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「ふん。あのミスカトニック大学が外部に対して協力要請だなんて、とても信じられないかも」
四人(+十五センチのオティヌスと三毛猫のスフィンクス)でコタツを囲みながら、不機嫌そうな声でインデックスが言った。寝てるところを起こされたことがそんなに気に食わなかったんだろうか。いつもながら欲求の化身みたいなシスターさんだ。
「ええと、大十字…さんがいたっていうミスカトニック大学ってどういうとこなんだ? そもそも大学が魔術を?」
目の前の魔道書図書館が一応は所属しているイギリス清教といい、色々とやり合うハメになったローマ正教といい、上条が出会ってきた魔術関係者は基本的には宗教関係者だった為、大学所属の魔術師というのは初耳だし違和感がある。
この辺は学園都市の住人らしく、学校といえば科学サイドのものみたいな偏見もあるのかなーと自己分析。
「妾達は雇われた探偵であって、厳密には所属してるわけではないがな。もぐもぐ」
アル・アジフと言うらしいピンク銀髪の少女がコタツの上に置いてあったミカンを(家主の許可を得ず)頬張りながら言う。
一方で銀髪ロングのシスターさんは先生ぶって人差し指を伸ばしながら、
「ミスカトニック大学っていうのはね、とうま、魔術サイドの中でも特に変わった分野を扱うところなの」
インデックスは自分の分を取られてなるものかとばかりにミカンを一気に三つがばっと持ち去りながら、
「魔術は基本的には神話や宗教の形をベースに作られた、才能のない人のための技術。それは覚えてるよね」
「ん、ああ」
「つまり魔術っていうのは、そもそも人間のためにあるものなの」
シスターさんであるインデックスの前で思うのも失礼な話だが、魔術以前に神話や宗教がなんのためにどうやってできたかを科学サイドの方から考えても当然の話だ。それらは人間が生きている世界をどうやって捉えるか、どう解釈すればよく生きれるか、そう言ったものを取りまとめた概念なのだから、人間のためにあるという表現はこの上なく正しいだろう。
「でもミスカトニック大学が取り扱っている魔術、ミスカトニック大学が封印しようとしている神話伝承は違うんだよ。
彼らの扱う暗黒神話は、人間以外がこの宇宙を支配しているという考え方でできている。
例えば太平洋の底に沈む非ユークリッド的構造の遺跡。例えば人類以前に地球の覇権を握っていた爬虫類人が棲む大陸。例えば千の貌を持ち地球の神性を支配している暗黒の三眼。宇宙はそんな人間のことなんてなんとも思っていないようなものによって左右されているんだって記述された神話伝説と、それらを元に作られた魔術を人目に触れないように、誰も信じたりしないように回収封印する組織。それがミスカトニック大学の裏の顔、隠秘学部なんだよ」
「………」
「勿論この設定はこのクロスSSを成立させるためのものであって、機神咆吼デモンベインやとある魔術の禁書目録の公式設定とは何一つ関係ないしとある外典書庫1巻の天草式SSで書かれていた設定については一旦忘れ去ってくれると助かるんだよとうま!」
急にどこかとチャネリングしだすインデックスの口に四つ目のミカンを押し込み、上条は暗黒神話に想いを馳せる。
根本が科学万歳の学園都市の人間なので、神様に対して祈りを捧げる時なんて日常生活で追い詰められた時(不幸体質のせいでそれ自体は結構ある)ぐらいしかないのだが、そういった祈りが本当に誰にも届かないのだと言われてしまったら、それは確かに何か嫌だ。
今は十五センチになっているオティヌスにしたって、この前決裂した『僧正』にしたって、彼らは彼らなりに人間や世界のことを考えてくれていたわけで、その辺の気持ちすらない神様が宇宙を支配していたとしたら、それはあまりに恐ろしいだろう。
「つまり妾とこの大十字九郎は人類を邪神の恐怖から守る、所謂正義の味方という奴だな」
「勝手に気恥ずかしい呼び名で威張るんじゃありません」
アル・アジフを嗜める大十字九郎の姿に、なんとなく親近感を覚える上条。
「それで、その正義の味方とやらが禁書目録に助けを求めにくるとは、一体何があったのだ?」
爪楊枝製グングニルを器用に使ってミカンを切り崩しながら、オティヌスが問う。
「うむ。数日前、ミスカトニック大学の禁書書庫から魔道書が盗まれてな。
盗人の足取りを追いかけたところ、どうもこの学園都市に逃げ込んだようなのだ」
魔術サイドの人間が学園都市に侵入したので、科学サイドと魔術サイドのパワーバランスを崩さないようにする為に魔術サイドの人間がなんとかする。上条にしてみればあーまたいつもの奴かという感想が出るぐらいには慣れ親しんだパターンである。
「外道の知識には外道の知識で。魔道書には魔道書で。それが妾達の属する世界のルールだ。
だが、今回の盗人は外道の世界でも無ければ魔術の世界でもない、この科学の街にやってきておる。
故に妾と此奴はこの極東の学園都市まで、橋渡しとなる
何がふん。なのかはわからないが、とりあえずそういうことらしい。
「つまりそこの大十字さんがうちのベランダに引っかかっていたのは、その犯人とやりあってたってことなのか?」
「んー、あー、確かに敵とやり合ってたってのはそうなんだが、」
上条の住んでいる学生寮の近くには同じ高さの建物が沢山並んでいるので、一度上に出てしまえば、走り幅跳びの要領で渡っていくことも出来なくはない。建物同士の幅は2メートルぐらいなので万が一の事故が怖い距離だが、運動に慣れてそうな成人男性であればおそらくは跳べる距離だろう。
逆に言えばそこから滑り落ちて上条家のベランダに引っかかっていたということは、事故が起きるだけの理由が想像されて、
「背中を撃たれたりとかしたんですか?」
心配そうに尋ねる上条当麻に対し、成人男性大十字九郎は気恥ずかしそうな顔をして、
「いや、単に足を滑らせました」
「………」
足を滑らせて落下したが、落ちた先がたまたま向かうつもりだった先のベランダ。幸運なのか不幸なのかわからない話だ。
「けれど幾らミスカトニック大学の領分に関わることだからって、イギリス清教が
「おお……インデックスが今まで見たことないようなプロフェッショナルの顔をしていらっしゃる……」
珍しくイギリス清教第零聖堂区『
「ほれ。禁書目録を名乗るのであればこれが何かはわかるだろう?」
どこから取り出したのか、古い羊皮紙のようなものをその指に挟んでひらひらとさせていた。
時代を経ているその表面には、文字のようにも模様のようにも見える流暢な線が記されている。
外国語については万年鎖国状態の上条当麻にはそれが何なのか全くわかりもしなかったのだが、インデックスは違ったようで、
「……6世紀ごろのアラビア文字、古代エジプトのファラオの名前とその装身具の来歴についての記述、そしてそもそもアル・アジフ……まさか!?」
「フフフその真逆よ。妾たちは協力の対価としてこれを禁書目録に寄贈しようというのだ。伏して拝んでその名を讃えよ!」
「『
目をキラキラさせながらインデックスが叫んだ名前に、上条はどこかで聞き覚えを感じていた。
どこで聞いたかは解らないが、有名な魔道書の名前だったような気がする。
おそらくは最近読む暇もなかった
「そんなに凄いの?」
「凄いも何も、私の十万三千冊の中にも本物がない奴なんだよ! 私の頭の中にある奴は明らかに亜流とか偽書とかだって解る奴ばっかりで、これホントーに禁書目録の蔵書に数えていいのかな……って思ってたんだけどまさか本物に出会うことが出来るなんて! やったー!」
インデックスの喜びようは要するにレプリカが出回っている記念トレカの本物を譲ってもらえるとかそんな感じだろうか、と上条は若干ズレた理解をする。そういえばこのシスターさん上条家の漫画蔵書が増えるたびに即座に読んでいるし、禁書目録の役目とか関係なしに本を読むこと自体が好きなのかもしれない。
「確かにそれならイギリス清教が許可を出すのに十分だね。原典の
「歩いて?」
上条当麻の脳内に、本ににょっきり手足が生えたゆるキャラのようなものが再生される。
ネクロノミコンというのはそんな子供が考えたマスコットみたいな魔道書なんだろうかと想像してるのを見抜いたかのように、魔道書の専門家インデックスさんは刺すような目線を上条に向け、
「別に本に足が生えて歩き回ってるとかそういうんじゃないよ、とうま。
最上位の魔道書の中には、自己保存の為に自律して人のカタチを取るようなものだってあるの。
私も知識にあるだけだから本物を見るのは初めてなんだけど」
「へえ」
我ながら随分と淡白な反応になってしまったなぁ、と上条は思う。
ミーシャ・クロイツェフとか風斬氷華とか十五センチになったオティヌスとかを見てきたせいで、人型になって動いて喋る魔道書程度ならそういうものもあるんだろうぐらいの感想らしい。
「だからとうまはあの子に触っちゃダメなんだよ。多分即死したりとかはしないだろうけど、最低でも服が弾け飛ぶぐらいはするハズだから」
ゲストに対してラッキースケベシーンなんて発生させたら国際問題なんだからね、と真剣な顔で言う昔の被害者。
そんなこと言われても毎回抵抗しようの無い不運で発生しているのだから上条にはどうしようもないことなのだが。
「では報酬をさっさと払うので行くぞ禁書目録」
「行くってどこへ? ここじゃダメなの?」
素朴な疑問を漏らした上条の前、アル・アジフは芝居がかかった勢いで両手で胸を掻き抱く。
「こんな男子のいるところで乙女に柔肌を晒せというのだな変質者……うう、お巡りさんここにロリータに劣情を抱く不貞の輩が」
「あーあーあーはいはいはいはい分かった! 分かったからそういうのやめよう! ノー性的脅迫! 今の時代は男もセクハラ被害に遭う時代!」
そういう訳で魔導書少女と禁書目録(とついでに好奇心があるのかついていったオティヌス)は風呂場の方へ向かっていき、コタツの部屋には男たち(とオスの三毛猫)だけが残される。
(んー……俺の部屋なのになんかすっごく気まずいぞ……そもそもさっきはノリでツッコミ入れてしまったけれど大人の男の人と何を話せばいいかとかよくわからないし……)
学校で教師と触れ合ってるじゃんと言われるかもしれないが、殆どはいい年齢したおじさん主体な上に担任教師に至っては外見十二歳の合法ロリータで成人男性とは完全に真逆の存在である。あれ直近の記憶にある若い成人男性って『僧正』相手に吹っ飛んだ右方のフィアンマ(厳密には年齢不詳)だったりする……? 思い出したせいで尚更にどういう距離感になればいいのかわからなくなる十五の少年である。
さっきの状況解説は殆どがアル・アジフが担当してたせいで大十字九郎はあんまり喋れてないので、キャラクターの把握もあんまり進んでいない。強いて何かを感じ取ろうとすると、力関係では魔導書少女の方が上で尻に敷かれているのだろうと思えるぐらいか。あの態度からするとおそらくは物理的に。
『うわー! わー! すごいんだよ、まさかあの記述は原書ではこうなってて……つまり……成程……おお……』
風呂場の方からはドア越しにくぐもった感動の声が聞こえてくる。
あのドアの向こうでは少女二人があられもない姿でくんずほぐれつしてるんだろうなあ……と思わず想像し、
顔を背けると鼻の下を伸ばした大十字九郎と視線があった。
「ってニヤついてるんじゃないよ成人男性! エッチマンか!」
「はぁーエッチマンっていう方がエッチマンなんですぅー! そもそも男はみんなエッチ!」
困ったことに脳裏に肌色を浮かべたのは事実なので否定ができない上条である。
言葉を続けられない少年の前で、大十字九郎は居住まいを正し、
「……悪ィな、こっちの事情でいきなり押しかけて突き合わせて」
「ああいや、俺もこういうのそろそろ慣れて来てますから」
事実とはいえ言っていて悲しくなる上条である。右手に宿る幻想殺しは不幸体質という現実は殺せない。
ともあれ、会話のきっかけみたいなものは手に入れた。廊下の先にある桃源郷ゾーンから意識を逸らす為にも男同士のトークのお時間である。
「ええと、大十字さんって探偵って言ってましたよね?」
「九郎でいいし今更敬語でなくてもいいよ。そっちのが慣れてる」
「んじゃ九郎さんで。探偵ってことはやっぱり『犯人はお前だ!』とか『謎は全て解けた!』とかやったりするんですか!?」
上条も月曜と水曜には(誰かが立ち読みした後でよれよれの)漫画を読んでる少年である。抱いている探偵のイメージは無論見た目は子供頭脳は大人のあれであるとか、じっちゃんの名にかけて事件解決したりするあれなわけで。
「お、おう! 勿論あるぜ! 海沿いの街で起きた謎の連続殺人事件とか、孤児院のシスターさんを悩ませる謎のストーカーの正体暴きとか、もうバシバシとこの瞳で真実を見抜いてきたッ!!」
「うわぁ本物の名探偵だ……!!」
キラキラキラキラーっ!!と目を輝かせる純朴な少年の視線に、見栄を張った大人大十字九郎、速攻で陥落。
「ゴメンナサイ嘘つきました……。足で稼ぐ方の探偵で推理力とかアンマリありません……連続殺人事件の推理とか経験ありません……」
「……」
「ついでにお金もありません……仕事自体があんまり来ません……収入があっても大抵は経費で消えていきます……この仕事頼まれる直前の食事はパンと塩でした……」
聞いているだけでひもじさを喚起させる弱々しい大十字九郎の言葉に、上条はしばしぷるぷると震えた後、
「……ちょっとした贅沢をしようと思って真っ先に思いつくのがバターを塗ること」
「……パンを丸ごと食べるの勿体無いのでまず耳だけ食べる」
「……最終ライフラインは隣の家の冷蔵庫だと思っている」
「……近所の人の家の前に行き倒れて助けられた回数は数えきれない」
見つめ合う居候持ち貧乏生活男性二人。
「「………心の友!!」」
思わず抱き合う大十字九郎と上条当麻。赤貧生活によって生まれた共感性は海を越え科学と魔術の垣根も越え、ついでにラノベとノベルゲーの垣根も越えた。俺たちは決して一人じゃない。遠く離れた世界でも心が通じ合った仲間がいることに感動だ。
「なにやっとるのだ汝ら」
「なにやってるのかなとうま」
そんな男どもを冷めた視線で見つめる、いつの間にかバスルームから戻ってきた居候系魔道書女子たち。
その様子をどこ吹く風というように、三毛猫がニャーと鳴いた。
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