普通のデュエリスト   作:白い人

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それは未来へ繋がる剣

 青山遊里と花添愛華がデュエルアカデミアに旅立ってから2日。

 九十九遊馬の家には珍しくというか奇妙な事に沢山の人影があった。

 遊馬は勿論、幼馴染の小鳥や友人の鉄男、キャット、委員長、徳之助のナンバーズクラブのメンバー。

 凌牙や璃緒、ドルベ、アリト、ギラグ、ミザエル、ベクターなどの七皇組み。

 カイトにIV、III、Vなどのメンバーまでぎっしり揃っているのだ珍しいと言わずしてなんと言うかそんなレベルであった。

 ではどうしてこんなにも人が遊馬の家に集まっているのか。

 その原因は遊里にあった。

 小鳥が遊里が旅立つ直前に渡された少し大きめの箱。

 それを今いるメンバーが揃った時に開けて欲しいと頼まれていたからだ。

 色々と奇妙な願いではあったものの、小鳥は了承。

 全員に連絡を取り、こうして集まったのが今日なのである。

 

「しかし遊里の野郎、一体何を置いていきやがったんだ」

 

 遊里が残していったという箱を睨みつける凌牙。

 結局、遊里が卒業するまでに勝てた回数が一桁だった事に苛立っているのかもしれない。

 

「それにこれだけのメンバーを集めてから開けろとは奇妙な話だな」

 

 近くのソファに座っていたカイトも箱を見ながら呟いた。

 

「うーん、遊里さんは卒業生から在校生に送る品、とか言ってたけどなぁ」

「それなら尚更奇妙ですわね。私達はともかくIV達は関係ないじゃありませんか」

 

 鉄男の言葉に璃緒が答える。

 卒業生から在校生というのは分からなくもないが、それならば在校生に当てはまらないメンバーが多すぎる。

 

「だよな。俺達は青山遊里とは接点が全然ないぜ」

「確かにな」

 

 IVとVが頷く。

 あの事件の後、学園に通い出したIIIはともかくIVとVはまるで接点がない。

 だと言うのに今日呼ばれたメンバーに入っているのはどういう事なのだろうか。

 

「そういやギラグは今何やってんだ?」

「遊馬の師匠の六十郎の爺さんと一緒に色々とな」

 

 床に座って茶を飲んでいるアリトの言葉にギラグが答えた。

 人間として蘇ったギラグは学園の生徒になる事はなく決闘庵に居候して、歴史を調べたりしているのだ。

 因みに学園の生徒になったのはドルベとアリト、ベクターのみ。

 ミザエルはドラゴン伝説を調べる為にカイトの研究室に居候させてもらっている状態だ。

 

「それじゃあそろそろ開けまーす!」

「何が入ってるんだろうな!?」

 

 近況の情報交換から、遊里の野郎は鬼畜すぎるだろなどの愚痴大会の中、箱を弄っていた小鳥と遊馬から声がかかる。

 遊馬と小鳥にはいい物が入っている、とだけ遊里が伝えておいたので期待値は非常に高い。

 特に遊馬は何かカードなんじゃないかと思っている。

 それはあの夢の中で行ったデュエルと関係していたりするのだが。

 2人の周りにゾロゾロと集まってくる。

 皆、不審がっている部分はあるものの、中身には興味があるのだ。

 全員の視線の先には包装紙が取られたシンプルな箱が1つ。

 それの蓋がようやく開けられようとしていた。

 

「行きます!」

 

 小鳥の掛け声と共に箱の蓋が開けられる。

 すると遊馬の予想通り、そこにはカードが収められていた。

 スリーブで二重、三重に梱包されたカード。

 非常に高価なのか、と思って視線が集中した時、ようやくこの場にいる全員が気がついたのだ。

 

「え?」

「は?」

「……なっ!?」

「なん……だと……!?」

 

 そのカードの正体に気づいたメンバー全員が思わずといった声を漏らす。

 それは当然の事だ。

 これを見て驚かない方がおかしい。

 

「……ホープ?」

 

 遊馬の呆然とした声が全てを物語っていた。

 《No.39 希望皇ホープ》。

 遊馬とアストラルの始まりのナンバーズが箱に入っていたのだ。

 だが本物のホープは既にアストラルの手に戻り、アストラルは元の世界に帰還している。

 だというのにどうしてここにホープがあるのだろうか。

 しかもホープだけではなかった。

 呆然とカードを手に取った遊馬。

 小鳥がその下に他にも沢山のカードが入っている事に気づいたのだ。

 そして思わず、ぶちまけるように小鳥が箱の中をひっくり返す。

 すると箱から大量のカードが出てくるのだが、そのカード達を見てやはり呆然とするみんな。

 

「シャ、シャーク・ドレイク……!」

「《No.62 銀河眼の光子竜皇》……!」

「お、おい!オーバーハンドレッドナンバーズまであるぞ!」

 

 それぞれ縁のあるカードを手にとって驚愕の声を漏らしていく。

 ナンバーズは勿論の事だが、ドン・サウザンドの力が消滅した事により消滅した筈のオーバーハンドレッドナンバーズまでもがそこにあるのだ、驚愕するしかない。

 

「お、おい兄貴!」

「……何の力も感じられない。これはただのカードだ」

「ただのカード、ですか。V兄様」

 

 IVの慌てた声に反応してVがポツリと漏らす。

 IIIもまた《No.6 先史遺産アトランタル》を手に取りながら、Vの話を聞いていた。

 Vは《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》からはナンバーズ特有の力が何も感じられなかった。

 それだけではない。

 どのナンバーズからも力が感じられない。

 まるでそこらの店で買えるような普通のカード達だ。

 それだけではない違和感まで感じられるのだが、それが何かはVには分からなかった。

 

「……1つ気づいたのですけれど、このカード達、効果が微妙に違いませんか?」

「え?」

 

 璃緒の言葉に全員が一斉に手に握っていたカードに目を落とす。

 ぱっと見では同じように見える。

 見えるのだが。

 

「あーっ!ナンバーズでしか戦闘破壊されない効果がついてない!」

「何っ!?」

 

 遊馬の叫び声に全員が再び、カード効果に目を通す。

 これこそが違和感の正体。

 どのナンバーズにもこのカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されないという一文がないのだ。

 これでは普通のモンスター相手にも戦闘破壊されてしまう。

 それだけではない。

 

「おい、アビス・スプラッシュの効果が酷い事になってるんだが……」

「なんかセスタスが強化されてるぞ」

 

 一部のカードを除けば微妙に効果が弱体化しているのだ。

 まるで一般用に調整されたと言わんばかりだ。

 

「ランクアップマジックまであるウラ」

「カオスナンバーズのカードもありますね」

 

 ただのナンバーズ以外にもカオス化したカードや、バリアンズ・フォースなどのランクアップマジックまで入っている。

 わけがわからないよ、とばかりに大混乱に陥る。

 

「おい、誰か遊里の奴に連絡して聞いてみればいい」

「もうやってるけど、出ないんだよ」

 

 この事態を打開出来そうなのはやはり遊里本人に問いただす事だろう。

 が、出る様子がない。

 まるで説明するのを拒んでいるようだ。

 

「うーん、愛華さんも出ないなぁ」

「遊里に止められてる可能性がありますね」

 

 ならばと、小鳥と璃緒が傍にいる筈の愛華に連絡してみるがこちらも応答なし。

 遊里に言われて連絡を取らないようにしている可能性が高い。

 それぞれ、あーだこーだとナンバーズ達を見て議論していると遊馬のDゲイザーに一通のメールが届く。

 送り主は青山遊里。

 慌てて遊馬がメールを開いてみると、そこにはたった一言だけ書かれていた。

 

『知りたきゃ俺に勝ってみろ』

 

 はは、と遊馬に笑みが浮かぶ。

 遊里らしいな、と思ったからだ。

 

「遊馬、これ」

「小鳥?」

「遊里先輩からの手紙」

 

 2人で手紙を開いてみると、こちらもたった一言だけ。

 

『好きに使え』

 

 なんともシンプルな内容である。

 つまり、このカード達を使って俺を倒しに来い、と言っているのだろう。

 やはり遊里らしい内容だ。

 

「先輩らしいね」

「ああ」

「でも先輩、これを何処で手に入れてきたんだろう?」

 

 小鳥が首をひねるが、遊馬は遊里だから、と納得していた。

 あの夢世界でのデュエル。

 自分達が知らない召喚方法である、シンクロやペンデュラムを見せ付けてくれた遊里だ。

 実はナンバーズを持っていたと言われても何故かしっくりくる。

 だがやはり答えて貰わないと納得できそうにない。

 

「小鳥」

「どうしたの遊馬?」

「俺、強くなるよ。遊里を何度も倒せるように」

「負けっぱなしだもんね、遊馬」

 

 笑みが自然と浮かぶ。

 沢山聞きたい事が出来た。

 だからそれを聞きにいこう。

 遊里の前に立てる程、強くなって。

 

「バリアンズ・フォースも弱体化してないか、これ!?」

「見ろ、カイト!《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》なんてカードがあるぞ!」

「なんだと!!」

「俺のディザスター・レオのバーンダメージが1000になっている件について」

「この《No.63 おしゃもじソルジャー》で料理の腕は上がるのか!?」

「上がらないんじゃないかなぁ……」

「うおおおっ!ライオンハートも強化されてるぜ!」

「アリトだけなんかずるくねーか!?」

「わ、私のグローリアス・ヘイローが……」

「そういえば普通のカードって事は俺達にも使えるのか?」

「トドのつまり僕達もナンバーズ使いに!?」

 

 みんなそれぞれカードを見て色々と反応している。

 どうやら使うにしても1度、効果の再確認をしないといけないようだ。

 

「おーい、みんな!遊里が自分を倒したら教えてくれるってさ!後、カードは好きに使っていいって!」

 

 遊里の言葉に全員が目の色を変える。

 このカードを使って俺を倒しに来いという遊里のメッセージに気がついたらしい。

 その目にはリベンジの色に染まっている。

 

「へへ、勝ってやろうじゃないか!」

「ああ、あの時のリベンジをしてやるぜ!」

「今度こそ勝つ……!」

「なら今から行こうぜ、兄貴!」

「あちらに迷惑がかかる可能性が高いが……」

「それに効果の確認とデッキの再構築をしないと駄目でしょうね」

 

 今にもアカデミアに乗りこんでデュエルしそうな雰囲気である。

 そんな様子を見ながら遊馬もまた戦意が高揚していた。

 遊里とデュエルする。

 それはきっと楽しいものになるだろう。

 そしてまた追い詰めれば、またあのシンクロやペンデュラムが見られるかもしれない。

 

(へへ、待ってろよ遊里!)

 

 いつになるか分からないが、きっとまたデュエルをしに行く。

 アカデミアに旅立った遊里に向かってメールを送る。

 いつかデュエルをしに行く、と。

 それはきっと大変な事だろうし、遊里に勝つ事も大変だろう。

 だけど大丈夫だ。

 こんなにも沢山の仲間達と傍に自分を見てくれている人がいればきっとなんだって乗り越えられる気がしたからだ。

 だからいつもの言葉をかける。

 それがきっと未来へ繋がる言葉と信じて。

 

「かっとビングだ、俺!」




これで今度こそ終わりです。

20141112 脱字修正。

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