とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第三章 古き神を叩け -Evil Shine-】④

 

                    ◇

 

 流星のように落ちていった御坂美琴を目にして、上条当麻は飛び出そうとした。

 

「落ち着け理解者! これもお前の冷静さを奪うための策だ!」

 

 胸ポケットのオティヌスの言葉に反射的に足を止める。

 その瞬間、踏み込むはずだったところへ向けて銃弾がズドドドドドと乱射され、床に引き裂いたような弾痕を残す。

 

(ちくしょう……御坂は無事だと信じる他ないか)

 

 美琴が落ちていった方を気にするのをやめ、上条は視線をエンネアの方へ向ける。

 拘束服で操り人形にされている彼女の武器は二丁拳銃。

 幻想殺しで反応できない速度で遠距離から襲いくるそれがあることで、上条と九郎の行動は大きく牽制されてしまっている。

 

 そしてその後ろ、苦悶の表情をしているインデックスが目に入る。

 魔神の力を手に入れようとしている世界の大敵ナイアルラトホテップ。彼女が10万3000冊の知識を吸い上げる前に決着をつけることが出来なければ、この世界は終わってしまう。

 

 邪神の手によって操られている少女たちを助けるには、その邪神が操る金色の少年を攻略しなければならず、そして彼こそが最も厄介。

 特に何かのルールによってバフを受けているわけでもない、単純な火力による殺意。

 『聖人』を相手するのと同等に、上条当麻の天敵と言える。

 

(どうすればいい……俺じゃなくて九郎さんが勝てばいいにしても、その為に俺が出来ること……!)

 

 ナイアが操る難敵達を前に、上条の思考が曇り出す。

 諦める気など毛頭ないが、しかし邪神の操る手先達が上条にとって相性の悪い相手なのはどうしようもなく、

 

 ……操る?

 

(邪神に従う理由がないエンネアだけじゃなく、あの金色の少年も魂がないって言われていたから、何か命令されないと動けないんじゃないか?)

 

 シェリー=クロムウェルという魔術師がいた。

 彼女の扱っているゴーレムは人間を模した魂のないもので、それを操って戦うのが戦闘スタイルだった。

 それと同じく、金色の少年やエンネアの体もナイアによって遠隔操縦されているのではないか。

 

(ひょっとしたら自動操縦術式があるのかもしれないけれど、戦ってる相手が目の前にいるのにそれに全てを預けられるか?

 何か指示を出しながら戦っているんじゃないか?)

 

 金色の少年は圧倒的だ。

 けれど、それを操る背後の邪悪の化身には、まだ付け入る隙があるのかもしれない。

 

                    ◇

 

「おやおや」

 

 目の前で繰り広げられた光景を見て、ナイアが嗤った。

 ()()()()()()()()()()()()()()、こちらの陣営に突っ込んでくる。

 

 勿論、上条当麻は一人しかいない。

 並行世界や別の時間軸から呼び寄せるとかそんな裏技で増やすことも出来るだろうが、そんな無謀はそれこそ魔神や邪神でもなければ行えまい。どこかの紙一重の向こう岸に行ってしまったマッドサイエンティストならやらかせるかもしれないが。

 

(ということは九郎くんのニトクリスの鏡の術式か……()()()()()()()()()()()()()()が僕の側の陣営の強みだから、幻影で擬似的に数を増やせばそれで対処を分散させられると思ったのかな?)

 

 だが甘い。

 

「数を増やしてみせたところで、同時に対処してしまえばいいだけの話だよ! ──やれ」

 

 金色の少年が手にした十字架が巨大化する。

 五人に分裂した上条どころか、その後ろにいる大十字九郎、いや、三沢塾ビル自体までも両断せんとする程に。

 その威容を目の当たりにしても、上条当麻たちは怯まない。

 そんなものなど、恐怖のうちに入らないと言わんばかりに。

 

 そして羽虫を払うように、巨大十字架が振り回された。

 

 五人に分身した上条当麻が、ガラスのように砕けていく。

 一人、二人、三人、四人────

 

 そして、五人すべてが砕け散った。

 

(──全員偽物? では本物の上条くんはどこに?)

 

 疑問の答えはすぐに出た。

 全ての幻影が砕け散り、そこに隠されていた現実の光景が晒される。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

 全身全霊スライディング。

 本物の上条当麻は身を屈め、奔る死線を間一髪で回避していた。

 

「ふぅ……光学屈折でもなくば契約者のものでもない虚像を編み上げるのには苦労したぞ」

 

 浮かぶアル・アジフが汗を拭うようなジェスチャーをする。

 詐術の神に対する謀り。人間の知覚レベルにまで落ちているから出来たちっぽけな抵抗。

 ナイアは即座に魔道書妖精に向けてエンネアの魔弾を放つように指示するが、防禦結界がそれを受け止める。

 

 大ぶりをした直後の金色の少年はすぐには上条に対処できない。

 片足だけで無理やり体勢を立て直して、上条当麻は捕らわれのヒロインへ向けて走り続ける。

 

「やれ、上条!」

 

 九郎の声に背を押されるように、上条が最後の一歩を詰める。

 ナイアは一瞬逡巡するように目を彷徨わせ、そして、

 

「……ッ!」

 

 弾けるように、その場から瞬時に飛び退いた。

 インデックスを手放して。

 

 白い修道服姿が倒れ込むところを、上条の腕が受け止めた。

 少女の口を塞いでいた枷を引きちぎる。荒い呼吸で上下する胸を服越しに感じ安堵する。

 そして幻想殺しの少年は告げる。

 

「インデックスは返してもらった! ここから逆転の時間だ、ナイアルラトホテップ!」

 

                    ◇

 

 

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