東方のギャルゲーしてたら幻想入りしただとぉ!?   作:生牡蠣

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ここまでご拝読ありがとうございました(フライング)


紅美鈴は抗えない

「………何やってるんだろ私…」

 

困惑した表情で空を見上げながらチャイナドレス風の女性―――美鈴はそう呟いた。

視界に入るのは快晴の青い空。気温も暑すぎず寒すぎもせず申し分ない。まさに絶好のお昼寝日和といった所であろう。

……本当に今日は門番ではなく、妹様の付き添いという仕事で良かった。こんな天気の中門番なんてしていたら、自分は絶対に居眠りをしていた事だろう。そしてそれがメイド長に見つかって頭部にナイフを刺される流れもセットだ。…自分で言ってて悲しくなってきた。

一応補足しておくが、美鈴も妖怪。ナイフくらいでは死にはしない。しかし、痛いものは痛いので正直ナイフは勘弁して欲しい所なのだ。(ちなみに以前その旨をメイド長に伝えた所『サボってる方が悪い』と一蹴されて何も反論出来なかったりする。悲しいかなぁ…)

 

しかし、今は屋敷から離れている為、(くだん)のメイド長はいない。更に現在美鈴が居る場所はとある大木の木陰の下。このままひと眠りするには絶好の環境であった。もう彼女の主がこの状況を見たら『ここで眠るのが貴方の運命なのよ』と言ってくれるだろうという確信すらあった。

 

「本当、このまま夕方まで寝ちゃいたいなぁ………はぁ、()()()()()()()()()…」

 

美鈴はため息をつきながら視線を下に落とす。

そこには、自分の膝に頭を乗せて夢の世界へと旅立っている男の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『い、妹様…?』

 

時は数十分前まで遡る。フランが暴漢に接吻されてすぐの事。

不気味な笑みを浮かべるフランに美鈴は恐る恐る声を掛けた。

 

しかし、フランは美鈴の言葉など聞こえてないかのように彼女を無視し、先程美鈴が蹴り飛ばした男の元へと近づいて行った。

 

『あはっ♡やっぱり()()()だぁ♡もう、今までどこに居たのよ。貴方の居場所は私の隣って()()()言ったじゃない♡……でも、許してあげる!だって、こうして私の元に帰って来たんだもの♡』

 

フランは気を失っている男の頭を撫でながら、まるで語り掛けるかのように言葉を紡ぐ。

その言葉の端々を聞いた美鈴は違和感を覚えた。フランの言葉はまるで、その男と前々から知り合い、それも相当親しい相手に掛けるであろう内容であったからだ。

しかし、フランが愛おしそうに触れている男について、少なくとも美鈴には見覚えがなかった。

 

『お、お知合いですか…?』

 

『う~ん、どうだろう……多分『会った』という意味では初対面じゃないかな?』

 

 

 

『でも、それでも解るんだ。彼は、私の大切な人だって』

 

 

 

『はぁ…?』

 

美鈴はフランの言葉の意味が理解できなかった。

無理もないだろう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、理解できるわけがない。

 

『まぁ、そんな事どうでもいいじゃない。そんな事より彼を―――いや、ちょっとまって』

 

美鈴との会話を中断し、世界一の宝物を扱うかの如く男の事を撫でるフラン。しかし、急に彼女の顔が強張った。

 

『あの時見えたものは…とすると………って考えた方が良いよね。それなら…でも……』

 

先程までの上機嫌な様子とは一転、何かを考え込む仕草を始めるフラン。

そんなフランの様子をただ事ではないと判断し声を掛ける美鈴であったが『美鈴、悪いけどしばらく黙ってて……だとしたら…』と拒絶されてしまい、何も言えなくなってしまった。

 

 

 

『――――うん、この方法が一番いいね』

 

フランの様子が戻ったのは、それから数分後の事であった。

 

『美鈴、私は先に紅魔館に戻るわ。またここに戻ってくるから、それまで彼を守っていて』

 

次に彼女が発した言葉は、奇妙な命令であった。

 

『彼を…ですか?』

 

美鈴はフランの命令の意図が分からなかった。

某そーなのかーな妖怪を始め、この辺りをふらついている妖怪は多い為、弱い人間を守る必要があるのは分かる。だが何故、今日初めて会った、しかも最悪のエンカウントをはたした男を守らなくてはならないのか、と

 

『そ。彼は私の大切な……お客様ね。彼を迎える為の準備を整えておきたいの。その準備が整ったら迎えに来るから、それまでお願いね』

 

『そ、それなら私が先に戻って準備をした方が『あぁ、それと』――ッ!?』

 

それなら自分が先に戻ると提案しようとした美鈴であったが、その言葉は続けることが出来なかった。

何故なら、フランから発せられた言葉に乗っているものを理解してしまった…いや、()()()()()()()()()為、彼女の命令に背くという選択肢が消え去ってしまったからだ。

 

『さっきの蹴りはいいわ。私を守ろうとしたものだし、あれでも加減してくれた方だって分かるから』

 

 

 

 

 

―――――でも、()はないよ?

 

――――圧倒的強者の殺気を

 

 

『………かしこまり、ました』

 

美鈴は静かに頭を垂れた。

それしか、彼女に残された選択肢はなかったのだ。

そんな美鈴の様子を見て、フランは“にこり”と可愛らしい笑みを浮かべる。

 

『うんうん!賢くてお利巧な使用人を持てて私は嬉しいよ♪……まぁ正確にはお姉様のだけど』

 

上機嫌で語るフラン。しかし、美鈴の目には彼女の姿は可愛らしい幼子ではなく、何か別の恐ろしいものが映っている様に思えた。

『それじゃあ行ってくるね』と背を向けるフラン。美鈴はその背中を見てどこかホッとしている自分が居るのに気が付いていた。

ようやく、この恐ろしくて悍ましい環境が去ってくれ『あぁ、そうだ!最後に大事な事をいうのを忘れていたわ!!』―――ッ!?

 

『な、なんで、しょうか…』

 

“もうこれ以上は勘弁してくれ!”と胸の中で叫ぶ美鈴。そんな彼女の心中を知ってか知らずかフランは『そんなにかしこまらないでよ~。私と美鈴の仲じゃん♪』と笑いかける。

 

『ふふふっ♪ちょっと忠告してあげようと思って、ね』

 

『………忠告、ですか?』

 

次の言葉がどんなものか想像がつかず、嫌な汗が流れるのを感じた。口も乾き、心臓がバクバクといっている。

続く言葉は、自分への死刑宣告になるかもしれない。そんな考えが美鈴の脳内を支配する。

そんな美鈴に対し、フランは人差し指を自らの口に当て―――

 

 

 

 

 

 

『キスなんて、しちゃダメだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がしますかっ!?………あっ」

 

反射的に大声を上げてしまった美鈴。

どうやら何故こうなったかを振り返っている内にトリップしすぎてしまったらしい。

傍から見れば突然叫び出した人であり、そう考えると恥かしさで顔が熱くなるのを感じる。

近くに知り合いがいなかったのが唯一の救いか…

 

「………あっ、この人、大丈夫かな?」

 

美鈴は“ハッ”として視線を下に落とす。

そこには、美鈴の叫び声にも気づいていないかの様に未だ眠り続けている男の姿があった。

その様子に美鈴は内心胸をなでおろす。こんな不審者に気を使う必要なんてないが、フランにこの男を害するなと釘を刺されてしまったからには粗相な行為や態度も控えた方が良いだろう。

このような細かい事にすら気を使わなくては後でどうなるか分からない。そう思えてしまう程にフランの様子はおかしかった。

 

「う~ん…やめてくりぃ……離してくりぃ…」

 

「………こっちは生きた心地がしないと言うのにこの男は…」

 

心中を無視するかの如くのんきに寝言まで披露する男に美鈴はため息をついた。

ここまで呑気に振舞われては、もう腹も立つというのを通り越して呆れが勝つというものだ。

 

「やめてくれルー…チル……もう出な………」

 

「………本当、どんな夢を見てるんだか」

 

自分の膝元でうなされている男の様子が面白く、美鈴は思わずクスリと笑ってしまう。

美鈴は妖怪であるが、基本的には人間には友好的な性格である。先程はフランにいきなり飛びついて来た不審な男という印象でしかなかったが、経緯はどうであれこの奇妙な状況である程度の時間を一緒に過ごしてしまった為、少し絆されてしまっていたのかもしれないと美鈴は思った。

 

「もう、妖怪とは言え私だって(幻想郷では比較的)うら若き乙女なんですからね。そんな私の膝を独占しているなんてすごい贅沢者なんですよ。分かってるんですか?」

 

返事は返って来ない事なんてわかっている。しかし、他にやることもない為か美鈴は男に話しかけ始めた。

 

「……なんで妹様は貴方の事を気に入ったのでしょうかね。見るからにただの人間で、なんの力も持ってない、つまらない男なのに…顔だってお世辞にも良いとは言えませんね」

 

楽しくなってきたのか、美鈴は語り掛け続けた。

ここまで貶されているのに男も途中で起きることはなく、ただ「う~ん…」とうなされ続けるのみ。そんな様子も、美鈴はなんだか()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ~あ。妹様は大切な人だとおっしゃってましたが、貴方なんて高貴で偉大なるスカーレット家に全然ふさわしくありませんよ」

 

一方的な、楽しい会話は弾む、弾む……

 

「そうですねぇ……貴方みたいな人はずっと山の中に小屋を建てて、そこに籠っている人生がお似合いですね。そこで畑でも耕しながらひっそりと生活して、健康の為に偶には運動もした方がいいですね。中国拳法なんておすすめですよ?」

 

弾む、弾む……

 

「あぁ、でも流石にずっと一人は可哀そうですね。きっとそんな貴方を哀れに思って、一生を添い遂げてくれる伴侶も現れるでしょう。貴方に付き合って拳法を一緒にやってくれて、山籠もりにも抵抗がなくて、疲れたら一緒に仕事をサボってくれる女性。……あははっ、それってまるで――――」

 

急に、美鈴は背筋が凍る感覚を覚えた。

 

自分は今、何をしているんだ?―――いや、()()()()()()()()()()()

 

その先に続く言葉は口には出さなかった。しかし、それは美鈴の頭の中に繰り返し響いてくる。

その言葉を口にしてしまえば、きっと自分は優越感にも似た心地いい感覚に包まれるという確信を持っていた。その事実が、彼女の頭を急激に冷やしていく。

 

(何かが、おかしい…)

 

確かに自分は人間に対して、他の妖怪と比べれば友好的かもしれない。しかし、いくら絆されたかもしれないとはいえ、初対面の、しかも主の妹を襲った暴漢相手にここまで良い印象を持つだろうか?しかも時間にすればまだ1時間も経っていないこんな短時間で、相手は眠ったままという状況で。

というか、何故自分はこの男に膝枕をしているのだ?普通に隣に寝かせておけばいいだろう。そして、何故この男に膝を貸している事実に何も抵抗感もない……というか、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

美鈴の頭の中に、次々と湧き上がる不審な点。

その一つ一つが、紅美鈴の脳内に警報を鳴らしていく。

 

(―――――この男は、危険だ)

 

その答えを出すのに、美鈴はあまり時間はかからなかった。

フランの事はまだ頭にはある。しかし、それを差し引いたとしても男をこのままにしておくリスクの方が問題だと本能が言っている。

その後の結果はどうでもいい。まずはこの男を始末しなければ、何か取り返しのつかないことが起こってしまう。そんな確信があった。

何、簡単な話だ。相手はただの人間。人間一人の首をへし折るくらいわけがないのだ。この首を少し締め付けてやればすぐに終わ――――

 

 

「――――あっ」

 

 

男の首に視線を移そうとした美鈴だが、その際に男の顔のとある部位が目に留まる。

それは生物が声を発し、食物を摂取する為に使う部位。生物の生業には必須とも言える器官―――――唇だ。

 

手入れをしていないのか少し荒れており、お世辞にも綺麗とは言えないものだ。自分やフランの淡い桃色とは違う真っ赤な肉の塊。魚卵と言われればギリギリ信じてしまえる程には醜かった。

しかし、不思議とソレから目を離すことが出来なかった。

 

 

『キスなんて、しちゃダメだよ』

 

 

何故だか、フランが去り際に言った言葉が聞こえてきた気がした。

キス、キス、接吻……

そんなもの、するわけがない。

 

(そう、するわけがない)

 

美鈴は再びそう思った。

しかし、彼女の上体は不思議と下へ下へと傾いていく。

 

『キスなんて、しちゃダメだよ』

 

(あぁ、なのに――――)

 

それは、あまりにも自然な動きであった。

まるで重力に任せてリンゴが地に落ちるような、鳥が飛び疲れて降りてくるような。

 

 

『キスなんて、しちゃダメだよ』

 

 

 

 

(―――――これは、抗えない)

 

 

“ちゅ♡”

 

美鈴の唇は、まるでそれが自然な形と言わんばかりに男の唇に落ちた。

 

 

「ッ!?」

 

瞬間、美鈴は激しい頭痛を感じた。

何度も言うが美鈴は妖怪であり、昔は武を極める為に他の妖怪ともこれまでに何度も闘争を続け、あらゆる傷を負って来た。中には致命傷と言えるくらいに深く、酷い傷もあった。

しかし、この痛みはそのどんな傷よりも深く、痛く――――

 

 

 

 

 

「………はぁ♡」

 

――――甘美なものであった。

 

「な~んだぁ、貴方だったんですかぁ♡」

 

美鈴は男の顔を包み込むかのように両腕いっぱいに抱きしめた。

その姿は、まるで長年会えていなかった恋人の精いっぱいの愛情表現の様であった。

 

「全然知らない人じゃない。でも、貴方も悪いんですよぉ♡私をここまで放って置いて、妹様に飛びつくんですもの、そう言うのは私だけにしておくべきです♡」

 

美鈴は出来の悪い生徒を叱る教師の様に男を咎める。しかしそこには怒りの感情はなく。このやり取り自体を懐かしむような、楽しんでるような雰囲気があった。

 

「まったく、どこに行ってたんですか♡最愛の人をこんなに待たせるなんて、貴方は本当に最低です♡」

 

頭の中から男との記憶がどんどん沸いてくる。

それは、共に紅魔館に仕える使用人だったかもしれない。

それは、異変を解決しに来たチャレンジャーだったかもしれない。

それは、共に武を極めたライバルで何時しかその感情が愛に変わった関係だったかもしれない。

それは、主の元から駆け落ちして誰も知らない山の中でひっそりと2人で幸せに暮らしていたのかもしれない。

それは、立場の違いから結ばれずに対立した末に望まぬ別れ方をしてしまったのかもしれない。

美鈴の頭の中には男との、それもどれもが関係性も結末も違う記憶が映る。

それのどれが正しいのかは分からない。もしかしたら、全部正解かもしれないし、全部偽りかもしれない。

だが、そんな事はどうでもいい。だって、確かな事が一つあるから。

 

 

 

 

 

 

「でも、そんな最低な人でも私は愛してますよ♡」

 

 

 

 

 

(紅美鈴)は、貴方を愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束、破っちゃったねぇ」

 

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