Fate/war wounds 〜極東聖杯事変〜   作:降雨

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序幕其の八 東国無双の戦姫/ランサー

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 彼は、走っていた。

 

 雲のような髪色の男。目の色は空のようだ。曇天の。

  

 背丈はそれなりにある。だが、猫背のためか実際に受ける印象での身長は、本来よりもやや低めに見える。

 

 人と話す時は、いつも伏し目がちだ。声は大きいのに、まっすぐ向いて話すことができない。

 

 

 彼には、自信というものがなかった。

 

 ウェストバージニアの田舎町で、魔術師の家系に生まれた。魔術の素養はあるし、習得にも才能があった。

 それなのに、ここ一番ではうまくいかない。

 彼には成功体験がない。

 

 それ故に、卑屈になるもの致し方なし。

 

 訳あって家を出奔した彼は、軍に入隊。

 太平洋戦争を戦うも、ここでもうまくいかず。

 あっさりと重傷を負い、戦線を離脱して終戦を迎えた。

 

 そして、東南アジアのとある島において、聖杯戦争が発生する。

 魔術師であること、そして合衆国の人間であることを見出され、日本から派遣された軍人・舩坂弘のサポート役を任された彼。

 

 今度こそ、やりきってみせる――という淡い期待は、今、あっさり打ち砕かれようとしている。

 

 

「シャアァァァァァァァァァッ!!」

 

 土蜘蛛の群れ。

 山間地域に工房を設置しようとした彼に、土蜘蛛たちは容赦なく襲いかかった。

 

「ッ!」

 

 召喚術を用いて、土蜘蛛に応戦する。

 ただし、その魔術は彼の家系に伝えられてきた魔術とは異なる。短期間で習得した代用の魔術にすぎず、高度の術式使用は困難。せいぜいが、数日以内に死亡した低級生物の悪霊を召喚することぐらいが限界だ。

 

「シャアァァァァァ!!」

 

 一対一ならともかく。敵は軍勢である。

 逃げ回ることくらいしか、今の彼には許されていなかった。

 

「う、うう。くそっ、クソっ、ここで、こんなところで――――」

 

 気付けば、土蜘蛛の群れに囲まれていた。

 絶体絶命。腰が抜ける。

 彼はもう諦めていたが、それはそれとして恐れは感じる。死の恐怖、痛みへの恐怖。

 そして、不甲斐ない自分への嫌悪。

 

「俺、は――――」

 

 その時。

 

 彼の手の甲に、令呪が宿った。

 

「……!?」

 

 彼がそれを知覚するよりも早く。

 

 彼の目の前に降り立つ人影がある。

 

「土蜘蛛。この聖杯戦争を蝕む、悪しき存在の傀儡、手下。あなたたちを我が薙刀で、切り刻んであげましょう」

 

 その人影が、手にしている薙刀を縦横無尽に振り回す。土蜘蛛たちは両手両足をもがれ、首を落とされて無残にも蹴散らされていった。

 

「ご無事ですか? ……ああ、それよりも前に」

 

 男の前に、人影――――いや、女性は立つ。

 赤き髪。和風の鎧。美しき顔立ちのその女武者は、目の前の男に尋ねる。

 

「問おう。あなたが私の、マスターか」

 

 男は、たとえ夢の中でさえも彼女の顔を忘れることはないだろう。それほどまでに、彼女と目を合わせたその時間は、印象的なものだった。

 

 その日その時、彼は、運命に出会った。

 

 

 

 

「ジェイ。それが、僕の名前だ」

 

 男――――ジェイは、女武者に名を伝える。

 彼女もまた、自分のクラスを明らかにした。

 

「分かりました。じぇい殿。私は、ランサー。槍兵(ランサー)のサーヴァントです。私は、この聖杯戦争を終わらせるためにここに現界しました」

 

「終わらせるため?」

 

 ジェイは、彼女の言葉に疑問を抱く。

 サーヴァントと言うのは、聖杯戦争にかける己の願いがあるからこそ、マスターに召喚されて現れるものだ。聖杯の存在を知らないはずの日本のサーヴァントが召喚されている異常な現在の状況は置いておくとしても、『聖杯戦争を終わらせるため』という目的のためにサーヴァントが召喚されることなどあるのだろうか。

 

「私は、聖杯の手により、聖杯戦争を終わらせるために召喚されました。……いえ、聖杯戦争ではありません。この戦いは、こう言うべきでしょう。『聖杯供犠(くぎ)』、と」

 

「聖杯…………供犠……?」

 

「はい。この聖杯戦争は、黒幕の手により仕組まれた戦いです。聖杯戦争とは本来、敗北せしサーヴァントの魂の魔力を以って、勝者の願いを叶える儀式ですが――。その魔力を、勝者に与えるのではなく簒奪しようとしている黒幕がいる。故に、犠牲になるだけの儀式。供犠。これは戦争ではなく、茶番でしかないのです」

 

 ジェイには、ランサーの言っていることがどこまで本当かは分からない。もしかしたら、目の前のこの女性は実はバーサーカーで、妄言を撒き散らしているだけなのかもしれない。

 しかし、彼女の目的は、彼の目的と合致している。ジェイたちの目的は、聖杯戦争の阻止である。戦争の余波が残る世界に混乱をもたらさないよう、事態の収集を図ることこそが目的。黒幕がいる、という彼らの予測とも彼女の言葉は共通している。

 

「分かった、ランサー。僕も、聖杯戦争を止めるためにここに来た。僕は君に協力する。君も、僕に手を貸してほしい」

 

 彼の言葉に、ランサーは目を丸くする。そして、ふふ、と笑いを漏らした。

 

「何を言っているのですか。あなたは私のマスターでしょう? 私はあなたの命に従いますとも。よろしくお願いします、マスター」

 

 

 

 

 その夜、全てのサーヴァントが揃った。

 

 輝ける勇者。数多の伝説に語られし英雄、セイバー。

 東国無双の戦姫。聖杯戦争を止めるために現れた者、ランサー。

 日蝕の覇王。英雄の行く手を阻む反英雄、アーチャー。

 幻惑の教祖。己の神を信奉せし男、キャスター。

 朱き稲妻武者。甲冑に全身を覆った怪人、ライダー。

 絶技の刃。命を刈り取る魔剣、アサシン。

 不屈の凶徒。天才を憎む者、バーサーカー。

 

 そして、マスターなしの逸れのサーヴァントたち。

 

 二天一流、セイバー・宮本伊織。

 赤き外套の男、アーチャー・無銘。

 キャスター陣営に肩入れする混ぜもののサーヴァント、ライダー・藤原純友。

 同じくキャスターの命令を聞く、神剣を手にする前の大英雄、アサシン・オウスノミコト。

 

 まだ見ぬランサー、キャスター、バーサーカーも現界を果たし、今ここに役者は出揃った。

 

 

 聖杯戦争――――いや、聖杯供犠。

 

 今ここに、開幕である。





〜ランサー ステータス〜

【CLASS】ランサー
【マスター】ジェイ・ドリームウォーカー
【真名】■■■
【性別】女
【容姿】可憐な女武将
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:C

【クラス別スキル】
対魔力(A)︰魔術への耐性を得る。A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

神性(D)︰神霊適性を持つかどうか。ランサーは近世の英霊であり、神とゆかりがあった訳ではない。それにも関わらず、神性を保持している理由は不明。

【保有スキル】
■■■■(A)︰岩石を操る力。ランサー自身に、生前このような力を持っていたという自覚はない。

■■■■■■(EX)︰詳細不明。

防戦の心得(B)︰防戦において、力を発揮するスキル。軍略などの複合スキル。

【宝具】
『■■■■■』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:2〜40 最大捕捉:100人
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