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何やら派手目な探査術式を使うからと、学生寮の部屋を追い出された家主上条当麻だった。
学園都市を神殿に見立ててどうのこうのだとか大縛鎖で玻璃壇がどうのこうのだとかで、区切られた空間の中に上条の右手に宿るあらゆる魔術を打ち消す幻想殺しが混ざり込んでいると探査術式がうまく行かないのだとかどうのこうの。
そんなわけで一人街に繰り出すことになった上条だったが、その顔は意外にも弾んでいる。
何故かといえば、
(いやぁ大人って凄いなぁ、「これでみんなのメシでも買ってきてくれ」で一万円もスッと取り出せるんだもんなぁ)
その一万円が大十字九郎が経費外の自腹から取り出したなけなしの詫び代であることには気づいていない少年だった。
ともあれ、望外の贅沢ができる収入である。客人分も合わせてちょっと多めに買ってくる必要を加えても普段買えないお値段するものを十分買えちゃう大金である。
やはり王道にお肉で行くか、もてなしらしくお寿司もいいか、九郎とアル・アジフはアメリカから来たそうだしそっちに合わせてピザなんかでもいいのではないか? 少年の庶民的な万能感が膨れていく。
レストランのお子様ランチのような人生のフルコースを想像している上条の横に、茶色い髪が通りかかった。
「どる〜ん。どしたのよなんか凄く浮かれた顔しちゃって」
名門常盤台中学の冬服に身を包んでいる、学園都市第3位の超能力者の御坂美琴だった。
「ふふ臨時収入が入った上条さんは今なら名門学園に通うお金持ちお嬢様にだって負ける気がしませんのことよ」
以前美琴に奢られた一本2000円のホットドッグの5倍のお値段が財布の中に入っているのである。
その気持ちの巨大化はまさにインフレーション。具体的な数値で自分の優位を感じている。
勿論調子に乗っている上条は美琴の財布の中に入っている一万円札の枚数については知る由もない。
「まあ嬉しいことがあったのならおめでとうぐらいは言ったげるけれど。
でも浮かれる理由がお金なら気をつけなさいよ。なんか最近新手のカツアゲが流行ってるとか聞くから」
「新手のカツアゲ……?」
「そ。悪の組織の戦闘員みたいなカッコした連中が集団で取り囲んできて銃突きつけて言うんだって。『研究費をよこせ〜〜〜』って」
「……それはカツアゲというより強盗っていうんじゃないだろうか」
研究費を要求するってことは潰れかけた研究所の亡霊もとい研究員だったりするのだろうか。幾つもの研究施設が立ち並ぶ学園都市の中にはそんな行為に身をやつさないといけないような研究所もあるんだなぁどこの世界も世知辛いんだなあと、それで済ませていいようなものではない治安のよくない話に呑気な感想を抱く上条。
「ていうか悪の組織の戦闘員みたいな格好って何? 全身タイツ?」
「そっちよりも覆面の方らしいわよ。ホラ、大体あんな感じの」
「あんな感じ?」
美琴の指さす先、言われた通りの外見の連中が集まっていた。
顔を丸ごと隠す覆面に揃えて誂えられたスーツ、そして腰にはドラムマガジンタイプのマシンガン。
噂をすれば影だった。
「いやぁぁぁぁぁ!! どぉぉーーしてアタシの日常はこんなすぐに崩れ去っちゃうのよぉぉぉーーー!」
「あっこらバカ声出すな! 気づかれるでしょ!」
恐慌のあまりオネエと化した上条を美琴が咎めるがもう遅い。
明らかに大人のギャングみたいな覆面の人たちが一斉に二人の方に顔を向けた。
と、その時。
「わぁぁぁぁぁぁぁーーー!! あーぶなーいよーーーー!!!」
真上から聞こえてきた声に、上条は思わずそっちを向いた。
人影らしきものが上空から上条目掛けて一直線に落下してくる。
「うぉぉぉっ!?」
男上条、反射的に両手で落下物を受け止める。
びきびきびきびきぃっ!と重量に負けた腕がきしみをあげる。
「何々何、なんなのぉ!?」
オネエ状態のまま上条は謎の落下物をみる。
少女だった。ちょっと癖のある赤毛のショートカット。上条の腕でもかろうじて受け止められた小ささは、インデックスよりも更に年下そうに見える。なんとなく小型の猫科の肉食獣を連想する見た目。
「いててて……ごめんねおにーさん、ちょっと助けてもらっていい?」
助け? と言われて今の状況を思い出す。
突然のことに呆気に取られていた覆面連中が、ガシャリと音を立ててマシンガンを構えた体勢に移行する。
「自由への逃走!!」
「あっコラ悪党の対処を私に全部押し付けるな!」
流れで少女を抱えたまま身を翻して走り出す上条。
後ろでばばばばばばばーっと激しく銃声が聞こえるが、金属製品相手なら傍の第三位の電気使いサマがどうにかしてくれると信じての連携プレーと言い張りたい。
ランニングする上条の行く手を遮るように、一台の大型バイクがそこに滑り込んだ。
メットも被らずに危険運転をしていた白衣のその運転手は、バイクを止めると背負っていたエレキギターを掻き鳴らし、
「HEY! まぁーーーった現れたであるか大十字九郎! 極東ニポンまでやってきて尚我輩の邪魔をするとか何? 運命の赤い糸ででも結ばれてるのである? いとまきまきいとまきまき引いたら引いたで引っ張りすぎてあら大変お風呂の栓が抜けて大渦巻でうわぁぁぁぁ! タイタニック沈没する!? エンダァァァァァイヤーッ!! グワーッ! イヤーッ! グワーッ! やっぱり極東と言えばニンジャなのね!」
……なんだこいつ電波か。
どこの天体から発せられたパルスを受信しているのか解らない相手だったが、とりあえず一つだけ解ることはある。
「あの……人違いです、よ?」
「あらホント、なんかいつものシチュエーションかつ魂の色がそっくりさんすぎて間違えたであるな。これは失礼失礼、失礼ついでに我輩こう言うものですコンゴトモヨロシク」
「あ、名刺とかどうもご丁寧に」
差し出された名刺に書かれている文字を(両手が塞がっているので受け取らないまま)上条は読む。
『一億年に一度の大天才科学者 ドクター・ウェスト
ココに注目♡(自撮りの大胸筋に向けられた矢印)』
なんだろうこの自称。なんだろうこの写真。どっから突っ込めばいいのかわからない。
「そう言うわけでアイサツも終わったのでイクサの再開とかいかがであるか! そこな抱えた娘っ子を科学の発展のために我輩とプリーズプリーズ交換しましょ我輩からはこれを出す! アイム・ロックンロールッ!!」
早口で捲し立てた白衣の変態科学者ドクター・ウェストは、バイクに積んでいたギターケースを肩に担いだ。
うぃーんぎこーんがしゃんとコミカルな機械音を立ててそれは変形していき、誰の目にも解るその第二形態は、
「持ち運び式屋外戦用ロケットランチャー!?」
いきなり急におしまいだ。幾ら異能の力であれば何でも打ち消す幻想殺しを右手に持っている上条当麻でも、そう言うの関係ない科学の象徴ロケットランチャー相手には出来る対処が何もない。そもそも右手は少女を抱えて塞がってるし。ところで少女を引き渡せと言いながらロケットランチャー打ち込んだら少女もただでは済まないのではないだろうか。その辺り考えて武器を引っ張り出しているのだろうか。でも仕方ないよねキの字に理屈は通じないんだもの。
「レッツ・プレイ!」
「あーもうこんなのに怯んでるんじゃないっての!」
そして純粋科学の象徴であるロケットランチャーは、発射された瞬間、御坂美琴様のレールガンによって粉砕された。
「あーーーれーーーーっ」
爆発に巻き込まれてキラリ星となるドクター・ウェスト。
「あ……ありがと御坂。……なんか冗談みたいな勢いで吹っ飛んでいったけどいいのかな……」
「さあ? 見るからにギャグ時空の住人だし別に問題ないんじゃないの?」
「それでいいよ、アレは」
抱えた少女曰く、別にソレでいいらしい。
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