とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第三章 古き神を叩け -Evil Shine-】③

 

 その時、御坂美琴は旧三沢塾ビルのすぐそばにいた。

 上条当麻が謎の空飛ぶスーパーヒーローと一緒に去っていってから、常盤台中学のエース様は思ったのである。

 

(今度ばかりはなあなあで話の蚊帳の外にされてたまるか、何が何でも追いかけてやる……!!)

 

 『魔神』僧正に続いてまたも出てきてしまった、自分の超電磁砲が通用しない金色の少年。

 ツンツン頭の上条当麻を連れ去った謎の青年もまた、そちら側の世界にいる存在なのだろう。

 あいつの居場所が遠いところにあるのだとするなら、まずはその情報が必要だ。

 必要なのはヒント。コロンブスの卵が実際に直立している姿を目にすること。

 それを手に入れられるチャンスがあるのなら、逃すわけにはいかない千載一遇の機会なのだ。

 

 そもそも、そんな悩み事以前の話として、毎度毎度スルーされるヒロイン扱いはもううんざりなのである。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの謎の新ヒロインに関わったのは自分もなのだ。

 知らないところで解決なんてされてたまるか。私だって当事者であると知らしめてやる。

 

 

 そう言うわけで、思い立ったが即座行動。

 具体的に言うと第七学区中の監視カメラをハッキングして向かった場所を直接特定。

 ビルの中へ入って追いかけるのではなく、磁力を使って外壁からよじ登って窓の外から内情確認。

 いい感じのタイミングで直接乱入してやろうとスタンバったりしていたわけだったりするのだが、

 

(どうしよう……割り込むことができる隙がない……!)

 

 戦いそのものの速度は御坂美琴でも追い切れる程度のよくある実力者同士のものだった。

 しかし、金色の少年とナイアと名乗った女の放つプレッシャーが、美琴の五感以外の何かに訴えてきている。

 

 部外者はこちらに入ってくるな。

 地球協奏曲を奏でられるのは限られた演者の特権で、雑音が混ざる余地は無いと。

 

「くく、」

 

 動けない美琴の存在に気づいているかのように、窓ガラス一枚隔てた遠い世界でナイアが嗤った。

 その膝の上には上条の近くでよく見かける白い修道服の少女がいて、何をされているのか、苦しげな悲鳴を上げようとしては口枷によって外に漏らすことも出来ず、体を激しく振るわせていた。

 

「防壁のクラックはおよそ三割ってところかなー? ほらほら頑張れ頑張れ上条くん、急がなければ君の大事なヒロインがSAN値失った廃人の仲間入りだよ?」

「てめぇ!」

 

 上条が吠えた。

 美琴では今まで見たことがないような表情だった。

 あの少年にそんな顔をさせる存在がいるのだと、その事実が更に美琴の心をざわつかせる。

 

 蚊帳の外にされている少女の前で、戦場の状況は進んでいく。

 拘束着のエンネアが乱入してきたことが状況を一気にナイア側に傾けていた。

 金色の少年一人と二対一状態でも上条たちの方が不利だったのに、追加戦力が投入されれば尚のこと。

 能力とは違う何かによる攻撃のみならず、エンネアの支援狙撃による翻弄まで加わったことで、上条たちは金色の少年に近づくことすら出来なくなっている。

 二対二のままではジリ貧が続いていくのは側から見てても自明の展開。

 その上でナイアは修道服の少女の頭になにかをしかけているようで、時間をかければ彼らにとって致命的な何かが起こりそうだというのは美琴にもわかる。

 

「……、っ」

 

 彼らが不利な状況にあるのは、上の実力者相手との二対二だからだというシンプルな数の天秤。

 つまりは後一人そこに加わるだけでも状況を覆す手立てになるかもしれない。

 

 けれど、御坂美琴は踏み出せない。

 『船の墓場(サルガッソー)』からまで続くオティヌスの件は直接北欧まで行って上条の弱音を聞けた。

 先日の『魔神』僧正の件では上条との決定的な断絶を感じながらも勇気づけられた。

 

 だが、今回は一つ大きな違いがある。

 今回の上条当麻は、すでに隣に誰かがいる。

 あの大十字九郎という青年は、おそらく今上条が戦っている側の世界の人間だろう。少なくとも美琴はそう思っている。

 だから、ここで自分が割り込むことは場違いなことではないのかと、そういった不安が混沌のように這い寄ってくる。

 

「アトラック=ナチャ!」

 

 大十字九郎が髪を大きく振り回し、拘束着のエンネアを絡み取ろうと動く。

 蜘蛛の糸のようなそれを避けるように大きく飛んで交代した彼女と入れ替わるように、金色の少年が駆け出した。

 手に赤いエネルギーの凝縮体で出来た十字架を持ち、それで斬りかかろうとする相手は、

 

「上条!」

 

 九郎が叫ぶ。

 彼は咄嗟に割り込もうとするが、そこへエンネアの銃撃が飛んでくる。

 大十字九郎が防御に専念して生まれた隙に、金色の少年は上条当麻に肉薄し、

 

「……、ッ!!」

 

 そして十字架と上条の右手が激突した。

 ギリギリガリガリギャギャギャリィ!! と正常な激突であれば聞こえてこないであろう異音がガラス越しにも響く。

 

 押されているのは当然、上条当麻の方だった。

 いくら上条の右手に異能を打ち消す謎の力があったとしても、彼が使えるのは右手一本に過ぎないのだ。

 そしてそれと戦う金色の少年は両手の膂力でそれを押し込むことができる。

 知性もへったくれもない単純すぎる算数の理屈。

 

 そして算数の問題で言えば、相手の手数が更に一つだけ上だった。

 エンネアが握る二丁拳銃のその片方、大十字九郎を釘付けにしているのとは逆側の赤い自動拳銃(オートマチック)が、上条の方へ向けられて、

 

「あああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!」

 

 ガッシャァァァン!!! と派手な音を立てながらビルの窓ガラスが破り砕かれた。

 『砂鉄の剣』が金色の少年とエンネアのいる空間の間を薙ぎ払った。

 エンネア本人に攻撃が届かなかったのは美琴の自制心がまだ残っていた証だろう。

 第三者からの攻撃に対し金色の少年は、上条への攻撃をやめて飛び退き、乱入者の方へ向き直った。

 

「み、御坂!?」

 

 突然の乱入者に驚く上条と対照的に、ナイアの表情はつまらなさを隠す気もない不機嫌だった。

 テレビを見てる間に部屋の中に虫が入り込んだのに気付いたような、どうでもよさと苛立ちが混ざり合うような殺意が女の貌から漏れている。

 

「おやおや、せっかく九郎くんや上条くんと遊んでるというのに、盤上に端役が上がってくるとはね。

 確か学園都市の第三位超能力者……だっけ? 戦うだけならメタトロンぐらいにはやれるかもしれないけれど、それで僕たちの間に入ってくるには、ちょおっと役者が足りないんじゃないかなあ」

 

 明確な挑発だった。

 普段の御坂美琴であったらキレるにしても挑発だと理解した上でしただろうが、今の彼女にそんな余裕はなかった。

 上条当麻が立っている別次元に割り入ってしまった。

 ならばもう引き返せない。戦って、それについていけるのだと結果で証明する以外道はない。

 そもそも、それ以前の話として、

 

「端役だとかなんだとか勝手に人を値踏みしてるんじゃねーっつうの!

 女の子襲って攫ってなんか悪いことをしようとしてる奴がいて! そんな奴を見ちゃったら躊躇せず助けに行くようなバカがいて! そんなの見てしまったら、見過ごすなんて出来る訳がないでしょ!」

 

 なんでもっと上に行きたいのか。

 なんで上条当麻の隣に立ちたいのか。

 その理由があまりにもすっと口から出た。

 

「誰かの助けになりたいって気持ちに、主役も端役もあってたまるか!

 そんな幻想(ルール)があるっていうなら、今すぐ私がぶち壊してやる!!」

 

 その叫びをもってして、御坂美琴は戦うための答えを得た。

 

 それに対し、ナイアの返答は単純だった。

 

「あっそう」

 

 少女の決意は自分の作る物語には全く関係ないとばかりに、無興味を極めた一言だった。

 

「邪魔者を追い出してくれよ。僕の操り人形」

 

 主人の命令に従って、金色の少年が美琴の方へ腕を伸ばした。

 ブォッッッ!!! と、美琴の髪の毛が捲れ上がる。

 金色の少年が放つ圧力が物理的なものとなって、部外者をこの場の外へ追い出そうとしている。

 

「御坂!!」

 

 美琴の方へ向かうべきか、金色の少年を倒すのを優先すべきか、上条が迷ったその一瞬が致命的だった。

 金色の少年はその一瞬で御坂美琴への距離を詰め、その拳を彼女に向けて放った。

 美琴は咄嗟に砂鉄の盾で身を守ったようだったが、それに伴う魔術衝撃は殺しきれなかった。

 ドゴォ! と人間の拳が立てるものではない音を立て、御坂美琴は旧三沢塾ビルの十二階から眼下の街へ落ちていく。

 

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