普通のデュエリスト   作:白い人

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ドン・サウザンド「あんまり我のせいにされるから、ギラグ戦をカットという内容を書き換えたのだ……」


5 VSギラグ ドルベ ベクター

「まずは俺のターン!ドロー!」

 

 先手を取ったのはバリアン七皇の1人であるギラグ。

 そのドローの力強さは確かに皇と名乗るだけの事はあった。

 しかし相手である青山遊里は一切動じるような様子は見られない。

 

「俺は《ファイヤー・ハンド》を召喚する!」

 

 ギラグが最初に呼び出したのは炎の手であった。それがギラグの肩にと装備される。

 するとギラグの表情に苦痛が浮かび上がる。

 モンスターを装備するとそれだけの代償がくるのだろう。

 攻撃力は1600とレベル4のモンスターとしては普通の部類である。

 だがそれだけで終わる訳がない。

 

「更にフィールド上に炎族モンスターがいる時、こいつを特殊召喚できる!来い!《プロミネンス・ハンド》!」

 

 更に手型のモンスターが特殊召喚され、《ファイヤー・ハンド》と逆のギラグの肩に装備される。

 これでレベル4のモンスターが2体揃った。

 

「レベル4の《ファイヤー・ハンド》と《プロミネンス・ハンド》をオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 炎を司る2つの手が光を重ねて行く。

 呼び出されるのは分かっている。

 オーバーハンドレッド・ナンバーズだ。

 

「この世の全てを握り潰せ!《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》!」

 

 2つの炎の手が合わさり巨大な手となる。

 これこそがギラグのオーバーハンドレッド・ナンバーズなのだ。

 

「そしてカードを2枚セットしてターンエンド!さぁ、貴様のターンだ!」

 

 己のフィールドはこれで磐石だとギラグは思う。

 相手のモンスター効果を無効化にするジャイアント・ハンドがいる。

 加えてセットしたカードは攻撃された時に攻撃表示の相手モンスターを全て破壊する《聖なるバリア -ミラーフォース-》と効果ダメージを0にする事が出来る《リフューズ・ハンド》があるのだ。

 簡単にこの布陣を突破できる筈もあるまい。

 そうギラグは考えている。

 だがもし、もしもだ。

 この場にナッシュがいたら、こう答えるだろう。

 馬鹿めが、と。

 その程度の布陣など役に立たないと、そう答えていたに違いない。

 そしてその遊里はと言うと笑っている。

 

「テメェ……何がおかしい!?」

「いや、その程度でいいのかって思ったな」

「なんだと……!?」

 

 あまりの遊里の態度にギラグに怒りがこみ上げてくる。

 たかが人間ごときがバリアン七皇の1人である自分を馬鹿にするなど許せないとばかりだ。

 

「この俺を舐めてるのかぁ!」

「舐めちゃいないさ。だが1つ言っておくぜ」

「何……!?」

 

 これだけ威圧し、力を見せ付けているというのに遊里はなんら1つぶれた様子がない。

 そして何を言うつもりなのだ。

 

「このターンでテメェのライフは0になる」

「ふざけるなぁ!この俺を1ターンで倒すだと!いい加減にしやがれぇ!」

 

 今度こそギラグがぶち切れる。

 デュエルが始まってまだ2ターン目。遊里のターンは実質1ターン目だ。

 だと言うのにギラグを倒すと宣言したのだ。

 既にギラグの場には強力なモンスターと2枚のカードが伏せられている。この状況を突破するのは容易ではない筈なのにだ。

 しかし遊里の目は本気である。

 本気でこのターンにギラグを倒す気なのだ。

 

「さぁ、覚悟はいいか?俺は出来てるぜ」

「やれるもんならやってみやがれぇ!」

「ドロー。じゃあお言葉に甘えて。まずは《大嵐》を発動!フィールド上の魔法、罠を全て破壊する!ま、俺の場にカードはないからお前のカードだけだがな」

「なんだとぉ!?」

 

 遊里のカードから放たれた嵐が次々のギラグの魔法・罠カードを破壊しつくしていく。

 巨大な嵐が過ぎ去った後には魔法や罠が何もない綺麗なフィールドだけが残る。

 だがそれでも巨大な手であるジャイアント・ハンドがいる。

 しかしその余裕は次の1手で完全に吹き飛ばされる事になる。

 

「更に速攻魔法!《禁じられた聖杯》を発動!これでジャイアント・ハンドの効果は無効化となる!」

「ば、馬鹿な……」

 

 一瞬と言っていい。

 たった2枚のカードでギラグのフィールド上のカードは無力化されてしまった。

 対策として伏せてあった罠は破壊され、エースモンスターはその効果を発動する事すら出来なくなってしまっている。

 

「だ、だがまだ攻撃力2400のジャイアント・ハンドが残っている……!」

 

 呻くように、自分に言い聞かせるようにギラグは己のエースモンスターを見上げる。

 効果は無効化されてしまったが、攻撃力2400になっている。これを簡単には突破出来ない筈だ。

 万が一突破されてもこのターンでライフ4000を削りきれる筈もない。

 ギラグはそう考えている。

 だが甘い。

 青山遊里はこのターンでお前のライフを0にすると言った。

 それはつまり実際、妨害がなければやれると確信しているのだ。

 そしてギラグの場に妨害出来るカードは残っていない。

 

「さぁ、行くぜ!俺はライフを半分支払って《ヒーローアライブ》を発動!自分のデッキからレベル4以下のE・HERO1体を特殊召喚する!」

「いきなりライフを半分支払うだと!?」

 

 ライフ4000制において、ライフを半分支払うというのは決して安いものではない。

 しかもライフが減っている後半ではなく、ライフが1も変動していない序盤にも支払えばその量は非常に多い。

 事実、遊里のライフが一瞬にして2000になっている。

 だが遊里の表情に変化はない。

 いや、その目は狩りをするような目つきに変貌している。

 

「来い!《E・HERO エアーマン》!」

 

 竜巻と共にデッキから飛び出してきたのは風を操る戦士。

 2000という遊里の命を対価に特殊召喚されたのだ。

 

「そしてエアーマンの効果発動!こいつが召喚、特殊召喚された時、デッキからHEROと名のつくモンスターを1体手札に加える事が出来る!俺が加えるのは《E・HERO ブレイズマン》!」

 

 エアーマンの背中にある機械的な翼。その翼に内蔵されているプロペラが回転していく。

 すると、それが新しい竜巻を発生させると遊里のデッキから1枚のカードが飛び出してくる。

 カードをサーチしたのだ。

 

「だが攻撃力1800程度で……!」

「おいおい慌てるなよ。俺は《ブリキンギョ》を召喚する」

 

 更に遊里の場に現れたのは金魚の玩具を思い出させるモンスターが現れる。

 そのレベルは4。

 これで遊里の場にもレベル4のモンスターが2体揃った事になり、ギラグはエクシーズ召喚かと身構えるが、まだ早い。

 

「召喚された《ブリキンギョ》の効果発動!手札からレベル4のモンスターを特殊召喚する!こい《E・HERO ブレイズマン》!」

 

 玩具の金魚から1体のモンスターが飛び出してくる。

 炎を纏い、孔雀のような炎の翼を持った英雄。

 それこそが《E・HERO ブレイズマン》だ。

 これで3体。

 

「《E・HERO ブレイズマン》の効果発動!こいつが召喚、特殊召喚された時、デッキから《融合》を1枚手札に加える事ができる!」

「《融合》だと……!?」

「ま、今回は必要ないんだがな」

 

 ブレイズマンの背中から炎が飛び散る。

 それが巨大な炎となり、エネルギーとなりデッキから1枚のカードを引っ張り出す。

 魔法カード《融合》だ。

 

「俺はレベル4の《E・HERO ブレイズマン》と《ブリキンギョ》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 炎の戦士が巨大な焔を作ると、玩具のキンギョがその中に飛び込んで行く。

 その焔は巨大な光となり、新たなモンスターを導く灯火となる。

 

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

「ぐぉぉぉ!?」

 

 反逆の闇竜が灯火を伝い遊里のフィールド上に現れる。

 その咆哮の強さは物言わぬ巨大な手を圧倒する程だ。

 

「だ、だが攻撃力2500なら……」

「ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分だけこのモンスターの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

「な、なにぃ!?」

 

 オーバーレイユニットの2つの光がそれぞれの両翼に宿ると、翼の装甲が開かれる。

 そこから雷が放たれる。

 その雷は一直線にジャイアント・ハンドに襲い掛かる。

 本来ならば、モンスター効果を阻害できる力を持つジャイアント・ハンドも聖杯の力に物言わぬ手になっている。

 あっという間に雷に捕まると、その攻撃力の半分を奪われていく。

 これでジャイアント・ハンドの攻撃力は1200に下がる。

 逆に《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃力は3700。

 そしてこの時点でギラグの敗北は確定したのだ。

 

「攻撃力3700……」

「だがまだ終わりじゃない。俺は魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動!こいつは自分のフィールド、もしくは墓地にあるカードを除外してE・HEROの融合モンスターを融合召喚できる!」

「墓地のカードを使って融合だとぉ!?」

「俺は墓地の《E・HERO ブレイズマン》と《ブリキンギョ》を除外!融合召喚!来い!全てを凍てつかせる氷結のE・HERO!《E・HERO アブソルートZero》!!」

 

 奇跡の輝きが放たれると、墓地から凄まじい冷気がフィールドに流れ込む。

 その冷気と共に現れたのは氷。

 何の汚れもない。まるで全てを透き通すような、そして全てを反射するような氷の体を持った英雄が現れたのだ。

 

「さぁ、閉幕の時間だ」

「……馬鹿な」

「まずはエアーマンの攻撃!ジャイアント・ハンドを破壊しろ!」

 

 再び背中のプロペラが大きくうねりを上げ、巨大な風を発生させていく。

 先程と違うのは、今度は明確な殺気と力がある事だ。

 その風は巨大な力の渦となって、ジャイアント・ハンドへと襲い掛かる。

 本来ならば攻撃力1800しかないエアーマンよりもジャイアント・ハンドのほうが攻撃力は高い。

 しかし反逆の翼から放たれた雷はその身を拘束し、力を奪い取っていたのだ。

 もう1つ、ナンバーズはナンバーズでしか破壊できないという効果もあるのだがこちらは聖杯の力により、無効化されている。

 故にエアーマンの風から身を守る事すら出来ず、ジャイアント・ハンドは破壊されてしまった。

 ギラグのライフが3400に減る。

 だがこれで終わりなどではない。

 

「そして速攻魔法発動!《マスク・チェンジ》!このカードでエアーマンを新たな姿に変身させる!来い!《M・HERO カミカゼ》!!」

「変身だと……!?」

 

 エアーマンの前に現れた仮面。

 それをエアーマンがかぶると、新たな姿になっていく。

 巨大なマントを靡かせる風の戦士に変身したのだ。

 ギラグはそれらを見て、もうどうしようもない事に気づいてしまった。

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。

 《E・HERO アブソルートZero》。

 《M・HERO カミカゼ》。

 その攻撃力の合計は8900。

 初期ライフが2倍あったとしても即死する威力だ。

 そしてその攻撃を止める術をギラグはもう持っていない。

 

「ありえねぇ……俺は……俺はバリアン七皇なんだぞ!」

 

 ありえないものを見るように叫び続けるギラグ。

 しかしどれだけ叫ぼうが喚こうが目の前の現実が変わる事はない。

 もはやギラグは詰んでいるのだ。

 

「これが現実だ。お前の負けだ」

「……」

「さぁ、終わりにするぞ!俺はモンスター3体でギラグ!貴様にダイレクトアタック!」

「ぎっ、ぎぃやあぁぁぁぁぁ!!」

 

 無防備のギラグに遊里のモンスター達が一斉に攻撃を仕掛ける。

 その攻撃によりギラグのライフは一瞬にして0となった。合計ダメージは9500。オーバーキルである。

 ショックからか、ギラグの目から光が失われるとその体は地面に倒れ伏す。

 

「ライフ8000。確かに削りきったぜ」

 

 初期ライフは4000だと言うのに、ポツリとそんな事を呟く遊里。

 その言葉を理解できるものは残念ながらこの場にはおらず、誰も理解される事はないだろう。

 何か懐かしむように黄昏ていると、ギラグのデッキから一枚のカードが遊里の下に飛んでくる。

 それをキャッチし、確認すると何か納得したように遊里が頷いた。

 

「なるほど、こいつのせいか」

 

 そのカードは《No.58 炎圧鬼バーナー・バイサー》。

 ナンバーズだ。

 遊里が勝利した事により所有者が移ったのだろう。

 しかしそれでもオーバーハンドレッド・ナンバーズは遊里の元にはやってこなかった。

 が、それは割とどうでもいいと遊里は思っている。

 知識により不可能だと知っていたし、奪うつもりもなかったからだ。

 それより問題なのはこの手元に来たナンバーズか。

 やはりと言うべきか、こちらを乗っ取ろうとする様子が見られる。

 気迫で無視するが、やはり負担が大きいのは事実だ。

 

「……行くか」

 

 倒れたギラグを放置し、ビルを降りて行く。

 目的地はただ1つ。

 次のバリアンがいる場所だ。

 

 

 

 

 

「……ギラグからの反応はない」

「何者かに負けたというのか」

「その可能性が高いわね……」

 

 バリアンの白き盾であるドルベ。

 真の銀河眼使いであるミザエル。

 灼熱の太陽すら瞬間凍結、氷の剣であるメラグ。

 ハートランドシティにある橋の中心で3人のバリアン達が集結していた。

 既に先程、こちらの足止めにやってきた2人のナンバーズ使い、IIIとVはミザエルが倒している。

 こちらの動きを封じていた結界も解かれ、行動可能になった訳だがどう動くべきかをこうして相談しているのだ。

 とは言っても行動指針は決まっている。

 遊馬とアストラルはバリアン世界に向かっているらしいし、カイトは月に向かっている。

 ならば遊馬達を追えばいいだけだ。

 

「私はカイトを追う」

 

 ミザエルはぶれる事なくそう言い放った。

 確かにバリアンの本懐を果たすならば、遊馬を追うべきなのだろう。

 だがそれ以上にミザエルはカイトとの決着をつけなければならないのだ。

 本当の真の銀河眼使いを決める為だ。

 

「待て、ミザエル」

「止めるな、ドルベ」

 

 ドルベとしては全員で遊馬を追いたい筈だ。

 だがミザエルはその程度では止まらないだろう。

 どうしたものかと、メラグが声をかけようとした時、音が聞こえてきた。

 何の音かと、音がする方向に顔を向けるとこちらにやってくる一台のバイク型の乗り物。

 そしてそれにメラグは見覚えがあった。

 

「まさかっ!?」

 

 3人の前に急停止する乗り物。

 そこから降りてきたのはメラグが良く知っている人物であった。

 

「青山遊里……!」

「よう、神代妹。先日ぶりだな」

 

 いつも以上に獰猛な表情した遊里。

 そしてそれを見てメラグは一瞬にして理解した。

 この男が原因に違いないと。

 

「貴方ね……ギラグを倒したのは」

「何っ!?」

「こいつが……!?」

「ああ、あのでかぶつか。歯応えも何もなかったぜ、あいつ」

 

 メラグの言葉に対して、なんでもないように言う遊里。

 その言葉に3人の表情が一変する。

 ギラグは確かに脳筋と言っていい人物であり、七皇の中でも格下扱いされる事はあるが、その実力は誰もが認めている事であった。

 それをたいした事がなかったと言う遊里。

 ミザエルは憤慨している様子だが、その実力を知っているメラグにははったりには聞こえなかった。

 確かにこの男ならばやりかねない、と。

 だが1つ疑問がある。

 

「……なぜここに来たのかしら?」

「ん?」

「ギラグを倒した理由はなんとなく分かる。でも貴方がここまで来る理由が思いつかない」

 

 青山遊里はバリアンとの戦いには積極的に動かない事を知っている。

 ギラグは洗脳されたという借りを返したのだろうと推測は出来るのだが、どうしてここにやってきたのかが不思議でならない。

 普段の遊里ならば、ギラグを倒した時点で手を引いていただろう。

 

「ま、そう思うよな」

「ええ」

 

 いつもの様子でメラグの言葉に頷く遊里。

 

「なんとなくさ」

「なんとなく……ですって……!?」

「そうさ。なんとなくで、お前等を倒しにきた」

 

 足止めではなく倒しに来た。

 遊里のはっきりとした言葉に3人の表情が変わる。

 自分達を倒せるのだとはっきりと言ったも同然だからだ。

 

「舐められたものだな……ならば先程の兄弟と同じように私が倒してやろう!」

 

 カイトと戦う為の準備運動だとばかりに前に出るミザエル。

 既にお互いにデュエルディスクを構え、臨戦態勢に移っている。

 だがそんなミザエルを止めたのはドルベであった。

 

「待て」

「ドルベ、何故止める!?」

「我々の目的は九十九遊馬を倒し、ナンバーズを回収する事。奴に構っている暇はない」

 

 正論である。

 ナンバーズ使いではない遊里と戦う必要性ははっきり言えばないに等しい。

 確かにギラグの仇を取りたい所ではあるが、今はバリアン世界を救う事を優先するべきなのだ。

 だがそれは遊里がナンバーズを持っていないという前提なのだが。

 

「ナンバーズならここにあるぜ」

「なんだとっ!?」

 

 遊里がケースから取り出した一枚の黒いカード。

 それこそ先程、ギラグを倒した時に奪ったカード、《No.58 炎圧鬼バーナー・バイサー》だからだ。

 

「ナンバーズ……貴様も持っていたのか」

「ちょっと奪ってきた1枚だが……欲しいんだろ、これ」

 

 まったくもってその通りである。

 勿論、遊馬に比べれば優先度は圧倒的に低いがそれでもナンバーズである事に間違いはない。

 

「……ミザエル、君はカイトを追え」

「ドルベ!?……いいのか?」

「ああ。だが早くカイトと決着をつけ、ナッシュと合流するんだ」

「……分かった、恩に着る」

 

 ミザエルは一言、それだけ呟くとその姿を消す。

 カイトを追い、月へと向かったのだろう。

 

「メラグ、君はナッシュと合流してくれ」

「ドルベ!奴との相手は私がするわ!」

 

 その言葉でドルベがどうするつもりなのかを理解した。

 青山遊里と戦うつもりなのだろう。

 だがその実力は強大だと分かっているし、それ以上に未知数な部分が多すぎる相手だ。戦うならば先日まで間近でよく見ていたメラグの方が適任なのだろう。

 しかしドルベは首を横に振る。

 

「ここは任せて欲しい。私はバリアンの盾だからな。矛の役目は君達だ」

「……ドルベ、後でバリアン世界で会いましょう」

「ああ」

 

 その強い意志を感じ取ったのだろう。

 メラグはそれだけ言うと姿に消す。バリアン世界へ向かった遊馬を追う為に。

 2人が姿を消すと、ドルベは遊里の方へと向き直る。

 

「待たせて悪かったが、良かったのか?」

「俺も全員を倒せるとは思ってないさ」

「そこまでは傲慢ではないようだな」

「いや」

 

 関心したようなドルベの言葉を否定する遊里。

 

「俺が全員倒したら、獲物がいなくなって遊馬達が倒す相手がいなくなっちまうだろう」

「貴様……!」

 

 この男はバリアン七皇、全てを倒せるのだと言っているのだ。

 さすがにここまでの傲慢な発言をドルベは許せるような男ではない。

 

「貴様はこの私が倒す!」

「来いよ、白き盾!お前もここで終わりにしてやる!」

「バリアルフォォォゼェェェ!」

 

 人間の姿だったドルベの姿がバリアンとしての真の姿に変わる。

 それと同時にお互いにデュエルディスクを構える。

 さぁ、後は何も語る事はない。

 デュエルをするだけだ。

 

『デュエル!』

 

 

 

 

 

「俺のターン……俺はモンスターとカードをセットしてターンエンドだ」

 

 先手を取ったのは遊里。

 しかし先程の威勢とは違い、モンスターとカードを1枚ずつセットするだけで終了する。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 手札を確認する。

 これならば早々に切り札を呼び出す事が出来る上に、相手のライフに先制打撃を与える事が出来る。

 

「私は《光天使ウィングス》を召喚する!」

 

 ドルベの場に現れるのは翼を具現化したような天使モンスター。

 それが光を纏って飛翔する。

 だが攻撃力は僅か1200しかないが、勿論そんなモンスターをただ出す訳ではない。

 

「このモンスターを召喚した時、光天使モンスターを手札から特殊召喚する事が出来る!現れろ《光天使ブックス》!!」

 

 《光天使ウィングス》の光の軌跡を辿り、ドルベの手札から新たなモンスターがフィールド上に現れる。

 それはまるで本のような天使モンスター。

 これで2体。

 だがドルベの手は緩まない。

 

「ブックスは1ターンに1度、手札の魔法カードを墓地に送る事で手札から光天使モンスター1体を特殊召喚する事が出来る!来い《光天使ソード》!!」

 

 ブックスがドルベの魔法カードの力を得て輝きだすと、ページが開かれていく。

 そこから新たなモンスターが飛び出してくる。

 それは天使の剣。

 これでドルベのフィールドには3体のレベル4モンスターが揃った。

 条件はこれで揃ったのだ。

 

「私はレベル4の《光天使ウィングス》、《光天使ブックス》、《光天使ソード》をオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

 3体の天使が光を纏い、1つへと重なり合っていく。

 それは少しずつ大きくなっていき最終的には巨大な爆発と共に新たな光天使を戦場へと呼び出す事になる。

 

「さぁ、見るがいい!現れろ!No.102!光天使グローリアス・ヘイロー!!」

 

 今までの天使達を遥かに圧倒するその力強さ。

 それを抱いた大天使が現れたのだ。

 

「バトル!グローリアス・ヘイローでセットモンスターを攻撃!ライトニング・クラスター!!」

 

 大天使はその手に光の槍を取り出すと、遊里のセットモンスターへと投げつける。

 その槍は光のビームのように放たれ、容赦なくセットモンスターへ襲い掛かった。

 強大なエネルギーの前にセットモンスターは耐える事なく消滅する事になる。

 

「この瞬間、手札から速攻魔法を発動!《ラス・オブ・ホーリーライトニング》!私の場に光天使モンスターがいる時、相手モンスターが破壊された場合、相手に1000ポイントのダメージを与える!喰らうがいい!」

「っっ!?」

 

 グローリアス・ヘイローの手に巨大な弓が現れる。

 その手に光の矢が番えられると、同時に矢が遊里に向かって放たれる。

 よける事も出来ずに直撃する矢。

 それと同時に遊里のライフが3000に減る事になった。

 

「どうだ!」

「破壊されたモンスターは《E・HERO シャドー・ミスト》だ。こいつが墓地に送られた時、デッキからシャドー・ミスト以外のHEROモンスターを1枚手札に加える事が出来る。俺は《E・HERO エアーマン》を手札に」

 

 光の槍に破壊された闇霧の戦士から黒い霧が立ち上る。

 するとその霧は遊里のデッキに取り付くと、1枚のカードを抜き出すと遊里の手札に収まる。

 確かに破壊されはしたが、リカバリーは出来た事になる。

 

「……私はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン!……さぁ、終わらせようかドルベ!」

「何っ!?」

 

 先制パンチを受けたというのに飄々とした様子の遊里。

 いや、もっと細かく見れば遊里の顔には汗が酷く浮かんでいる。

 ギラグから取ったナンバーズの影響が遊里を蝕んでいるのだ。

 だがドルベに余裕はない。

 遊里の実力を聞いているからだ。

 

「俺は《E・HERO エアーマン》を召喚する!こいつが召喚された時、デッキからHEROモンスターを1枚手札に加える事が出来る。俺が加えるのは《E・HERO シャドー・ミスト》」

 

 エアーマンが巻き起こす竜巻によってデッキからカードが飛び出してくる。

 それを遊里は掴み取ると次の行動に移る。

 

「魔法カード《融合》を発動!モンスターを融合させる!俺は手札の《E・HERO シャドー・ミスト》と《E・HERO ブレイズマン》を融合!全てを飲みこむ闇のE・HERO!エスクリダオ!」

 

 闇霧と焔が重なりあい、新たな姿を示す。

 遊里のフィールド上には闇のエレメンタルを操るHEROが光臨していた。

 まさに漆黒の化身とも呼ぶべき存在であり、光を操るグローリアス・ヘイローとは対極の存在であろうだろう。

 

「そして墓地に送られた事によりシャドー・ミストの効果が発動する。手札に加えるのは《E・HERO バブルマン》!」

「くっ、融合の手札消費を抑えたというのか」

 

 再び黒い霧に導かれてデッキからカードが1枚遊里の手札に渡る。

 だがまだ遊里の行動は終わっていない。

 

「そしてカードを3枚セット」

「このタイミングでセットだと……?」

 

 まだバトルも行っていないこのタイミングでの魔法・罠のセットにドルベに疑問を抱かせる。

 速攻魔法や罠ならばバトルが終わった後の方がいいだろう。セットしたターン、発動できない速攻魔法なら尚更だ。

 しかしそんな疑問は突如、遊里のフィールド上に泡が現れた事により吹き飛ぶ事になる。

 

「馬鹿な!?このターン、貴様は既に召喚した筈だ!」

「バブルマンの効果さ」

「なんだと!」

 

 突然フィールド上に現れた泡の正体。

 それこそが水のE・HEROであるバブルマンなのだ。

 既に召喚権を使用した遊里がフィールド上に出す術などない筈だが、それはあくまで遊里では出せないだけである。

 そう。バブルマン自身の効果ならば話は別なのだ。

 

「俺の手札にあるカードがバブルマンだけの場合、特殊召喚する事が出来る!」

「それでか!」

「そして俺はエアーマンとバブルマンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 エアーマンとバブルマンが新たな光を生み出す。

 そして呼び出されたのは金剛の肌を持った狼。

 

「《恐牙狼 ダイヤウルフ》!」

 

 だが攻撃力は2000。

 隣のエスクリダオに比べるとその力が足りないようにも見える。

 しかしそれはあくまで攻撃力の話だ。

 

「ダイヤウルフの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、自分フィールド上の獣、獣戦士、鳥獣族モンスターを1体破壊し、相手フィールド上のカードを破壊する!」

 

 ダイヤウルフが自身のオーバーレイユニットを喰らうと、その肌が光輝き始める。

 しかし遊里のフィールド上で破壊できるカードとは一体なんだとドルベが思ったが、1つの答えが見つかる。

 

「俺はダイヤウルフ自身とドルベ、お前のセットカードを破壊する!」

「馬鹿な!自身のモンスターを破壊するというのか!?」

「それが仕事なんでな!やれ、ダイヤウルフ!」

 

 光輝く狼は大天使の横をすり抜け、伏せられていたカードへと飛び掛る。

 グローリアス・ヘイローが慌てるように動くがもう遅い。

 その光が大きくなった瞬間、爆散するようにダイヤウルフとセットカードが破壊されたのだ。

 

「なんと……!」

「そして更に魔法カードを発動!」

「何っ!?」

 

 遊里の手札は0。

 となれば先程、伏せたカードに違いない。

 通常魔法は伏せられたターンであっても発動する事が可能なのだ。

 

「俺は《簡易融合》を発動!ライフを1000払い、エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する!来い!《旧神ノーデン》!」

「だが確かそのカードで特殊召喚したモンスターは攻撃できない筈だ!」

「知ってるか。付け加えるならこのターンのエンドフェイズに破壊される。だが関係ないね。俺はノーデンの効果発動!こいつが特殊召喚された時、自分の墓地のレベル4以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する!蘇れブレイズマン!」

 

 古き神々。海神を思わせるようなモンスターだ。

 そのノーデンの持つ道具から放たれる光に導かれるように焔の戦士が蘇る。

 だがその効果は封じられている状態だ。

 そしてここでドルベもようやく気づく。

 これを呼び出した理由などただ1つ。レベル4のモンスターを揃える事なのだ。

 

「エクシーズ召喚か!」

「ああ!俺は《旧神ノーデン》と《E・HERO ブレイズマン》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!」

 

 旧神に導かれるように焔が世界を巻き込んで行く。

 呼び出されるのは遊里にとっての対ナンバーズ用のモンスター・エクシーズ

 

「来い《鳥銃士カステル》!」

「そのモンスター・エクシーズは……!」

「対ナンバーズ用のモンスターさ。カステルの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、表側表示のカードを1枚デッキに戻す!俺が戻すのは当然、グローリアス・ヘイロー!」

「ば、馬鹿な!?」

 

 大天使があっさりとエクストラデッキに戻される。

 その効果が生かされる事はもはやない。

 

「更に魔法カードを発動!《ミラクル・フュージョン》!こいつは自分のフィールド、もしくは墓地にあるカードを除外してE・HEROの融合モンスターを融合召喚できる!」

「なん……だと……!?」

「墓地のブレイズマンとバブルマンを除外する!来い!氷のE・HERO!《E・HERO アブソルートZero》!!」

「こ、これは……!」

 

 既にドルベも悟っていた。

 もはや勝ち目はないと。

 

「さぁ、バトルだ!まずはアブソルートZeroの攻撃!」

 

 ふわりとアブソルートZeroのマントがゆれる。

 

「っ!」

 

 ドルベが息を飲む。

 次の瞬間、己に一瞬で接近する純白の姿を見る事になる。

 

「瞬間氷結――Freezing at moment!」

 

 ドルベは自身の体が一瞬で凍りつくようなイメージを覚える。

 それまでにこのモンスターの一撃は重すぎた。

 この一撃でドルベのライフは2500も減り、一瞬で1500へと減る。

 しかし攻撃はこれで終わりではないのだ。

 

「そしてこの瞬間、リバースカードオープン!速攻魔法《マスク・チェンジ》!」

「っ!最初のターンに伏せたカードか!」

「その通り!変身しろ!アブソルートZero!」

 

 仮面が攻撃したばかりのアブソルートZeroの前に現れる。

 それをかぶった瞬間、水と氷の乱舞が巻き起こった。

 そんな中を突き破って現れる新たな戦士。

 《M・HERO アシッド》。

 それが姿を現したのだ。

 既にドルベの場にカードはないというのに、手加減などしないとばかりの大展開。

 もはやドルベの命運は尽きたも同然だ。

 

「は……はは……ナッシュ。君の言う通りだ」

 

 3体のモンスターを前に呻くように呟くドルベ。

 

「奴こそが……九十九遊馬すら超える最大の障壁だったのかもしれん」

「3体のモンスターでダイレクトアタック!」

「――!?!?」

 

 一瞬にしてドルベのライフが0になる。

 総ダメージは9800。

 その衝撃を一身に受けながら、ドルベの意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

「……うっ」

「よう、目覚めたか」

「貴様は……」

 

 バリアルフォーゼが解け、人間の姿になったドルベが目を覚まして最初に見たのは倒れているドルベの横に座ってリラックスしている遊里の姿であった。

 どうやらデュエルが終わってからずっと近くにいたらしい。

 

「あれから……どれ程、経った……?」

「ま、30分って所か」

「そうか……」

 

 それ程、時間が経った訳ではないらしい。

 ならば急いでバリアン世界に戻らなくてはと、体を動かそうとするがまるで動かない。

 遊里に負けた衝撃はかなりものだったようだ。

 

「あんまり動かない方がいいぜ。見た目だけならそうとうボロボロだぜ、あんた」

「どうやら中身もそうらしい」

「そうか」

 

 それだけ言うと2人は静かに時間が過ごす。

 さすがの遊里も疲れているのだろうか。

 ドルベも本来は今すぐにでもナッシュやメラグの元に行きたいのだろうが、その身に受けたダメージは遥かに大きい。

 指1つ動かすのも億劫である。

 

「貴様は……」

「うん?」

「貴様はどうして戦うのだ……」

 

 純粋な疑問だった。

 自分達はバリアン世界の為に、九十九遊馬達はきっとこの世界を守る為に戦っているのだろう。

 だがなんとなくだがこの男は何かが違う気がしたのだ。

 

「……さぁ?」

「何?」

「よく分からん。正直、関わるつもりはなかったしやる気もなかったんだがな」

 

 だけどなんとなくやってきたのだという。

 訳が分からなかった。

 そんな曖昧な理由で自分は負けたのかと思うと、何も言う気力がなくなってしまったようだ。

 

「それに信じてるからな、遊馬を」

「九十九……遊馬をか?」

「ああ。きっとあいつならいいようにしてくれると思ってな。俺達の世界もお前達の世界もな」

「馬鹿な……我等はお前達の敵だぞ……」

「そうかもな。だけど遊馬にとってはどうかな」

 

 遊里の何か確信したような言葉に目を見開くドルベ。

 一体どういう事なのだろうか。

 

「とりあえず、だ」

「?」

「お前を守ってみるかな」

「何っっ!?」

 

 突然、遊里が跳ね起きると、倒れているドルベを掴んでその場から離脱する。

 一体何がとドルベが見ると、先程まで自分がいた場所に触手なようなものが伸びているではないか。

 

「い、一体何が……!?」

「それはそいつが教えてくれるんじゃないか?」

「何……?」

 

 痛む体を無理やり動かしてみると、そこにはドルベが見知った人物が立っていた。

 バリアン七皇の1人であるベクターだ。

 かつて人間界で真月零と名乗っていた男でもある。

 

「べ、ベクター……!?」

「チッ、よけない事をしやがって。ドルベの魂を食えなかったじゃねぇか」

「き、貴様何を……!?」

 

 味方であるベクターがどうして自分を殺そうとしてくるのか。

 それが分からず混乱の渦に叩き落されるドルベ。

 しかし遊里はそんなドルベを無視するかのようにベクターに話かける。

 

「久しぶりだな、真月。随分とイメチェンをしたみたいだな」

「ハッ、久しぶりだなぁ、遊里先輩よぉ!」

 

 先輩と後輩の再会。

 だがベクターの声色にはそんな懐かしむような色は何一つない。

 むしろ忌々しいと言わんばかりの色を出している。

 逆に自然体なのは遊里だ。

 ごく普通に後輩に話しかけるような声だ。

 

「な、何をやっているんだ貴様は……?」

「ああん?わからねぇのかよドルベ。オレはお前等他の七皇を倒して、その力を全て貰おうとしてるだけさ」

「ば、馬鹿な……そんな事ができる訳がない……!」

 

 ベクターの言っている事はまさに世迷言だ。

 そんな事が出来る筈もない。

 しかしベクターの表情には自信とそして優越感が漂っている。

 

「できるさぁ!何故ならドン・サウザンドをオレの体に蘇らせたからなぁ!」

「な、何っ!?」

 

 ドン・サウザンド。

 バリアン世界の創造神。

 それが今、蘇りベクターの中にいるという。

 

「な、何故バリアンの神であるドン・サウザンドが……!?」

「奴に言わせれば、七皇なんてただの餌なんだよ。ざーんねんでした!」

「だ、だがそれは貴様も同じ筈だ!」

「馬鹿め!今のオレはドン・サウザンドと一体化してるんだよ!つーまーりー、オレがテメェらを喰らえばドン・サウザンドもパワーアップ!オレもパワーアップ!つまり両方ハッピー☆って事さ!」

 

 つまりベクターとドン・サウザンドは運命共同体という事か。

 既に餌という存在を超えたのだろうベクターは。

 

「って事だ!人間にボコボコにされたドルベさんよぉ!大人しく俺に喰らわれてくれよ!後はお前とナッシュ、ついでにミザエルだけなんだからなぁ!」

「な……何……!?」

 

 ベクターの言葉を聞いてドルベの目の前が真っ暗になる。

 後はドルベとナッシュ、ミザエルだけ。

 それはつまり他の七皇は……。

 

「アリトとギラグの野郎は相打ちした所を喰らってやったぜ!アリトの野郎は遊馬に寝返りやがったからな!邪魔な事をされる前に片付けられて良かったぜ。メラグは俺に歯向かって来てな、返り討ちにしてやったぜ」

 

 メラグ。

 後でまた会おうと約束した彼女。

 それがもういない。

 奴に。ベクターに喰われた。

 

「ベクタアアァァァァァア!」

 

 怒りのあまりに体の痛みを忘れて咆哮するドルベ。

 中にあるのは純粋な怒りと憎しみ。

 仲間を。そして親友の妹を失った事に対する怒りだ。

 

「貴様ぁ!許せん!」

「ハッ!そんな傷だらけの姿で何が出来るってんだ!」

「貴様だけは私の手で……っ!?」

 

 ベクターを倒そうとデュエルディスクを構えようとするドルベの前に立ちはだかった男がいた。

 蚊帳の外にいた遊里である。

 

「待てよ真月。こいつとやるならまずは俺の相手をしてもらおうか」

「なんだと……!?」

「こいつは俺が倒したんでね。つまりこいつの所有権は今、俺にあるって事だ。こいつを喰らいたいならまずは俺を倒していくのが筋ってもんだろ」

「どうしてオレがテメェなんかと戦わなくっちゃいけないんだ?」

「当然の事を言っただけだぜ。それとも怖いのか、ベクター」

「ハッ――!」

 

 何を言ってやがるんだこいつと言ったベクターの表情が一変する。

 どうやらやる気になったらしい。

 

「まぁ、いい。ナッシュが来るまでの時間潰しにはなるだろ。ボロボロのドルベなんぞ時間はかからないからなぁ!」

「ああ、やろうか」

「ま、待て青山遊里!奴の言葉が本当ならバリアン界の神の力を持っている事になる!ただの人間であるお前に」

 

 勝てる訳がない。

 そう言おうとしたドルベの動きが止まる。

 遊里は何も言わないが、その顔に浮かんでいるのはただ1つだ。

 

「なら見せてもらおうか、カミサマの力って奴をな!」

「くひひひ!テメェを倒してナッシュを倒す為のエネルギーにさせてもらうぜ!」

『デュエル!!』

 

 俺は負けない。

 ただそれだけであった。

 そしてその言葉はあっさりと現実になる。

 デュエルが始まって2ターンが経過した。

 そう、まだ2ターン目だ。

 

「な……なんだと……!」

「どうしたベクター、さっきの威勢はどうしたんだよ」

 

 先行を取ったベクターは永続魔法《ドン・サウザンドの玉座》を出し、《No.96 ブラック・ミスト》をエクシーズ召喚し、セットカードを展開。

 見た事もないカードばかりだがそこから放たれる威圧感は本物だった。

 だというのに、だ。

 青山遊里はあっさりとそれを覆した。

 こちらは先程と違い、儀式を中心としたデッキ。

 その名を影霊衣――ネクロスと呼んだ。

 それを巧みに使い、セットカードであった《屍の合星》はあっさり破壊され《トリシューラの影霊衣》によりナンバーズでしか破壊できない《No.96 ブラック・ミスト》を除外してしまった。

 勿論、それだけで止まる筈もなくエクストラデッキから儀式素材を送るという《影霊衣の万華鏡》により合計レベル12の《ヴァルキュルスの影霊衣》と《ユニコールの影霊衣》を展開。

 最初に出した《マンジュ・ゴッド》とあわせればそのダメージ量は9300。一撃死である。

 これにはあのベクターの顔色も一瞬で変わる程だ。

 

「ド、ドン・サウザンドの力を得たオレが負けるだとぉ!?」

「さっさとくたばりな。モンスター4体でダイレクトアタック!」

「がっ、ハアァァ!?」

 

 決着。

 瞬殺もいい所である。

 先程のドルベとのデュエルといい、これが青山遊里の本気だと言うのか。

 

「て、テメェ……今まで……三味線を弾いてやがったな……!」

 

 ドン・サウザンドの力の影響か、あれだけのダメージを受けてもなんとか意識を失わずにいるベクター。

 しかしそのダメージ量は凄まじいらしく今にも倒れそうだ。

 

「さぁってどうかな」

「チッ……テメェとやりあうのは得策じゃねぇな……今は退いてやる……!」

「おう、さっさと帰りな」

「だがな!駄賃は頂いていくぜ!」

「何っ!?」

 

 最後の力を振り絞ってとばかりに触手が伸びる。

 遊里は虚を尽かれたものの、あっさりと回避に成功する。

 だが遊里の後ろにいたドルベはそうではなかったようだ。

 

「ぐっ、あああっ!?」

「ドルベ!?」

 

 触手に体を貫かれるドルベ。

 ベクターの目的は最初から遊里ではなくドルベであったようだ。

 

「遊里!テメェはナッシュや遊馬を仕留めて完全体になったら改めてぶっ潰しにきてやるよ!楽しみに待ってな!」

「チッ!」

 

 遊里がドルベに駆け寄ろうとするも、その姿を消してしまうベクターとドルベ。

 こうして遊里はただ1人残される事になる。

 ここで青山遊里の戦いは終わりである。

 バリアン世界に行く方法はない遊里にこれ以上の介入は不可能だ。

 

「……結局、変わらないか」

 

 ポツリと呟く遊里。

 ベクターの言葉が本当ならメラグ、ギラグ、アリトは既に喰われ、ドルベも多分喰われてしまったのだろう。

 流れは違うもののほぼ原■と同じ流れだ。

 となればナッシュとベクターはこれから戦い、遊馬が追いつく。

 カイトとミザエルは月で決着をつけるのだろう。

 多分だが、後の流れは変わる事なく同じになるに違いない。

 自分がやった事は無駄だったのだろうかと思う遊里。

 だが神ではない自分がやれる事など限られているのだ。

 今やれそうな事はやったのだ。後は遊馬やカイト、そして凌牙に任せよう。

 空をもう1度だけ見上げると。

 

「頑張れよ」

 

 それだけポツリと呟いて、止めてあるバイク型の乗り物に乗り込む。

 愛華や家族の所に戻ろう。

 きっと怒っているに違いないのだから。




126~134話あたりの話。

20141031 一部抜けていた部分があったので修正
20141105 誤字など修正
20141110 効果間違いなど修正
20150712 一部加筆

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