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これは御伽噺です。
昔々、もはやどこの宇宙にも存在しないことになった昔に、一人の女の子がいました。
女の子は実験体でした。
悪い神様を使って世界を思い通りにしようとしている悪い大人たちの実験体でした。
悪い大人たちが悪い神様を思い通りに操るための道具として、女の子は育てられました。
けれど。
女の子は、そんな悪い大人たちよりも強くなりすぎてしまいました。
悪い大人たちは困って、女の子を閉じ込めました。
けれど女の子は強かったので、そんなのはどうでも良かったのです。
気が向いたところで逃げ出して、好きに生きることだって出来たのです。
けれど。
そんな女の子にも、敵わない相手がいたのです。
悪い大人たちが操ろうとしている神様よりも、もっともっともっと悪くて強い神様。
女の子はそのもっともっと悪い神様の、もっとも悪い計画のコマだったのです。
もっともっと悪い神様が生み出そうとしている、悪い神様たちの宇宙を作ってくれる獣。
それを産み落とすための母体として使い潰される為に、女の子は作られたのです。
その運命は親切な青年と最強の魔導書ですら止められませんでした。
女の子は獣を孕んで死にました。
それも一度きりではありません。
悪い神様は何度も何度も世界をやり直していたのです。
悪い神様が世界をやり直す度に、女の子は獣を孕んで死にました。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
獣を孕んでは死んで獣を孕んでは死んで獣を孕んでは死んで獣を孕んでは死んで。
それが永劫を重ねたその上に更に永劫を重ねたその上、最早絶望するのにすら飽き果てた後──
女の子が命と引き換えに産み落とした獣と、それを操っていた悪い神様は、親切な青年と最強の魔導書によって倒されて、女の子はもう生き返ることも死ぬことも必要なくなったのでしたとさ。
めでたしめでたし。
◇
「というわけではじめまして。以上がざっくりとした機神咆吼デモンベインのあらすじです」
「なんかバッドエンドで終わってません!?」
気がつけば、上条当麻は一面の夜空の中に浮かんでいた。
目の前には同じく浮かんでいる、金の瞳と髪をした美形の少年。
ナイアと名乗った女が連れていたものと瓜二つだったが、しかし上条には別人であると一目で分かった。
何故ならそれは目が違う。
空洞のようで、暗黒のようで、それでいてしかし魂を感じさせる、瞳。
「だって詳しく説明しようとするとゲーム一本ぐらいの量がいるんだもん。原作はDMMにてダウンロード専売中なので是非貴公もプレイしてみてくれ!」
「クロスオーバー先商品のダイレクトマーケティング!?」
氷の河が流れるような感じの声だった。グリーンなリバーでも
「……つまり、その『もっと悪い神様』がまた何かしようとしてるってことなんだな」
荒唐無稽なお伽話を聞かされても、上条の理解は早かった。
何故なら上条当麻は知っている。正真正銘の『神』であるなら、そのぐらいのことはやってのけると。
未来永劫過去永劫、無限螺旋として連なる極彩色の地獄の絵面。
命も世界も何もかもが任意で塗り替えられてしまう儚い恐怖を、上条当麻は体験として熟知している。
「そうだ。邪神ナイアルラトホテップは、一度失敗した魔人鍛造を貴公の宇宙で再び始めようとしている」
上条の背筋を寒気が襲う。
この前遭遇した『僧正』のように弱体化した『魔神』ではなく、本物の『神』が今回の敵。
そもそも上条はオティヌスにだって「勝てて」はいないのだ。何故か向こうに勝ちを譲ってもらえただけで、真正の人間をなんとも思っていない邪神には慈悲を期待するのも出来はすまい。
けれど、
「それを俺に伝えると言うことは、まだ勝ち目がある。そういうことなんだな」
「左様。邪神ナイアルラトホテップは、貴公の宇宙に介入する為に、神としての力を失っている。
彼奴が求めるのは、切り離した神の力を取り戻すことと、新たな世界の怨敵を生み出すことだろう」
「それで。止める方法は」
躊躇うことなく尋ねた上条に、金色の少年は呆れとも感心とも取れる顔を見せて、
「前者をどうやって成そうとしているかは解らないが、後者については解っている。
邪神ナイアルラトホテップは、貴公の世界の同位体を使い、擬似的な世界の怨敵を作り上げている。
魔人の肉体と能力を持っているが、魂の欠けたそれに魂を宿すことで、真に世界の怨敵は再誕する」
魂の欠けた魔人、というのが、あのナイアが連れていた方の金色の少年だろう、と上条は理解する。
超電磁砲を片手であしらうあれだけの力を持っていて尚不完全。
今はまだ神の力を使えない邪神よりも、よっぽど危険なアークエネミー。
「世界の怨敵とは、あの世界において最強の魔術師の胎に、邪神の胤を植える事で孕み孵った獣のことだ。
人の胎から生まれて人を越え、魔人の域に至った者だ。
つまり貴公がエンネアと呼ぶ少女──彼奴と魔人を番わせることを、邪神ナイアルラトホテップは目論んでいる」
「番わせ……!?」
脳裏に未成年閲覧禁止の像を思い浮かべてしまって、思わず取り乱してしまう純情少年上条当麻。
ちょっと路地裏を覗き込めば発生するそういった世界に直面しないまま生きている全年齢の世界の住人には、エロゲの世界はちょっと刺激が強すぎた。
「ん? 貴公、もしかしなくても初心なのか? 余の属する成人指定暗黒神話の世界ではこの程度挨拶代わりだぞ? 触手と粘液は標準装備でぬるぬるべちゃべちゃいやんいやんしているものであるし、あの大十字九郎の有しているモノは有識者からフランスパンと称されていて──」
「やーめーろー! 知り合いのアレの大きさとか風呂場で偶然以外の形で知りたくない情報なんですけど!? 俺はどうやって九郎さんと再び顔を合わせればいいんだー!! そもそも今回のクロスオーバー先は全年齢名義だ!!」
頭を抱えて首を振る上条当麻の前で、金色の少年は品のないジェスチャーの数々を繰り出していく。
さっきまで漂っていたシリアスパートの雰囲気がピンク色に雲散霧消していく。
「ともあれ、邪神の企みを砕く鍵、それが貴公がエンネアと呼ぶ少女だ。
あれが魔人の胤を孕んでしまえば邪神がその力を取り戻すまでもなく貴公の世界は終わりを迎えるし、逆にそれさえ防いでしまえば邪神の企みは破綻する。つまり貴公が自らの世界を守りたくば、目覚めてから何をすればいいのか、理解できるな?」
「……エンネアを、殺せって言うのか」
金色の少年は嘲るように頷いた。
無限螺旋の繰り返しの中で何度も何度も何度も何度も、飽き果てるまで死に続けた少女。
運命から解放されても尚、邪神の魔の手に掴まれようとしている少女。
それさえ殺せば世界はとりあえずで救われるだなんて言われても、上条当麻は頷けない。
それは絶対に
上条当麻の魂は、そんな終わりを認められないと叫んでいる。
「あの少女は貴公が思っているほど無垢でも善良でもないぞ。邪神の信徒であれば心を痛めもせず幾らでも鏖殺出来たし、己の願いの為であれば惑星を危険に晒すことすら躊躇わん。ついでに言えば性格もあまり良い方とは言えぬが、それでも尚、少女を見捨てることはしたくないと」
「それでもだ」
間髪入れずに答えが出た。
世界の全てを敵に回した右方のフィアンマや魔神のオティヌスでさえも見捨てることができなかったのが、上条当麻という生き方なのだから。
そんなどこにでもいる普通の高校生を見て、かつて背徳の獣と呼ばれていた少年は寂しそうに微笑んだ。
「少女を救って世界も救いたい、か。なんと言う強欲でなんという傲慢さ。
だが、それこそが人間。汝が欲するところを為せ、それが汝の法とならん、か。ふふふ、ははは、はーっはっはっはっは!!」
微笑みが哄笑に変わる少年の目の前で、上条の体が透け始めた。
この謎の宇宙空間から追い出されようとしているのだと、自然に魂が理解する。
「……そろそろ貴公の目が覚める頃合いか。
完全無欠のハッピーエンドを望むのであれば、やりたいようにやってみるといいだろう。
それでは、貴公の行く先に、星々の祝福が在らんことを」