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学園都市のその真の中枢。窓のないビルのその更に中心部。
緑色の手術衣を着た人間が、アルカイックスマイルを湛えて逆さに浮かんでいた。
男にも女にも、大人にも子供にも、そして聖人にも囚人にも見える『人間』、学園都市統括理事長アレイスター=クロウリー。
半世紀以上の時間をかけて魔術撲滅の深謀遠慮を巡らせ続けてきた世紀の大悪人が、その唇を動かし言葉を放った。
「──困ったことになった」
ここに他の人間がいれば、あまりのギャップに腰を抜かしていただろう。
だが悲しいかな、表情こそ余裕の笑みに見えるこの『人間』は、何の含みも無しにそう言っていた。
『人間』の声に応じるように、人工音が響く。
『
人格選択……『黒猫の魔女』ミナ=メイザースの擬似人格データをチューニング……30、70、90%……完了しました。
再起動します。
……えっマジですか。今更何を言っているんですかアレイスター。
わざわざ驚く為に人格を設定した空気の読める人工知能の問いに、20世紀最大の悪人は首肯して。
「第三次世界大戦の折、右方のフィアンマを制裁する為に私はこの生命維持装置を出たわけだが、その際にどうもうっかりしていたらしい。
『私』の座標がブレたあの瞬間、幾つかの『私』の可能性をどうも誰かが概念的にもぎ取っていったようなのだ」
『……は?』
その意味を理解できるのは、現時点ではここにいる『人間』とミナ=メイザースだけだっただろう。
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーは、以前考え無しにやらかしたせいで、自分自身を10億八千何百万かだけの存在にうっかり分化させてしまっている。それをどうにか一箇所に押し留めることで男にも女にも大人にも子供にも聖人にも囚人にも見える『人間』アレイスター=クロウリー個人として成立させていたという経緯があるのだが──
「何分あのあと幻想殺しの行方不明や『グレムリン』に『魔神』達への対処、こちらをみくびって煽ってきた『黄金』の末裔に対してのお仕置き準備など色々と優先すべき事象があったのでうっかり忘れていたのだが、先程失われた可能性について検分していたところ、その中に『プラン』を完全崩壊させかねないものが混ざっていることが分かってしまった」
『ええ……アレイスター=クロウリーの本性がそういう人間であることをミナ=メイザースは熟知しているつもりでしたが、流石にそこまで言うことがあるんですか……?』
呆れ果てている黒猫の魔女の前で、うっかり黒幕アレイスターは表情だけはどこ吹く風といった感じで。
『それで。その流出した『可能性』とやらを自らの口で語りたいのでしょうし、語ってくださいよアレイスター=クロウリー。あなたという『人間』は、今度は、一体、何を、流出させてしまったんです……?』
「おそらくは最も破滅的な可能性だ。黙示録の獣としてのアレイスター=クロウリー。世界の敵対者としてのアレイスター=クロウリー。人間の闇の極限としてのアレイスター=クロウリー」
この宇宙に存在するはずのないアレイスター=クロウリーの同位体。
かつて『人間』アレイスターが名乗った魔法名と同じ名を冠す闇の黄金。
その名を『