PrecureStageON!   作:主氏レム

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前書き後書き何書けばいいんだろう……


第6話:呼吸を合わせて!二人三脚追いかけっこ

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・光星中学校生徒会室>

 

 

 

 

 

 中学校の校舎3階のとある教室、本日は生徒会の活動日。

 

 ホワイトボードには学校全体の行事予定表やら予算の話などの内容が書かれているプリントが貼られ、棚にはさまざまな資料やら備品やらが収納されている。

 

 

 

「会長、次回配布される生徒会新聞の内容のことで相談なんですけど、今お時間いいですか?」

「ん、いいよー」

「ありがとうございます。実は────」

 

 

 

 生徒会室専用のPCを前に生徒会新聞なるものを制作していた書記が、会長に話しかけている。

 

 この初夏の時期、私立光星中学校では運動会が行われる。現在制作している新聞では、運動会の種目別特集やら各組の応援団へのインタビューなどが掲載されるという。

 

 すでに周知の事実ではあるが、キュアコンプリートとして先日『フレッシュプリキュア!』の世界へ訪れていた繋巡は、この学校の生徒会長である。そんな彼女は、自分の席について運動会の開閉会式で読むことになるであろう挨拶の文章を考えている途中だった。

 文章の内容に関しては、過去の先輩方が残していったものを参考にすればいいのだが、いかんせんオリジナリティも必要になってくる。こう言った挨拶を考えるのが地味に大変なことだったりする。

 

 

 

「お疲れ様、巡」

「お邪魔しまーす」

「はいはーい、って、きなっちに千夏ちゃんじゃん」

 

 

 

 生徒会室へ訪れたのは、七星希奈子と日南千夏だ。どちらも巡の友達だが、残念ながら二人は生徒会ではない。

 

 

 

「はい。誰がどの種目に出場するかのリストの提出」

「わ、ありがとう!体育委員長が来たら渡しておくね!……あれ?千夏ちゃんは?」

「いや、私はめぐるんが普段何してんのかなって見に来ただけと練習誘いにきた」

「行く教室が同じだったからかついてきたのよ」

 

 

 

 希奈子の用事は出場者リストの提出、千夏の用事は単なる暇つぶし兼運動会種目のクラス練習へのお誘いだったようだ。100m走などの全員参加種目はあるが、借り物競走やリレー、玉入れなど、基本的にいくつかある種目の中で一人2種目選んで参加することになる。

 千夏とは出場するある種目で同じになったため、こうして生徒会室に現れては巡を練習に誘いにやってくる。今日はたまたま希奈子と合流したのだろう。

 

 ちなみに希奈子とは違うクラスのため、運動会当日では敵同士になってしまう。まあでも楽しめればなんでもいい。

 

 

 

「まだ仕事終わらん?」

「新聞の方見なきゃいけないからもう少し待って」

「はーい。……めぐるんも頑張りなよ、二人三脚」

「う゛」

「そ…その反応を見るに相当苦戦しているようね……そういえば小学校の時も似たようなことがあったような……」

「マジで?そんな昔からめぐるんダメだったの?」

「この場で過去開示されかけてる?あたし」

 

 

 

 二人三脚という言葉を聞いて、巡は若干目を逸らした。その様子を巡の鞄の中からこっそり覗いていたプロトラブリーは、あの巡ちゃんが珍しい反応をしていると、不思議そうな顔で見ていた。

 

 実はこの繋巡。能天気であること以外は完璧超人で欠点が全くないように見えるが、どうやら二人三脚に手こづっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話:呼吸を合わせて!二人三脚追いかけっこ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人三脚。

 

 

 

 それは、二人が並んで隣り合った足首を結び合わせて三本足で走る競技。小中学校の運動会では定番の競技にも数えられる人気の種目である。

 隣になるパートナーとの絆を試される競技でもあり、呼吸を合わせなければいけない。

 

 

 

 

 

『『『えぇ〜っ!?二人三脚が苦手!?』』』

「うん。……って、そんなに意外?」

『意外!!』

 

 

 

 その夜、巡の自宅の自室にて。

 

 不思議そうにプロトラブリーに問われて巡が苦手な旨を白状すると、ステフォンの中のラブリーどころか、ピーチやハッピーにまで驚かれてしまった。

 ちなみに、このプロトピーチはこの前の『フレッシュプリキュア!』の世界へ訪れたときに仲間入りした、ステフォンの中の新たな住人である。ラブリーやハッピーとはまた違うベクトルで明るい性格をしている。ちなみに語感が気に入ったのか、ピーチからはもっぱら“めぐるん”呼びされている。

 

 

 

「なーんか昔から、コツを掴んでも息を合わせてもうまくいかないんだよね」

『そんなことが?!』

「周りからのアドバイスをもらったり、自分でもできていないところに注意しても、全く息が合わない」

『ど、どうして逆に苦手なものに挑戦しようって思ったの?』

 

 

 

 ハッピーに聞かれて、巡は苦笑気味にその理由を話す。

 

 曰く、本当は二人三脚以外の種目を選んでいたらしい。しかし、二人三脚のペアが1組足りないということになり、選んでいた種目も人が有り余ったので巡が挙手して移動したという。

 

 

 

『なんだか、巡ちゃんらしいい理由だね……』

「小学校の時とは違うし、きっと大丈夫だろうって思ってたんだけど、まあまあ変わらなくって」

 

 

 

 なーんで自分から移動しちゃったのかなーと若干後悔した様子で頭を抱えている。

 

 

 

『巡ちゃんにも苦手なものがあったんだ……今までそんな素振りなかったから余計にそう感じちゃう……』

「そ、そんなに???」

『勉強も運動も得意で生徒会長のお仕事もこなしちゃうし』

『家事もある程度できちゃうし』

『びっくりするくらい呑気だけど!』

「えぇぇ……そんなに呑気なの???」

 

 

 

 “ハイスペック能天気”という巡の印象は、プロトキュア達3人からも太鼓判を押されるほどのもののようだ。ただ最後に脳天気がついているように、完全に完璧というわけでもなければ、二人三脚など意外なところに苦手なものが隠れていたりする。

 

 

 

「うーん、走り方に問題があるのかなあ……明日ちょっと変えてみるか……」

『あれ?明日は土曜日じゃないの?』

「あー、確かにそうなんだけど…運動会が近いし、クラスで集まって練習しようってなってるから」

『め、めぐるんも大変だね……』

「だから今日はちょっと早めに寝るかも」

 

 

 

 プロトキュアと会話を後に、巡は自室を出て階段を降り、玄関の方へ向かう。そろそろ彼女が帰ってくる時間だ。

 

 巡が階段を降り終わった瞬間、玄関の鍵がガチャリと開き、ドアが開かれる。

 

 

 

「幸姉!おかえりなさい」

「ん、ただいま」

 

 

 

 姿を現したのは巡の姉である高校生、繋(さち)

 巡よりも目つきが悪そうで怖そうな印象を持つ人物だが、その内実は人見知りが激しく口下手な、それでいて妹や人思いの、いわば小動物のような性格をした優しい人物である。

 

 幸は夜間制の高校に通っているため、基本的に昼夜逆転した生活をしている。巡が学校に行っている間は自室で睡眠、午後には家を出て夜に帰ってくる。話せる時間は、夜の時間か休みの日くらいしかない。

 

 

 

「そういや巡、運動会が近いんだっけ」

「うん。今年もきなっちのところにお昼呼ばれたし、幸姉も行くんでしょ?」

「まあね、頑張って起きる」

 

 

 

 食卓で晩御飯を食べながら、姉妹同士の緩やかでありきたりな会話が続く。彼女たちの両親は仕事の都合で海外にいることが多く、家のことは姉妹がやるか、隣に暮らす希奈子の家族の誰かが顔を出しては手伝ってくれる。

 彼女たちの両親が仕事ばかりやって家のことや娘たちには関心がない……というわけでもなく、どちからかというと溺愛されている方ではある。日本にいるときは絶対にどこかに遊びに連れて行ってもらえるし、定期的に電話などで連絡を取り合っている。この前は電話で運動会のことを話したら見に行きたかったと嘆いていた。

 

 

 

「……で、二人三脚の方は大丈夫なの?希奈子ちゃんが言ってたけど」

「んー、全くダメ」

「だろうね」

「明日も練習で集まるとは言ったものの不安でさあ」

 

 

 

 妹が二人三脚を苦手としているのは姉公認でもあるらしく、困ったように笑いかける。もしかすると、彼女は巡が上手くいっていない理由がなんとなくわかるとでもいうのだろうか。

 

 

 

「うまくいかない理由って、案外初歩的なことだったりして」

「初歩的な……?」

「巡って案外、上に立って人を引っ張っていく方に性分が合ってるんだと思うからさ。全体を見過ぎて細かいところを見落としてるっていうか」

「…え…っと……幸姉一体どういうこと?」

「あー、これ分かってないやつだ」

 

 

 

 確かに自分は生徒会長だし、周りを引っ張っていく立場だとはなんとなくわかっているけれども。姉の言っていることに対して首を傾げる。言葉の意味はわかっているが、その言葉にどういう意図が含まれているのかを全て理解しきれていないように見える。

 

 

 

「まあ、私だから上手くは言えないけど……気負わないで頑張りなよ」

「……うん」

 

 

 

 晩御飯を食べ終わった幸は自身の食器を洗って片付け、自室に戻っていった。これから学校で出た課題と、眠くなるまでオンラインゲームでもするのだろう。

 部屋には巡一人だけ。一人だけになったところで、ため息とは言えないような小さな息を吐く。

 

 

 

 彼女が小学校の低学年だった時にも、運動会で二人三脚が行われた。

 その時は希奈子とペアを組んでいたのだが、自分があまりにも出来なさすぎて希奈子どころか組の足を引っ張ってしまったことがあった。あの時は組の人たちにも、「あの巡が珍しい」「向いてなかっただけだよ」と、幼さゆえの責め立てられ方はされずむしろ励まされたのだが、無理して言っている感じがして罪悪感は全く拭えなかった。

 

 あの時から二人三脚系の競技は基本避けているが、中学2年生になった今ならもう大丈夫だろうと鷹を括ったのがいけなかったのかもしれない。

 しかし今更変えるのも良くないので、こうなったらなるようになれ精神で挑もうとしている。

 

 

 

 

 

 そして、彼女の中では二人三脚以外の話題ででもう一つ気がかりなことがあった。

 

それは、この前の闇の使者についてである。

 

 『フレッシュプリキュア!』の世界に訪れた時、ダークネスピーチを抱えて一緒に消えた、黒い翼をはためかせていた闇の使者。一瞬の出来事であったものの、あの赤い目に睨みつけられたことがずっと脳裏に焼き付いている。

 彼女への漠然とした恐怖心というよりも、関わったらまずいという本能的な察知に近い。

 

 あの後プロトピーチに聞いたところ、自分たちが間違っていなければ『ブラック』と呼ばれる人物で、闇の使者達のリーダー的な存在らしい。プリキュアにも同じ名前の少女がいるが、聞いている雰囲気は全く違う。

 今まで会ってきたハッピーやピーチのように、ご本人と限りなくそっくりな性格をしている感じではない。それこそ、ブラックの皮を被った別人のように。

 

 

 

「……あのブラックって人がリーダーだとすれば、あの人が一番何かを知ってるってことだよね」

 

 

 

 もし、また彼女と邂逅する時があれば、ステフォンを狙う理由を含めて話を聞いてみるべきかもしれない。……果たしてあんな恐ろしく睨みつけてきた人物が話をしてくれるのかはともかく。

 

 ひとまず今は、明日の練習のことを考えよう。巡は風呂に入るため、浴室の方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

「……よし、これでいいかな」

 

 

 

 動きやすい格好をした巡は、水筒とタオルなどの荷物を小さなバッグに詰めていた。昼に食べるお弁当も作ったし、貴重品も無くさないようにしている。

 あとは何が起きてもいいようにとステフォンを持っていこう。そうして彼女は画面を確認する。

 

 

 

「……あら」

 

 

 

 その何かが、ちょうど今起きていたようだ。

 

 『World Trip』を開き、あの画面に移る。『フレッシュプリキュア!』のマークも金色に変わっている。これで二つ目だ。

 問題はそこではなく、6時の位置にある、ト音記号のようなマークが赤く点滅していたのだ。このマークは確か、と、先日後輩の恋華から借りたレポートから得た知識が早速役に立つようだ。

 

 

 

「確か……“スイートプリキュア♪”だったっけ……?」

『あれ?巡ちゃんどうしたの?……って、こんな時にネオフュージョンの欠片と闇の使者!?』

「本当に唐突にくるねえこれ。あたしが向こうにいる間の時間が経たない仕組みに感謝だよ本当」

 

 

 

 ステフォンの画面を巡が見ていることに気づき、プロトラブリーもその状況に気づく。ネオフュージョンも闇の使者の両者とも、巡の都合に合わせてやってこない選択は取らない性分のようだ。

 

 

 

『ピーチ!ハッピー!起きて〜!!』

『うーん…もう食べれないよ〜……ん?』

『よく寝たぁ……あれ?どうしたのラブリー?』

「……君たちもしかして朝に弱かったりする?」

 

 

 

 ラブリーに起こされ、ピーチとハッピーは眠そうな眼をこすりながら起き上がる。寝起きのため頭がまだ目覚めていないようだが、ラブリーの話を聞いて一気に目が覚めたようだ。

 ラブリーがそんな感じではなかったので気にしていなかったが、もしかすると彼女達いわゆるシリーズごとの『主役』の子達は朝寝坊しがちなジンクスがあったりするのだろうか。

 

 本当はならこのあと予定があるのだが、緊急であれば仕方がない。

 

 マークをタップすると、あのワープホールが開かれる。この先に、プリキュアが暮らす世界と入り込んでしまった闇の使者が待っている。

 

 深呼吸をし、巡はワープホールの中に勢いよく飛び込んだ。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、自室との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら?」

 

 

 

 ここは、調べの館。

 

 廃墟のようにも見える建物だが、この中ではパイプオルガンが作られていたり、誰でも弾けるグランドピアノが置かれていたりと、人々が自由に立ち入れるようになっている。

 聞き覚えのあるピアノの音色が聞こえ、一人の少女がその部屋を覗く。

 

 

 

「響?……って、誰もいないし」

「あれ?奏、何してんの」

「……え?」

 

 

 

 部屋を覗き込んでも、そこはもぬけのから。誰かがいた形跡はあるが、その人物が見当たらない。

 弾き方的に自分の幼馴染が悪戯で隠れているのではとも踏んだが、その人物が近くで話しかけてきたので驚く。今ここに来たという雰囲気だ。

 

 

 

「ちょ、ちょっとなんでそんなに眉間に皺を寄せてんの」

「さっき、ここで誰か演奏していた気がするのだけど……気のせい?」

「えぇ?……誰もいないけど……」

「おかしいわね……」

 

 

 

 確かに聞こえたんだけど……。少女は、南野奏は喉に小骨が引っかかったような違和感を抱えながら、本日も幼馴染である北条響のピアノ練習に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<スイートプリキュア♪の世界>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡が降り立ったのは、加音町と呼ばれる街。街の様々な場所から楽器の演奏が聞こえてくる、楽しげな雰囲気に包まれた町。

 

 

 

「おお……音楽で溢れてる……あ、路面電車」

『注目するところそこ!?』

「いやあ心野宮にはないからつい……、あ、モノレールも走ってるんだ。ぶら下がってるタイプは初めて見たなあ」

『いやいやいや!!ふ、二人とも!?めぐるんっていつもこんな感じなの??』

『だいたいこんな感じ!』

『慣れたもんだよ!』

『へ、へ〜……』

 

 

 

 さっきから巡の注目ポイントが斜め上なところをついているために、プロトピーチも突っ込まざるを得ない。

 最初から彼女と行動していたラブリーやその次に来たハッピーは、ある程度彼女のずれ具合がわかるようになってもはや冷静に笑って流せるようになった。逆に、最近入ってきたばかりのピーチは、彼女の斜め上っぷりに笑顔を引き攣らせている。(それでもたまに二人も置いてけぼりを食らうが)

 

 

 

「で、ここにネオフュージョンの欠片と闇の使者が来ると聞いてきたのはいいけど……今の所異様な空気にはなってないよね」

『またどこかに隠れていたりして?』

「この世界のプリキュアと協力できればいいんだけど……」

『響ちゃん達かな?もしかすると、調べの館っていう場所にいるかも?場所はなんとなくわかるよ!』

 

 

 

 しかし、手がかりがないのでひとまず街中を歩きつつ、プロトキュア達の案内に沿って調べの館を目指すことにする。どこを歩いても音楽で溢れていて、なんだか楽しい気分になる。

 

 

 

「なんだかいいね、この町。いろんな音に溢れてて」

『響ちゃん達から昔聞いたんだけど、昔ここに楽器職人さんが住み着いてから、楽器作りが盛んになって、音楽が身近なものになったんだって』

「へえ、楽器かあ……」

『めぐるんも何か弾けるの?』

「あー……ピアノなら一応。猫ふんじゃったとか簡単なやつばかりだけど」

『ピアノ!?すごいね!!』

「遊びの範疇だよ?めっちゃ得意ってわけでもないし」

『それでも、弾けないあたし達から見たらすごいなって思う!』

「そ、そう?」

 

 

 

 巡のまさかの特技(?)に驚く一同。ここまで会話が盛り上がるのも、友達や幼馴染相手でもなかなかない。性格が違えど波長が合っているのだろう。

 鳴り響くのは、時計塔の時報。少し遠くの方で、時計塔のからくり人形楽団が演奏して、人々に時間を知らせている。ひとまずこの時計塔のある広場の方まで行ってみようと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだ、もう来てるし」

 

 

 

 加音町を歩きながらステフォンの中のプロトキュア達と会話する巡を、建物の屋根の上から眺める人物がいた。黒いプリキュア────闇の使者の一人であろう。

 

 

 

「こっちの世界の奏には、見られなくてよかったかも……」

 

 

 

 巡を待っている時間潰しに、あの館にあるピアノに触ってきた帰りらしい。随分と久しぶりにピアノに触った気がするが、体は覚えていたようだ。後もう少しあそこに長くいれば、もしかするとこの世界の相方に姿を見られていた。焦って窓から飛び出してしまったが、変に怪しまれていそうだ。

 

 

 

「……あなたは、この街の雰囲気は嫌い?」

 

 

 

 隣で佇むのは、この世界で出現する怪物の姿を模したネオフュージョンの欠片だ。声には出していないものの、居心地は悪そうだ。

 

 

 

「私は好きだよ。この音も、この街の人たちも。それでも……」

 

 

 

 その後に続く言葉は、聞こえない。赤くゆらめく光のない目だけが、巡の背中を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っ!ネオフュージョンの気配!』

「あ、え?」

『後ろの方だよ!』

 

 

 

 時計塔の建つ広場まできたところで、プロトラブリー達が怪しげな気配を察知したようだ。街の中心部ではないようで、巡は急いでその場所へ向かうのだった。

 

 

 

 彼女達がたどり着いたのは、街の中心地から少し離れた公園。ここに辿り着くまでにいつの間にか空が暗くなっている。どうやら本当に欠片が現れたようだった。

 

 

 

『ネガトーォォン!!!』

「「「「はぁぁぁっ!!!」」」」

 

 

 

 すでにこの世界のプリキュア達との戦闘が始まっているようで、ピンク、白、青、黄色の4人のプリキュア達が、ネガトーンと咆哮を上げる怪物と対峙していた。

 

 

 

「あーもう始まってるよ。ハッピーの時と同じパターンだね」

『巡ちゃん!準備はいい?』

「いつでもいいよ。コンプリート・ステージON!」

 

 

 

 ステフォンを構えた巡がプリキュアに変身すると、すぐさま怪物の方に飛んでいく。

 

 

 

「コンプリート・キックッ!!」

『ネガッ!?』

「え!?」

 

 

 

 飛び上がったついでに怪物に向けて、コンプリート・キックなるライダーキックのような勢いのある飛び蹴りをお見舞いする。突然乱入したコンプリートという存在に、4人のプリキュア達は驚きの声をあげる。

 

 

 

「本当はライダーキックって言いたかったけど、プリキュアだし抑えたよ」

『誰も聞いてないよ!かっこよかったけど!』

「あと、この前のピーチ達から着想を得た。あっちはダブルキックだったけど」

「あ、あなたは……?」

「誰……?」

 

 

 

 プロトキュアとの会話中、青と黄色のプリキュアに話しかけられる。流石に唐突な登場だったのか、若干訝しまれているが気にしていない。

 

 

 

「あたしはキュアコンプリート。ちょっとそこの怪物と、そこの怪物を使役してる人物に用があって来たの」

「コンプリート?聞いたことない名前だけど、あなたもプリキュア?」

「私たちも、嫌な気配がしてここに来たらネガトーンが暴れていて…、けど、いつもと様子が違うような…?」

 

 

 

 どうやら彼女達も、つい先ほどここに来たような感じだ。

 

 

 

『近くに闇の使者も?』

「分からないけど……今は怪物が先みたい」

 

 

 

 怪物はプリキュア同士の邂逅と情報交換を許さないとでもいいたげに、その巨体の拳を振り翳してくる。

 

 

 

「ちょっと今話してる途中でしょうに……」

「よく分からないけど!」

「同じプリキュアなら一緒に!」

「元からそのつもりだよ!」

『来るよ!』

 

 

 

 ピンクと白のプリキュアこと、キュアメロディとキュアリズムと共に、その拳を弾き飛ばす。突然乱入したとはいえ、息は合っている。

 

 

 

「はあっ!」

 

 

 

 頭上からは小さな黄色いプリキュアこと、キュアミューズが飛び上がり、怪物の頭を両足で強く踏みつける。トランポリンのように高く弾き飛ばされるが、身軽な動きで綺麗に着地する。

 怪物は着地狩りを狙っているのか、すぐに体勢を直してミューズの方に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「っ!」

「ビート・バリア!」

 

 

 

 ラブギターロッドの音色とともに、青いプリキュアこと、キュアビートがミューズの前に立ち、円状の光のバリアを張って攻撃を防ぐ。攻撃を弾かれて、怪物は後ろに大きくよろめいた。

 

 

 

「大丈夫?」

「ええ。あ、ありがとう、ビート」

「じゃああたしも後押ししちゃう」

『CureWeapon!Lovely!』

『PowerCharge!Pine!』

 

 

 

 コンプリートが手に構えるショットガンからは、黄色い光を放つダイヤ型のエネルギー弾が放たれ、怪物さらに大きく後退させる。

 

 

 

「ほお、ショットガンで撃つと結構な威力になるのね」

「リズム!」

「ええ!」

 

 

 

 これが好機だと踏み、メロディとリズムが必殺技を放ち、いつものように怪物を浄化しようとした。

 

 

 

 

 

「ダークネス・ミュージックロンド!」

「待って、メロディ」

「え、うわっ!?」

 

 

 

 突如別の方向から声とベルの澄み切った音色、そして共に黒い光のリングが、メロディやコンプリートを狙って飛んできたのだ。それに気づいたコンプリートは、怒られる覚悟で一緒に狙われていたメロディを突き飛ばして一緒に倒れ込む。

 

 

 

「ごめんねメロディ、大丈夫?」

「大丈夫だけど、な、なに!?」

「今明らかにネガトーン以外のところから何かが飛んできたわよ!?」

 

 

 

 標的を失った黒い光のリングは怪物に反射して、再びコンプリート達の方に飛んでくる。

 

 

 

「ちょ、ちょっとこれ私狙われてる!?」

『PowerCharge!Passion!』

 

 

 

 今度はショットガンから白い羽と無数のハートの旋風を放ち、黒い光のリングの軌道を逸らそうとする。リングはよろよろと地面の方に向かっていく。

 間一髪を免れたところで、地面に当たったリングは再び弾かれ、二人の足元────もっと言えば、コンプリートとメロディそれぞれ片足を巻き込む形で当たり、二人を拘束したのだ。

 

 

 

「え?」

「何これ?!」

「め、メロディ!?」

『こ、これってまるで!』

 

 

 

 二人三脚みたいだと誰かが言った。よりによって巡が苦手な状態に、偶然にも拘束されてしまったらしい。

 リングはどう頑張っても外れる気配がない。わかりやすく慌てているメロディとは対照的にコンプリートが冷静そうな顔で高速を外そうとショットガンでエネルギー弾を放つが、びくともせずに内心めちゃめちゃに焦っている。

 

 

 

『ネ〜〜〜ガ〜〜〜!!』

「ぐっ」

「この……っ!」

 

 

 

 隙ありと、怪物が二人を踏み潰そうと重い足を振り下ろす。しかし、二人は土壇場で拘束された側の脚を振り上げて、怪物の足を蹴り飛ばして怪物の踏み潰しを回避する。思い切り蹴り上げられ、怪物はその体勢を大きく崩すことになる。その隙に、メロディとコンプリートは互いに手を回し、身を寄せ合ってその場から離れるために走り出す。

 プリキュアに変身している影響か偶然か、あれほど二人三脚を苦手と言っていたコンプリートは、うまくメロディと足並み合わせて走ることができている。

 

 

 

『おお!息ぴったり!?』

『というかコンプリート走れてるよ!?』

「焦った……振り上げた脚が同じでよかったって心底思った……何で走れてるのあたし……」

「こ、こ、これどうすれば、り、リズム〜!!みんな〜!!助けて〜!!」

『考えてることは全然違うけど!?』

 

 

 

 どうやらこれは、ほとんど偶然の産物のようだ。お互いに焦って違うことを考えている。

 

 

 

「ちょ、ちょっと二人ともどこまで走っていくの!?」

「待って!向こうからもっとおかしな気配が!」

「戻ってきて二人とも!!」

 

 

 

 二人が走る先から、また別の黒い誰かがこちらへ飛んできていた。ビートはその人物からただならぬ異様な気配を察知し、二人を呼び戻そうとする。

 

 

 

「え!?」

「ちょ……っと」

 

 

 

 しかし、すでに二人はその人物に近づかれていたようで。メロディは、その人物の姿にひどく驚くことになる。

 

 振り上げた手は確実に、ステフォンを狙っている。それにすぐ気づいたコンプリートはステフォンを背に隠して守り、その手から難を逃れる。彼女達からの強硬手段は初めてかもしれない。

 問題はメロディの方だ。メロディ達の変身アイテムであろう胸のハート型のアイテムは、その人物によって奪われてしまう。

 変身アイテムを奪われて、メロディの変身は解けてしまう。連動するように、リズムもプリキュアの姿から元々の姿へ戻ってしまったようだ。後輩のレポート通り、彼女達は二人一緒ではないとプリキュアになれない性質のようだ。

 

 

 

「キュアモジューレが……!」

「わっ」

 

 

 

 突然急停止したため、コンプリートが勢いを止められず、前のめりになって地面とキスをする。

 

 

 

「あ、ちょ、コンプリート!?」

『めっちゃ痛々しい感じに転んだけど大丈夫!?』

「と、止まるなら止まるって言って欲しかった……」

 

 

 

 肌に砂がついた程度でほぼ無傷のコンプリートはすぐに立ち上がる。あの黒い人物の方に足を進めるが、さっきまでの勢いは何処へやら、コンプリートと足が合わずにすぐに転んでしまう。やはり、あの時のはプリキュアに変身していたが故の偶然だったようだ。

 

 

 

「キュアモジューレ、か……そういえば、これってその名前だったよね」

「……はぁ!?」

 

 

 

 キュアリズムだった少女こと南野奏は、キュアメロディの変身アイテムであるキュアモジューレを奪った人物の姿に驚く。

 その人物は、黒いコスチュームを纏ったキュアメロディそのものだったのだから。本来の彼女とは違い、青いはずの目は紅く染まっている。

 

 

 

「め、メロディ……が、二人……!?」

「な、何が起きてるの……?」

『闇の使者だ!!』

「ということは……ダークネスメロディってこと?」

 

 

 

 ハッピーの時と言い、ピーチの時といい、コンプリートも闇の使者二人と対峙したのだから、なんとなく誰なのかがわかるようになってきた。

 黒いキュアメロディ────ダークネスメロディは、奪ったキュアモジューレ片手に、足を拘束されて倒れ込んだままのコンプリート達の方を向く。

 

 

 

「さっきのリングは、あなたがやったの?」

「うん。本当はコンプリートだけを狙いたかったんだけど、まさか自分まで巻き込まれたとは……」

 

 

 

 ミューズに冷静に問われ、ダークネスメロディは特に悪びれる様子もなく淡々と告げる。

 

 

 

「……だ、大丈夫?」

「え、心配されてる?」

「いや、まさか勝手に手こづってるなんて思ってなかったから……」

「煽られた!」

「な、なんか悔しい!!」

 

 

 

 ダークネスメロディは、若干引き気味にこちらを憐んでいる。

 

 

 

「本当はステフォンを狙うつもりだったけど……まあ、奏達とはあんまり戦いたくないし、こうしておけばいいかなって」

「良くない良くない!!返しなさい!」

「別に返してもいいんだけど……」

 

 

 

 そう笑顔で言いつつ、ダークネスメロディは怪物の上に飛び乗る。

 

 

 

「私に追いつけたら返してもいいよ。目的のものじゃないし、ちゃんと返すから」

 

 

 

 そう言い残して、怪物と共にどこかに逃げていった。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、待ちなさーい!!!」

「響ちゃん、響ちゃん、待って、せめて立って、結構地面の砂が痛い」

 

 

 

 響のキュアモジューレを奪ったまま、ダークネスメロディはどこかへいなくなってしまった。倒れ込んだまま、響の声は再び色を取り戻した空に虚しく響くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏達には待っててとは言われたものの……」

「あたし達だけ何もしないっていうのはねえ……」

 

 

 

 二人三脚のように拘束された巡とキュアメロディ────北条響は、あの後何度もこの片足だけが拘束された状態で走ろうとしたが、全くうまくいかずに転んでばかりだった。故に、若干服装が砂で汚れているのはそのせいでもある。

 プリキュア時の息のあった動きとは程遠い状態を見て、奏たちからは心配されて「響達はここで待ってて」と言われてしまった。しかし、彼女達に任せてばかりでは居ても立っても居られないのが彼女達である。

 

 

 

「ど、どうする?」

「どうするって言われても……」

『ね、ねえ!今なら練習できるんじゃない?二人三脚』

 

 

 

 練習と言われ、巡がハッとさせられる。そう言えば今自分は二人三脚が苦手で、その練習をするために今日は土曜日の練習に参加するのではなかったか。

 拘束されているだけとは言えこれはある意味好都合かもしれない。

 

 

 

「練習?」

『めぐるんの学校、運動会が近くて、それで自分が出る二人三脚の練習してるんだって』

「けど昔っから全くうまくいかなくって……」

『響ちゃんって運動得意だったし、奏ちゃん達が戻ってくるまで練習に付き合ってくれないかな?』

「え、私でいいの?あんまりやったことないし、うまくいくかどうかなんて……」

 

 

 

 大人しく待っていようと思ったが、このままではまたいつネガトーンや自分の姿をした黒いプリキュアが現れるかわからない。せめてこの状態でも二人で逃げられるようには走れたら好都合かもしれない。もしかすると、この状態でもできることはあるかもしれないし……。

 それに響自身も、あの黒いプリキュアに煽られっぱなしではいられないという、至極真っ当な対抗心を燃やしていた。

 

 

 

「いや……やってみよう」

「!」

「あの黒い私に煽られっぱなしなんて嫌だし、ここでやらなきゃ女が廃る」

「……!うん!」

「それじゃあいくよ!いち、に────!」

「うわわわっ」

 

 

 

 拘束された方の脚を踏み出された瞬間、思いっきり響に引っ張られる形で、巡はまたしても転んでしまう。二人して意気込んだのはいいが、その一歩は全く踏み出せる気配がない。

 

 

 

「いたたた……」

「ごめん大丈夫!?」

「あー、あたしもごめん。全く合ってなかったよね」

「立てる?」

 

 

 

 尻餅をついた巡に響が手を差し伸べ、その手を掴んでもう一回立ち上がる。偶然の産物とはいえ、こんな形で自分の苦手と向き合うとは思わなかった。

 

 

 

「いやあ、響ちゃん、意外と歩幅大きいんだね」

「え、そんなに!?」

「多分、あたしが一歩小さいだけだと思うけれど」

「え……?あ、もしかして……」

 

 

 

 巡の言葉に何か引っかかったのか、響は少しだけ考える素振りを見せ、何かを思いつく。

 巡がどうして二人三脚が苦手になっているのか、失礼ではあるが彼女自身で声に出していた。しかし、当の本人は気づけていない。原因は、かなり簡単な問題だったようだ。

 

 

 

「巡ちゃん、いつも通りに走ってみて?」

「え……?」

「なんとなくだけど、なんですぐに体勢が崩れちゃうのかがわかった気がする」

 

 

 

 きょとんとする巡に向けて、響は茶目っ気たっぷりにウインクしてやる。

 どうしてここまで息やら体勢やらが合わないのか、なぜプリキュアに変身していた時はうまいこと走れたのか、響には直感的にわかったらしい。

 

 

 

「試しに少しだけ練習してみよう」

「……わかった」

 

 

 

 とにかく彼女を信じてみよう。そう決意して巡は少しだけ真剣な顔で練習に挑むことにした。もしかすると、これで巡が今まで二人三脚が上手くいかなかった理由がわかるかもしれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば……」

 

 

 

 一方、響のキュアモジューレを奪った黒いキュアメロディことダークネスメロディは、加音町の町の建物の上で一時的に足を止めていた。

 ネガトーンの姿をしたネオフュージョンの欠片とはあの後別れて別のところにいると思われるし、アイテムを失ったことで響と奏は変身が不可能。おまけに偶然にも巡ごと行動しにくい状態にしているため、このまま逃げ切ることだって可能だ。

 

 

 

「……やっぱりちょっと罪悪感が……ごめんね奏ぇ」

 

 

 

 いくら自分相手とはいえ、奏を巻き込んでまでアイテムを奪うというのは心にくるものがある。これもステフォンのためと思えばどうとでもなるが、チラつくのは相方の困った表情ばかり。

 やっぱりステフォンと引き換えにこっちは返しに行こうかと迷っていたその時だった。

 

 

 

「「待て〜〜〜っ!!」」

「……え?」

 

 

 

 遠くの方から巡と響の声が聞こえて、ダークネスメロディが地上を覗き込み、声のした方に振り向く。

 

 後ろから全速力で走ってくるのは予想通り、片足を拘束されてまるで二人三脚のような体勢になっている巡と響だった。

 数十分前の様子からだと手を差し伸べたくなるほどにすぐに転んでいたはずなのに、その面影は全くなくむしろこちらを追い抜こうとするほどの全速力で、こちらに向かってきていた。

 

 これはまずいと感じたのか、ダークネスメロディも二人の急成長に驚いてすぐに逃げる。

 

 

 

「え、ええええええ?!なんでなんでなんで!!さっきまで全然走れてなかったじゃん!!」

「そりゃあようやくなんで走れなかったのかがわかったからねえ。練習したらすぐにできるようなったよ」

「あんなちょっとの練習で、ここまで上手くいくとは思わなかったけど!」

『二人ともすごい!!さっきまでとは全然違うよ!』

 

 

 

 あんなに苦戦していたはず巡の表情はいつもの顔で、もはや余裕すら感じてしまう。プロトラブリーたちにまで褒められつつも、逃げるダークネスメロディを今度こそ見失わずに追い続ける。

 

 

 

「まさか……歩幅が全く合ってなかっただけなんて!」

「むしろなんで今まで気づけなかったんだろう」

 

 

 

 巡が二人三脚をやるとどうしても上手くいかなかった理由。それは、彼女の歩幅にあった。

 歩幅は基本的に、身長が大きい人ほど大きくなる。二人三脚の場合、同じくらいの身長の人と組まれることが多いが、必ずしもパートナーが同じくらいの身長となるわけでもない。さらに、歩幅を大きく出すよりも、小さく出して脚の回転数を増やした方が早く走れるとも言われている。なので、身長差がある場合は歩幅の小さい人に合わせた方がより良いらしい。

 

 巡は運動会では自分よりも少し背の小さい人と組むことになる。おそらく彼女は、自分が引っ張らないとという気持ちが若干強く出て、相方の歩幅のことが頭から抜けていたのだろう。

 今回の場合、巡は響よりも身長が小さい。そのため、響に合わせて走ろうとしたが歩幅が間に合わずに巡がよく転ぶという状況になった。なので、逆に響が巡側に歩幅を合わせた形だ。

 さらにいえば、プリキュアに変身していた場合、身体能力が強化される分ある程度の無茶が効いたので、偶然巡が響に合わせることができたというだけである。無論、無茶はしているので明日は脚部の筋肉痛は避けられないだろう。

 

 それならむしろばっちこいだ。こうしてようやく、自身の苦手を克服できたのだから次に活かせる。

 

 

 

『あのメロディ、どこに行くつもりなんだろう!』

「欠片が逃げた先じゃないかな?……生身じゃ下手に近づけないだろうし」

「その方向なら一方通行だよ!巡ちゃん、もう少し走れる?」

「問題ないよ!」

 

 

 

 様々な楽器の音色が響き渡る石畳の街中を、響と巡は駆け抜けていく。突発的に組むことになったペアではあるものの、先ほどよりも息は合っている。

 

 

 

「あれは……響と、巡ちゃん!?どうしてここに!?というか走れてる!?」

 

 

 

 手分けしてダークネスメロディを探していた奏もまた、響達を見つけたようだ。別の場所を探しているエレンやアコにも伝えなければとひとまずこの場を後にする。

 

 向かった先は、どうやら調べの館と呼ばれる建物付近。さすがのダークネスメロディもここまで追いかけられると思わず足を止めている。

 

 

 

「止まった!」

『今なら取り返せるかも!』

「……っ!」

 

 

 

 数秒遅れで巡達も追いつき、キュアモジューレを取り戻そうとラストスパートをかける。軽々できているあたり、巡への不安要素はほとんど感じられない。

 

 

 

「っ、ネガトーンッ!!」

『ネガトーンッ!!!』

 

 

 

 しかし向こうも取られまいと、先ほどの欠片を呼び出して二人の行手を阻む。その拳はこちらに向かって振り落とされそうになっている。

 

 

 

「ちょっと!!流石に生身じゃ避けられないって!!」

「響ちゃん!あたしに合わせて!」

「え!?わ、わかった!」

 

 

 

 驚く響に対して巡はかなり冷静にネガトーンの前を突っ切ろうとする。何かしらの考えがあるのだろうと信じ、響も前を向く。欠片の拳は迫っている。

 

 

 

「いち、にの……っ、さーぁぁぁんっ!」

 

 

 

 『3』の掛け声とともに欠片の拳に対して振り上げられたのは、黒い光のリングで拘束された二人の脚。欠片の拳はリングとぶつかり、何をしても外れなかったリングを破壊したのだ。その衝撃で、欠片は後ろに吹き飛ばされてしまう。

 リングが壊れたということは、響と巡は二人三脚状態からようやく解放されたというわけで……。

 

 

 

「リングが外れた!!」

「やったね!わわわっ」

 

 

 

 ようやく自由に動けると喜ぶ一方、巡は拘束されていた片脚を上げたまま喜んでいたために響という支えを失い後ろによろめき座り込む。さすがの二人も長い時間走り続けていたためか、呼吸が荒い。

 

 

「ま、まさかネガトーンを使って外したなんて……」

「まあ本当にできるかどうかは賭けだったんだけども。響ちゃんが信じてくれてよかった」

「兎にも角にも追いついたんだから、私のキュアモジューレを返してくれる?」

 

 

 せっかく大幅に行動制限できると思っていたのに克服された上に自ら解放されたことに驚きを隠せないダークネスメロディ。その手にはまだ、響のキュアモジューレが握られている。

 

 

「……こんな状況でよく言えるよね。ここにはネガトーンもいるし、さっきみたいにミュージックロンドで動きを封じることだってできるのに」

「……!」

『巡ちゃん!響ちゃん!』

「響ちゃん下がってて。ここはあたしが……」

 

 

 巡が対するのは、ダークネスメロディとネガトーンの形をとったネオフュージョンの欠片。一人で二人分の相手をしなければならない。

 奏達がこの場所にいることに気づいてくれればいいのだが、気づいたところで響はアイテムを向こうに取られているため、ビートとミューズは揃っても、響と奏は取り返すまでは参戦できない。

 

 果たして巡は、この状況を打破できるのだろうか……?

 

 

 

続く……

 




次回更新:4月27日(土)
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