とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第一章:平穏な日々にニトロをひとつ - Master of Necronomicon-】④

 

                    ◇

 

 なんかよくわからない連中のことはなんかあっという間にどうにかなってしまったので、残るは空から落ちてきた系の新ヒロインの話である。

 

 とりあえず落ち着ける場所を探した結果、近所の自然公園に落ち着くことになった。謎の少女は上条の上から動こうとしなかったので、心を開いてもらう為の餌付け代は美琴の財布から出てくることになった。あとで返した方がいいよなあと思いつつもただのホットドッグに二千円をひょいと支払えるお嬢様の懐から出てくる請求がどれだけの額になるのか内心震えている貧乏学生である。

 

「はいよー。美琴センセーの奢りを受け取れー」

「奢ってくれるんですか!?」

「急に敬語になるな。そもそもアンタじゃなくてこの子にだし」

 

 謎の少女は差し出されたチュロスを遠慮なくもぐもぐとかじり出す。

 そうそううちの居候も最近じゃ慣れてしまったがこんな感じの小動物的可愛らしさがあったんだよなぁ、とほっこりした顔でそれを眺める上条。

 けれども癒し系雰囲気に浸り続けているわけにはいかない。

 

「ええと、俺は上条当麻。こっちのお姉さんが御坂美琴。

 さて、そろそろ聞いていいか? 君、何者?」

 

 猫科のイキモノを思い出す感じの少女はくりくりした目で上条の方を見つめると、きょとん、と首を捻った。

 

「いや、そんな可愛らしいポーズで誤魔化そうとされましても。話したくないことでもあるっていうんだったら無理に聞き出そうとかしねえから、せめて話したくないってことだけはちゃんと言っといてくれ」

「あー、いや、そーじゃなくてね? その……何も覚えてないんだ」

「…………」

 

 記憶喪失。

 流石に今となってはそんなに困るようなことも残っていないのだが、上条にとっては他人事ではない話だ。

 あの時の上条当麻には『上条当麻』という最低限の指針があったけれど、目の前の少女にはきっとおそらくそれもない。

 いつかどこかでそんな少女を愛しく思ったような、そんな記憶とも言えない感覚が胸で疼く。

 

「あっ、でも名前ぐらいは覚えてるよ? エンネア! エンネアっていうの!」

 

 上条の沈黙に耐えられなくなったのか、追加情報を出してくる謎の少女改めエンネア。

 

エンネア(ギリシャ語で9)ね……如何にも偽名もしくはコードネームくさいけれど……」

 

 一方で今度は美琴の方が訝しげに首を傾げ出す。

 

「つーか、なんかどっかで近いのを見た気がするのよね、この子」

「本当か御坂!?」

「えっ嘘っ!?」

 

 突然の衝撃発言に、上条とエンネアが反応する。

 片方は希望に満ちたキラキラで、もう片方は寝耳に水そんな訳ないのにと困惑するような表情で。

 

「あー、そうだそうだ思い出した! アンタがロシアから帰ってきたあの日にいた獣少女(しんヒロイン)! あれよ既視感!」

「えー、そうか……? いや俺もはっきりと違うって断言できないから困るんだが……」

 

 あの時法令をぶっちしてたせいで前後不覚になっていた上条当麻には、困ったことに否定ができない。

 あんな無駄に特徴的なデザインをしていたキャラクターが今後の伏線でもなんでもなくフェードアウトすることがあるかと言われたら経験則上無いと思うのだが、あのいつの間にか消えてた彼女は果たしてこういうデザインだったか?

 

「んー……」

 

 あんまり残っていない記憶と照合しようと、上条は膝の上にいるエンネアを見つめる。

 なんとなくケモノっぽい雰囲気がある髪型と雰囲気なところは同ジャンル。

 身長も確かそんな感じだったような気がしなくもなくなってきた。

 服装はあの時の謎毛皮ではなくちゃんとしたロリータ服だが着替えたと考えれば済むはずだ。

 獣少女にはエンネアになかった尻尾が付いてた気がするが、人間に生えるものではないので取り外したと考えれば……?

 

「つまりアンタの旗男力に惹かれて集まってきた謎の新ヒロインの一人ってことね。いやー謎が解けてスッキリしたわ。それじゃあ立てたフラグの責任とって保護監督はよろしく」

「そうだそうだー! 責任逃れしたら拉致されて監禁されたって触れ回ってやるー!」

「うわぁなんか今日は存在しない記憶が疼く事態が多すぎる! 上条さんこの歳で未成年略取の前科とか困りますのことよ!?」

 

 疑いも何も居候の扱いは法律に照らし合わせると即座にそうなることを忘れている少年である。

 

「んー、どや兄ちゃん。その歳で社会から抹殺されたいか? 世間から爪弾きにされて背中にべちゃべちゃ腐ったモンぶつけられる生き方になりとうなかろ? エンネアがこの服の下実はパンツ履いてないって事実を触れ回るだけで一発やぞ?」

「うおおおこの新ヒロイン本当にヒロインする気があるのか!? それがオマエの本性か!? 現すの早すぎるだろそう言うのはもう一回ぐらいバトルイベントを越えて話の転換点のおかしいと思わなかったのかポイントを越えたあたりの出来事!」

 

 そういうパターンなら実際にアニェーゼ=サンクティスなどで発生していると言えてしまうのも悲しい過去である。

 それはさておき。

 

「わかったよ。記憶喪失の女の子を見つけてそのまま放置してあとは野となれ山となれなんて、そんな()()()()()()ことはできないし、とりあえず頼れる人のところに預けるぐらいまでは付き合うさ」

「わーい! 当麻大好き!」

 

 こう言う時の駆け込み寺は小萌先生辺りだと相場が決まっているのだ。

 追ってきてる謎の連中は幸いさっきレールガンノミコト様が吹っ飛ばしてくれた訳だし、あとはちゃんとした大人に預けるだけで話は完了。そんな展開が上条当麻の人生には時々あっても構うまい。

 

 勿論、そんなことになるわけがないのだが。

 

 ひとまずの指針が決定して落ち着いた上条はふと気づく。

 

「なんか……この公園で座ってる人みんな勉強熱心?」

 

 キッチンカー近くのテーブルに座っている人、噴水の縁に座っているメガネ女子、花壇のレンガを椅子にして座っているサッカー部みたいな男子、何やらみんながみんな、ノートを広げてペンを走らせている。

 宿題かなー、と最初は思った上条だが、すぐにそれを自分で否定する。

 誰も教科書や問題集らしきものを持っていない。学園都市といえど教科書全部が電子化されるような文明レベルには達していないので、勉強としての行動ではなさそうだ。

 

「あー、多分アレじゃない? この前からネットで噂になってる懸賞サイト」

「懸賞?」

「そ。なんか海外のどっかの財団だかなんだかがネットに未解決問題出して挑戦者募ってるそうなのよ」

 

 上条でもなんか数学の未解決問題にデカい懸賞金がかけられてるという話は知っている。

 そういうのって今も新しく増えるもんなんだなーと思って、ふと単純な疑問が浮かんでくる。

 

「それ、普通の学生に解けるモンなの?」

 

 目の前にいる学園都市第三位サマのような頭の出来が違う人が使命的に挑むようならまだしも、こんな誰もが余暇の間に一攫千金を狙って挑むようなものだとはとても思えないのだが。

 

「なんかそれがね、一つのデカい問題じゃなくて山ほどの問題に分割することが出来る奴らしくて、その部分解やるだけでも少額なんか報酬がもらえるんだとかってさ。んでお小遣い稼ぎにやるヤツがいっぱいいるらしいってワケ」

「へぇ……」

 

 休日にも勉強をしようだなんて物好きだなぁと思う上条だったが、そもそもこの少年の休日は補習があるので大体勉強をする羽目になっているのだった。そのことを思い出して瞬間的に軽く鬱。

 

「どっかのデカい研究所でも新型スパコン用意して挑戦してみます、って話があるし、お金が絡むと人も動くのよねぇ」

 

 そういうと美琴は少し空の方を見上げた。

 学園都市製の世界最高のスーパーコンピューターがかつてあった場所。

 妹達(シスターズ)に関する騒動は一通り収まりを見せたとはいえ、それを再発させる恐れのあるものがあると、どうしても気になってしまうのだろうか。

 

「それはそうと、私、昔ちょっと調べたことあるのよね。喪失した記憶を取り戻させるための刺激の与え方」

 

 両手をわさわささせながら御坂美琴さんは言う。

 人間の脳内活動も電気信号によって行われてる部分が多いので、電気系万能のレールガン様ならそこも範疇内なのかもしれない。

 しかし何やら勢いが怖い。

 漫画的表現で比喩していいのなら、表情に黒トーンが貼られている。目だけキラーンって光っている。

 

「へ、へぇ……凄いな御坂……ところでそれを実際に誰かに試してみたことはあるのでせうか……?」

 

「ふふふ勿論これが初めてよ。本命に対していきなり試す訳にもいかないなと思ってたけど被験者なんて滅多に見つかるものじゃなかったから渡りに船よははははははーーー!!」

 

「やめよう! ノー人体実験! 配慮しようコンプライアンス! そもそもその本命って誰なのかな! なんか知っている範囲にいる気がするけど、その人もきっとお前が犯罪者になることは望んでいたりしないはずだッ!!」

 

 こっちの方向に話を進めさせてしまっては何か望まぬ悲劇が起きる。

 こう言う時の上条当麻のカンは当たるのだ。大抵の場合は回避できないオチがつくだけで。

 

「そもそも、どこで聞いたか忘れたけど、御坂んとこの学校には精神系の超能力者(レベル5)がいるんだろ? その人を紹介してもらうとか」

「それは絶対に嫌」

 

 即答だった。

 

「他に精神系能力者のアテ……んー、この前あった蜜蟻って子なら頼めたりしないかな」

「なんか今電波が来たわ。デリカシーって言えって」

 

 とにもかくにも、ガクセー二人で悩むには重たすぎる問題である。

 必要なのは頼れる大人。おそらく小萌先生あたりであれば、どうすればいいかに指針を与えてくれるだろう。

 

                    ◇

 

 

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