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血が凍る。心臓に氷の刃が突き刺される。背骨の代わりに氷柱が突き刺さったかと錯覚するような冷たい恐怖。
紫色の法衣に身を包み、髪と瞳は作り物のような輝く金色。
けれどもそれを見て抱く印象は輝きとは程遠い、闇黒。
「──」
金色の少年の姿が、一瞬にしてブレた。
右手を伸ばしたのは反射的だった。そうでなければ上条当麻の肉体は上下二つに両断されていただろう。
上条のすぐそばに接近した金色の少年が握る、光を束ねて創ったかのような十字架が、幻想殺しと激突した。
「くっ……あぁぁぁっ!」
異能の力であれば瞬時に消し去ることが出来るはずの右腕が押されている。
痛みも熱さも感じないということはこれが異能の産物であることを示しているはずだが、なのに霧散せず拮抗すると言うことは、幻想殺しの出力を凌駕するだけの力をこの光十字は有している。
(右方のフィアンマの『聖なる右』と同等の力が、このサイズに凝縮されているのか……!?)
なんとか捻り、弾き飛ばす。
それが高層ビルに激突しなかったのは、ただの奇跡でしかなかった。
軌道上に存在していた無人飛行船が両断され、弾けて地上にゆっくりと墜落していく。
「……っ、何が何だかわからないけど、手加減とかしない方がいい奴なのかしら!?」
我に返った御坂美琴が、金色の少年に向けてゲームセンターのコインを弾く。
音速の三倍で放たれた、学園都市第三位の超能力者の代名詞たる超電磁砲を前に、少年はそちらを向けもしなかった。
代わりに十字架を弾き飛ばされて空になった左手を伸ばし、
「嘘……受け止めた………!?」
からん、とコインの残骸が地面に落ちる音が虚しく響く。
再び呆然としかける美琴の耳朶を、バラバララ!!とヘリコプターの騒音が激しく叩いた。
無人制御の攻撃ヘリ『六枚羽』の群れが、少年と上条たちを取り囲むように殺到する。
「ふぅん……流石にマスターテリオンを外に出してしまえばアレイスターも即座に気づくか。ちょっとばかし面倒だけど、エンネアを捕える為なら払わないといけない手間かな。いやいや、僕自身で動くというのは思った以上に大変だ!」
誰に話しかけるでもなく呟くナイアの言葉に、上条は今すべきことを思い出す。
「武装ヘリが食い止めているうちに、逃げるぞエンネア、御坂!」
走り出す。
転げそうになりながら駆け出して、車の往来がある大通りへ。
「二人とも、捕まって!!」
美琴が電磁力操作で通りすがるトラックに着地、積まれていた金属ワイヤを投げ縄のように操って、上条とエンネアを拾い上げる。
危うく右手がワイヤに触れたらそのまま転落死なので荷台に下ろされるまで心臓をバクバクさせながらバンザイしてた上条。
「あの場からエンネアを引き離せるのはいいけれど、相手は御坂の超電磁砲を止めるような奴だ。このトラックにもいつ追いついてくるか……」
「ゴメン、ちょっとショックだから直接言わないで。てかアンタにとっては私のアイデンティティブレイクそのぐらいの扱いなワケ……?」
先日も『僧正』の一件でショックを受けてたのに追い討ちを喰らっているも同然の御坂美琴だった。
けれど幸いなのか不幸なのかとてもいじけてられるような状況ではない。
それこそ『僧正』に匹敵しかねないナニカがいつまた追いついてくるかもわからない事態である。
「うおぉ!? なんか揺れたと思ったら上条の大将じゃねえの!?」
「その声……浜面!?」
トラックの運転席の開け放たれた窓から、浜面仕上の声が聞こえてきた。
「運転中なのでそっち向けないんで詳しいことわからないけど、また何かに巻き込まれてんの?」
「シンプルに言うと生身で超能力者の一撃止めるような怪物が女の子攫おうとしてるのから逃げてる」
「うわ怖。巻き込まれたくないんでバイトの配送先まで運んだらそこで荷物と一緒に降りてくれねえ?」
「そこまでは逃がしてくれるって思っていいんだな。悪い、助かる」
とりあえず一時的な足をゲット。
どこへ向かうかわからないが、とりあえず方角からナイアたちとは遠ざかれることだけは確定だ。
◇