【side:DEMONBANE】
◇
三機目の『六枚羽』が爆ぜた。
それを成したのは金色の少年の拳。
あくまで人間の、その範囲内の大きさと重量しか持っていないアッパーが、武装ヘリを一撃の元に粉砕している。
「うーん、やっぱり精彩にかけるなあ」
冗談めいた光景を前に、ナイアがつぶやいた感想はそれだった。
学園都市の中でも七人の超能力者ぐらいしか出来ないであろう戦果を手駒に繰りながら、下す評価はまだ不足。
彼女が求める人間の黒の極限とは、果たしてどこまでのものなのだろうか。
「あの時の合衆国みたいに核でも撃ってきてくれるのなら見ものになるかもしれないのにねえ。
まあここは捻れた時間のアーカムシティじゃないんだ、多少の物足りなさはお国柄の違いってことで」
つぶやくナイアの目の前、六機目と七機目と八機目の『六枚羽』が金色の少年の放った魔力弾にて撃墜される。
その様子をつまらなさそうに見つめていたナイアだったが、ふと目を顰めた。
常人では感知できない何かを察知したのか、軽いステップでその場を飛び退く。
直後、先ほどまでナイアが立っていた空間が抉り取られた。
「成程、非核三原則の国はそういう兵器を使うんだね。いあいあ、じゃなかったいやいや、機械叡智の神でもある僕から見てもなんとも面白く悍ましいじゃないか科学の都市は!」
学園都市の最先端兵器『オジギソウ』。ナノサイズで細胞を一つ一つむしり取れるだけの感知困難な反射合金の魔手。
その存在を見抜いたナイアは、けれども困った顔一つしない。チャンバラごっこに興じる子供の奮闘を讃えるかのような嘲笑を湛え、愉快そうに対応策を考える。
「大導師殿の代替は余裕で身を守れるとして、構造的にはただの人間の範疇の
そして何やら口の中で呟く。
その言葉に応じるようにして、ナイアの周辺に魔法陣のようなものがじわりと滲み出してきた。
そしてその中から、タコのような何か、半魚人のような何か、異形の数々が這い出てくる。
魔術に親しんでいて学園都市の全域を同時に知覚するものがいれば、これは上条宅で大十字九郎を襲っていたものと同種の存在群であることを理解できた筈だろう。
「クロウリーズ・ハザード……いや、僕が制御を奪った、言うなればマスターテリオン・ハザード。
アレイスターにも大導師殿の代替にもなれなかったなり損ないの群れだけれども、ありがたいことに数と種類だけは揃っているし、ありがたく使わせてもらおうじゃないか!」
タコのような形をしたクロウリーが爆ぜた。
巻き起こした突風で近辺に散布されていた『オジギソウ』が吹き飛ばされる。
半魚人のようなクロウリーが呪文を唱えた。
どこか遠くの場所で悪意の呪詛返しを受けて『オジギソウ』を操っていたオペレーターが発狂した。
もはやクロウリーではないクロウリーが魔術を振るう。
その度に邪神とその手先を滅ぼそうと差し向けられたはずの学園都市の最新鋭兵器が押し返される。
嗚呼──ここは科学と魔術が交差する地獄絵図。
科学の都市の最新兵器がそれを作り上げた主の影法師によって蹂躙されていく。
「あははははははは! 痛快かな痛快かな! ヒトの科学がカミの科学に負けるのだ! はははははは!」
そして彼女が哄笑した瞬間、学園都市上空にある爆撃用衛星『ひこぼしⅡ号』から、超高圧縮された大量の水が質量爆撃の形をとって、邪神滅殺のために軌道上大気圏外から一直線に投下された。
「────」
全てが一瞬で蒸発した。
辺りはもうもうと立ち込める蒸気によって一寸たりとも先が見えない霧に閉ざされた。
その中から人の声はしない。なにもかも、何もかもが無意味だった。
金色の少年の魔術によって、超高度質量爆撃は、地上に到達することなく水蒸気の霧に分解された。
「あはははははははははははははは! 端役たちの奮戦奮迅ご苦労様だが足りないなぁ!
こちらのメインキャストの発展途上にすら及ばない、悲しくて胸が張り裂けそうだよ愛しい愛しい人間諸君!」
高笑いする黒い女に対して、金色の少年は何も言わない。
そこに心がないかのように──否、魂そのものが欠けている点睛のない竜であるかのように。
「君を早く本物の世界の怨敵にする為に、捕まえないとねぇ……『暴君』を」
◇