてほしい」というものだった。
巡は現状、プリキュアに対してそこまで詳しいというわけではない。元々特撮系が好きな方で、プリキュアの方はあまり見ていない。幼い頃にも少し見ていたらしいが記憶は曖昧。なんなら、最近のプリキュアに関してはほとんどわかっていない。
そこで、知り合いの中でプリキュアのガチのファンである後輩が「プリキュアをもっと好きになるためにノートに色々まとめている」という話を昔千夏から聞いた覚えを頼りに、彼女に助け舟を求めたというわけだ。
「まあ、気になってはいたから。助かるよ、ありがとう」
巡の言葉に、恋華は目を輝かせる。彼女は「巡がプリキュアが気になっている」という事実に喜びを噛み締めているようだが、巡本人にはいろんな意味でだ。
これからプリキュアのさまざまな世界を巡ることになるのだ。事前に知識を持っていると、自分の理解度も深まるだろうという算段だ。
「先輩!個人的に一番いいのは現行のシリーズを見ることがいいっすからね!過去作を見ていくとなるとお金も時間もかかってしまうだろうし。自分のタイミングで見るのが一番ですから!先輩が好きなシリーズを見つけてくださいね!ちなみにアタシのおすすめはスマプリとまほプリなんすけど……」
「あ、まずい、何かのスイッチ入ったなこれ」
「れ、恋華ちゃん!気持ちは嬉しいんだけど、予鈴鳴っちゃう、落ち着いて」
[巡ちゃんの知り合いって、いろんな子がいるんだね]
[これはまたレアなパターンというか……]
[プリキュアって、やっぱりすごいんだなって]
好きなことに全力になれるのはいいことだが、流石にこれは全力すぎる。
結局恋華は巡と千夏のストップと、直後に鳴った予鈴の合図まで、愛が垂れ流されていたという。
<???>
「あ、ピーチが帰ってきた、って、ええええ!?」
「ただいま〜ダメだったよ〜」
「……」
黒い翼を生やした闇の使者に担がれたダークネスピーチが、自分たちの根城へと戻ってきた。待っていた他の少女たちにとって、その闇の使者はあまりここへ戻ってくることはないらしい。
彼女はダークネスピーチを近くの椅子に下ろすと、再びどこかへ行こうとする。
「ピーチ、大丈夫?」
「やられちゃったけど、なんとか元気だよ!」
「あれ!?もう行っちゃうの!?お菓子食べる?」
「……気持ちだけ受け取ってく」
「またネオフュージョンのお使い!?断ったっていいのに!」
「なんなら、私たちも手伝うよ!」
彼女はネオフュージョンによって、相当こき使われているようだった。それを知っている他の闇の使者たちは、こぞって彼女を止めようとする。
仲間たちの優しさに、ほんのわずかに固まっていた表情を緩める。
「ありがとう。……でもみんなには、あいつの悪事には加担させたくないんだ。だから……」
「『ブラック』……」
「けど、それはブラックだって……」
「みんなは、『ステフォン』と『ラブリー』の方を、コンプリートから取り戻してくれれば大丈夫」
「でも……」
「今くらいはいいんじゃない?」
ブラックと呼ばれた翼を持つ闇の使者は、心配そうな眼差しを向ける後輩たちを諌める。それでものっぴきならないようで、このまま突っ切ってしまおうかと考えていたところ、別のところから聞こえた声に足を止める。
別の闇の使者が二人、出て行こうとした扉の先に立っていた。
「どうせブラック、怪我してるんでしょ?まずは休んでから行ったらいいんじゃないって」
「……」
「も〜、どこ探してもいなくて心配したんだよ〜!せっかくいる人みんな揃ったのに」
「あ、ちょっと」
そのうちの一人がブラックの背中を押して部屋に戻す。一応、自分が闇の使者の中心人物なのだが、この二人に心配されるとどうも強く押し切れないようだ。
闇の使者たちは久しぶりに『全員』揃い、作戦会議という名の楽しいおしゃべり会が始まりそうだった。
続く…
次回更新:4月27日(土)