Fate/war wounds 〜極東聖杯事変〜   作:降雨

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序幕其の六 輝ける勇者/セイバー

 

「聖杯戦争?」

 

 男が、その噂を聞いたのは、ビルマでのことだった。

 

「戦争とは言っても、個人の戦いらしいんだが。どっかの島で戦いがあるんだと、お偉いさんが話してたのを聞いてな」

 

「戦いだ? 戦争なら終わっちまっただろうが。あのヤンキー共が余計なことしたせいでな」

 

「だから、ジャック。個人の戦いだと言っただろうが。国は関係ないんだろうよ。ま、もうすぐ引き上げる俺たちにも、関係のない話だが」

 

「…………」

 

「ジャック?」

 

 ジャック、と呼ばれたその男は、どこか遠くを見つめていた。そして、ニヤリと微笑む。

 

「面白そうだ」

 

 その後まもなく、引き上げを開始していたビルマ戦線におけるイギリス陸軍から、一人の男の姿が消えた。

 

 

 

 それから数ヶ月後。

 

「ふう。あー、長かったぜ。船が特にな」

 

 マラケ島に到着したジャックは、船に乗せてくれた現地住民に尋ねる。

 

「ここで戦争があるんだろ?」

 

「旅の人。ここに来るまでにも言ったけどね、この島は平和そのものだよ? 前の大戦でも被害はなかったしね。戦争なんてないよ?」

 

「ま、そのうち分かるだろ。それじゃあな、ありがとよ!」

 

 

 

 ジャックはそのまま、港のある島の西部の村で暮らすことにした。廃墟になっていた民家を貸してもらい、そして住民たちの噂に耳を傾ける。

 

「島の中心のほう、あの山には入っちゃいけないよ」

 

「へえ。そりゃあなぜ?」

 

「最近、悪霊が出るんだよ。実は、あんたに貸した家の家主は、あの山に入って半年帰って来ないんだ。他の村でも、同じ話があるし、前には島の外からやってきた人も行方不明になった。入っちゃいけないよ」

 

「分かった分かった」

 

 

 その夜、ジャックは山へと向かって移動を始める。

 

「悪霊なんているもんか。おそらくは、敵兵の仕業に違いねぇ。山に潜んで、目撃者を消しているんだろうさ。戦いの匂いがプンプンして来たぜ」

 

 静寂広がる夜の山に足を踏み入れるやいなや、ジャックは背負っていたバグパイプを吹き鳴らした。音楽を奏で、騒々しく行進していく。

 

「出てこい敵兵! 俺はここにいるぞ!」

 

 その音に引き寄せられたのか、いくつかの影が姿を現す。

 だが、それは敵兵などではなかった。

 

「シャアァァァァァ!!!」

 

 黒き姿の、異形の群れ。日本においては、土蜘蛛と呼ばれる怪異。

 そういったモノが、影から現れてジャックを取り囲む。生者の命を刈り取るべく、雄叫びをあげた。

 

「やはり出たな敵兵! ここからは戦争だ!!」

 

 だが、ジャックは少しも怯むことなく、むしろ戦意を昂ぶらせていた。手にしていた手榴弾を投擲し、腰にかけていた刀剣、クレイモアを抜いて土蜘蛛と戦闘を開始する。

 

「とはいえ、戦力差がある。こっからはゲリラ戦だな」

 

 手榴弾の爆撃により、包囲網にできた穴を突破して、ジャックは夜闇を走る。その背を狙って強襲してきた土蜘蛛には、クレイモアで応戦し、打ち払う。

 

「あーらよっと!」

 

 さらに、背負っていた弓矢を取り出し、射撃も行う。一匹の土蜘蛛の眉間に命中した。

 

「いくつ殺れるかな。くくっ、楽しくなってきた」

 

 心臓を高鳴らせるジャックは、自身の右手に浮かんでいる赤き紋様には、気付く素振りが全くなかった。

 

 

 

 それから、数時間が経過した。

 

「なんだよあいつら、なかなか死なねぇな。もしやあいつら、日本兵なのか? 日本兵はしぶてぇって聞いたからな。そうなのかもしんねえ」

 

 洞窟に身を潜め、一時休憩を取っていたジャック。

 ぶつぶつと呟きながら、洞窟の奥の方へと歩いていく。

 

「ん?」

 

 そこで、彼は妙なものを目にする。

 

「……なんだこれ。赤い――紋章?」

 

 それは、サーヴァントの召喚陣だった。

 それがバーサーカーのマスター、ゼクスによるものだということは、彼には知る由もない。

 

「誰がいんのか? もしや、オカルトか? ナチスの阿呆でもいんのか?」

 

 召喚陣に手を触れ、さすってみる。

 と、そこへ。

 

「ギャァァァァァァ!!」

 

「ちっ、嗅ぎ付けられたか! 逃げ道を塞がれるのは拙いな!」

 

 土蜘蛛の群れが、洞窟へと侵入する。

 ゼクスによる迎撃の仕掛けがあったのだが、土蜘蛛たちはそれを数で押し切ったようだ。

 

「まあいいさ、やってやらぁ!」

 

 ジャックがクレイモアを手に取り、走り出そうとしたその時。

 

「ん?」

 

 召喚陣が、光り輝いた。

 

「おっ? おおおおお?」

 

 巻き起こる風、輝く閃光。

 ジャックは思わず目を閉じる。

 

 そして、再び目を開いた時には。

 

「よう。アンタ、俺のマスターかい? そんじゃあ契約だ。俺はセイバー。聖杯を手に入れるこの冒険! 俺がオマエの剣になってやるぜ!」

 

 そんなことを口にする少年が、目の前に立っていた。

 

 黄金の鎧を身に着けた、緑がかった黒髪の少年。鎧の下から見える服からは、民族的な印象をジャックは受けた。

 

「そう、らあぁぁ!!」

 

 セイバーと名乗った少年は、地面を一度蹴るだけで土蜘蛛たちの真上へと飛び上がる。そして、抜いた剣を何回か振るだけで、土蜘蛛たちはあっという間に蹴散らされていった。

 

「へへっ、どうだい。マスター、俺はアンタのお気に召したかい?」

 

 自慢げに言ったセイバーだったが、ジャックの反応は彼の予想とは異なっていた。

 

「おいおい、何してるんだよ。俺の獲物だったんだかなあ」

 

 がっかりとした表情を浮かべたジャック。

 そんな彼を励ますように、セイバーは彼の肩を叩く。

 

「おいおい、こんなのは獲物のうちにも入らないぜ? 本番の獲物は、敵のサーヴァントだ。行こうぜマスター、聖杯を獲りに!」

 

「ん? サーヴァント? なんのことだ?」

 

「え? オッサン、アンタサーヴァント知らねぇのか?」

 

 マスターの様子がおかしい、と気付いたセイバーは、いくつかの質問を彼に投げかける。

 

「聖杯戦争、分かるか?」

 

「この島でやっている戦争のことだろう?」

 

「マスター、令呪、英霊、聖杯。分かるか?」

 

「?」

 

「アンタ、魔術師か? 俺を召喚したんじゃねぇのか?」

 

「??」

 

「……マジか」

 

 だいたいの状況を理解したセイバーは、額に手を当てる。そして、聖杯戦争がなんたるかについて、ジャックに説明を始めるのだった。

 

 

 

「なるほど! サーヴァントを用いた、個人間の戦争! 報酬は万能の願望機、と来たか! 魔術やらなんやらはにわかに信じ難いが、とにかくこの戦争のルールは分かったぞ!」

 

「オッサン、サーヴァントに戦いを挑むのはやめてくれよ? そういうのは、俺がやる。アンタは、俺に命令を出したり、マスターと戦ったりしてくれ」

 

「指揮官だな。任せておけ。経験がある」

 

 頷くジャックに、本当に理解しているのか、とセイバーはため息をつく。だが、気を改めて彼に手を差し出した。

 

「アンタは、見たところたぶん俺と似た者どうしだ。戦いの目的よりも、戦いを楽しむ性分だと見た。俺もそうだ。戦い、冒険、そういった過程の方が好きなタイプだ。……俺は、魔術師じゃないアンタがマスターでも別に構わねぇ。互いに、好きにやろうさ」

 

「ああ。俺はジャック・チャーチルだ。この戦争、最高に楽しもうじゃないか」

 

 両者は握手を交わす。

 

 最優のセイバーの召喚をもって、まもなく聖杯戦争の火蓋が落とされようとしていた。





〜セイバー ステータス〜

【CLASS】セイバー
【マスター】ジャック・チャーチル
【真名】■■■■■■
【性別】男
【容姿】黄金の鎧を纏った少年
【属性】中立・善 天
【ステータス】筋力:A 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具:A

【クラス別スキル】
対魔力(A)︰魔術への耐性を得る。Aランク以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗(B)︰騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

神性(D)︰とある神霊と血縁の存在、もしくは同一存在であると考えられている。

【保有スキル】
勇猛(A)︰威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

神威放出(A⁺)︰魔力放出に似て非なるスキル。宝具である刀剣から神霊由来の魔力を放出する。

無窮の武練(A)︰ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。

【宝具】
『■■■■■■■■』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人


『黄金の鎧(コンカニハヨクペ)』
ランク︰B 種別︰対人宝具 レンジ︰1 最大捕捉︰1人

 セイバーが着用している黄金の鎧。敵からの攻撃を軽減する。
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