1946年、夏。
世界を巻き込んだ先の大戦の終結からちょうど1年が経ったある日のこと。
東南アジアに存在するとある島に、彼らは降り立っていた。
「魔力の残滓を発見。サーヴァントらしき存在によるものではないかと」
「了解。引き続き、調査を進めろ」
数人の男たちが、荒れ果てた廃墟の中を進んでいく。神父のような姿をした彼らの表情は、まるで戦場にいるかのごとく引き締められていた。
「……先の大戦の混乱がまだ残っているというのに、余計な真似をしてくれたものだ。一体どこの誰が、聖杯戦争などというものを――」
「恥ずかしながら、尋ねたいのですが。聖杯戦争というのは確か、魔術師どうしの争いという認識であっていますか? 膨大な魔力リソース。万物の願望機である聖杯を求めた、魔術師による戦争だと」
「そうか。君はこういった分野にはあまり詳しくないのだったな。教会も今は大戦中に起きた数々の事件の後処理にかかりきりで人手不足だからな。仕方あるまい」
すう、と息を吸い込むと、男は口を開く。
「聖杯戦争。それは、どんな願いも叶えられる願望機、聖杯を巡った魔術師による争いという認識であっているとも。だが、この聖杯戦争はかつて、今は連合国軍の占領下にある日本国の、フユキなる街にて執り行われた儀式を模倣したものだ。特筆すべきは――――英霊の召喚が行われたということ」
「なんですって!? 召喚術という魔術に関しては存在を知っていましたが……。英霊とは、神話や伝説、もしくは歴史に名を刻んだ、英雄、豪傑、偉人の類のことでしょう? 召喚など、できる訳がない」
「できたから、こうして
困惑する若い男をたしなめるように、男は顔のしわを一層深めて言い放った。そんな彼に、別の男が報告を伝える。
「この先に、地下室が。魔力の残滓はそこへと続いているようです」
「分かった。進もう」
地下深くへと続く階段を降りていく。男は、先程の話を再開させた。
「英雄を召喚し、使い魔として使役したもの。これを、サーヴァントと呼ぶ。使い魔とは言ったものの、そんな低級の存在とは一線を画す存在だ。我々など、容易く葬られてしまうだろう」
「なんと。それでは――――」
「安心したまえ。サーヴァントを召喚し、聖杯戦争に望む魔術師。その者のことをマスターと呼ぶのだが、サーヴァントはマスターがいなくてはこの世に存在できない。マスターという要石、そして魔力の補給源が必要であるからだ。我々の任務、この地に召喚されたサーヴァント、そのマスターを殺害し、聖杯を回収する。難しい任務ではあるが、まだサーヴァントが一騎しか召喚されていない今しかできないことだ」
「そうそう。不可能ではないんだし。気楽に行こうよ、君」
若い男を安心させるように、別の男も口を挟んだ。若い男は高鳴る心臓を抑え、己の武装を握りしめる。
やがて、彼らは階段を降りきり、地下室へと到着した。リーダー格の男は、静かに、しかしはっきりとした声で言い放つ。
「サーヴァントとの接敵は避け、マスターを探せ。見つけ次第、対処せよ」
そう言うと、彼は地下室の扉を開けた。
その先は広い部屋になっており、照明もなく薄暗いその空間の中央には、細身の男が佇んでいた。
「おやおや。見つかってしまいましたか。どうも初めまして」
「……っ! 総員、警戒せよ! この空気、この魔力は――――!」
「私はキャスターのサーヴァント。短い間の関係になるでしょうが、以後お見知りおきを」
キャスター、と名乗ったその男は、鮮やかに彩られた布をその細い身に纏っていた。長く伸びた髪の毛、そして青白い肌。その低い声で男性だと確信できるが、遠目で見たならば女性で見間違えてもおかしくはない。
だが、特筆すべきはそこではない。キャスターは、尋常ではない魔力を宿していた。
「何なんだ、その魔力は…………! サーヴァントとはいえ、その魔力量は異常だぞ……!」
「ああ。少し、島民の方の魂を頂戴いたしまして。ほら、私は
サーヴァントには、クラスというものが存在する。クラスとは、英霊を召喚するための箱のようなものであり、そしてその真名を隠すためのコードネームでもある。
基本のクラスは全部で7つ。
男たちは戦闘の姿勢を崩さず、しかしからからと笑うキャスターから距離を取っていく。
「逃げるのですか? 勿体無い。私ともっと、話していきましょうよ。久方ぶりの来客なのですから」
「キャスターのサーヴァント。一つ問いたい。これほどの魔力を持ちながら、どうやってその身を隠していた」
男が尋ねたその質問は、至極真っ当な疑問である。これほどの魔力を誇っているにも関わらず、彼らはその扉を開くまでキャスターの存在を感知できていなかった。
「はあ。簡単なことですよ。私は
キャスターはふらふらと、男たちへと歩み寄る。男たちは警戒を一切緩めることなく、後ずさりをしようとしたその時。
「…………ん?」
闇に慣れてきた彼らの目は、足下で蠢く奇妙な存在に気が付いてしまった。
それは、床を埋め尽くすほどの芋虫たちだった。その光景は気色悪さを通り越して、もはや息を呑むほどだった。
「なん、だ…………これは――! 虫、か? キャスターのサーヴァント、これは貴様の使い魔か何かか!」
男の問いかけに、キャスターは困ったような表情を浮かべた。
「ふうむ。どちらかと言えば、私の方が
キャスターがぱちん、と指を鳴らす。
すると、みしみし、という地鳴りと共に、強大な魔力を宿した存在が、上下左右四方八方から男たちへと襲い掛かる。
「あ、ぁあああぃぁぁぁあぁああああああぁぁ」
現れた存在は、巨大な芋虫としか形容できない姿をしていた。その巨体で男たちを踏み潰し、食らいつき、その命と尊厳を陵辱していく。
男たちは、対人戦、もしくは魔性の存在と闘ったのであればある程度の実力を示すことはできたのだろう。しかし、彼らを相手したモノは、そういった類の存在ではなかった。無残な肉塊となれ果てた彼らに、小さな芋虫たちが群がっていく。
「我が神の救いがあらんことを、敬虔なる異邦の信徒たちよ」
そう言って、男たちの全滅を見届けたキャスターは、さらに奥の部屋へと入っていく。
「侵入者は退けたか、キャスター」
部屋へ入室してしたキャスターを出迎えたのは、大日本帝国の軍服を着用した、中年の男だった。キャスターは満面の笑顔で回答する。
「ええ、マスター。 英霊を召喚する資格を持ったものはいなかったので、これまで通り口封じのために消してやりましたとも。上質な魔力を宿していたのでね。私も喜ばしい限りですよ」
「分かった。……しかしまあ、未だマスターの資格を持つ者は現れぬか。まあいい。気長に待つとしよう。下っ端であったとはいえ、聖堂教会の使いが全滅したのだ。聖杯戦争の開催という噂は、一気に真実味を帯びていくだろうよ」
軍服の男は、島の全容を描いた地図に目を落とす。魔力を宿す霊脈・霊地の全てが、その地図には記入されていた。
「逸れサーヴァントの召喚は無事に始まっている。キャスター、ライダーの両者はよくやっているか?」
「ええ、はい。信用に値する働きをしていると、私は思いますよ」
キャスターの受け答えに、そのマスターである男性は不敵な笑みを浮かべた。そして、その手の甲に刻まれた、赤き紋章へと目を向ける。
「マスターである証、令呪も私を選んだ。全ては、我らの計画通り。英霊を供物とした、神へと捧げる儀式。『聖杯供犠』は、間もなく始まるだろう……」
東南アジアに存在する、東京の街とほぼ同程度の大きさを誇る島、マラケ島。大戦の戦火を逃れたその地に、新たな災厄がもたらされようとしていた。
〜キャスター ステータス〜
【CLASS】キャスター
【マスター】軍服の男
【真名】■■■■
【性別】男
【容姿】痩せ気味の胡散臭い男性
【属性】混沌・中庸 地
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:B 幸運:A 宝具:EX
【クラス別スキル】
陣地作成(B)︰魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。"工房"の作成が可能。
道具作成(D)︰魔術的な道具を作るスキル。
【保有スキル】
啓示(偽)(D)︰"天からの声"を聞いたと思い込み、最適な行動を取ることができる。キャスターのそれは、本物の"天からの声"ではなく、思い込みに過ぎない。どちらかといえば、『直感』に近しいスキル。
幻惑の詐術(B)︰民衆を扇動する話術。Aランクともなれば、一つの国を揺らし動かすことが可能である。
■■■の■■(A)︰詳細不明。
【宝具】
『■■・■■■』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:50