とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第四章 我ら、魔を断つ剣たち -Demonbane-】③

 

                    ◇

 

「……ああ」

 

 血闘の舞台から少し離れたところで、彼女は軽く喘ぎを漏らした。

 知的そうな眼鏡。黒の髪。紫のスーツにそれを内側から押し上げる大きな胸。

 邪神ナイアルラトホテップの化身ことナイアだった。

 

「今回もまた彼らの勝利に終わったか。やれやれ……アドリブ多めにしてはそれなりに上手くやれたと思ったんだがなあ」

 

 鬼械神(デウス・マキナ)クルーシュチャ・マテマティクスに乗っていたのもナイアなら、今ここで上条とデモンベインの戦いを眺めていたのもまたナイア。

 邪神の力を取り戻した彼女にとって、存在とは1と0で表現出来るものにあらず。その本質はこの位相に満ちる闇である。

 

「それじゃあ、この辺りで一旦お暇させてもらおうかな。せっかく実体を手に入れたのだから、また失いたくないものだしね」

 

 ナイアの分裂の正体は、『魔神』である僧正たちがやっていたこととほぼ同じである。

 そのままでは世界の許容範囲に収まらない力を切り分けて、世界を砕かない程度の無数へと変生する。

 クルーシュチャ・マテマティクスに与えていた邪神の力は無限熱量で昇滅させられてしまったが、こちらの体に残された力だけでも惑星を滅ぼしうるだけの熱量を秘めている。ただの超生物に留まらない真性の神とはそういうものだ。本当に動き出したならば、同じ神以外には止めようもない。

 

 彼女が愛おしそうに見つめる先、ボロボロになった上条当麻と、デモンベインから降りてきた大十字九郎にアル・アジフが、エンネアを囲んで勝鬨の声をあげている。

 

「今はただ、手に入れた勝利に歓声をあげていればいいさ。また遠からず、次の舞台を用意してあげよう」

 

 終わらない。終わらない。この世界に邪神の実体がある限り、脅威は永遠にあり続ける。

 愛おしそうにつまらなそうに面白そうに軽く笑んで、ナイアはくるりと身を翻す。

 

 その顔を向けた先に、もう一人の大十字九郎が居た。

 

「君、は……」

 

 その姿は後ろでエンネアと喜び合っている九郎と全く同じものだった。

 その隣には、そちらも全く同じアル・アジフまで付き添っている。

 ただ一つ、ただ一つだけ違うのは、こちらの大十字九郎は目の色が違った。

 片側だけが赤く、紅く、緋く、赫い、人間ならざる瞳の色。

 

真逆(マサカ)……いや、やっぱりこんな世界にまでもやってくるんだね、君は!」

 

 吠える。喜ぶ。憎悪、歓喜、愛情、混沌とした感情が闇の女の中で爆発する。

 

「ヒトとして戦い、戦い抜いて、ヒトを超え、ヒトを捨て、神の領域まで辿り着いたもの!

 邪悪を打ち滅ぼす為に、僕と同じ存在(トコロ)にまで来たもの!」

 

 怒声と共に、瘴気が吹き出す。邪悪な気がこの世界を再び包み込もうとする。

 

「……だから一緒にするなっての」

 

 しかし。

 

「全くだ。相も変わらず不愉快であるな、汝は」

 

 瘴気は放たれる側から消えていった。

 世界を包むはずの邪悪は女の半径50cmからも外に出ず、背後の少年少女たちの喜びを汚すことすら出来はしない。

 大十字九郎。アル・アジフ。この二柱(ふたり)がいる限り、凡ゆる邪悪はその存在を許されない!

 

「そうだ──ヒトが創りし、ヒトから出で、ヒトの希望の窮極となる最も旧く新しき神!

 君たちを、僕はずっとずっとずっと愛し続けようじゃないか!

 狂ったフルートの音色と共に──第二幕の始まりだ!」

 

 オッドアイの方の大十字九郎が剣指を組んで印を描く。

 彼らがいる空間が、眩い光に包まれる。

 

 その光が消えた後──世界に在らざる神々たちは、何処かの宇宙へと消えていた。

 

 終わらない。永遠に続く。

 愛と希望に満ち溢れた、いのちのうたを奏でるように。

 

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