それが、
名前の通り、
5番目までは、失敗作だった。
では、6番目が成功作だったのかというと、そうではない。
そうして、彼女は暗い研究室の片隅に放置されていた。
しばらくの時――――約一年が経過した後、再びある男がやって来るまでは。
「日本の聖杯戦争。そこで、聖杯を奪取せよ。そして祖国ドイツの復活を果たせ」
その
彼女の名はゼクス。
ドイツの魔術師によって作られた、戦闘用ホムンクルスである。
「祖国に聖杯を。遍く敵に死を。何としても、再びドイツに栄光を」
ゼクスは、与えられた
聖杯戦争の戦地であるマラケ島へと辿り着いたゼクスは、速やかに英霊召喚を開始する。
召喚するのは、バーサーカー。大量の魔力貯蔵を誇るゼクスならば、バーサーカーに暴走されて自滅する恐れもない。圧倒的な戦力で、瞬く間に敵を殲滅する。そのつもりだ。
「――――――」
暗く冷たい洞窟。その地に、光が満ちる。
「…………」
現れたサーヴァントは、甲冑を身に着けた若い武者だった。凛々しい顔立ちの、好青年の印象を受ける。彼はゼクスに目を向け、明るく話しかけた。
「へえ。お前がマスター、というヤツか。金の髪に白き肌の、麗しき姫君が主とは――――存外悪くない。オレはバーサーカーだ。以後よろしく頼む」
「……?」
ゼクスは、目の前の男が、礼儀正しく振る舞っていることに疑問を抱く。
このサーヴァントはバーサーカーのはずだ。それなのに、狂を発している様子が微塵も見られない。狂戦士、とは思えない冷静な立ち振る舞いである。
「……私はゼクス。あなたのマスターです」
「さてマスター。敵サーヴァントはどこかな。こうして戦に赴いた以上、敵を見定めたいのだが」
バーサーカーはぶらぶらと、洞窟の外へと向かって歩き出した。そんな彼の横に移動し、ゼクスはこれまでに集めた情報を伝える。
「使い魔が収集した情報によると、既にアーチャー、アサシン、ライダーが召喚済み。うち、アサシンとライダーのマスターは魔術師ではないようですが」
「ほう。外から魔力の気配がする。マスター、しっかりオレに掴まっていてくれ」
「…………え?」
ちょうど、洞窟の出口へと差し掛かったあたりで、バーサーカーは突然そんなことを口にした。
ゼクスが驚いている暇もなく、バーサーカーは彼女を背負って――――。
「えっ、ま、待って、くださ、ぁぁぁぁぁぁ!?」
バーサーカーは爆走を始めた。
ゼクスが拠点として仕掛けを施していた洞窟近辺から、あっという間に遠ざかっていく。
「止まってください、バーサーカー! 私の工房から離れては――――」
「さて、出会うサーヴァントがオレの敵かどうか。見極めさせてもらうとしよう」
「バーサーカー、私の話を――――」
そこまで言葉を言いかけて、ゼクスはあることに気が付く。
……この男、バーサーカーは。
会話はバーサーカー自身の中で自己完結している。
こちらの話はまるで聞かず、ただバーサーカーのみが言葉を発するのみ。
会話はできるが、通じることはない。
冷静に見えて、意思疎通は不可能。
ステータス分析の結果、バーサーカーの狂化ランクは
「…………」
暴走するバーサーカーの背中で揺られながらも、ゼクスは冷静だった。これからどうすべきか、思考を巡らせる。
令呪を使いバーサーカーを制御する、という手段も考えた。
しかし、これほどの狂いようであれば、後々もっとイカれたことをやらかすかもしれない。この令呪はその時に取っておこう、とゼクスは結論を出す。
今はとにかく、このバーサーカーのやることを静観していよう、という判断を出すことにした。
「到着した。マスター、下ろすぞ」
ゼクスが返事する前にバーサーカーは彼女を背から下ろす。ただし、彼女への扱いはとても丁寧なものだった。
洞窟のある山地から、川沿いに下っていって辿り着いた先にある森林。その中心部にある開けた平原に、ある男が立っている。
「貴様か。膨大な魔力を発して突撃してきたサーヴァントは。悪いが、その魔力を撒き散らしてこの先にある田畑へと突撃するのはやめてもらおうか。不本意だが、今の私はあそこの村の世話になっていてね。村に居づらい状況にはなりたくないんだ」
白髪に、赤い外套を羽織った浅黒い肌の男。
アーチャーのサーヴァント、とゼクスは気を引き締める。
「アーチャーのサーヴァントですね。マスターはいないようですが……。マスター無しで、私とバーサーカーに勝つつもりですか?」
感情のこもっていない冷徹な声で、淡々と魔力を体内に回しながらゼクスは言った。
その言葉に対し、赤い外套のアーチャーは、ハ、と肩をすくめる。
「困ったな。私は正規のサーヴァントに見えるかね? 私は、そうだな……。所謂、"逸れ"のサーヴァントだ。聖杯戦争と関わりのない、ただのエキストラに過ぎない。君たちとは、敵でも味方でもないさ」
「……なら、真名を明かしなさい」
「良いだろう。私の名は、■■■。……とはいえ、無銘の英霊でね。君が存じているはずはないだろうな、バーサーカーのマスター」
逸れのアーチャーが名乗った真名は、ゼクスにとって全く聞き覚えのない名だった。彼女に詰め込まれた膨大なデータベースから検索をかけても、ヒット数はゼロ。
「なぜ私がここに喚ばれたのか、何をすればいいのかは、全くもって不明だが。とにかく、君はそこのバーサーカーを制御してくれ。逸れの身である私はこの霊地から離れられなくてね。ならば、その周辺住民とは良い関係を築きたいと考えるのが当然だろう? 君も、現地住民と敵対したくはあるまい」
このアーチャーが言っていることはもっともだ。
そう感じたゼクスは、バーサーカーに命令する。
「戻りましょう、バーサーカー。この先を荒らしてはいけません」
だが、その言葉に反し、バーサーカーは一歩踏み出す。
「バーサーカー?」
「……おいおい、狂戦士。何のつもりかな?」
「見定めよう、アーチャー。お前が、オレの討つべき英雄かどうか! 天才かどうかを!!」
「何っ!?」
バーサーカーが振り下ろした太刀を、逸れのアーチャーは手にした二本の短剣で受け止める。が、その勢いを殺しきれずに押し飛ばされた。
「チッ……」
そのまま、バーサーカーによる怒涛の追撃。
アーチャーも負けじと応戦し、凄まじい剣戟が繰り広げられる。
「すごい…………」
ゼクスは思わず息を呑む。
自分が想定していた戦闘を、二騎のサーヴァントは凌駕している。これがサーヴァント、これが英霊。
狂化しているにも関わらず、冷静な戦闘を行っているバーサーカーの異常性もさることながら、近接戦闘でバーサーカーに引けを取らない逸れのアーチャーにも驚かされる。無銘の英霊が、ここまでやるものなのか。にわかにも信じ難い。
ただし、一方はマスターありの正規の英霊、かたや一方は霊地に魔力供給を頼っているサーヴァントである。その差は、間違いなく現れる。次第に、逸れのアーチャーのほうが押され始めた。
「やめろ、バーサーカー。貴様、
逸れのアーチャーは突然、バーサーカーから距離を取ると、そんなことを尋ねた。その言葉の意を、ゼクスは汲み取る。
「逸れのキャスター、あなたは――――宝具ないし切り札に相当するものを、使うつもりか――!」
宝具。サーヴァントの伝説を象徴する武器や、逸話が形となったモノ。サーヴァントの切り札であり、必殺技。
それを使うかもしれない、と逸れのアーチャーは警告している。ゼクスはそう読み取った。
「このまま戦えば、どちらかが死ぬぞバーサーカー。私は聖杯戦争とは関わりのないサーヴァントだ。それでも、このまま徒労でしかない戦いをまだ続ける気か?」
逸れのアーチャーの警告。
当然、バーサーカーの耳には届いていないのだろう。
しかし――バーサーカーは太刀を収めた。
「アーチャー。お前は英雄だな。だが――オレが殺すべき天才ではない。その剣技は、お前のたゆまぬ努力が作り上げたモノなのだろう。人に理解できる強さだ。故に、オレはお前と戦わない。迷惑をかけたな。さあ、戻るぞマスター」
「えっ? そ、そっちは拠点じゃ、ぁぁぁぁぁぁ!?」
またも、ゼクスは背負い上げられる。
そして、バーサーカーは爆走し、どこかへと走り去って行ってしまった。
「………………何だったのか」
そうして、その場には逸れのアーチャーが、戦闘で荒らされた草原に残されたのだった。
〜バーサーカー ステータス〜
【CLASS】バーサーカー
【マスター】ゼクス
【真名】■■■■
【性別】男
【容姿】甲冑を身に着けた若武者
【属性】中立・中庸 人
【ステータス】筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:EX
【クラス別スキル】
狂化(EX)︰理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。バーサーカーは、会話が可能に見えるが、他者の話を聞き取ることができず、また思考が固定されており意思の疎通が不可能。
【保有スキル】
対英雄(偽)(B⁺)︰英雄を相手にした場合、己のパラメータが上昇する。英雄のタイプによってパラメータの上昇具合に差異があり、天才的な才覚を持つものほどパラメータが上昇する。
カリスマ(E⁻)︰軍団を指揮する天性の才能。『狂化』により、ランクが低下している。
軍略(E)︰多人数を動員した戦場における戦術的直感力。『狂化』により、ランクが低下している。
戦闘続行(B)︰往生際が悪い。
【宝具】
『■■■■■■、■■■■』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人