普通のデュエリスト   作:白い人

5 / 14
3 VS天城カイト

「遊里、特訓だ!」

「は?」

 

 唐突な遊馬の言葉に呆けた声を上げてしまう遊里。

 ここはハートランド学園の屋上。

 昼休みの時間、遊里はここの隅っこで食事を取る事がたまにあるのだが、今日はそんな偶にの日であった。

 そこにやってきたのはここ最近、知り合った九十九遊馬とその愉快な仲間達であった。

 

「……特訓?」

「おう」

 

 話が見えない遊里。

 一体何があったのか、やる気に満ち溢れていて説明してくれそうにもない遊馬ではなくその後ろにいるメンバーに目で質問をする。

 それに答えたのは一緒にやってきたであろう凌牙であった。

 

「お前は知らないだろうがこの間、バリアンの連中と戦ってきた」

「もしかして真月って奴がいない事に何か関係してるのか?」

 

 遊里の放った一言に凌牙だけではなく遊馬を含めた全員が驚いた表情になる。

 

「ゆ、遊里は真月の事を覚えているのか?」

「……?ああ」

 

 遊馬の震えた声に頷くと、やはり驚いた表情になる皆。

 どういう事か遊里が聞いてみると、真月の正体がベクターであり先日、色々あって倒してきたとの事。

 そして学園に戻ってくると真月零がいた痕跡が何一つ残っておらず、誰の記憶にも残っていなかったらしい。

 なるほど、と遊里は心の中で納得する。

 現■世界で真月の存在はどうなったのか疑問に思っていたのだが痕跡も記憶もなくなっていたのか。

 

「で、どうして特訓なんだ?」

「確かにバリアンを撃退する事には成功した。けど正直、ぎりぎりの戦いだったんだ」

「だから特訓か」

「ああ!もっと強くなるんだ!」

 

 やるぞー!と両手を大空にかかげる遊馬。

 元気一杯だな、と思うとふむ、と考え始める。

 特訓、とは何をする気なのかと思うがやはりデュエル三昧か。

 後はデッキの構築や戦術の練り直し。色々とやる事がある。ついでに言えば体を鍛える事だって大事だ。突っ込み?今更だ。

 

「そういう事ならいいけど、何かプランはあるのか?」

「おう!この事を話したら、場所を貸してくれるって言ってくれたんだ!」

「それに今週は連休があるだろ。そこを使って、な」

 

 遊馬の問いに凌牙が続いて答えてくれる。

 なるほど。プランはしっかりあるようだ。

 後はそこで先程、考えた通りデュエルの特訓をするのだろう。

 

「分かった。構わないがどうして俺を?」

 

 遊里は何回かバリアンの戦いに巻き込まれはしたしある程度の事情も知っているが、実質的には部外者だ。

 なのにどうして?

 そう遊里が疑問に思うのは当然の事であった。

 

「お前の実力は知っているし特訓相手にちょうどいいからな」

「そういう事!」

 

 2人の問いに納得する。

 そういう事ならば問題はない。

 

「分かった。参加させてもらう」

「おう!ありがとう!」

「後で場所の地図と日時を教えてくれ」

「ああ」

「んじゃみんな飯にしようぜ!」

「はーい!」

 

 遊里から色好い返事を貰えた事で和やかな雰囲気が流れる。

 思い思いに弁当を広げて食事を始めたメンバーを見ながら遊里はふと思う。

 これがずっと続けばいいのにな、と。

 しかし知っている。これから彼等には試練が待ち構えている事を。

 自分には何ができるんだろうな、と遊里は思った。

 かつて原■には関わらないと決めていた彼に変化が訪れていた証拠でもあった。

 その日の夜、遊里のDゲイザーに遊馬からメールが届いていた。

 特訓もとい合宿の場所と日時だ。

 場所は……ハートランドシティ中心にある塔。

 Dr.フェイカーの拠点である。

 

 

 

 

 

「今日はお招きいただきありがとうございます。どうぞこれを」

「おお、わざわざありがとう。今日はゆっくりしていくがいい」

「ありがとうございます」

 

 合宿初日。遊里がまずやった事はDr.フェイカーにお土産を渡す事であった。

 この場所を提供してくれたのがDr.フェイカーだと聞いていた為である。

 さて、そんなお土産を渡した後、案内にやってきたのは一体のロボットだ。残念ながらオービタル7ではないようだ。

 ロボットに案内されて辿り着いた場所は大きな部屋。ここならば大型モンスターを出しても問題ないだろう。

 中に入ると早速、誰かがデュエルをしているらしい。

 そこにいたは巨大な光の竜。

 あれは間違いなく……。

 

「銀河眼の光子竜か」

 

 天城カイトの操るエースモンスター。

 それが今、この場所に光臨していた。

 相手は遊馬だがどうやら遊馬が劣勢らしい。

 さすがは原■において、ただ1度も主人公に負けなかったライバルキャラなだけはある。

 その実力は間違いなくトップクラスであろう。

 遊里の到着に気づいたのは、デュエルを見守っていた凌牙であった。

 適当に挨拶すると、2人のデュエルを観戦する。他にも小鳥や璃緒などいつもメンバーも揃っているようだ。

 暫く観戦していると決着がつく。勝ったのはやはりカイトのようであった。

 

「うわぁー!また負けちまった!」

 

 ゴロンと後ろに倒れこむ遊馬。しかしその表情に暗いものは何もない。

 カイトとのデュエルを全力で楽しんだ証拠だろう。

 デュエルが終わればやってきた遊里に気づいたのだろう。遊馬が倒れたまま挨拶してくる。

 

「おっす遊里!」

「よう、惜しかったな」

「ああ。また負けちまったよ。でもぜってー次は勝つ!」

 

 飛び起きると同時にビシっとカイトに向けて宣言する遊馬。

 それを見たカイトは澄ました顔で。

 

「何度でもかかってくればいい」

 

 なるほど、クールな奴である。

 遊里がうむ、と頷いているとカイトの視線が遊里へと向く。

 何かしたのだろうか?と遊里が思うと、先にカイトが口を開いた。

 

「なるほど、お前が青山遊里か」

「ああ。はじめまして、知ってるみたいだが青山遊里だ」

「天城カイトだ。お前の事は遊馬達に聞くより知っていた」

 

 衝撃の一言である。

 はて、いつカイトに目をつけられるような事をしたのだろうか?

 

「前にナンバーズの所持候補者として上がった事がある。その時に知った」

「ナンバーズは持ってないぞ」

 

 正確に言えば先日、《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》を手に入れたのだが持ったままでいると乗っ取られそうだったので、その日の内に遊馬に渡してある。

 

「それって……」

「ああ」

「なるほどな」

 

 遊馬達は納得しているようだが遊里には話が見えてこない。

 しかし前、とは多分だがカイトがナンバーズハンターとして活動していた頃だろうとは想像がついた。

 ナンバーズは強いデュエリストの元に行きやすい。

 それならば強い人物をマークしていくのは至極当然の事である。

 尚、遊里がマークされた原因としては。

 

「過去にデュエル大会において10回連続優勝なんてやっていれば嫌でも目につく」

「10回連続優勝!?」

 

 カイトの一言に遊馬が驚愕した表情で遊里を見る。

 10回連続優勝など普通ではない。

 遊里は苦笑する。随分と前の話だ。

 

「懐かしいな」

「数年前に離れた地方で大会が集中した時期があった。その大会を総なめしたのが青山遊里という10歳の子供だったそうだ」

「あの時は若かったからな」

「おい15歳」

 

 凌牙の突っ込みを華麗に無視する。

 今、考えても随分とやんちゃしてた頃だな、と遊里は思っている。

 遊戯王の世界に来て、賞金ありの大会があると知って思わず調子にのって大暴れしたのだ。

 それからは自重して、大会にはほぼ出ていない。ワールド・デュエル・カーニバルも出た様子はない。

 

「なんで出なかったんだ?」

「面倒だった」

 

 酷い一言である。

 さて、遊里はカイトに改めて向き直る。

 

「で、それがどうかしたのか?」

「お前に興味があった」

 

 カイトはそれだけ言うと再びデュエルディスクを構えなおす。

 興味とは即ち。

 

「デュエルか」

「ああ」

「いいね、やろうか」

 

 見事なデュエル脳だが何、気にする事はない。

 それに遊里としてもカイトとのデュエルは興味があった。

 その実力は現■からして知っている。興味が出ないという方が嘘である。

 遊里もデュエルディスクを構える。

 そんな戦意溢れる2人の様子にギャラリーが沸く。

 お互いの実力の高さを知っているからだ。

 遊里とカイトが離れた場所につく。

 

「行くぞ!」

「ああ!」

『デュエル!!』

 

 デュエルが始まる。

 そんな様子を離れた場所で1人の女性が見ていた。

 

「もしかして彼は……」

 

 

 

 

 

「まずは俺のターン、ドロー!」

 

 先行を取ったのは遊里。

 しかしその心の表情はあまりよろしくない。

 

(手札がモンスターが多い。このタイミングで使える魔法もセットするものもないし……これかな)

 

 遊里の目の前に裏側表示でセットされたカードが現れる。

 

「俺はモンスターをセットしてターンエンドだ」

「俺のターン!」

 

 遊里がエンドすると同時にカイトがカードをドローする。

 そのまま流れるようにカイトは1体のモンスターを召喚した。

 

「俺は《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚する!このカードは自分フィールド上にモンスターがいない時、特殊召喚できる!」

 

 まばゆい剣戟と共に現れたのは光の剣士。

 レベル4の下級モンスターだがその攻撃力は2100。非常に強力なモンスターだ。

 普段のカイトならばここに更なるモンスターを召喚し、自身のエースを出すかエクシーズ召喚をしてくるであろう。

 実際、原■でも多くとった行動だ。

 しかし。

 

「行け、《フォトン・スラッシャー》!セットモンスターに攻撃!」

「破壊されたのは《ライトロード・ハンター ライコウ》だ。そしてリバース効果発動。ライコウがリバースした時、フィールド上のカード1枚を破壊する、破壊するのは《フォトン・スラッシャー》!」

「チッ!」

 

 光の剣士が斬りかかったが、そこに現れたのは白き獣。

 そこから放たれた光が光の剣士を飲み込み消滅させていった。しかし白き獣も力尽きたように消滅していった。

 しかしその力は代償が伴うものだ。

 

「そして俺はデッキの上からカードを3枚墓地に送る」

「……俺はモンスターをセットしてターンエンド」

 

 カイトの前にモンスターがセットされる。

 慎重である。

 少なくとも遊馬や凌牙達からそう見えていた。

 

「……カイトの奴、いつもより慎重じゃないか?」

「それだけあの野郎を警戒しているって事かもな」

 

 普段のカイトならば1ターン目から《銀河眼の光子竜》を出していてもおかしくはないのだから。

 

「俺のターン!」

 

 ドローしたカードを見て悪くないと、遊里は思う。

 

(さっき落ちたカードはネクガ、ブレスル、ライデン。落ちは悪くない、手札もようやくこいつが来てくれた)

 

 手札から1枚のカードを引き抜くと、そのままそれを発動した。

 

「俺は魔法カード、《ソーラー・エクスチェンジ》を発動!ライトロードと名のつくモンスター1枚を捨てて、カードを2枚ドローする!俺が捨てたのは《ライトロード・エンジェル ケルビム》!」

 

 ライトロードと名のつく天使が墓地に送られると、遊里のデッキから新たなカードが2枚手札に加えられる。

 よくある2:2の手札交換カードだ。

 だがそれだけではない。

 

「その後、俺はデッキの上からカードを2枚墓地に送る」

「デッキからカードを墓地に送り続けているだと……?」

 

 困惑するカイトの様子に遊馬達も同じ思いを抱いていた。

 自分からデッキ破壊をするようなものは見た事がない。

 逆に一番冷静なのは凌牙であった。これは凌牙自身が遊里が使うデッキの事をよく知っているからであり、最初に見た時は困惑したものだ。

 

(自らのデッキ破壊、あれこそがあのデッキの本領を発揮する為に必要な事だなんて誰が思いつくかよ)

 

 それと同時にカイトも冷静な頭でしっかりと相手のデッキを分析していた。

 

(奴は自分からカードを墓地に送っている。先程のライコウの効果を考えれば、カードを墓地に送る事に何か意味がある筈だ)

「俺は《ライトロード・サモナー ルミナス》を召喚。そしてその効果を発動!手札を1枚捨てて、墓地に存在するレベル4以下のライトロードと名のつくモンスターを1体、特殊召喚する!手札の《ネクロ・ガードナー》をコストに蘇れ《ライトロード・ウォリアー ガロス》!」

 

 戦場に現れたのは扇情的な衣装に身を包んだ女性であった。

 ルミナスが踊りのような儀式をすると、遊里の手札1枚を対価にして墓地から強靭な肉体を持つ戦士が蘇った。

 

(ライデンの本来の力を使えばあれを出せるが、使う訳にはいかないからな)

 

 レベル7であり白き枠から繰り出される天使の名を持つドラゴンがいるが、この世界においてシ■※ロ召喚は使えない。

 いや、使えるのだがその後が色々と問題が出てくるのは必至である。

 だからこそ蘇らせたのはライデンではなく、《ソーラー・エクスチェンジ》の時に落ちたガロスを蘇らせたのだ。

 

「バトル!ガロスでセットモンスターに攻撃!」

「俺のセットモンスターは《シャインエンジェル》!破壊され墓地に送られるがその効果を発動!デッキから攻撃力1500以下の光属性のモンスターを特殊召喚する!来い!《フォトン・チャージマン》」

 

 ガロスの槍が光の天使を一瞬にして破壊されるが、その天使は最後の力を振り絞りカイトのデッキに光の道を作り出す。

 その光の道を通って現れたのは光を溜め込み、己の力を上げる事が出来る戦士であった。

 その攻撃力は1000と決して高くはない。

 しかし攻撃力1850のガロスならばどうにかなるが、攻撃力1000しかないルミナスでは相打ちする事しか出来ない。

 さて、どうするか。相打ちを狙うかどうか遊里は手札を見ながら悩む。

 

(カイトの場にあまりモンスターは残しておくのは良くないが、奴のデッキは特殊召喚する方法も多い。ネクガもあるしここは墓地肥やしを優先するべきかな)

 

 墓地の溜まりは悪くないとは言え、十分とは言えない。

 ここは相打ちせずに次のターンに繋げる事にした。

 

「バトルフェイズを終了。俺はカードを1枚セットし、エンドフェイズに移行する。この時、ルミナスの効果を発動!デッキの上からカードを3枚墓地に送る!」

「やはり墓地にカードを送り続けるのか……!」

「ルミナスの効果でデッキからカードを3枚送り、更にガロスの効果が発動!ライトロードと名のついたモンスターの効果でデッキからカードが送られた時、更にカードを2枚墓地に送る。そしてその中にライトロードと名のつくモンスターがあった時、その数だけカードをドローする!」

「デッキ破壊と同時にドロー加速するだと……」

「でも凄い勢いでデッキが減ってる……」

 

 ルミナスの光によりカードが3枚送られ、更にその光に連動してガロスの効果によりカードが2枚墓地に送られる。

 それだけではない。

 

「ガロスの効果で送られたカードの中に《ライトロード・モンク エイリン》があったので1枚カードをドローするぜ」

 

 この1ターンで遊里は10枚もデッキを削った事になる。

 普通のデッキが40枚だとすると既に3割もカードがなくなった事になる。

 しかし遊里の表情に変化はない。

 それを見れば何かしらの意味があるのだと誰も気づくだろう。

 

「俺のターン、ドロー!俺は《フォトン・サークラー》を召喚!」

 

 カイトが1体のモンスターを召喚する。

 これでレベル4のモンスターが二体揃った事になる。

 となれば。

 

「俺はレベル4の《フォトン・チャージマン》と《フォトン・サークラー》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!!現れろ!《輝光帝ギャラクシオン》!!」

 

 二振りの剣を携えた銀河の竜を呼び出す事が出来る光帝が光臨した。

 その攻撃力は2000だが、そのカードの本領は効果である。

 

「俺はギャラクシオンの効果を発動!オーバーレイユニットを2つ使う事により、デッキから《銀河眼の光子竜》を特殊召喚する事が出来……っ!?」

「何っ!?」

 

 効果を使おうとオーバーレイユニットの力を剣に蓄えたその瞬間、ギャラクシオンの胸が次元の亀裂のような場所から現れたモンスターの手が貫いていたのだ。

 それのせいかギャラクシオンから光が消えていく。

 同時にデッキから輝いていた光の竜の反応も消えていく。

 

「罠カード、《ブレイクスルー・スキル》!このカードによりフィールド上のモンスター1体の効果をエンドフェイズまで無効化にする。これでギャラクシオンの効果を無効化にする」

「くっ!」

「カイトの《銀河眼の光子竜》を封じられたか……」

 

 《銀河眼の光子竜》はカイトの切り札。

 それを出す事が出来ないとは……。

 

「だがギャラクシオンの攻撃力はそちらよりも上だ!行け、ギャラクシオン!ルミナスを攻撃!」

「くっ!」

 

 ギャラクシオンの剣がルミナスを捕らえる。

 攻撃力1000では2000のギャラクシオンに対して成す術はない。一瞬にして破壊されてしまった。

 これで遊里のライフは3000に減少する。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 カイトの場にはオーバーレイユニットを使い切ったギャラクシオンとセットされた魔法・罠カードが1枚。

 さて、どうするべきか。

 

「……よし、俺は《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚する!」

 

 杖を携えた美しき女魔術師がガロスの横に現れる。

 攻撃力は1700とギャラクシオンには届かないが、これでレベル4のモンスターが二体揃った事になる。

 

「まずはライラの効果を発動!相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する!」

「させるか!俺は速攻魔法《月の書》を発動!このカードはフィールド上のモンスター1体を裏側守備にする事が出来る。ライラに対して発動!」

 

 魔力で魔法・罠カードを破壊しようとしていたライラに月の魔力が襲い掛かる。

 驚きの表情を見せるが、ライラはあっという間に月の力により力を封じられ裏側表示に戻されてしまった。

 攻撃表示でこのターンに召喚した以上、ライラは表示形式を変更する事が出来ない。

 これによりエクシーズ召喚も行う事が出来なくなってしまった。

 

「やる……。俺はこのままターンエンドだ」

「ガロスは攻撃表示のままなのか?」

 

 そのままエンドした遊里の行動に疑問を覚える遊馬。

 明らかに何かを誘っているようにしか見えない。

 そんな問いに答えたのは傍で見守っていたアストラルであった。

 

『《オネスト》だろうな』

「そう考えるのが妥当だろうな」

「ああ、なるほど!」

 

 《オネスト》。遊里が何度か使用している手札から発動する強力なモンスターだ。

 凌牙は何度もこれで倒された記憶があるし、遊馬達も最近目の前で見た事からはっきりと覚えていた。

 つまりガロスを攻撃表示のままにしているのは《オネスト》による撃退を狙っての事だろう。

 もしくはそれ自体がブラフなのかもしれない。

 さて、カイトはどうするのだろうか。

 

「俺のターン」

 

 そのカイトは手札を見ながらどうするべきか考えていた。

 先程のドローでやるべき事は見えてきたが、確かに攻撃表示のままのガロスに何かあると感じ取っていた。

 かと言って、このまま攻撃しないのもやはり問題だ。

 ならば臆する事はない。

 己の魂を信じるだけである。

 

「俺は手札の《フォトン・ケルベロス》を捨てて魔法カード《フォトン・トレード》 を発動!カードを2枚ドローする!」

 

 遊里が先程使った《ソーラー・エクスチェンジ》と同じく手札交換用のカードである。

 光の獣が墓地に送られた変わりに新しいカードが2枚手札に舞い込む。

 その2枚を見た瞬間、ニヤリとカイトが笑ったような気がした。

 

「俺の場にエクシーズモンスターがいる時、《フォトン・スレイヤー》を守備表示で特殊召喚する!」

 

 光の騎士とも言うべきモンスターが守備形態でフィールドに現れる。

 攻撃力2100という数値を持っていながら、残念ながら現状その力を発揮する事はないだろう。

 しかし遊里の目つきが変わる。何が来るか察したのだろう。

 

「俺は攻撃力2000以上のモンスターを2体リリース!!」

 

 《輝光帝ギャラクシオン》と《フォトン・スレイヤー》が光の渦となって消えると共にカイトの手に赤い十字架を形取った代物が現れる。

 それを上空に投げる。

 

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!現れろ、《銀河眼の光子竜》!」

 

 十字架を中心に光が集まるとその中心から光の竜が現れる。

 美しい閃光を放ちながら佇む《銀河眼の光子竜》。

 ガロスも裏側表示のライラもその力の強さに圧倒されている。

 

「行け!《銀河眼の光子竜》!ガロスに攻撃!破滅のフォトン・ストリーム!!」

「俺は墓地にある《ネクロ・ガードナー》の効果を発動!こいつを除外して攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 光の竜から放たれた破滅の本流がガロスへと向かうが、その前に現れたのは幻影となった鎧を身にまとったモンスターだ。

 それがガロスに放たれた破滅の光を完全に防ぎきっていた。

 

「くっ……」

 

 《銀河眼の光子竜》には互いのモンスターを除外する効果はあるが、現状使う利点はない。

 素直に攻撃を防がれる事にする。

 しかし遊里の場にレベル4のモンスターが2体残ったままだ。《銀河眼の光子竜》は対エクシーズモンスターの効果を持っているが、このままにしておくのは正直心もとないのが本音である。

 だが悲しいかな、カイトの手札にセットできるカードはない。

 

「……俺はこのままターンエンド」

「俺のターン!俺はライラを反転召喚する!」

 

 月の力で封じられていた魔術師が再び現れる。

 しかし相手は攻撃力3000の光の竜。2体のモンスターをもってしても勝つ事は出来ない。

 

「俺はレベル4のライラとガロスでオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い《鳥銃士カステル》!」

 

 銃を持った鳥人のようなモンスターが現れる。

 しかし攻撃力は2000とやはり攻撃力3000の《銀河眼の光子竜》には及ばない。

 だがそれは攻撃力だけの話だ。

 

「カステルの効果を発動!オーバーレイユニットを2つ使い、表側表示のカード1枚をデッキに戻す!俺が選択するのは当然!」

「くっ、ギャラクシーアイズ!」

 

 カステルが持つ銃にオーバーレイユニットの光が2つ集うと、銃を発射。その銃弾は《銀河眼の光子竜》の中心部をあっさりと捕らえた。

 それと同時に先程まで圧倒的な力を保持していた光の竜がデッキへと送り返される。

 これでカイトの場には何もカードがない状態だ。

 

「カステルでダイレクトアタック!」

「ぐっ、うぅっ!」

 

 カイトのライフが一気に半分の2000に減らされる。

 だがカイトの目から光が消える事はない。この程度のピンチなら慣れたものだ。

 

「カードをセットしてターンエンド!」

「俺のターン!俺は《フォトン・クラッシャー》を召喚!更に攻撃力2000以上のモンスターがいる時、《オーバーレイ・ブースター》を特殊召喚する事ができる!」

「ん……ってあ!」

 

 巨大な棍棒のようなものをもった戦士と背中にブースターを背負った戦士が現れる。

 遊里は後者である戦士が攻撃表示のままで特殊召喚された事に驚くが一瞬にしてその理由を悟った。

 あれはO■G化されて調整されたものではなく本来の姿なのだ。だからこそ攻撃表示のままなのだろう。

 

「まず《フォトン・クラッシャー》でカステルを攻撃!」

「相打ちだ……!」

 

 銃と棍棒で撃ちあい殴りあう。一瞬にして攻撃力2000同士のモンスターはその姿を散らす事になった。

 だが攻撃はまだ終わっていない。

 

「そして《オーバーレイ・ブースター》でダイレクトアタック!」

「俺は墓地の《ネクロ・ガードナー》を発動!攻撃は無効だ!」

 

 2枚目の《ネクロ・ガードナー》が除外され攻撃を防ぐ。

 しかしこれで墓地の《ネクロ・ガードナー》は消費された事になる。

 

「ターンエンドだ」

「俺のターン、《《ライトロード・アーチャー フェリス》を捨てて《ソーラー・エクスチェンジ》を発動!2枚ドローして2枚墓地に送る……」

 

 再び手札交換を行うが、遊里の表情は暗い。

 今ので墓地に《ブラック・ホール》と《大嵐》が落ちてしまったのだから当然と言えば当然だが。

 現状、展開できるような手札ではない。

 ここは逃げの一手だと分かっていてもモンスターをセットしてエンドする事しか出来ないでいた。

 

「モンスターをセットしてターンエンド」

「俺のターン、《オーバーレイ・ブースター》でセットモンスターを攻撃!」

「《ネクロ・ガードナー》だ」

「……ターンエンドだ」

 

 カイトもまた動けないでいた。

 手札は悪くはないが、展開する事ができないでいた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローしたカードを見て遊里の目に力が入る。

 それを見て何かが来ると一瞬で理解する。カイトだけではなくギャラリーの方にも力が入る。

 

「俺は魔法カード、《おろかな埋葬》を発動。自分のデッキからモンスターを1体、墓地に送る。俺が送るのは《ライトロード・ビースト ウォルフ》」

「自分のモンスターを墓地に?」

「ああ、見てな」

 

 ただ1人、ライトロードデッキを知っている凌牙は何をするのかすぐに理解した。

 ウォルフと言えば……。

 

「この時、《ライトロード・ビースト ウォルフ》の効果が発動する!こいつがデッキから墓地に送られた時、こいつを特殊召喚する!」

「なんだと!?」

「蘇れ《ライトロード・ビースト ウォルフ》!」

 

 白い獣戦士が墓地から蘇る。

 攻撃力は2100。《オーバーレイ・ブースター》を上回った。

 

「更に《ライトロード・ウォリアー ガロス》を召喚する」

「これで先輩の場にはレベル4のモンスターが再び2体……」

「来るか……!?」

 

 攻撃力2100と1850のモンスター。

 両方で攻撃すれば、カイトに大ダメージが入るがそれでも50というぎりぎりの数値が残る。

 勿論、そんな中途半端な数値を遊里が残すような真似をする筈もない。

 

「俺はガロスとウォルフでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 ガロスとウォルフが光に消えて新たな力を呼び起こす。

 しかしそこから現れたのはライトロードを象徴する光ではない。

 

「これは……闇か!?」

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 反逆を司る闇のドラゴンが光臨した。

 しかし攻撃力は2500と総合ダメージは先程よりも低い。

 ならばその効果こそが本命。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分だけこのモンスターの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の翼が開くと雷のような光線が《オーバーレイ・ブースター》に襲い掛かると縛り付けるように拘束する。

 すると力が抜けるように《オーバーレイ・ブースター》が沈黙すると、その力を吸収した闇のドラゴンが咆哮を上げる。

 

「これで《オーバーレイ・ブースター》の攻撃力は1000。対して《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》は3500」

「こいつが決まれば遊里の勝ちだ」

「す、すげぇぜ!」

「行くぞ!ダーク・リベリオンの攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイ!」

「決まったか!?」

 

 雷の翼を纏って、アゴ下にある刃で襲い掛かる。

 これが決まれば2500のダメージ。カイトの敗北である。

 しかしこれでカイトが負ける筈もない。

 

「俺は手札から《クリフォトン》を発動!ライフを半分にしてこのターン自分が受ける全てのダメージは0になる!」

「チッ、だが《オーバーレイ・ブースター》は破壊だ!」

 

 反逆の牙が《オーバーレイ・ブースター》を破壊するも、カイトに襲い掛かるダメージは《クリフォトン》が発生する光の障壁により無効化されている。

 しかしこれでカイトの残りライフは1000。

 下手なモンスターを出すのが難しくなってきた数値だ。

 

「仕留めそこなった……これでターンエンドだ」

「俺のターン!俺は魔法カード《逆境の宝札》を発動!相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない時に発動できる。そしてデッキからカードを2枚ドローする」

「……欲しいな、あのカード」

 

 カイトが発動したカードを見てぼそりと遊里が呟く。

 色々なデッキに対して使えるし、手札アドも稼げるドローソース。欲しくない訳がない。

 

「よし、俺は速攻魔法《ギャラクシー・ストーム》を発動!オーバーレイユニットがないがエクシーズモンスター1体を選択して破壊する!」

「くっ、ダーク・リベリオンが……!」

 

 反逆のドラゴンが一瞬にして破壊される。

 ここでドローしてくるカイトのドロー力の強さにさすがと言わざるをえない遊里である。

 

「そして《デイブレーカー》を召喚!」

 

 奇妙な形の剣を持った光の戦士が現れる。

 本来、特殊召喚された時に発動する効果を持っているが今は残念ながらその効果を発動する事はない。

 しかしそれでも十分だ。

 

「《デイブレーカー》でダイレクトアタック!」

「くっ、通るぜ……」

「これでターンエンドだ」

 

 これで遊里のライフも1300になった。

 カイトの操るギャラクシーアイズの攻撃力を考えれば残りライフが一瞬で消し飛ぶ可能性がある。

 迂闊な行動ができなくなったのは遊里も同じだ。

 

「俺のターン、ドロー……よし、このタイミングで来たか!俺は墓地に眠る《裁きの龍》と《カオス・ソーサラー》を除外!」

 

 序盤に落ちてしまった切り札を除外する。

 それを聞いて一気にカイトの警戒心が高まる。

 光と闇を除外。これだけ聞けばあるカードを思い出させるには十分すぎた。

 

「俺は《カオス・ソーサラー》を特殊召喚する!」

「……さすがに開闢ではなかったか」

 

 若干だがカイトの声に安堵のようなものが混ざったのをなんとなくだがオービタル7は感じ取っていた。

 それ程までに強力なカードなのである。

 だが侮るな。《カオス・ソーサラー》とて決して弱いカードではないのだ。

 

(しかしどうするかな。除外するかライフを削るか……)

 

 《カオス・ソーサラー》には表側表示のモンスターを除外する力を持っている。

 その効果を使えばカイトの場のモンスターは次元の彼方に消え去るが攻撃はできなくなる。

 本来ならばここで追撃のモンスターを出したい所ではあるが、残念ながら手札に追撃として出せるモンスターはいない。

 《オネスト》の事を考えれば除外してもいいのだが、残りライフを考えれば攻撃してライフを削る選択肢も悪くはない。《デイブレーカー》自体は単独ではそれ程、強力なカードではないのだから。

 数秒の思考の後、遊里が出した結論は。

 

「《カオス・ソーサラー》で《デイブレーカー》を攻撃!」

「くっ」

 

 《カオス・ソーサラー》の次元の歪みのようなものが、《デイブレーカー》を襲うとねじ切りられるように破壊される。

 これでカイトのライフはわずか400。本格的に追い詰められたと言っていい。

 

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 カイトの手札は4枚。逆転するには十分すぎる枚数だが……。

 

「魔法カード《フォトン・サブライメーション》を発動!自分の墓地にあるフォトンと名のつくモンスターを2体除外してカードを2枚ドローする!除外するのは《フォトン・サークラー》と《フォトン・ケルベロス》!」

 

 2体のフォトンモンスターが次元の狭間に消えると、そこから発生したエネルギーがカイトのデッキからカードを2枚ドローさせる。

 これで手札は5枚。

 因みにそれを見て、遊里が羨ましそうに見ていたのは内緒だ。

 

「行くぞ!魔法カード《戦士の生還》を発動!墓地から戦士族モンスターを1体、手札に戻す。俺が戻すのは《フォトン・スラッシャー》!そしてそのまま《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚する!」

 

 光の剣士が生還すると同時に再びフィールド上に登場する。

 だが攻撃力2300の《カオス・ソーサラー》の敵ではない。

 勿論、カイトには織り込み済みだ。

 

「更に《フォトン・デルタ・ウィング》を召喚する!」

「これでカイトの場にレベル4のモンスターが2体揃った!」

 

 戦闘機のようなモンスターが光の剣士の横に並び立つ。

 ここまでくれば次の行動は誰にでも理解できた。

 

「レベル4の《フォトン・スラッシャー》と《フォトン・デルタ・ウィング》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い《輝光子パラディオス》!」

 

 光の貴公子が光臨する。

 その攻撃力は2000だが当然、その効果がそれを補う。

 

「パラディオスの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターの攻撃力を0にし、このカード以外の表側表示の効果を無効化にっ!?」

「やらせないぜ、《ブレイクスルー・スキル》だ。効果は分かってるよな」

「ああ。だがまだ終わりではない!墓地の《オーバーレイ・ブースター》の効果を発動!こいつを除外してオーバーレイユニットを持ったエクシーズモンスター1体を選択する。選択したモンスターの持つオーバーレイユニットの数かける500アップする!」

「これでパラディオスの攻撃力は2500か……!」

「その通りだ!行け、パラディオス!《カオス・ソーサラー》を破壊しろ!」

(どうする……?)

 

 遊里は墓地に眠る最後の《ネクロ・ガードナー》で攻撃を防ぐか悩む。

 攻撃を防げば次のターンにパラディオスを除外する事が出来る。

 が、そこまでだ。

 次のターンにもモンスターを引き込めなければ再び攻撃力2300のモンスターを立たせたままになる。今度は防御カードなしでだ。

 数秒で思考を終わらせる。

 

「《カオス・ソーサラー》が破壊される」

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 これで遊里の場にはモンスターも魔法・罠もなし。

 逆にカイトの場にはパラディオスとセットカードが1枚。

 カイトが有利そうに見えるが、残りライフはわずか400。遊里もまた残りライフは1100しか残されていない。

 今の所、互いにモンスターを繰り出して直撃は避けているも、それがなくなり無防備になれば一瞬でライフは0になるだろう。

 それを見ている遊馬達の胸が熱くなってくる。

 熱い2人の攻防に燃え上がらない方がおかしいのだ。

 

「……俺のターン、ドロー!」

 

 遊里がドローしたカード。

 それを見た遊里が初めて表情を変える。それは勝利を確信したような笑みに見えた。

 

「行くぜ!俺の墓地にライトロードと名のつくモンスターが4種類以上いる時、こいつを手札から特殊召喚する事ができる!」

「遂に来るか、ライトロードの真の切り札!」

「真の切り札!?」

 

 凌牙の声に遊馬達が反応する。

 先程出した《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》以外にも切り札があるというのか。

 

「ライトロードの屍を超え!降臨せよ!《裁きの龍》!!」

 

 審判を下すライトロードの龍が光臨した。

 その攻撃力は3000。

 カイトの《銀河眼の光子竜》にも負けていない数値だ。

 だがそれ以外にも力がある。

 

「《裁きの龍》の効果を発動!ライフを1000支払って、このカード以外のフィールド上のカード全てを破壊する!」

「なんだとぉ!?」

 

 ライフ1000というコストを払うも、その効果は絶大だ。

 モンスターも魔法や罠も関係なく破壊されれば、今度こそカイトは丸裸だ。

 だがまだ勝利の女神はカイトを見放していない。

 

「俺は罠カード《ミラーシェード》を発動!ライフを半分支払ってこのターンの自分への戦闘ダメージは0になる!」

「くっ、どうしようもないな」

 

 ライフ半分という対価を支払い、カイトの周囲に光の結界が展開される。

 これでこのターン、戦闘ではダメージを与える事は出来ない。

 それと同時に裁きの光が放たれ、パラディオスが一瞬で破壊される。

 だが光の貴公子はただ破壊されるだけではないのだ。

 

「そして破壊された《輝光子パラディオス》の効果でカードを1枚ドローする!」

「カードを1枚セットしてエンドフェイズに移行、《裁きの龍》の効果でデッキの上からカードを4枚墓地に送る」

 

 落ちていくカードを見て顔を顰める。

 落ちたのは《ライトロード・メイデン ミネルバ》に《ライトロード・ドラゴン グラゴニス》に加え《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》や《異次元からの埋葬》までもが墓地に送られた。

 前者はともかく後者2つが落ちたのは痛い所だ。

 

「……墓地に落ちた《ライトロード・メイデン ミネルバ》の効果発動。更にカードを1枚デッキの上から墓地に送る」

 

 更に落ちたのは《オネスト》。

 これもまた手札に欲しかったカードだ。

 今ので決められなかった事を考えると、流れが悪く感じられる。

 

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 しかし追い詰められているのはカイトも同じ。

 このターンでどうにかしなければ敗北は必至であろう。

 そしてそんな中、ドローしたのは……。

 

「行くぞ!俺は《銀河眼の光子竜》をコストに《トレード・イン》を発動!レベル8のモンスターを捨てる事でカードを2枚ドローする事ができる!」

「えっ、《銀河眼の光子竜》を捨てた!?」

「どうして……?」

 

 《銀河眼の光子竜》はカイトが自らの魂とまで評したカード。

 それを墓地に送るなんて考えられなかった。

 しかしそれこそが《銀河眼の光子竜》を出す為に必要な行為だとしたら?

 

「来たか!俺は《死者蘇生》を発動!蘇れ、我が魂!《銀河眼の光子竜》!」

 

 墓地から光の竜が再び舞い戻る。

 なるほど。これならばリリース要員など必要なくフィールドに特殊召喚する事ができる。

 だがこれだけでは足りない。

 

「更に魔法カード《銀河遠征》を発動!自分フィールド上に《銀河眼の光子竜》が存在する場合、自分のデッキから《銀河騎士》1体を特殊召喚できる!」

 

 銀河の道を通って、銀河の騎士が戦場に現れる。

 これで攻撃力3000と2800のモンスターが2体揃った事になる。

 このまま攻撃すれば《銀河眼の光子竜》の効果で《裁きの龍》を除外して《銀河騎士》でダイレクトアタックすれば勝ちだろう。

 

(だが奴の墓地には3枚目の《ネクロ・ガードナー》が残っている)

 

 例え除外できたとしても《銀河騎士》の攻撃は通らないだろう。

 そして返しのターンに《銀河騎士》を破壊されればこちらの負けだ。

 攻撃に対する備えは用意できるが、やはり攻撃力3000の《裁きの龍》を残しておくのは厄介だ。

 ならば。

 

「そして魔法カード《デステニー・オーバーレイ》を発動!」

「《デステニー・オーバーレイ》?」

 

 遊里には聞きなれないカードだ。

 だが確か何かあったような……。

 

「相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターを選択して発動できる。選択したモンスターを素材にして俺はエクシーズ召喚する事ができる!」

「なん……だと……!?」

「フィールド上にはレベル8の《銀河眼の光子竜》に《銀河騎士》、そして遊里の《裁きの龍》の3体!」

「これはあれが来るぞ!」

 

 驚愕一色に染まる遊里。

 そして思い出す。あれはO■G化されていないカード。

 確かにそれならば遊里は持っていないし、その存在に関する記憶も希薄だろう。

 しかしそんなものはデュエルには関係ない。無慈悲に3体のモンスターが光に包まれオーバーレイネットワークを構築していく。

 するとカイトが再び巨大な、そして先程とは違う槍のパーツを取り出す。

 気がつけばカイトの体も赤く染まっているではないか。

 

「逆巻く銀河よ、今こそ怒涛の光となりて、その姿を現すがいい!降臨せよ、我が魂!《超銀河眼の光子龍》!!」

 

 《青眼の白龍》や《サイバー・エンド・ドラゴン》などと同じ系譜。

 三つの首を持った紅の光を放つ龍が光臨した。

 それと同時に遊里のフィールド上にはカードが1枚セットされているだけになる。裁きを下す龍の姿は何処にもない。

 

「《超銀河眼の光子龍》の攻撃!」

 

 本来ならば幾つかの効果を持っている《超銀河眼の光子龍》だがそれは対エクシーズモンスター用のものが多く、現状ではその力を発揮する事はない。

 だが攻撃力には関係ない。

 4500という怒涛の数字は遊里を倒すには十分すぎる量だ。

 三つに増えた龍から怒涛の光が遊里へと放たれる。

 だが。

 

「アルティメット・フォトン・ストリーム!」

「まだだぁ!墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して攻撃を無効にする!」

 

 三度、カイトの攻撃を防ぐ《ネクロ・ガードナー》。

 だが今度こそ全て使い切った。

 除外したカードを戻す《異次元からの埋葬》も既に墓地に送られている以上、もう使う事は出来ないだろう。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 さて、困った事になったなと遊里は呻く。

 相手の場には攻撃力4500のモンスター。

 あれを対処するには《裁きの龍》やカオスモンスターが必要だ。

 だと言うのに開闢とソーサラーは全て墓地に送られているし、《裁きの龍》も2体墓地や除外されており残り1枚だ。

 そして遊里のライフはたった100。その効果を使う事すら出来ない状態だ。

 カイトのライフも残り200だが、攻撃力4500のモンスター相手では非常に高い壁だと言っていい。

 後は手札補強しつつ墓地のカードを回収できる《貪欲な壺》だが残念ながら先日、デッキから抜いており使う事はできない。

 となると。

 

(《オネスト》引きたい所だが……)

 

 オネストを引けばなんとかなる可能性はある。

 しかし都合よく引けるものか。

 

(まぁ、考えても仕方ないか。ドローしてから考えよう)

 

 ドローする前に考えても仕方ないと遊里がカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは……《オネスト》ではない。

 しかし強力なカードには違いない。

 さて、どうするかと自分の墓地を確認する遊里。

 そこである事に気づく事になる。

 

「……ん?」

 

 あるカードの枚数を確認する。

 2回程数えなおせば、なるほど足りている。

 

「行くぜ天城カイト!勝つのは俺だ!」

「来るがいい、青山遊里!」

「魔法カード《死者蘇生》を発動!」

「ここでか!」

 

 では蘇らせるモンスターは何か?

 《裁きの龍》は手札から自身の効果でしか特殊召喚できないし、カオスモンスターの大半も蘇生条件を満たしていない。1枚蘇生できるが出してもこのターン、カイトを倒せる訳でもない。

 ならば何か?

 

「答えはこいつだ!蘇れ《ライトロード・ドラゴン グラゴニス》!」

「なんだと!?」

 

 蘇ったのは《裁きの龍》よりも弱いだろうドラゴン。

 なぜこいつを?

 その答えは非常に簡単であった。

 

「こいつは墓地にあるライトロードと名のつくモンスターの種類だけ攻撃力と守備力が300アップする!」

「何、それでは……?」

「俺の墓地に眠るのは!」

 

 《ライトロード・ハンター ライコウ》。

 《ライトロード・アサシン ライデン》。

 《ライトロード・エンジェル ケルビム》。

 《ライトロード・パラディン ジェイン》。

 《ライトロード・モンク エイリン》。

 《ライトロード・サモナー ルミナス》。

 《ライトロード・ウォリアー ガロス》。

 《ライトロード・マジシャン ライラ》。

 《ライトロード・アーチャー フェリス》。

 《ライトロード・ビースト ウォルフ》。

 《ライトロード・メイデン ミネルバ》。

 合計11種類のモンスター達。

 つまり。

 

「攻撃力と守備力が3300アップして、グラゴニスの攻撃力は5300だ!」

「《超銀河眼の光子龍》をも上回っただと……!?」

 

 その攻撃力だけなら《裁きの龍》すら及ばない数値になっている。

 《超銀河眼の光子龍》も敵ではない。

 

「行くぞ!グラゴニスの攻撃!奴を噛み砕け!」

「まだだ!罠カード《光子化》を発動!攻撃してきたモンスター1体の攻撃を無効にしてその相手モンスターの攻撃力分だけ自分フィールド上に存在する光属性モンスター1体の攻撃力を次の自分のエンドフェイズ時までアップする!これでグラゴニスの攻撃は無効化になり《超銀河眼の光子龍》の攻撃力は9700になる!」

「いいや、これで終わりだ!罠カード、《トラップ・スタン》を発動!このターン、このカード以外の罠カードの効果を無効化にする!これで《光子化》は無効化!」

 

 光子になりその力を吸収しようとしていた《超銀河眼の光子龍》が強い衝撃を受ける。

 すると先程までの力が消滅している。

 こうなれば逃げ場は……もうない。

 

「終わりだ、グラゴニス!《超銀河眼の光子龍》を攻撃!」

「ぐっぅぅっ!」

 

 正義のドラゴンが光の龍を噛み砕き散らす。

 この一撃でカイトのライフが0になる。

 勝ったのは遊里だ。

 

 

 

 

 

「お疲れさん」

「ふん……」

 

 最後の一撃で倒れこんだカイトに手を伸ばす遊里。

 悪態をつきながらも、その手を握ってカイトは立ち上がった。

 

「一つ言っておく」

「おう」

「次は勝つ」

 

 短いカイトの言葉に遊里が頷く。

 認めたのだろう遊里の事を。

 

「はっ、そう簡単に行くかな」

「凌牙は何連敗だったかな」

「……言うな」

 

 煽ろうとした凌牙だったが遊里の言葉にあっさりと沈黙する。

 似たような台詞を吐いて、ボコボコにされた事の方が多いのだから当然か。

 先程のデュエルを見て思う事があったのだろう。

 遊馬はやる気満々でやるぞー!と叫んでいるし、他のメンバーも色々カードを弄りだしている。

 それを見て遊里は思う。楽しい合宿になりそうだな、と。

 

 

 

 

 

 尚、速攻で挑んできた遊馬と凌牙をあっさり返り討ちにしたのはいつもの光景である。

 

「ボチヤミサンタイ」

「おいばかやめろ」

 

 ダムド様は強かった、ただそれだけである。




98話~99話ぐらいでの話。

おまけ
・フォトン・トレード
フォトン版手札交換カード。
OCG化されるかと思ったがそんな事なかった。

・オーバーレイ・ブースター
原作だと守備表示にする必要なくそのままアタッカーとして使えた。
ついでに墓地に送られたターンも効果を使えたりした。

・逆境の宝札
相手の場に特殊召喚されたモンスターがいて自分フィールドにモンスターがいない時に2枚ドローできるカード。
非常に優秀な効果だが、OCG化される事はないであろう宝札カードである。

・輝光子パラディオス
効果はほぼ一緒だが素材を取り除くのは1つでいい上に無効化する範囲がパラディオス以外の表側表示のカードが全部だったりする。
弱体化されるのは当然だった模様。

・クリフォトン
ライフを半分払って戦闘・効果ダメージを0にする効果を持っている。
フォトンモンスターを捨てれば回収もできたりした。

・ミラーシェード
ライフを半分払って発動し、戦闘ダメージを0にする効果を持っている。
劣化クリフォトンとか言ってはいけない。

・銀河遠征
銀河眼の光子竜がいる時に銀河騎士を呼び出すカード。
原作版は非常にピンポイントすぎるカード。OCG化のさいに強化された。

・デステニー・オーバーレイ
レベルが同じなら相手モンスターもエクシーズ素材にする事ができるカード。
ぶっちゃけこれが使いたかっただけ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。