「セイバー、その魔力……というのは、この先から感じるのか?」
セイバーのマスター、ジャック・チャーチルはセイバーに尋ねる。
セイバーの召喚後、島の西部、港町に帰還していたジャックは、セイバーが感じ取ったサーヴァントの気配の元へと向かっていた。
「ああ、間違いないぜ。この先にある谷。そこに、サーヴァントがいるに違いない」
くくっ、とセイバーは笑う。これからの戦いが、楽しみで楽しみでたまらないといった表情。
「さあ行こうぜオッサン。俺たちの初陣だァ!」
「……サーヴァントが来るな」
一方、アーチャー。
両脇に崖がそびえ立っている谷。その中央にアーチャーは立っていた。
「え。嘘っ、本当!? ……ねえ、アーチャー。本当に、この谷なら、あなたは最強なのよね? そうなのよね? ね?」
「ああ。任せるといい。
己のマスター、カーラの前に立つアーチャー。
そうして、両陣営は邂逅する。
「よう、オマエは――――アーチャーだな?」
「そういう貴様はセイバーか。ふっ、我は僥倖よな。聖杯戦争の初戦から、全力で最優たるセイバーを打ち倒すことができる!」
弓を構え、セイバーを狙うアーチャー。
そうして放たれた矢は、強力な魔力の塊となってセイバーに襲いかかった。
「マスターァ、避けるぞォ!!」
「行くぞセイバー!」
矢を回避し、セイバーとジャックはアーチャーに向かって走り出す。
大地に着弾した矢は地面を削り取り、粉々に砕いていった。
「マスター、カーラよ! 貴殿は一時、ここを離れよ。貴殿は傷付いてはならぬ。……安心せよ。必ず、我が勝利を貴殿に献上すると、約束しよう」
「……分かった。でも、できる限りの援護はするから――!」
カーラが自身から離れていくのを確認すると、アーチャーは目にも止まらぬ高速移動を開始する。セイバーの剣の間合いに入らないよう距離を取りつつ、魔力の塊そのものである矢の弾幕を放っていく。
轟音が鳴り響く。
空間を切り刻むような神速の矢を、セイバーは間一髪で回避しつつ、アーチャーに迫っていく。矢が大地をえぐり、岩石が飛び散っていく。
アーチャーは、ちらりとセイバーのマスター・ジャックに視線を向けた。
何故か、天変地異に匹敵する、崩壊していく戦場でも全く怯むことなくこちらに向かってくるあの男。時折バグパイプを吹き鳴らしているのは、アーチャーの見間違いではない。
あの男を撃ち殺せば、戦いは一瞬で終わるだろう。
しかし、そんな隙をセイバーは見過ごす筈もない。あのマスターを殺すと同時に、あのセイバーは自分またはカーラを殺すだろう、とアーチャーは考えた。
故に、アーチャーはセイバーを狙う。
この戦いには、相討ちなどというつまらない決着は相応しくない。
勝つなら、華々しい勝利を収めなくては。
そう思い、アーチャーは口の端を釣り上げる。
彼が求めるのは、絶対的な勝利と誇りある忠義のみだ。
すっ、と息を吸い込むアーチャー。
魔力を一撃にため込む。ここまでの無数の弾幕攻撃ではなく、次の一撃で確実に必殺するために。
「おい、セイバー! 貴様、名のある英雄と見た! ならば、我がこの矢の一撃、避けずに応じて見せよ! 我は、英雄を殺すモノ、反英雄の覇王なればァ!」
ぎちぎち、と弓の弦が引き千切れそうなほどに引かれる。その魔力の高ぶりを、セイバーも感じ取っていた。
故に。
セイバーは、立ち止まる。
「ははっ。いいぜ、アーチャー。火力勝負ってことだな。面白ぇ。宝具の真名解放とまではいかねぇが、出せるだけの全力、ここで見せてやろうじゃねえか!」
セイバーは、剣を構える。
魔力が、その肉体から剣へと流れていく。魔術の概念に疎いジャックでも、尋常ならざる力がセイバーに溜まっていくのが感じ取れた。
「悪ぃがオッサン、俺の後ろに立ってな! その辺に突っ立ってると、呆気なく蒸発しちまうぜ?」
「……分かった。どこかに行ってしまった敵のマスターの小娘を俺は警戒しておくぞ」
「あ、あとよ。こりゃ、オッサンの魔力も持っていっちまうかもしれねえ。そこのとこ、勘弁な」
「え? おい、今なんて――――」
ジャックが、セイバーの発言について問いただす前に。
セイバーとアーチャー、両者の溜め込まれた魔力が放出された。
「ハアァっ!!」
「神威一柱解放――――龍神、俺に力を貸せぇ!」
ジャックの視界は真っ白になる。
エネルギーとエネルギーのぶつかり合い。溢れんばかりの光の渦が、景色を無に塗り潰した。
その戦いの結果は、すぐに出た。
「…………」
「…………引き分け、か」
高濃度の魔力が宿った矢。そして、剣から放出された神気溢れる一撃。
そのぶつかり合いは、一瞬で終わった。エネルギーの押し合いすらもなく、相討ちとなって雲散霧消してしまった。
「…………ぐっ――――」
ジャックは、突然自分の脚に力が入らなくなるのを感じた。セイバーに魔力を奪われた代償。
「セイバー。貴様の主は戦士としては一流だが、マスターとしては三流以下と見たぞ。魔力を持っていかれ、へばっているようではないか」
「そういうオマエのマスターも、魔力を持っていかれてんだろ? おあいこってヤツだ」
「フッ。我がマスターを舐めるなよ? 彼女は術士としては二流だが、しかし勤勉だ。魔力不足時の対策くらい、してあるだろうとも」
アーチャーは、弓を構える。狙いは、腰をついたジャック・チャーチルだ。
「しかし、セイバー。己のマスターの力量を見誤って限界まで魔力を奪い、そして窮地に追い込まれるとは貴様、サーヴァントとして失格ではないか。我は失望したぞ」
「……かもな。でもよ、俺はこの程度でくたばるマスターなんて要らねえ、とも思ってるぜ?」
「………………なんだと」
問答の中、アーチャーの眉間に皺がよる。主君であるマスターを品定めするという、傲慢なセイバーの態度が彼の勘に触った。
そんなアーチャーの機嫌にはお構いなしに、セイバーはジャックを叱咤する。
「おい、オッサン! まさかこんなんでくたばるワケねぇよなぁ! アンタ、戦いを楽しむんだろ? この戦い、もう腹いっぱいになったのかよ?」
「…………そんな訳、あるか……!」
ジャック・チャーチルは、立ち上がった。そんな彼を見て、セイバーは笑顔を浮かべる。
「だろうな。また立ち上がるって、信じてたぜ」
「ふっ、くくっ、これが聖杯戦争の、マスターの戦いか。自分自身の限界と戦う、ということか! フフ、敵に突撃するのとはまた違った趣きがある! ……セイバー! いくらでも魔力を持っていけ! そのたびに俺は立ち上がってやる!」
「そうだ! それでこそ俺のマスターだ!」
吠えるジャックを尻目に、セイバーは剣を構える。ジャックに向けて放たれたアーチャーの一矢は、彼の剣が弾き飛ばした。
「……なんとまあ、歪んだ主従だ。いや、主従関係ではないのかもしれないな。その在り方もまた良かろう。であれば、セイバー。マスターに尽くす我の在り方と、マスターと共に戦う貴様の在り方。どちらがより強いのか、勝負と行こうではないか!」
アーチャーもまた、叫びを上げ、弓を構える。
そうしてまた、両者の激突が再開される。
その筈だった。
「英雄の、集う気配がする。ならば、オレが見定めるのは当然のことォ!」
「っ!?」
突如として、崖から襲来してくる人影がある。
セイバーとアーチャーの間に割って入った人影――――バーサーカーは、呆気にとられるアーチャーに近付き――。
太刀を、振り下ろした。