Fate/war wounds 〜極東聖杯事変〜   作:降雨

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序幕其の七 二天一流/逸れのセイバー

 

 月を見上げていた。

 

 見慣れぬ地、見慣れる場。

 

 そんな空でも、冷たき月は彼を照らしていた。

 

 

「……ここは」

 

 青年は、身体を起こす。

 夜。静かにせせらぐ川の側で、青年は倒れていた。

 

「俺は――――」

 

 自分が何者か、思考を巡らせる。

 その記憶の中に、()()()の記録が混じっていた。

 

 

「……サーヴァント」

 

 青年は、理解する。

 自分は、サーヴァント。

 既に死した英霊。その影法師なのであると。

 

 此度の自分は、"逸れのセイバー"。

 聖杯に喚ばれながら、聖杯戦争には関わらないサーヴァント。聖杯を手にすることはできないが、何をしていても構わない存在。

 

 そして、自分の真名は――――。

 

「宮本伊織」

 

 和服を身に纏った彼は、呟く。

 

 二天一流、宮本武蔵の弟子。史実においては、若くして小倉藩の家老となった優秀な人物でもある。

 

 ただ、この青年には、かつて生きた自身の記憶というのは全くと言っていいほど残ってはいなかった。

 

 どう生きたのか。どう死んだのか。

 伊織は、何も分からない。

 だが、混乱することはなく、そういうこともあるのだろう、と事態を飲み込んで、彼は歩き始めた。

 

「…………」

 

 だが、すぐに歩みを止める。

 すぐ側にいる何者かの気配を、感じ取ったからだ。

 

「おや、勘付かれてしまいましたか。流石は最優のセイバー。私めの気配など、すぐに気付いてしまう」

 

「お前は何者だ」

 

「私はキャスター。あなたとは違う、正規のサーヴァントです。私はあなたに、提案をしに来ました」

 

 怪しげな雰囲気を纏うキャスターは、伊織へと近付く。警戒を解かないまま、伊織は尋ねた。

 

「提案?」

 

「そう。提案です。単刀直入に言いますと、あなた、私たちに協力する気はないですか? 私たちがこの聖杯戦争に勝利した暁には、あなたの願いを叶えてあげてもいいと思っています。その代わり、他の陣営を攻撃する手助けをしてほしい。そういうことですが、いかがです?」

 

「質問をしたい。キャスター、お前は聖杯に何を願う?」

 

 思いがけない質問に、キャスターは眉をぴくりと動かしたが、すぐに笑みを浮かべて話し始めた。

 

「ふむ。あなたほどのサーヴァントなら、取り繕って言ったとしてもバレてしまうでしょうね。……簡単に言えば、ですね。『神の降臨』です」

 

「神の、降臨?」

 

「ええ、はい。あなたも知っているでしょう? 先の大戦で、日本は敗れた。私のマスターは、それを口惜しく思っていましてね。そして、考えたのですよ。私が信奉する神の力を借りれば、国を立て直し、再び力を取り戻すことができると! そして今度こそ、この国の敵を討つことができるのだと、信じておられるのですよ。ああ、あなたも日本の英霊ならば共感してくれるでしょう? 己が国の民の繁栄を願うのは、英霊として当然の――――」

 

「黙れ」

 

 ぴしゃり、と伊織が言い放つ。そして、彼は刀を抜いた。

 

「お前たちの都合で終わった戦争をやり直すつもりか。それは、生き残った民を再び戦火に巻き込んで殺すということだ。悪しきことだ。許されぬことだ。……それに、キャスター。お前からは、血の臭いがする。そんなお前とは、手を組むことはできない」

 

「……そうですか。残念ですね。ならば――――」

 

 キャスターは手を振り上げる。

 と、同時に。

 

 木々の合間より、現れる影があった。

 

「殺してください、逸れのアサシン」

 

 突如として現れたその影は、剣を振るって伊織に襲いかかった。その一撃を、二本の刀で受け止める。

 

「…………」

 

 現れた影は、凛々しい少年、あるいは少女の姿をしていた。しかし、その表情には人間味を感じられない。張り付いた仮面のような顔をしている。

 整った中性的な容姿、白き髪、黄色い眼。見慣れない白い服装には、返り血のごとき紋様が浮かんでいる。

 

 その影――いや、サーヴァントは、伊織に攻撃を繰り返す。そして、両者の間で剣戟が繰り返される中で――。

 宮本伊織は。

 

「……俺は」

 

 その姿に、剣技に、見覚えはなかった。

 

 だが。

 

「…………俺は、この剣を知っている」

 

 記憶にはなく、聖杯からの情報にもない。

 だが、伊織はこのサーヴァントのことを知っている。

 

「やめろ、()()()()!」

 

 そして、その思わず言葉が口から出ていた。

 

「……セイバー、だと? 君、イオリと言ったな」

 

 このサーヴァントは初めて口を開いた。剣を構えたまま、冷徹に言い放つ。

 

「私はアサシンだ。アサシン、オウスノミコト。それが、私の真名だ」

 

「!!」

 

 オウスノミコト。

 それは、日本神話における英雄、ヤマトタケルの別名。クマソより、武勇を称えられて名を与えられる前の、名前――。

 

「おや、真名を明かしてしまいましたか。まあ、いいでしょう。その通り、この逸れのアサシンはかの大英雄、ヤマトタケルが、伝説の剣・天叢雲剣を手にする前の姿として現界したサーヴァントです。……まあ、こちらで多少の改造を施しているので、半ばヤマトタケル・オルタと言ってもおかしくない存在なのですが。さて、逸れのアサシン。彼――――宮本伊織を、殺害しなさい」

 

「言われなくとも」

 

 心のこもっていない、冷ややかなる声で返答したオウスノミコトは、剣を振り上げる。

 

「……! これ、は――――!」

 

 オウスノミコトの霊基に、膨大な魔力が集まっていく。

 

「我が真名、オウスノミコト。我が敵よ…………我が剣にて、打ち殺してしんぜよう――――」

 

 事態を察知した伊織は一歩踏み出すも、時既に遅し。

 

 その剣は、振り下ろされる。

 

 

「『絶技・八岐怒濤』」

 

 

 オウスノミコトは、ヤマトタケルの名を受け取る前――――すなわち、神剣・天叢雲剣を手にする前の姿である。よって、(カミ)の力を用いた攻撃を行うことはできない。

 しかし、それであっても、彼の『絶技・八岐怒濤』は必殺の一撃であった。放たれし八つの斬撃が、宮本伊織を切り刻む。

 

「ぐっ、あ――――――」

 

 斬撃を防ぎきれず、宮本伊織は切り刻まれる。また、斬撃の勢いによって吹き飛ばされ、彼の肉体は川へと落ちた。

 

「ふむ。それでは私が、とどめの引導をくれてやりましょうか。呪術の真似事ですが、はい、と」

 

 キャスターは屈み込み、地面に手をついた。そして、大地に魔力を流し込む。

 すると、川の勢いが変化した。濁流の如き流れで、あらゆるものを押し流していく。

 

「これで、あのセイバーも死ぬことでしょう。よくやってくれましたね、アサシン。では、戻りましょう。魔力の再充填が済み次第、次は逸れのアーチャーの始末です」

 

「…………」

 

「アサシン、どうかしましたか?」

 

 オウスノミコトは、濁りきった川を呆然と眺めていた。そして、うわ言のように呟く。

 

「…………イオリ、か」

 

「アサシン?」

 

「何でもない。疾く戻るとしよう」

 

 変わらぬ無表情のまま、オウスノミコトは答える。キャスターと連れ立って、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「――――凄まじい」

 

 濁流に揉まれる中で、宮本伊織は虚ろな目で呟く。

 その目には、オウスノミコトの放ったあの絶技が焼き付いていた。

 

「まさに至高、絶技の中の絶技」

 

 人外の絶技。あらゆるものを切り刻む、王者の剣。

 敵うことなき、最強の剣。

 朦朧とする意識の中で、鮮明に刻み込まれたあの技。

 

 なればこそ――。

 

「破らねば、立ち行かぬ」





〜逸れのアサシン ステータス〜

【CLASS】アサシン
【マスター】なし
【真名】オウスノミコト
【性別】?
【容姿】容姿端麗な白髪の少年あるいは少女 無表情で冷徹な機械のよう
【属性】中立・中庸 天
【ステータス】筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:B

【クラス別スキル】
気配遮断(B)︰サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

神性(D)︰神格化されていた天皇の血筋(皇子)である事に由来する。

【保有スキル】
血塗れの皇子(A)︰血の繋がった兄弟も、異郷の王達も、そして、愛した人さえも目の前で命果てていく。そのような生前の生き様が、スキルとして表現されたもの。

麗しの風貌(C)︰性別を特定し難い美しさを雰囲気で有している。男性にも女性にも交渉時の判定にプラス補正がはたらく。

斎王の衣(A)︰熊襲の討伐時に、斎王(伊勢神宮の巫女)であった叔母から与えられた女装の衣。性別を女性であると認識させ、相手の警戒心を解く。

【宝具】
『絶技・八岐怒濤(ぜつぎ・はっきどとう)』
ランク:C 種別:対人絶技 レンジ:0〜10 最大捕捉:1人
 斬撃を一度に八つ放つ絶技。アサシンは天叢雲剣を所持していないため、水の魔力の加護はない。
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