そして──学園都市に朝が来る。
上条たちは気がつけば、旧三沢塾ビル前の入り口に立っていた。
空に浮かぶ飛行船のモニターから流れる朝のニュースの声は、九郎たちがやってきたその日の朝を示していた。
戦いで崩れ去ったはずの三沢塾ビルも、四棟全部、何事もなかったかのように健在している。
「時間……巻き戻ってる?」
「神が関わっていたことなのだ。時系列ぐらいなんか綺麗スッキリ吹き飛ぶこともあるだろう」
実際に吹き飛ばしたこともある元魔神サマが、ポケットの中から気にするでないわと告げてきた。
さっきまで、まるで夢でも見ていたかのように、何もかもが元通り。
ただ一つ、さっきまでが真実だったと証明するのは、
「それじゃあこれからまたよろしくね、九郎! 当麻!」
彼らの中にしれっと混ざる、邪神の手から助け出されたエンネアの存在だけ。
「ああ、よろしく」
「また、よろしく」
改めて挨拶を交わすと、猫っぽい少女はするりと九郎の方へと近寄って、そのまま腰に手をまわす。
「フッ小娘が。既に九郎は妾がルート攻略済み。汝が今更戻ってきても割り込む隙などどこにも無しよ」
「倦怠期、って言葉もある訳ですし? 旦那さん旦那さん、ウワキにフリンに略奪愛とか……興味ありません?」
「フ、フフ、妾大丈夫妾問題ない、此奴は既に負けヒロイン。将来九朔が生まれてきたら近所に住んでるエンネアおばさんとして認知されるのがお似合いよォー! それはそれとして吹き飛べェー!」
騒々しく爆発。器用にその範囲からすっと抜け出すエンネア。
代わりに巻き込まれた九郎とついでに上条は、天高く吹っ飛ばされては墜落する。
さっきまで傷一つなくなっていたはずの全身をそこそこ痛めに強打して、けれど男たちは笑っていた。
「はは、ひょっとして九郎さんも?」
「はは、ああ、いつものことだよ」
ヒロインに振り回されるのが日常茶飯事となっている男の間の共感があった。
それを見ているインデックスは、ああ、とうまもきっとこういう大人になるんだろうなと、歓迎していいのかよくわからない未来の予想を感じ取って。
「とにかく。全ては綺麗に収まった。ならばめでたしめでたしでエンドマークをつける頃合いだろう」
オティヌスの言う通り、時間すら巻き戻ったのなら何も失われたもののない、完全無欠の大団円。
たまにはこんなご都合主義な結末だっていいだろう。騒々しかった交差劇は、これにで終わりを告げたのだ。
「なあ、ところでアル、俺なにかを忘れてるような気がするんだが」
「気のせいではないか? 否、これはどちらかと言えば気にしたくなくて意識に蓋をしておるのか……?」
首を傾げる二人に釣られ、上条もきょとんと疑問符を浮かべる。
その答えは即座に、けたたましい音と一緒にやってきた。
『ハァーイ学園都市の皆様ハローそしてグッドバイ!
我輩狂気のマァァッドサイエンティスト! Dr.ウェストと申しまァす!』
『ロボー! ダーリン! この街のどこかにいるのは調べがついているロボよー! 出てこいやー!』
あさっぱらからけたたましいギターの音をBGMに。
空に浮かぶ飛行船のモニタにデカデカと映る狂人がいた。
「あーッ! なんか意味深に出てきて即座に吹っ飛んでいった変人科学者!」
「あーッ! そうだった忘れてた!! 学園都市にやってきた本来の理由!
同時に叫びをあげ、そして顔を見合わせる男たち。
「ちょっと待って九郎さん、魔道書案件ってナイアルラトホテップと関係ない話だったのかよ!」
「ハハハ最初から邪神案件だったりした場合、足滑らせて落っこちるどころで済んでた訳がないじゃないか少年(キラッ)」
笑顔で誤魔化そうとしているけれどももう遅い。
その間にもじゃんじゃか騒音を掻き鳴らすクレイジーさんは画面の中でテンション高い演説を続けていく。
『……と言うわけで、我輩は激怒した。この大!天!才!を差し置いて世界の科学の頂点ヅラしているかの学園都市をシバかなければならぬと決意した。我輩には政治がわからぬ。否、やろうとすれば七日で世界征服してユートピアを建造できると信じているのであるがしかし我輩の頭脳は我輩だけのものー! 欲しければ氏名年齢住所番組のご感想を添えてこちらの宛先にまでお手紙よろしくお待ちしてマス!』
『エルザもここで出番を作っておかないとなんか出ないままに終わりそうな気がしてきたから、ここから一気に活躍して汚名挽回決めちゃうロボよー! 目指せ幻のエルザルートSS展開ロボ!』
『と言うわけで我輩の力の象徴を特別出血大サービスでご公開! レッツ・プレイ!』
ごごごごごご。と、間の抜けた効果音が似合う感じの振動が学園都市中に響き渡った。
その方向へ目を向けると、何やら巨大なドラム缶にドリルをつけたような物体が、地中からにょっきりと屹立している。
『これぞスーパーウェスト無敵ロボEX〜とある科学の蝶・成体ようこそDr.ウエストパークへ〜!
この力をもって我輩、今から学園都市を制服させてもらいマス! 学園だけに!』
『崇めよー讃えよー貴様たちの明日はエルザとダーリンの結婚式のための式場づくりに強制労働ロボ!』
じゃきんじゃきーんと備え付けられたドリルを打ち鳴らす超巨大ドラム缶。
全然感じられない深刻感に反して、その巨体がもたらす破壊は多分おそらくきっと恐ろしいものに違いない。
「アル……デモンベイン呼べる?」
「無理だな。あれは位相が異なっていたから勢いでなんとかなったのであって、この世界では本来呼べんものだ」
「
うわーもうおしまいだーとギャグっぽく深刻に泣き叫ぶ九郎と裏腹に。
上条当麻はまあ別に大したことではないだろと言わんばかりの表情で。
「あの……上条クンはどうしてそんな平然とした顔しておられるのでせう?」
「いや……ちょっとびっくりしたけどあのぐらいなら、」
上条が巨大ドラム缶をそっと指差した直後、
『うぉっ!? なんであるか突然現れたツインテール小娘、どうやってこのスーパーウェスト無敵ロボの内部n』
『ロボ!? 博士が一瞬でどこかに消えてイリュージョン!? あれ、さっき出てきた知らない女の子もどこh』
そして安全を確認された直後に、学園都市のどこかから放たれた御坂美琴の超電磁砲が、それをスクラップに変えていく。
ちゅどーん、とお気軽な爆発音と冗談みたいなキノコ雲を眺めながら、アル・アジフは呟いた。
「全くこう……ヒーローの多い街だのう、ここは」
神は天になく、世は全てこともなし。
そうやって、人々の日常は続いていく。
【End】