とある魔術の機神咆吼(デモンベイン)   作:貴金属

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【第一章:平穏な日々にニトロをひとつ - Master of Necronomicon-】⑤

 

                    ◇

 

 小萌先生は留守だった。

 戦前から建ってるんじゃなかろうかと思われるボロアパートは、鍵すらかけずに放置されていた。

 そもそもあちこちに血痕がついていたり畳は鋭利な刃物で切り裂かれたような跡が残っていたり天井はベニヤ板補修だったりで、建物そのものが倒壊してないのが不思議なぐらいの状況になっているのだが、果たしてここで何があったんだろう?

 

「うわぁ……邪神の体内かって感じの有様だぁ……」

「別件で事件性ありありって感じがするんだけど、放置しといていいのコレ?」

「いやこれは前来た時からそうだったからただの留守なはず」

 

 惨状にどんびく記憶喪失少女と常盤台のお嬢様との間に温度差を感じる来訪何度目かの上条当麻だった。

 

「それでどうする? アテが外れたのなら私の方で黒子でも呼んで風紀委員(ジャッジメント)に預かってもらうけど」

 

 ゲコ太だったかゲロカエルんだったかのストラップがついた携帯を取り出して美琴は言う。

 

「やだー! エンネアもっと当麻と一緒に遊んでまわりたいー! 遊園地とか行きたいー!」

 

 その提案を拒んで泣き叫ぶ猫幼女。

 

「いやそう言われましても上条さんにも事情とかお財布の猶予とかそういうものがありましてね?」

 

 流石に九郎から預けられた一万円を自分のものとするだけの厚かましさは見せられない上条である。

 そもそも学園都市の中に遊園地のような場所があったかどうかもわからない。ゲーセンぐらいなら風斬氷華と一緒に行った先を知っているが。

 

「料亭とか行きたいー! なんかめちゃくちゃぶっといカニとか食べたいー!!」

「随分と高いレベルの要求だな!? その辺で出会った一般高校生上条当麻相手に叶えられる願いの範疇を超えている! そういうのはもっとお金持ちのオジョーサマとかに頼みなさい! チラッ」

「流石にそういうの出してくれる店も知らないわけじゃないけれど、事前予約制だったりドレスコード厳しかったりするからそんなすぐには連れてけないわよ?」

 

 逆に言えばちゃんと事前の用意をして然るべきイベントの場として使うのであれば招いてくれそうなお嬢様だったが、今の状況はそういうのとは無縁である。

 

 ともあれここでエンネアに駄々を捏ねさせ続けていても仕方がない。

 そもそも上条は追い出されがてらではあるが買い出しに来ていたはずなので、そっちも済ませておかないといけない。

 どうやって風紀委員(ジャッジメント)に預ける前にこの幼女の遊びたい欲を満たしたもんか……と頭をひねる上条。

 と、

 

「やっと見つけたよ。やっぱりこの街で一番騒動が集まる場所といったら彼のところだよねえ、うんうん」

 

 突如、後ろから声がした。

 振り返ると、どうして接近に気づかなかったんだろうと思う程の至近距離に、女が立っていた。

 眼鏡をかけた大人だった。身長は上条よりもやや高い。髪の色こそ黒いが、紅い瞳や白い肌からするとおそらくは西洋の方の人だろうか? 紫の上着は腰回りのボタンを一つ留めただけで、胸元は内側から弾けそうなぐらいに膨れ上がっている。なんとなくオリアナ=トムソンを思い出すようなファッションスタイルと胸のサイズだ。

 

「ああ、ごめんごめんおどろかせちゃったかな? 僕のことはナイアと呼んでくれ。

 その子の……姉みたいなものでね、いなくなってしまったから探してたんだよ」

 

 紫色の女はそう語る。

 迷子になっている少女に身内のお姉さんが現れた。普通の話であればそれでめでたしめでたしだ。

 だがしかし、そんな都合のいい話を信じられる上条ではない。

 怪しいキの字の白衣さんに追われてた上に記憶喪失。この時点で厄介なことに巻き込まれているのは見えているわけで、そこで現れた自称身内のいうことをそのまま鵜呑みにできるものか。

 そして、

 

「ねえ、」

「わかってる」

 

 美琴の声に上条は右手の拳を握る。

 その反対側、左腕から伝わってくる震えがある。

 無言のままに上条の袖を掴んでいるエンネアの震えだ。

 少女をこんな震えさせる相手が、正しい身内であるはずがない!

 

「困ったなぁ……()()()()()には戦闘力はないし、幻想殺しと超電磁砲を同時に相手どるのは流石に無理というものさ」

 

 ナイアを名乗る女は飄々としてそう呟く。

 

「だから、ここは代わりに()に戦ってもらうとしよう」

 

 直後。

 世界が塗り変わった。

 

 

 

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