普通のデュエリスト   作:白い人

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4 VS神代凌牙

 九十九遊馬が失われたアストラルを救いにアストラル世界へと向かっていたその頃。

 神代凌牙はハートランドシティにある展望台にいた。

 

「……」

 

 少し前から凌牙は1つの悩みを抱えていた。

 それは己がバリアンなのではないかという事だ。

 遺跡での出来事。

 クラゲ野郎の言葉。

 実家にあった紋章。

 数々の要素が凌牙がバリアンだという事を証明していた。

 そしてバリアン世界に残されているかつての仲間達の魂。

 それを見て決心した。

 凌牙はバリアン世界の1人。

 バリアン七皇のナッシュになると決めたのだ。

 そして今、バリアン七皇が揃った以上、人間世界に攻め込むと決めていた。

 しかしその前にナッシュ、いや神代凌牙にはやるべき事があった。

 だからこそこんな誰も来る事がないような展望台で人を待っているのだ。

 

「悪いなドルベ……」

 

 ポツリとナッシュが不在であった間、バリアン世界を守っていた男に無意識のうちに詫びる。

 だがそれでもこれはやらなくてはいけない事なのだ。

 自分自身、神代凌牙としての決着をつけなければならない。

 

「……来たか」

「ああ、遅くなって悪かったな」

 

 凌牙が振り向くと、展望台の入り口に1人の男が立っていた。

 青山遊里である。

 真剣な表情の凌牙に対して、遊里はいつもの友人に会いにきた気軽さを現すような笑顔である。

 その笑顔を見てチクリと凌牙の心が痛みを上げる。

 未だに凌牙を友人だと思っている遊里を裏切るような行為をこれから行うのだから。

 

「どうしたんだよ、急に呼び出して」

「悪いな。どうしてもやらなくちゃいけない事が出来た」

 

 おもむろに凌牙が言葉を発すると、遊里の表情もまた真剣なものに変わる。

 ただ事ではない事に気づいたらしい。

 

「それは最近のお前の悩み事に関する事か?」

「……ああ」

 

 やはりと言うべきか気づかれていたらしい。

 確かにここ最近は自分自身の事について悶々とした日々を送っていたのだから当然と言えば当然かもしれないが。

 

「で、俺を呼びだした理由は?」

「お前と本気のデュエルを望む」

「……」

「手加減も何もいらねぇ。俺と本気のデュエルをしてくれ」

「いつだって俺は本気だったぜ」

「ああ、分かってる。だがデッキは別だろう」

 

 凌牙の言葉に、遊里が黙る。

 勿論、今までデュエルしてきて遊里が手加減などをしてきた事がないのは凌牙も知っている。分かっている。

 だがデッキ。デッキだけは別だ。

 遊里は色々なデッキを使う。

 どれもこれも強力なデッキなのには違いないが、やはり遊里が使う本気のデッキとは違うのだ。

 だからこそナッシュになる前にこのデュエルを望むのだ。

 遊里はナンバーズに対する適性もなければ特殊な力もない。遊馬やカイト達とは違い、これからの戦いにはついてこれないだろう。

 故に、だ。

 今ここで戦いたいのだ。

 神代凌牙と青山遊里の本気のデュエルを。

 

「……分かった」

「ああ……ありがとよ」

「気にするな……さぁ、やろうぜ凌牙!」

「行くぜ、遊里!」

 

 

 

 

 

 デュエルディスクを構える2人。

 それを遠く放たれ場所から見ている2つの影があった。

 1人は凌牙の妹である神代璃緒。

 そしてもう1人は眼鏡をかけた真面目そうな男。こいつこそバリアン世界の住人、ドルベである。

 

「始まるのか」

「ええ」

「……やはり疑問を抱く。何故、ナッシュはあの男とデュエルをするのだ?」

 

 九十九遊馬がアストラルを取り戻す為にアストラル世界に出向いている事は既に彼等にも知れ渡っている。

 だからこそ今の内、こちらに少しでも有利な状況を作っておきたいと思うのがドルベの本心だ。

 だと言うのに肝心のナッシュは何故か、何の力も持っていない人間とデュエルをするのだという。

 少なくともあれとデュエルする利点は何1つもない。

 だが違う。

 

「……決着をつけたいのよ」

「決着?」

「ええ」

 

 ドルベの横にいる璃緒、否、メラグがぽつりと呟く。

 

「人として、神代凌牙として、1つの区切りをつけたいのよ。結果がどうであれね……」

 

 切磋琢磨するライバルはきっと九十九遊馬であり天城カイトなのだろう。

 だが青山遊里は何よりも乗り越えるべき強大な壁なのだ。

 勝ちたい。

 だからこそ人として勝ちたいと思っているのだろう。

 

「……頑張れ凌牙」

 

 メラグは神代凌牙として戦う兄に対して、神代璃緒として声援を送るのであった。

 

 

 

 

 

「俺が先行だ!ドロー!」

 

 先手を取ったのは凌牙。

 力強くカードを引き抜く。

 凌牙はドローしたカードを見て、目を細める。

 行うべき行動はすぐに決まった。

 

「俺は《キラー・ラブカ》を召喚する!」

 

 まるで蛇のようなモンスターがフィールド上に泳ぐように現れる。

 だがフィールド上に現れたのはそれだけではない。

 それに付き添い泳ぐように現れた鋭い矢のような青い魚モンスターがそこに姿を現していた。

 凌牙の新たなモンスターである。

 

「自分フィールド上に魚族モンスターが召喚した時、こいつを手札から特殊召喚する事ができる!来い!《シャーク・サッカー》!!」

 

 これで凌牙のフィールド上には2体、レベル3のモンスターが揃った事になる。

 同じレベルのモンスターが2体揃えば、行うのは当然エクシーズ召喚。

 だが攻撃できない1ターン目に呼び出しても利点は多くはない。

 勿論、そうでないモンスターもいる。

 そして凌牙が今呼び出さんとしているモンスターもまさにその1体だ。

 

「俺はレベル3の《キラー・ラブカ》と《シャーク・サッカー》でオーバーレイ!!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

 《キラー・ラブカ》と《シャーク・サッカー》が光になって上空に飛翔。

 上空に上がったエネルギーを解放せんと、渦巻く光の中へと飛び込んでいく。

 

「深き水底から浮上せよ!《潜航母艦エアロ・シャーク》!」

 

 何も映さぬ漆黒の水底から船の外殻を纏った2体の鮫モンスターが現れる。

 これこそが先行1ターン目にエクシーズ召喚する意味のあるモンスターだ。

 

「エアロ・シャークの効果発動!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、自分の手札1枚につき400のダメージを与える!やれ!エアー・トルピード!!」

 

 エアロ・シャークから魚雷が4つ放たれる。

 それは一直線に遊里へと襲い掛かる。直撃すればライフが1600もダメージを減るだろう。

 先行1ターン目だと遊里のフィールド上にはカードがない。

 防ぐ手立てがない以上、確実にダメージが通るだろう。

 だが甘い。

 

「させるか!俺は手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動!こいつを手札から墓地に送る事で相手フィールド上のモンスター1体の効果を無効化にする!」

 

 遊里の手札から1体の天使が舞い降りる。

 すると襲い掛からんと飛んできた魚雷が次々と爆発していく。

 天使から放たれる光によって破壊されたのだ。

 これでエアロ・シャークの効果は無効化にされた。凌牙の先制パンチはあえなく回避されたのだ。

 

「チッ、俺はカードを2枚セットしてターンエンド!」

「俺のターン!ドロー!……俺は《レスキュー・ラビット》を召喚!」

 

 遊里のフィールドにゴーグルをかぶった可愛らしいウサギが現れる。

 だがそれを見て凌牙は顔を一瞬で顰める。

 そのモンスター効果の強さを知っているからだ。

 

「《レスキュー・ラビット》の効果を発動!こいつを除外して、自分のデッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する!」

 

 《レスキュー・ラビット》が次元の穴へと飛び込むと、そこから光が放たれるとデッキから二対の光が閃光のように飛び出す。

 剣を持った闇色の岩石の体を持ったモンスターが2体現れる。

 《ヴェルズ・ヘリオロープ》だ。

 その攻撃力は1950。

 1900の攻撃力しかないエアロ・シャークでは太刀打ち出来ないだろう。もしこのまま攻撃が通れば合計2000という大ダメージが直撃するのだ。

 だが遊里はすぐにバトルフェイズに移行しない。

 その原因はやはり凌牙の場に伏せられている2枚のカード。

 例えば《聖なるバリア -ミラーフォース-》だった場合、一気に場のモンスターは全滅してしまい、逆に攻撃力1900と強力なバーン効果を持ったモンスターを場に残してしまう。

 一応、フォローするカードがない訳ではないがやはりあのまま残すのは決してよいものではない。

 

(ならばここは確実に叩く!)

 

 ダメージよりも場の維持を優先する事にする。ダメージを取りに行く時は確実にやれる時だけだ。

 

「レベル4の《ヴェルズ・ヘリオロープ》2体でオーバーレイ。オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚」

 

 2体の《ヴェルズ・ヘリオロープ》が光の渦へと消えて行く。

 巨大な閃光が放たれるとそこに新たなモンスターがその姿を現していた。

 その体は漆黒。かつてあらゆる物を貫く名を冠した世界を滅ぼす氷竜が負の邪念によって闇に堕ちた姿。

 

「戦場を制圧せよ!《ヴェルズ・オピオン》!!」

 

 海を凍てつかせて、氷結の大地を切り裂いて現れた闇の氷竜。

 そこから放たれる威圧感は全てのモンスター達を凍てつかせんとしているようだ。

 

「この《ヴェルズ・オピオン》がフィールド上に存在する時、お互いレベル5以上のモンスターを特殊召喚できなくなる!」

 

 しかしこの効果がそれ程、凌牙に負担をかけている訳ではない事に遊里は気づいている。

 凌牙のデッキは基本的にレベル3、4のモンスターが主流である。特殊召喚するにしてもレベルではなくランク扱いのエクシーズモンスターであり、《ヴェルズ・オピオン》の効果範囲外だ。

 だが本命はそこではないのだ。

 

「《ヴェルズ・オピオン》の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使ってデッキから『侵略の』と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えられる事ができる!」

 

 《ヴェルズ・オピオン》の周囲を漂っていたオーバーレイユニットの光の1つがオピオンの口に移動すると、オピオンはそれを一瞬にして噛み砕く。

 その次の瞬間、オピオンから放たれた光が氷結の大地を再び砕き散らす。

 するとそこから1枚のカードが現れると、光の軌跡を描きながら遊里の手元にと収まった。

 

「俺が手札に加えたのは速攻魔法《侵略の汎発感染》だ。効果は自分フィールド上の『ヴェルズ』モンスターはこのターンの間、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けなくなる」

「チッ、めんどくせぇカードだ」

 

 凌牙が忌々しげに遊里の手元にきたカードを見て呟く。

 モンスター効果は無理だが、魔法と罠の効果を受けなくする効果は非常に強力だ。

 これならば《聖なるバリア -ミラーフォース-》などが来ても回避する事が可能になる。

 

「行くぜ!《ヴェルズ・オピオン》で《潜航母艦エアロ・シャーク》を攻撃だ!」

 

 闇の氷竜から黒い氷のブレスが潜水母艦へと一直線に放たれる。

 エアロ・シャークは必死に回避行動を取ろうとするが、遅すぎる。

 オピオンが首を動かすと黒い氷の吐息はやはり一直線にエアロ・シャークに襲い掛かると一瞬にして凍らせ砕け散らせていた。

 

「ぐぅっ!」

 

 エアロ・シャークが破壊された衝撃が凌牙へと襲い掛かる。

 同時に凌牙のライフポイントが4000から3350へと減る。

 大ダメージとはいかないが、先制の一撃は遊里が奪い取ったのだ。

 だが。

 

「行くぜ!罠発動!《ゴースト・フリート・サルベージ》!」

「何っ!?」

 

 遊里の予想とは違い発動したのはまるで違うカード。

 そして《侵略の汎発感染》を発動しても意味のないカードだ。

 

「このカードは水属性モンスターエクシーズ1体が戦闘によって破壊された時、その効果を無効化にしてそのモンスターエクシーズ1体と召喚素材となったモンスターを2体まで特殊召喚する!」

 

 上空から無数の鎖が降り注ぐと、地の深く底へと落下していく。

 そしてその鎖を伝うように破壊された《潜航母艦エアロ・シャーク》、そしてエクシーズ素材である《キラー・ラブカ》と《シャーク・サッカー》が浮上してきたのだ。

 だがどのモンスターも鎖でその身を縛られて効果を無効化されている。

 しかしあの凌牙が何の目的もなく蘇生する筈がない。

 そしてもう1枚の伏せられたカードが開かれた。

 

「更なる罠カード、《フル・アーマード・エクシーズ》を発動する!」

「そのカードは……!」

「このカードは相手ターンであってもエクシーズ召喚を可能にする!俺は《キラー・ラブカ》と《シャーク・サッカー》でオーバーレイ!!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

 再び2体のモンスターが光を放ち、1つの形になっていく。

 その光から現れたのは赤き魔槍を携えた漆黒のモンスターであった。

 

「漆黒の闇より出でし赤き槍!《ブラック・レイ・ランサー》!」

 

 凌牙が愛用するモンスターエクシーズの1枚だ。

 だが攻撃力は2100。相手モンスターの効果を無効化にする効果もあるが《ヴェルズ・オピオン》相手ではそれ程、効果がある訳ではない。

 だからこそ《フル・アーマード・エクシーズ》なのだ

 

「そして《フル・アーマード・エクシーズ》の効果で《ブラック・レイ・ランサー》にエアロ・シャークを装備し、その攻撃力をプラスする!」

 

 鎖に縛られていたエアロ・シャークが光と共に分解され、そのパーツが鎧となり《ブラック・レイ・ランサー》に装備されていく。

 その姿に遊里は見覚えがある。

 《FA-ブラック・レイ・ランサー》だ。

 だがあのカードとは違い攻撃力は4000。

 《ヴェルズ・オピオン》では対処のしようがない状態だ。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

「俺のターン!ドロー!!」

 

 さて、と凌牙は手札を確認する。

 確かに攻撃力4000のモンスターを繰り出す事には成功したが、相手はあの遊里。

 攻撃力が高いモンスターを出しただけでは安心できる筈もない。

 

「俺は魔法カード《エクシーズ・ギフト》を発動!フィールド上にモンスター・エクシーズが2体以上いる場合、発動できる!俺はカードを2枚ドローする!」

 

 それを見て思わず遊里は顔を顰める。

 手札を補充された事もそうだが、その効果の強さに思わずだ。O■G版を知っている身としてはなんともいえない気持ちになる。

 

「バトル!《ブラック・レイ・ランサー》で《ヴェルズ・オピオン》を攻撃!ブラックスピア!!」

「させるか!ダメージステップに速攻魔法を発動!《禁じられた聖槍》!《ブラック・レイ・ランサー》を選択!」

「なんだとっ!?」

 

 赤き魔槍が《ブラック・レイ・ランサー》の手から《ヴェルズ・オピオン》に向かって放たれる。

 《ヴェルズ・オピオン》もその口から闇氷のブレスで迎撃するが、赤き魔槍はブレスを容赦なく引き裂いていく。

 その勢いは止まる事はないと思われていたが聖なる槍が《ブラック・レイ・ランサー》を貫くと装備していた筈のエアロ・シャークの鎧から力が抜けていく。

 

「《禁じられた聖槍》の対象となったモンスターは攻撃力が800下がり、魔法や罠の効果を受け付けなくなる!つまり装備カードの効果もだ!」

 

 つまり聖なる槍の力により本来ならば己の身を守る為の力が、今は逆に己の鎧の効果を受け付けなくしているのだ。

 装備された鎧の力がなくなった事により魔槍の力は段々と弱まっていき、闇氷の吐息が押して返して行く。

 このまま行けば、《ブラック・レイ・ランサー》は闇氷によってその身を砕かれる事になるだろう。

 そう。このまま行けば、だ。

 

「舐めるなぁ!俺は手札から速攻魔法を発動!《収縮》!」

「なにっ!?」

「このカードの効果により《ヴェルズ・オピオン》の攻撃力を半分にする!」

 

 魔槍を押し返していたブレスの勢いがどんどんと弱まっていく。

 何事かと思えば、闇の氷竜の体が小さくなっているのだ。

 速攻魔法《収縮》により攻撃力が半減したのだ。

 これにより《ブラック・レイ・ランサー》の攻撃力は1300であるが、《ヴェルズ・オピオン》は1275。

 本当にほんの僅かではあるが、《ヴェルズ・オピオン》の攻撃力を上回ったのだ。

 

「行け!《ブラック・レイ・ランサー》!!」

 

 お互い弱体化するも、最終的に赤き魔槍がその勝利をもぎ取る事になる。

 闇氷の吐息を突き破った赤き魔槍は氷竜の頭部を正確に撃ち貫いていた。

 

「チッ……」

 

 遊里のライフがほんの少し減り、3975になる。まだライフ上は遊里の方が優位であるがそれはあくまでフィールド上の話だ。

 凌牙の場にはこのターンが終われば、聖なる槍の力攻撃力4000の《ブラック・レイ・ランサー》が凌牙のフィールド上に残ったままだ。

 

「これで俺はターンエンドだ」

「俺のターン!」

 

 手札を見て遊里はどうあの攻撃力4000のでかぶつを処理するか考える。

 アーマード・パーツを装備したあのモンスターは破壊される時、装備したモンスターを墓地に送る事で破壊を免れる事が出来るのだ。

 攻撃力を単純に上げて殴っても、《ブラック・レイ・ランサー》は残ってしまう。

 ここはやはり破壊以外の方法でどうにかするしかないのだ。

 そしてそれを可能にできるモンスターは2体ある。

 で、どちらを出すかだが。

 

(まだ汎発感染はセットされたままだし、ヴェルズのあっちの方が利用できるな)

 

 とは言え3体もモンスターを使う事になるので手札の消費は大きい。

 もう1つは2体で出せる分、そちらの方がいいのかもしれない。

 だが後々の事を考えれば温存という手もある。

 幸い、今の手札なら3体のモンスターも準備できる。

 1分程で思考を終える。

 

「行くぞ、相手フィールド上より自分フィールドのモンスターが少ない時、《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚できる!」

 

 大地を切り裂き、闇に染まった植物型のモンスターが現れる。

 

「更に《ヴェルズ・ケルキオン》を召喚!」

 

 3つの玉を携え、杖を持った魔法使い。

 これこそ世界を滅ぼした竜が集合した姿。

 

「《ヴェルズ・ケルキオン》の効果発動!自分墓地のヴェルズモンスター1体を除外する事で、自分墓地のヴェルズモンスター1体を手札に加える!俺はオピオンを除外してヘリオロープを回収!」

 

 《ヴェルズ・ケルキオン》の杖から放たれた光が、墓地に眠るオピオンを除外する。

 すると除外されたオピオンから放たれたエネルギーが、同じく墓地で眠っていた《ヴェルズ・ヘリオロープ》を現世へと舞い戻したのだ。

 遊里の手札に収まる《ヴェルズ・ヘリオロープ》。

 だがケルキオンの効果はそれだけではない。

 

「そしてこの効果を使った時、1度だけ手札のヴェルズモンスター1体を召喚する!来い《ヴェルズ・ヘリオロープ》!」

 

 手札から飛び出すように戦場へと飛び出す岩石の剣士。

 これで遊里のフィールドには3体のレベル4モンスターが揃った事になる。

 

「レベル4のマンドラゴ、ケルキオン、ヘリオロープでオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い!《ヴェルズ・ウロボロス》!!」

 

 そこに現れたのは3つの首を持ったドラゴン。

 これもまたオピオンと同じく世界を破滅へと誘った氷竜である。

 しかしこのドラゴンであっても攻撃力は2750。戦闘ではどうしようもない。

 だが《ヴェルズ・ウロボロス》には3つの効果があるのだ。

 

「《ヴェルズ・ウロボロス》の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使う事でフィールド上のカード1枚を手札に戻す!」

「チッ!」

「俺は当然、《ブラック・レイ・ランサー》を選択!」

 

 《ヴェルズ・ウロボロス》の首の1つが《ブラック・レイ・ランサー》に噛み付く。

 もがく《ブラック・レイ・ランサー》であるが、意外とその力は強固である。

 振り払うように咥えた槍戦士を放り投げると、装備されたエアロ・シャークの鎧が外されていき気がつけば何も装備されていない状態のままエクストラデッキへと戻されていった。

 

「これで邪魔者はいなくなった!ウロボロスで凌牙にダイレクトアタック!」

「やらせるか!墓地の《キラー・ラブカ》を除外して攻撃を無効化にする!」

 

 3つの首全てから放たれた光線を受け止める《キラー・ラブカ》。

 だが攻撃を無効化にするだけではない。

 

「この効果で無効化した時、攻撃モンスターの攻撃力を500下げる!」

「……カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 《ブラック・レイ・ランサー》こそなんとかしたものの、攻撃力が下がったウロボロスではすぐに対処されるのは間違いないだろう。

 その力を間違いなく凌牙は持っているのだから。

 

「行くぜ!俺のターン!俺は《ダブルフィン・シャーク》を召喚!そして自分フィールド上に水属性モンスターがいる時、《サイレント・アングラー》を特殊召喚する!」

 

 尾が2つある鮫型モンスターとアンコウモンスターが凌牙の場に揃う。

 これでレベル4のモンスターが2体。

 だが《ダブルフィン・シャーク》の効果がある。

 

「《ダブルフィン・シャーク》は水属性モンスター・エクシーズの素材にする場合、こいつは2体分となる!」

 

 つまり3体分の扱いになるという事だ。

 

「2体分の《ダブルフィン・シャーク》と《サイレント・アングラー》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 2体のモンスターから3つの光が交じり合っていく。

 それを見て遊里は顔を顰める。

 そこから放たれる力の強さは普通ではない。

 遠く離れている璃緒もそれを見て思わず驚愕の声を漏らした。凌牙が呼び出そうとしているモンスターが分かったからだ。

 

「吼えろ!No.32!海咬龍シャーク・ドレイク!!」

 

 巨大な鮫のモンスター・エクシーズ。

 そしてこの力強さは先程のオピオンやウロボロスの比ではない。

 

「ナンバーズ……!」

 

 ナンバーズ。

 アストラルの記憶の結晶。

 そこに秘められた力はあまりにも強く、遊馬や凌牙はナンバーズ同士やバリアン相手にしか使った事がなかった。

 だが遊里はナンバーズの使い手でもなければバリアンでもないのだ。

 だと言うのに凌牙は何の躊躇いもなくナンバーズを繰り出したのだ。

 

「卑怯とか言わないよな、これが俺の全力だ」

「ハッ、言う訳ないだろう。かかってこいよ凌牙!」

「行くぜ!《エクシーズ・トレジャー》を発動!フィールド上のモンスター・エクシーズの数だけカードをドローする!フィールド上には2体、2枚ドローだ!」

「便利だよな、それ」

 

 凌牙が手札を補充する。

 ニヤリと凌牙の表情が変わる。このドローで攻め手の札は揃った。

 

「更に魔法カード《ブレイク・ストリーム》を発動!このカードの対象となったモンスターが攻撃する時、相手は魔法・罠を発動できなくなる!」

「それだけじゃないのは知っている。チェーンして《禁じられた聖杯》をシャーク・ドレイクに対して発動!効果を無効化する!」

「チッ、だがシャーク・ドレイクの攻撃力はこのターンのエンドフェイズまで400上がるぜ」

 

 《ブレイク・ストリーム》の対象となったモンスターが戦闘でモンスターを破壊した時、相手の魔法・罠カードを1枚破壊する効果がある。

 そしてシャーク・ドレイクは戦闘でモンスターを破壊した時、オーバーレイユニット1つを使い戦闘破壊したモンスターの攻撃力を1000下げて蘇生し、再び攻撃する効果を持っているのだ。

 つまりこのまま行けば1600のダメージ+セットしたカード2枚を破壊されてしまう。

 なので聖杯を使い、効果を無効化にしておけば追撃効果は使えない。セットしたカードは全てなくなってしまうがダメージは最小限で抑えられる。

 

「行け!シャーク・ドレイク!《ヴェルズ・ウロボロス》を攻撃!デプス・バイトォ!」

「ぐうっ!」

 

 聖杯によって力が強化されたシャーク・ドレイクが、《キラー・ラブカ》によって弱体化しているウロボロスを攻撃する。

 攻撃を繰り返しながら逃げようとするが、海の中を素早く移動するシャーク・ドレイクを捕らえる事もそこから逃げる事も出来ない。

 一瞬の隙をついたシャーク・ドレイクはウロボロスの首を丸ごと噛み砕いた。

 そして破壊された衝撃が遊里に襲い掛かる。

 オピオンが破壊された時、以上の衝撃は遊里の体を簡単に吹き飛ばした。

 

「シャーク・ドレイクが戦闘破壊した時、相手フィールド上のカード1枚を破壊する!」

「くっ、汎発感染が……!」

 

 伏せられた《侵略の汎発感染》が破壊される。

 これで遊里のライフは3025に磨り減る。

 加えてフィールド上のカードは全てなくなった状態だ。

 

「はっ、こいつがナンバーズの力か……!」

「ああ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊里の手札は2枚。

 あまり多いとは言えない状態だが、なんとか出来る手はまだある。

 

「俺は《ヴェルズ・ケルキオン》を召喚!」

「またそいつか……!」

「便利だからな。ケルキオンの効果発動!墓地のウロボロスを除外して、《ヴェルズ・ヘリオロープ》を手札に加える。そして効果によりヘリオロープを召喚だ!」

 

 魔法使いの力により再び、レベル4のモンスターが2体揃う。

 ナンバーズのモンスターはナンバーズでしか戦闘破壊できない以上、対処出来るカードは限られてくる。

 故に呼び出すのはそれを可能とするモンスター。

 

「ケルキオンとヘリオロープでオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い!《鳥銃士カステル》!」

「相変わらずめんどくせぇ奴を……!」

 

 銃を構えた鳥人型モンスター。

 その銃口はしっかりとシャーク・ドレイクに向かっている。

 攻撃力は圧倒的に足りず、あらゆる方法で攻撃力を上げても戦闘破壊できない。

 ならばどうするか。

 簡単だ。

 先程と同じくバウンスしてしまえばいい。

 

「カステルの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、このカード以外の表側表示のカード1枚をデッキに戻す!対象はシャーク・ドレイク!」

 

 鳥人の構える銃の口にオーバーレイユニットの光が2つ集まっていく。

 その光は銃に火を入れていく。

 狙いは深海の鮫。

 引鉄が引かれると、銃口から放たれた光が一直線にシャーク・ドレイクに襲い掛かる。

 これが直撃すればシャーク・ドレイクはその戦闘破壊耐性を生かす事なくデッキへと戻っていくだろう。

 

「罠発動!《超水圧》!自分フィールド上のモンスターを1体破壊してカードを1枚ドローする!」

「なにっ!?」

 

 予想外の行動に遊里が声を荒げる。

 何かしらの行動を取る可能性は考えていたのだが、まさか凌牙自身がシャーク・ドレイクを破壊するとは思っていなかったのだ。

 だがこれで墓地は一応は肥えて、カードもドローする事が出来る。

 結局、ダイレクトアタックされるとしてもこちらの方がアドを取っているという事なんだろうか。

 

(《貪欲な壺》を持っている可能性があるからその為にか……?)

 

 凌牙の墓地のモンスターはこれでちょうど5枚になったのでその可能性は非常に高い。

 とは言え、もっと別の狙いがある可能性があるから油断は出来ないな、と遊里は思う。

 

「効果は不発だがカステルでダイレクトアタックだ!」

「ぐっ……はぁっ……!」

 

 カストルの銃撃を受けて凌牙がよろめく。

 これで一気に凌牙のライフは2000減り、残り1350となった。

 もう一度直撃を受ければ今度こそ終わりだろう。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

「俺のターン!ドロー!」

 

 遊里の手札は0。凌牙はシャーク・ドレイクを破壊してまで手に入れたカードを含めて3枚。

 さて、どうするというのか。

 

「行くぜ!《マーメイド・シャーク》を召喚!」

 

 鮫でありながら、人魚の少女がくっついた摩訶不思議なモンスターが現れる。

 レベル1であり、その攻撃力も100と圧倒的に弱い。

 カステルの攻撃力2000に対して出すモンスターではないのだが。

 

「《マーメイド・シャーク》の効果発動!こいつが召喚された時、デッキからシャークと名のつくモンスターを1枚手札に加える事ができる!俺が手札に加えるのは《パンサー・シャーク》!」

 

 《マーメイド・シャーク》の声か、もっと別の何かに反応して深海の底から一体の鮫が浮上してくる。

 そのままその鮫は光となって凌牙の手札に収まる。

 なるほど、サーチカードという事か。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

「俺のターン」

 

 凌牙の手札には《パンサー・シャーク》がある。

 あのカードは相手フィールド上にモンスターが2体以上いる場合、リリースなしで召喚できる効果を持つ。

 そしてもう1つ。対となるモンスターがいるのだ。

 わざわざサーチしたという事はもう1枚のカードこそがそのカードである可能性は非常に高い。

 ならば先に仕留めるかという考えがある。

 だが攻撃力100のモンスターを攻撃表示のままという訳ではないだろう。

 十中八九、あのセットカードはライフ対策のカードだろう。

 攻撃を無効化にするか、ダメージを0にするか。色々なカードがある。

 ドローしたカードはモンスターカード。

 カステルで攻撃すれば倒せる以上、出す意味は若干薄い。

 全体破壊効果の《聖なるバリア -ミラーフォース-》でも踏んだら目も当てられない。

 勿論、まったく違うカードである可能性もあるのだが問題は凌牙の目だ。

 あの自信に満ち溢れた目。そして攻撃してこいという挑発した様子も見られる。

 少しの間、考えを纏める。

 だが答えはすぐに出た。

 

「行くぞ!カステルで《マーメイド・シャーク》に攻撃!」

 

 カステルの銃から弾丸が放たれる。

 攻撃力100の《マーメイド・シャーク》に成す術はない。

 この一撃をどうするのか、そう思ったが次の瞬間、遊里は賭けに負けた事を理解してしまった。

 

「罠発動!《ゼウス・ブレス》!相手モンスターの攻撃を無効化にする!だがそれだけじゃない!」

「っ!」

「無効化にした時、自分フィールドに水属性モンスターがいる時、相手に800のダメージを与える!」

「っっ!づぁっ!?」

 

 天界から降り注ぐ神の息吹が遊里に襲い掛かる。

 これにより遊里のライフは2225に減る。着実に凌牙のライフに並びつつある。

 

「くそっ!やっぱり800ダメージってでかいぜ……」

 

 遊里がポツリと呟く。

 初期ライフが4000なのだ。

 O■Gでは微々たるダメージもこちらでは初期ライフの2割も吹き飛ばす一撃。痛くない訳がない。

 

「さぁ、どうする!?」

「……俺はこのままターンエンド」

 

 挑発の言葉をこちらにかけてくる凌牙だが、遊里は冷静に手札を見る。

 手札はモンスター1枚だけだし、出す利点はない。

 このままターンエンドする遊里。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 カードをドローした凌牙は心の中で安堵の息を吐いた。

 遊里のデッキならば魔法・罠を1枚破壊する《サイクロン》が3枚積まれていてもおかしくはない。

 全体破壊の《大嵐》の事も考えれば4枚。デッキにもよるが魔法・罠カードの破壊を多様する遊里相手に魔法・罠カード1枚に頼るのは肝が冷える思いだなと凌牙は思った。

 だがなんとか凌ぐ事は出来た。

 あちらにもカードは1枚セットされているが、ここが勝負の決め所である。

 

「行くぜ!俺は《マーメイド・シャーク》をリリースして《パンサー・シャーク》をアドバンス召喚!」

 

 人魚鮫の命を喰らい凌牙の場にヒョウのような鮫が現れる。

 遊里の場に2体以上モンスターがあればリリースなしで出せたのだが仕方ない。出せるだけいいと考えるべきだろう。

 

「そして《パンサー・シャーク》がフィールドにいる時、手札からこいつを特殊召喚できる!」

 

 《パンサー・シャーク》の口からブレスが放たれる。

 するとブレスの光が形作っていき一体のモンスターになっていく。

 

「来い!《イーグル・シャーク》!!」

 

 鷹のような鮫が現れる。

 これでレベル5のモンスターが2体。

 

「来るか……!」

「行くぜっ!俺はレベル5の《パンサー・シャーク》と《イーグル・シャーク》でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 豹と鷹。

 2体の鮫が光の渦となり交わっていく。

 そこから発生されるエネルギーは先程の《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》と比べて勝るとも劣らない。

 つまりこれから出されるモンスターは……。

 

「現れろ、No.73!カオスに落ちたる聖なる滴。その力を示し、混沌を浄化せよ!激瀧神アビス・スプラッシュ!」

 

 水の神の如く現れたモンスター。

 これこそが凌牙の、いや、ナッシュの……。

 

「行くぜ!アビス・スプラッシュの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使いターンの終わりまでアビス・スプラッシュの攻撃力を2倍にする!」

 

 アビス・スプラッシュの攻撃力は2400。この効果があればなんと攻撃力は4800まで上昇する。

 そうなれば攻撃力2000しかないカステルは一瞬で破壊され、遊里のライフも一撃で奪い取るだろう。

 

「させるか!速攻魔法発動!《禁じられた聖杯》!これでアビス・スプラシュの効果を無効化にする!」

「チィッ!」

 

 思わず悪態をつく凌牙。

 先程のシャーク・ドレイクにも使われこうも攻め手を潰されると苛立ちを覚えてしまう。

 だが聖杯によって上昇した攻撃力抜きにしてもカステルを破壊するなら十分だ。

 

「ならアビス・スプラッシュで攻撃だ!ファイナル・フォール!!」

 

 手に持つ杖から放たれた青の閃光がカステルに襲い掛かる。

 なんとかカステルは己の翼で逃げようとするも、直線ではなく左右上下に動き回る光は確実に襲い掛かっていく。

 逃げ切れず、光に飲み込まれるカステル。

 光の力に耐え切れず、あっさりと撃破されてしまった。

 

「……っっ!」

 

 破壊された衝撃が遊里に襲い掛かる。その衝撃はやはり強大。

 膝を思わずついてしまう。

 これで遊里の残りライフは1425。こちらもそろそろ一撃で倒される可能性の数値だ。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

「俺の……ターン!」

 

 残り2枚の手札を見る。

 既にお互い手札もライフも尽き掛けている。一歩間違えればそこで終わりだろう。

 

「俺は最後の《ヴェルズ・ケルキオン》を召喚!」

「しつこい奴だぜ!」

「効果発動!墓地のマンドラゴを除外してヘリオロープ。そしてヘリオロープを召喚!」

 

 流れるようにフィールドに2体のレベル4モンスターを揃える遊里。

 次の行動も既に決まっている

 

「マンドラゴとヘリオロープでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 2つの光が交じり合い1つに収束していく。

 その光は巨大な爆発をすると、1体のモンスターがその中から飛び出るように現れた。

 

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 反逆の闇の牙。

 それを持つドラゴンが今、光臨した。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分だけこのモンスターの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

 反逆の竜の翼が開くとそこから放たれる雷がアビス・スプラッシュに襲い掛かる。

 アビス・スプラッシュはなんとか回避しようとするも、雷の速度にはついてこれない。一瞬にして拘束、そしてその力を奪い取られていく。

 

「行け、ダーク・リベリオン!アビス・スプラッシュを攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイ!!」

「その瞬間、アビス・スプラッシュの効果発動!攻撃力を2倍だ!」

「それにチェーンして《禁じられた聖杯》!この効果でアビス・スプラッシュの効果は無効だ!」

 

 襲い掛かるダーク・リベリオンに対して、アビス・スプラッシュは自身の効果を使って迎撃しようとする。

 勿論、使ったからといって攻撃力2400では、攻撃力3700になったダーク・リベリオンに勝つ事は出来ない。

 それでもわずかなライフを残す事は出来る。

 しかしそこに待っていたのは再び放たれた無慈悲な聖杯の雫。

 これにより攻撃力は400上がるも、効果は無効化。これでは凌牙のライフは残らない。

 

「終わりだ!ダーク・リベリオン!」

「まだだっ!速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!ダーク・リベリオンの攻撃力を800ダウンする!」

「なん……だとっ!?」

 

 その反逆の刃で切り裂こうとしていたダーク・リベリオンに聖なる槍が突き刺さる。

 これにより魔法や罠から身を守る力を得たが、その攻撃力は下がってしまう。

 とは言え攻撃力は圧倒的にダーク・リベリオンの方が上。

 その刃はしっかりとアビス・スプラッシュへと届いていた。

 

「……ぐうっ!!」

 

 本来、ナンバーズにある戦闘破壊耐性も聖杯によりかき消されてしまっている。

 ナンバーズを破壊された衝撃は疲労が溜まっている凌牙に容赦なく襲い掛かると、その体を後方へ吹き飛ばしていた。

 だが凌牙のライフは0ではなく残り50になった。

 ほんの僅かだが希望を残したのだ。

 

「さすがだよ、凌牙。俺はこれでターンエンド」

 

 倒れ伏した体を起き上がらせる凌牙。

 手札は0で残りライフもわずか50しか残されていない。

 次のドロー次第という事だ。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 一瞬、躊躇うように動きを止めるもしっかりとカードをドローする凌牙。

 ドローしたカードは……。

 

「俺は《貪欲な壺》を発動!墓地のカードを5枚デッキに戻し、カードを2枚ドローする!俺が選ぶのはこいつらだ!」

 

 凌牙が選択したのは《シャーク・サッカー》《マーメイド・シャーク》《ダブルフィン・シャーク》《サイレント・アングラー》《No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ》の5枚

 ここで相手の墓地のカードを除外などできれば《貪欲な壺》の効果を阻害できるが、残念ながら手札0の遊里にはどうしようもない。

 相手がどんな行動をしようが攻撃力3700の《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》に頼るしかないのだ。

 凌牙がデッキに5枚カードを戻してしっかりとシャッフルする。

 全てはこのドローにかかっている。

 

「……」

 

 シャッフルし終えたデッキを見つめる凌牙。

 2枚。このドローするたった2枚のカードに全てがかかっているのだ。

 息を吐く。

 そして凌牙はしっかりと遊里を見ると、いつものようにデッキトップに指をかけた。

 

「ドロー!」

 

 2枚のドロー。

 きたカードは……。

 

「来たぜ!俺は《死者蘇生》を発動!蘇れ!《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」

 

 凌牙のエースであるシャーク・ドレイクが墓地より蘇る。

 だが墓地から蘇生したシャーク・ドレイクではオーバーレイユニットはない為、効果を使う事は出来ず、ダーク・リベリオンを倒す力もない。

 しかしそれを理解していない凌牙ではない。

 シャーク・ドレイクと神代凌牙にしかできない事があるのだ。

 

「俺は海咬龍シャーク・ドレイクをエクシーズ素材としてカオスエクシーズ・チェンジ!!」

 

 光と共にシャーク・ドレイクの姿が変わっていく。

 体は白に。そしてそのフォルムはより洗練されたものに。

 これこそがカオスエクシーズ・チェンジ。

 ランクアップマジックに頼らない九十九遊馬と神代凌牙のみが使える力だ。

 

「現れよ、CNo.32!暗黒の淵より目覚めし最強の牙よ!海咬龍シャーク・ドレイク・バイス!」

 

 純白の鎧に身を包んだ最強の鮫が凌牙のフィールド上に現れる。

 カオスの力を得たそれはただのシャーク・ドレイクやアビス・スプラッシュを超える力を醸し出していた。

 だがそれでもダーク・リベリオンを倒す事は出来ない。

 

「シャーク・ドレイク・バイスのモンスター効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、墓地にあるシャークと名のつくモンスターを除外!」

 

 シャーク・ドレイク・バイスの口から放たれたブレスが大地を引き裂いていく。

 墓地にあるモンスターを呼び起こす為。

 引き裂かれた裂け目から飛び出してきたのは潜水母艦。

 

「除外するのは……エアロ・シャーク!」

 

 すると光を纏ったエアロ・シャークは一直線にダーク・リベリオンに体当たりするように襲い掛かる。

 ダーク・リベリオンがそれを叩き落そうとするがもう襲い。

 

「そしてその攻撃力分の1900をダーク・リベリオンから奪い去る!」

「くっ!」

 

 エアロ・シャークの特攻により大ダメージを負うダーク・リベリオン。

 先程まで3700に上がっていた攻撃力は1800にとダウンする。

 これでダーク・リベリオンを破壊できる。

 

「シャーク・ドレイク・バイス!ダーク・リベリオンに攻撃!デプス・カオス・バイトォ!」

 

 カオスの鮫から放たれたブレスは雨のようにダーク・リベリオンにと降り注がれる。

 傷ついたダーク・リベリオンにその身にブレスの雨を受けながら沈んでいった。自分を破壊したシャーク・ドレイク・バイスを睨みながら。

 

「ごふっ……」

 

 遊里のライフもこれで600となる。

 お互い即死圏内だ。

 

「俺はカードをセットしてターンエンド」

 

 しかし勝ちを確信しているような凌牙の表情だが、何処かさえない様子がある。

 それも当然か。

 モンスターがあれば追撃で倒せたのにドローできなかった事に対する苛立ちだ。

 

「まったく……ここまでやられるとはな……」

「お前とのデュエルだけじゃない。遊馬やカイト、奴等とのデュエルで俺も成長したんだ」

「……そうだな」

 

 お互い初めて会った時の事を思い出す。

 あの時は確か。

 

「お前が俺に一方的に突っかかってきたんだっけか」

「……あの時は悪かったと思ってる」

 

 遊里はちょうど公式大会から身を引き、凌牙は大会で失格してしまった頃の話だ。

 荒れていた凌牙が学園一強いと密かに言われていた遊里に喧嘩を売るようにデュエルを挑んだのである。

 

「まぁ、速攻で返り討ちにしたけどな」

「ぐっ!」

 

 後攻1ターン目で瞬殺されたのだ。あれは一種のトラウマものである。

 ある事情で失格してしまったが、自分の実力に自信を持っていた凌牙は一瞬にして心が折れそうになったのは内緒である。

 

「手札0からあんなに回るとは思ってなかった」

「あのデッキは手札0からが本番だからな」

 

 ハンドレスコンボである。

 その後も何度も凌牙がデュエルを挑んできたのだ。

 結局、勝ち星を拾えたのはほんの僅かだ。

 よっと、という声と共に立ち上がる遊里。

 さぁ、そろそろ終わりにしよう。

 

「俺のターン、ドロー!……はっ、俺もこいつを引いたぜ」

「《貪欲な壺》……!」

 

 遊里がドローしたカードを見せると呻くように呟く凌牙。

 まさかお互いの運命を同じカードに託す事になるとは思ってもいなかった。

 

「俺が戻すのはこの5枚だ」

 

 《ヴェルズ・ヘリオロープ》《ヴェルズ・ヘリオロープ》《ヴェルズ・ケルキオン》《鳥銃士カステル》《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の5枚。

 5枚戻したデッキをシャッフル。

 遊里はするとあっさりとカードを2枚ドローした。

 なんて事はない。いつもと変わらない様子だ。

 ドローしたカードを数秒見つめると、遊里が凌牙をしっかりと見る。

 その目を見て一瞬で凌牙は理解した。

 ここが決着の時だ。

 

「……行くぜ、凌牙」

「ああ!来い、遊里!」

「俺もこいつを引いた!《死者蘇生》を発動!蘇れ、《ヴェルズ・ケルキオン》!!そして効果発動だ!」

 

 4度、戦場に現れる魔法使い。

 すると魔法使いはすぐに杖から光を放つ。

 除外されるのは同じ《ヴェルズ・ケルキオン》。そして手札に舞い戻るのは《ヴェルズ・ヘリオロープ》。

 

「そして《ヴェルズ・ヘリオロープ》を召喚!」

「来たか!」

「俺は2体のモンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

 あっさりとレベル4のモンスターを2体、揃える。

 

「再び現れろ反逆の牙よ!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

 シャーク・ドレイク・バイスの前に再び現れる反逆のドラゴン。

 さぁ、リベンジだとばかりにダーク・リベリオンが咆哮を上げると、シャーク・ドレイク・バイスも咆哮を上げる。

 お互いのエースは揃った。

 これで決着をつけよう。

 

「だが勝つのは俺だ!罠発動!《強制脱出装置》!!」

「な……にっ……!」

 

 凌牙の伏せられた最後の1枚。

 遊里が愛用する罠カード《強制脱出装置》。

 フィールド上のモンスター1枚を手札に戻す強力な効果だ。

 

「てめぇにいつもやられた事、今こそ返すぜ!」

 

 遊里によって何度も使われてきたこのカード。

 それを今、凌牙が遊里に対して使ったのだ。

 巨大な機械装置によって拘束されるダーク・リベリオン。

 拘束から逃げるようにもがき暴れるが、そこから逃げ出す事が出来ない。

 このままでは手札、いやエクストラデッキに戻されてしまうだろう。

 

「これで終わりだ!」

 

 召喚権は残っているだろうが、あれはモンスターではないという確信が凌牙にはあった。

 だからこれで遊里の攻め手はなくなる。

 そう思う凌牙。

 しかし遊里は……笑っていた。

 

「……遊里?」

「いや、本当に強くなったよな凌牙」

「……」

「だけど……まだ負けないぜ!」

「なにっ!?」

 

 遊里の宣言。

 つまりまだ何かあるという事だ。

 それは何か。

 その正体は遊里の最後の1枚。

 

「速攻魔法《禁じられた聖槍》!こいつの効果で脱出装置からダーク・リベリオンを守る!」

「なぁっ!?」

 

 遊里と凌牙が使ったカード。しかしどちらも攻撃力を下げる事をメインに使われた為、その真価を発揮できないでいた。

 しかし今、その真なる効果が発揮される。

 禁じられた聖なる槍がダーク・リベリオンを貫き、その身に魔法や罠から守る力を与えるのだ。

 これにより拘束されていた反逆のドラゴンは一瞬にして機械装置を破壊する。

 攻撃力はわずかに下がったが、自由を得たのだ。

 そして《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》にはあの力がある。

 

「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にしてその数値だけ攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!!」

 

 再び反逆の翼から放たれる雷がシャーク・ドレイク・バイスを拘束する。

 身を守るものは何もない状態。

 シャーク・ドレイク・バイスの力を吸収し、ダーク・リベリオンに力を与えて行く。

 ナンバーズでしか破壊できない耐性も、先にライフが尽きれば意味はない。

 

「さぁ、終わりだ!」

「……ああ」

「行くぞ!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃!」

 

 雷の翼を纏い突撃する反逆のドラゴン。雷で拘束されたシャーク・ドレイク・バイスには逃げる事もできない。

 

「反逆のライトニング!ディスオベイィィ!!」

 

 その刃は一撃でカオスの鮫を両断した。

 ライフ0。

 勝者、青山遊里。

 

 

 

 

 

「……」

 

 デュエルが終わり、凌牙は後ろに大の字で倒れていた。

 負けた。

 あれだけ覚悟を決め、デッキを作り上げたというのにだ。

 ああ、くそっ。

 悔しい。

 凌牙の心の中にあるのはそれだけであった。

 だが同時に、心の中は澄み渡っていた。

 全てあの一撃で吹き飛ばされたように。

 あの雲1つない青い空のように。

 

「……よう凌牙」

「ああ」

「俺の勝ちだ」

「お前の勝ちだ」

 

 たったそれだけの確認。

 だけどそれで十分だった。

 遊里が倒れた凌牙に手を伸ばす。

 それを掴み、立ち上がる。

 

「なぁ、凌牙。悩みはいいのか?」

「……ああ、ありがとよ」

 

 そうだ。

 このデュエルで覚悟は決めた。

 もうこの道に進むのだと。

 

「そうか。じゃあ最後に1つだけ」

「……おう」

「何度でもかかってきな」

「……ああ」




120話~121話ぐらいでの話。

20141023 誤字修正
20141031 デュエル内容の修正
20150712 誤字修正

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