とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第三章 古き神を叩け -Evil Shine-】⑥

 

                    ◇

 

 上条&九郎&インデックスvs金色の少年&エンネア&ナイアルラトホテップ。

 戦闘員二人ずつ+支援要員一人の三vs三。

 人数的には互角であるが、パワーバランスの判断は難しい。

 邪神側の金色の少年が存在として隔絶している場所にある為、人類サイドの攻撃で有効打が無い。

 しかし、人類サイドはインデックスを取り戻した為、相手の魔術を徹底的に妨害できる。

 つまりは状況は千日手。そうなるのがお互いに解っているから、どちらも迂闊に動けない均衡状況が生まれていた。

 

「インデックス、」

「わかってる。とうまはあのぐるぐる巻きのエンネアって子も助けに来たんでしょ」

 

 呆れたような喜んでいるような、どちらともつかない口ぶりでインデックスは言った。

 

「あのぐるぐる巻きは、くろうと同じマギウススタイル。魔道書の原典を鎧として装備するバトルスタイルで、その応用で拘束着にして操ってるんだよ」

「つまり、俺の右手で壊せばいいってことか」

 

 魔道書の原典。そういえばそれが盗まれたという話が、九郎たちがこの学園都市にやってきた理由だったか。

 それを破壊するということは、九郎たちの仕事が果たせなくなることを意味している。

 不安を抱いた上条に向けて、アーカムから来た魔導探偵は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「やっちまえ。邪悪な本の一冊と引き換えに女の子が救えるっていうならそっちの方がよっぽどいい。だろ?」

「妾たちの本懐は邪悪本書の知識が広まらないようにすることだ。それが回収であろうと焚書であろうと結果としては同じことよ。なに、頭の硬いお偉方も話せば解ってくれようぞ!」

「それは解るというより諦めるの方な気もするけどないつものように!」

 

 いつものように。つまり彼ら”も”こんな戦いを何度となく繰り返してきたということ。

 少年たちの先輩として、上条の選択の背を押した。

 

「そろそろ話は終わったかな? 君たちの勇気。懊悩。選択。そう言ったものをへし折るのはとても辛いけれど、遊んでられる時間もそろそろ終わりが近いからね。一気に行かせてもらうよ」

 

「随分と余裕な態度を取るじゃ無いか、ナイアさん。

 魔神になる為に攫った女の子は奪還されて、魔神への道は閉ざされてる。流れは俺たちの方に来てるんだよ」

 

「はは、そう言われても余裕があるのは事実だからね。その証明を今からしよう。

 ────壊せ」

 

 シンプルな命令だった。

 その指示の通り、金色の少年は拳を握り、それを大きく振り下ろした。

 

 床へ。

 

「!?」

 

 メキメキビシビシドシャバキゴシャグシャァ!! と、派手な音が連鎖するように響く。

 あまりの現実性のなさに、上条は一瞬当たり前に起きていることがわからなかった。

 魔術でもなんでもない金色の少年の拳が、旧三沢塾ビルの基礎を支える構造を、一撃のもとに破壊していたのだ。

 

「崩れるぞ! 気をつけろ!」

 

 アル・アジフの言う通りになった。

 最上階フロアの床が砕けて、そのまま下のフロアへ───、

 否、下のフロアすらも足場になるようなものはない。最下層の地上まで一直線に突き抜けている。

 旧三沢塾ビルを構成する北棟が、悪い冗談のように、真っ二つに壊されている。

 

「おうぁぁぁあぁぁ!?」

 

 マギウスウイングによって飛翔できる大十字九郎はまだ助かるだろう。

 魔術師であるエンネアは飛行の術式を覚えているし、ナイアもその恩恵を受けているのか空中でにやにやと笑っている。

 それらの恩恵に与れない上条当麻とインデックスだけが、地上へ向けて重力加速で落下していく。

 

「さあ、幻想殺しから禁書目録を回収しておいで!」

 

 命令を受けた金色の少年が、瓦礫を足場にして上条の元へ駆けてくる。

 

「上条!! くっ……」

 

 そこに九郎も割り込もうとしたが、降り注ぐ瓦礫とエンネアの牽制銃弾から身を守るのに必死で、その出遅れで間に合わない。

 落下していく上条とインデックスの元に、肉食獣のような速度で迫りよる金色の少年を、止められるものは誰もいない。

 ここまでなのかと上条が奥歯を噛んだ、その時だった。

 

 上条の眼前を、眩い閃光が横切った。

 肉が焦げる匂いや蒸発するような音は聞こえなかった。それを意識する暇すらなかった。

 数キロ先から子供の頭に乗せたリンゴを撃ち抜くような精密性で、上条やインデックスには当てずに金色の少年の腕だけが絶大な火力で消し炭にされていた。

 

 けれど完全に無影響とはいかなかった。

 その余波で落下していた上条たちの体が逆に舞い上がった。

 膨張する空気と衝撃波が少年の体を木の葉のように弄ぶ。

 極限に緊張していたはずの意識すらも一瞬どこかへ吹き飛んでいた。

 圧倒的な力を前に、五感が麻痺して光も音も遠い世界のものとなる。

 

「………、はっ」

 

 意識が戻った時、上条とインデックスは飛翔する物体の上にいた。

 人間大の装甲にごてごてと無数の砲を取り付けて、それが前後逆にしたステルス機のようなシルエットを作っている。

 

「目ぇ覚めた?」

「……御坂!?」「短髪!?」

 

 角度的に見えないが、この空飛ぶ巨大兵器は御坂美琴が直接動かしているものらしい。

 この手のものを見慣れないだろうインデックスがぺたぺた触りながら首を捻っている。

 

「説明は後!! とにかくあいつ、ぶっ飛ばすんでしょ!!」

 

 声が指し示した方に顔を向ける。

 吹き飛ばされたはずの金色の少年が宙に浮かびながら、にゅるんと腕を生やし治している。

 人外らしい異常回復力で実質的にノーダメージ。しかし今までとははっきりと違うところがある。

 

「……こいつの砲撃を直撃させれば、あいつは倒せる!!」

 

 希望が見えた。次のラウンドが始まった。

 

「バルザイの偃月刀!」

 

 九郎が手にした魔術杖を大きく振りかぶって、金色の少年へとぶん投げた。

 高速回転する刃がギャリギャリギャリ!と音を立てて、金色の少年の握る十字架と激突する。

 

 投擲によって生まれた隙を狙うように、上層階からエンネアの銃弾が九郎へと降り注ごうとするが、

 

銃弾の軌道は左に逸れる(BDTL)!」

 

 喋ることを解禁されたインデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)

 必中を狙って魔術を弾丸にエンチャントしたことが、禁書目録の少女が付け入る為の隙となる!

 

「────、ッ、」

 

 ガキン、と硬質な音を立てて、金色の少年がバルザイの偃月刀を弾き返す。

 その一瞬の隙を、御坂美琴は見逃さなかった。

 

「これが私の………全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)全兵装一斉解放(フルバレルオープン)

 搭載された超電磁砲が火炎放射器がビーム砲が破壊音波にドリルに空気砲にプラズマキャノンにその他数々無数の武器が、雨霰雪崩炎焔、徹底的に射出される。

 世界埒外の魔神であろうと世界最強の魔術師たる人間当人であろうと邪神の作り出した人形であろうと絶滅させることを目的とした殺意の群れが、たった一体に向けて集中放射。

 飛翔兵器の背中にしがみつくインデックスがその反動によってふらふらと揺れる。

 人間大の存在に向けるにはあまりにもオーバーキルと言えるだろう。

 ほんの少し角度が逸れるだけでも惑星そのものに致命的なダメージを与えかねない過剰火力。

 魔術にまつわる存在であれば、それがたとえ単騎で世界を滅ぼしうるようなものであっても一片も残さず消えていたに違いない。

 

 しかし相手は異界の埒外。

 金色の少年は絶殺の奔流を相手に、防禦障壁を多重掛けして拮抗していた。

 ひょっとしたら、本来この世界で使えない筈の暗黒神話の世界のルールすらも部分的に再現していたのかもしれない。

 

 世界の全てが白転するかのような極限の拮抗勝負が永遠のような一瞬続き、そして、

 

「カッ、────は」

 

 先にガス欠が来たのは美琴だった。

 対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)を飛ばし続ける為の最低限の電力だけを残して、荒い呼吸をしている。

 

 対する金色の少年も、多重に重ねた防禦結界の殆どが砕けていた。

 全て合わせれば惑星の粉砕にすら耐えたであろう障壁も、最早一枚を張る余力しか残っていない。

 しかし、その一枚だけでも絶望的な高い壁。

 御坂美琴の超兵器がエネルギー切れを起こした今、それを砕ける攻撃は正義の味方たちの側には科学にも魔術にも存在しない。

 

 とある少年の右手以外は。

 

「いけ、上条!」

「う、お、りゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 サーブの構えをとった大十字九郎を足場にして、上条当麻が金色の少年のところまで疾駆する。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)。この世に非ざる魔術異能を、神様の悪意(キセキ)でさえも一撃で砕く拳。

 それが金色の少年の最後の障壁を、宙に張られた薄紙のように引き裂いて、

 

「は、けれどそこまでじゃないか! 君の拳は大導師殿の障壁に届いても、その体にまでは届かない!」

 

 遥か上方で嗤うナイアの言う通り、結界を引き裂いた上条当麻はそのまま足場のない空中へ落ちていく。

 大十字九郎も彼を助けるために急速下降し、金色の少年から遠ざかっていく。

 

 これにて全ての手は尽きた。

 あとは残された力をもって、ヒーロー達を一撃の元に焼き払う。

 そうして世界と少女は邪神の魔の手の中に落ち、未来永劫過去永劫、再び玩弄されることになるだろう。

 

「────私がここにいなければな」

 

 そう笑って。

 金色の少年の胸元に飛びついていた十五センチのオティヌスが。

 ちっぽけなグングニルを突き刺した。

 

「な、んだって……?」

 

 本来であれば文字通り、ちくりと刺しただけの一撃でしかなかっただろう。

 しかし彼女は力を失っていても魔神である。

 その行動には意味がある。

 それだけではなく、この場には、その意味を魔術に変えることが出来る魔道書図書館、禁書目録がいる!!

 

「北欧の最高神の聖槍グングニルと、十字教の神殺しの聖槍ロンギヌスの見立て混同による処刑の記号の成立。

 現在進行形で刑を処されているオティヌスと大淫婦バビロンの重ね合わせ。

 また天界ヴァルハラの戦神であるオーディンと大天使長ミカエルをその戦の記号によって重ね合わせ。

 ヨハネの黙示録より引用、七頭十角の獣を大いなるバビロンの威光によって調伏し、ミカエルの力によって滅ぼし地の底へと繋ぎ止めん!」

 

 戦闘中にリアルタイムで組み上げた、暴論じみた即興術式。

 しかし10万3000冊を司るインデックスの見立てと、魔術の神であるオティヌスの手が加わったそれは、この場において絶対的な魔人殺しの刃と化す!

 

「対・黙示録の獣用処刑術式【天の火の矢は竜を焼く】!

 獣如きが、神とその理解者を侮るなよ!」

 

 輝きが疾る。

 世界の怨敵を産む筈だった人形が、儚い塵となって崩れていく。

 

                    ◇

 

 

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