とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第二章:魔人現る -Nyarlathotep-】③

【side:INDEX】

 

                    ◇

 

 上条たちを乗せたトラックは学園都市内の環状線をひた走る。

 学園都市の兵器群が足止めに成功しているのか、ナイアたちが追いかけてくる気配はない。

 

「………」

 

 緊張感が続くせいか、誰も何も喋らない。

 カーラジオの音だけが呑気に最近のヒットソングを流している。

 

「……ねえ、当麻」

 

 しばらくして、エンネアが囁くように上条に語りかけてきた。

 

「──当麻はさ、別に戦う人とかじゃないんだよね」

「………」

 

「まだガクセーさんなんでしょ? 大人じゃないんでしょ? なのになんでエンネアが助けてって言ったら助けてくれたの?」

「ん? 助けてって言われてなんとなく流れで助けることになったってそれだけじゃねーの?」

 

 少年はなんてことないように、あっさりとそう答えを返した。

 こんなことはどこにでもいる普通の高校生にだって当たり前だと言うように。

 

「いや……確かにDr.ウェストの時はそうだったけど……そうじゃなくて……あんな人智を越えた怪物が現れてもまだ助けてくれるなんて、戦う人でもそんな出来ることじゃないのに」

「んー…………そういうもんなの?」

 

 んーんー唸ってる上条を前に、エンネアは続ける言葉を失った。

 目の前の少年は、多分本気でエンネアが言ってることがよく解っていないのだ。

 唖然とする猫幼女の前で、御坂美琴は照れくさそうに頭を掻きながら言う。

 

「コイツはそーゆーヤツなの。何となくで関わったような相手でも、一回そいつの事情に関わるって決めたなら、学園都市最強の超能力者が相手だろうが、第三次世界大戦の黒幕が相手だろうが、世界が敵に回ったって拳握れちゃうようなヤツなのよ。見ててめちゃくちゃ危なっかしいとは思うけど、諦めて大人しく助けられときなさい」

「あの、御坂サン? それは果たして褒めてる奴なのでせうか?」

「自分の胸に聞いてみろ」

 

 二人のやりとりを見ながら、エンネアは再び黙り込む。

 この少年に助けを求めたのは、自身もなんとなくでしかなかったはずだ。

 けれど、そのなんとなくなんて行動を自分が取ってしまったと言うことは、彼は助けを求めてもいい存在だと思ったからではないだろうか。

 どうしてそんなことを思ったのか、それは、彼を一目見た時に、どこかで見たような魂を思い出したからで──

 

「ねえ……もし……全部無駄だとしたら?」

 

 エンネアの口から出た声は、信じられないぐらいに冷たかった。

 全ての感情が凍りついていて、けれどもまだ何か温度があると思いたいような、そんな搾り出すような言葉だった。

 

「もしもね。未来を知ることができて、それでどんなに必死に戦ったって、誰も救えない、救われない。全部無駄なことだってわかったらどうする? ──それでもまだ何かしようって思える?」

「思えないかもしれないな」

 

 即答だった。

 エンネアの目が、絶望と言う名の安心感の色に染まろうとする。

 その瞬間、上条当麻は言葉を続けた。

 

「けれど、そうじゃないって可能性があるって知っちまったら、何もしないではいられないかもしれないな」

「………」

「後味悪くならないで済むようなそんな結末があるんだったら、そういうのの為に頑張ってみたい。

 そう思うのは、どこにでもいる普通の高校生にだって当たり前のことだと思うけれど」

「……そう、なんだ」

「そーそー、そこの大将でなくたってそーゆーもん。意地を張りたい時があるんですよ男ってやつは」

 

 運転中の浜面が、深刻そうな空気を解ってるのかどうか判断できない口調で合いの手を入れる。

 

「そもそも──別に自分のためにやってるんだから大したことなんかじゃないんだよ。

 後味悪くならない結末を手に入れられたなら、それが気持ちいいだろうからやってるだけで」

「…………」

 

 エンネアは、目を丸くして、驚いたような表情をした。

 長年かけて開けなかった宝箱を後ろから見たら、そっちには鍵がかかってなかったことに気づいたような顔だった。

 

「そっか。……九郎だけじゃないんだ。エンネア以外のみんながそうなんだ」

「ん?」

 

 出てくる筈のない名前を聞いて、上条の息が止まった。

 

「はは、それじゃあやっぱり巻き込めないや。エンネアの事情は、エンネアで片付けないと」

 

 その言葉に、上条は絶句したようだった。

 それから、彼の表情が困惑から怒りが籠ったものに変わっていく。

 

「待てよ! なんでそうなるんだよ! 俺だって御坂だって、送り届けるまでの間の一時的だって言っても浜面だって、助けてやるって言ってるじゃねえか! だから頼ってきてもいいのに、なんで!」

「だからだよ」

 

 エンネアが何故そう答えるか、上条にはわからない。

 ただ、彼女の表情が、とても悲しいもののように見えたことが真実だった。

 贖罪の旅に出る罪人のような。邪悪だった時代を悔いる暴君のような。

 

「さよなら、勇気をくれた強い当麻」

「待っ……」

 

 微笑んで、エンネアは後ろ向きにトラックの荷台から、飛んだ。

 とっさに手を伸ばした上条に向けて、エンネアが差し出したのは武器だった。

 虚空から取り出したとしか思えないぐらいに自然に握る、赤と銀の二丁拳銃。

 

「術種選択:昏睡弾(パラライズ・スペル)

 

 そして放たれた弾丸が、上条の頭蓋に直撃して──

 

 

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