sideキリト
単騎でフロアボスを追い詰めていたエースの戦線離脱は前線に大きな影響を及ぼしていた
停滞するフロアボス攻略に恐れを抱き、既に部屋から逃げ去るプレイヤーもちらほら出始めている。ディアベルも生気が抜けてしまって役には立たない
バラバラになった攻略組をアスナが再編し、何とかフロアボスの攻撃を凌いでいるがそれも時間の問題だ
フロアボスのライフバーは最後の一本、既に半分を切ってる。あと少し。そのあと少しが届かない
焦りが生まれていた、このままではフロアボス攻略は失敗に終わってしまうのではないかと、長い停滞を生んでしまうのではないかと
そのせいかミスを犯してしまった。コボルトロードに大きな隙を作ろうとして、失敗した。気が付いた時には既にソードスキルのモーションを立ち上げてしまっている
もう後戻りはできない。俺は全身全霊のバーチカル・スクエアをフロアボスに放ったが、ボスは健在。もうじき俺には一定の硬直時間が発生する
彼女はボスの連撃を受けても何とか生き残っていたが、自分のステータスでは一撃受けるだけでも危うい
「スイッチ行くよ」
声が聞こえた。しかしあり得ない。視界の左上にある彼女のライフバーは依然危険域だ。彼女は後方で回復している筈なのだ
ありえない。そんな訳がない。零れた言葉は他でも無い彼女によって簡単に覆されてしまう
ソードスキル特有のエフェクトと共に残滓が撒き散らされ、凄まじい速度で衝動したソレにより、フロアボスは大きく仰け反り、体勢を崩す
「生きてる? 待たせね。そろそろ終わりにしようか」
そんな、相変わらず感情の揺らぎを感じさせない平淡な声で、彼女はさらりと言い放った
▲▽▲▽▲▽
なんとか間に合ってよかった。HPは未だに
ユウキの病を完治させる為にはここで死ぬ訳にはいかない。なれば、私がここで死ぬ訳がない
刃が迫る。磨き上げられた刀身にプレイヤー達の姿が反射した。蹲る塵、唖然とし棒立ちしている肉塊、その中で私の援護でもしようとしているのか此方へと駆ける数名
「サムライとはあんまり戦ったことがないんだ。面倒だからこれで終わらせよう」
技術なんてものはは存在しない。どこまでも機械的に再現されたモーション。程度の低い技量を植え付けられたただの
「ああ、愚かしい」
そんなもので、その程度の
直線を描き振り下ろされた刃を弾き、肉薄する。逆手に構えた片手剣をコボルトロードの肩に深々と突き刺し、勢いを維持したまま、短剣で傷口を広げるように抉り、そのままコボルトロードの身体を蹴り飛ばし後方へと飛び去る
あと一撃が足りずやや投げやり気味に切り払われ、距離を取らざる終えなかったが、焦る必要はない。ここまで削ってあるんだ。あとは二人が勝手に仕留めてくれる
おそらく、二人の攻撃が正真正銘のラストアタック。私の出番は無いだろう
仮に攻略組を解体するような事態になった場合、真っ先に狙うのは当然指揮官、頭を潰す事が最優先だが、次いで優先的に狙うべきはあの二人だ
デスゲームが開始され、仮想世界とは言えこれまで手にした事の無いだろう武器を手に未知のモンスターを狩り、この場に立っているという点では攻略組全体が驚異であることに変わりはないのだが、それでもあの二人は群を抜いて優れている
特にアスナの細剣捌きは異様だ。今はまだ目で追える範囲ではあるが、これから先、成長の方向性次第ではそれも不可能になってしまうかもしれない
若干見劣りするがキリトの戦闘技術も何処か手慣れている風がある。噂に聞くベータテスターなのだろうか?
とにかく、実力は十分。後は二人に任せておけば良い
今回のフロアボス攻略だけでは攻略組の実力を完全に把握したとは言えない。何分、初めてのフロアボス攻略だ。無駄な緊張や、慣れていないが故の無駄な行動。連携だってお粗末なものでしかなかった
だがそれはこれからいくらでも改善出来る筈である。改善し、最大限の努力をした上で使い物になら無いのであれば、攻略組を解体し、奴等には私の経験値となって貰おう
二人の攻撃を無防備に浴びたコボルトロードのHPは既に残っていない。コボルトロードであったものは青白いフラグメントと化し拡散し、勝利のファンファーレが部屋中に鳴り響いた
後方では歓声が上がり、大柄な黒人のプレイヤーがキリトとアスナを讃えているのが見えた。私はもちろん第二層に繋がる扉の前まで移動済みだ
「第一層攻略完了。っと、あの扉の先が二層かな? 私は一足先に向かってるから、それじゃあね」
できれば今日中に迷宮区を見つけるところまでは行きたい。一先ずは街に向かい、物質を補充してから
「なんでだよ! おかしいだろ! 」
「リンド。辞めてくれ。元はと言えば俺が…」
「お前らが…お前らが情報を隠してなければディアベルさんは危険な目に遭わずに済んだんだ! 」
言い争う声が後方から聞こえたが、無視しよう。面倒な事に巻き込まれて無駄に時間を消費するのは控えたい
「おいお前! 逃げるのかよ! 卑怯者のベータテスターが! 」
「…」
無視だ。そもそも私はベータテスターじゃないし。多分キリトの事を言っているのだろう。扉に手を掛け、第二階層へと続く階段に
「待てって言ってるだろ!? 」
おっと、腕を捕まれた。ここは圏外だし殺してしまうのが一番速いけど、攻略組の目があるのでそれは出来ない。仕方ない。話くらい聞いてあげよう
「それで? なんの話? 悪いけど急いでるんだ。手短に頼むよ」
「おま、お前のせいでディアベルさんがどれだけ…」
「なに? 私のせい? フロアボス攻略で役立たずだった君がそれを言うかな。肉壁としての役割もロクに果たせず、少しHPが減ったらすぐ下がって回復に専念していた君が、それを言うんだ。へー…面白いね。冗談かなにか? 」
「ッ…お前のその出鱈目な力があれば俺達だって」
「じゃあ私と同じように経験値を稼げば良いじゃん。あ、先に言っておくけど旨い狩り場とか私もよくわかんないから。ひたすら迷宮区に籠ってたらこのレベルになったってだけだし」
プレイヤーも何人か殺したけど、私は数日遅れでデスゲームに参加したんだ。それくらい許してほしい
ディアベルは後で始末しておこう。指揮官としては使い物にならない訳では無いが、当初の予定通りメッセンジャーとして運用する意味がなくなった時点で、ディアベルは用済みだ
現にディアベル側の人間に現在進行形で時間を奪われている。実害が生じている
放置していて変に勢力を作られても困るし、機会を伺って適当な時に殺してしまおう
「嘘をつくな! 俺達は攻略組だぞ! そんな出任せ通じると思うなよ! 俺達だってそのくらい…」
「いやいや、だったら君らは何をしてたんだよ。散歩でもしてたの? いくら補給は街に向かう必要があるったってどれたけ短く見積もっても二十二時間は狩りをする時間がある筈だ。嘘をついているのはそちらの方でしょう? 」
「は? ……」
呆けた面を晒してやがる。ここでカーソルカラーの偽装に用いているスキルを全て解除してやったら、一体どれほど面白い表情をしてくれるのだろう?
「…お、お、お前らもだ! 攻略本に書いていなかった…俺達が知らなかったボスの攻撃を、お前らは知ってたじゃないか! 」
どうやらリンドの矛先キリトとアスナの方に向いたらしい。やれやれ。これでやっと先に進める。でもどうしよう。先程から視界を遮るポップアップを何とかしないと、戦闘時に邪魔になってしまう
「し、知ってる、こいつらベータテスターだ! ボスが刀を使うって事も、あの攻撃も、知ってて隠してたんだ! どうせ旨い狩り場やらレアアイテムを独占して強くなったんだろ! このベータ上がりのチーター野郎! 」
フロアボスは討伐され、第二階層への道は開かれたと言うのに私の他に先に進もうとする者は居らず、仲間内で問題まで起きてしまっている。このままでは新規プレイヤーとベータテスターの間の溝は深まるばかり
「ズルして得た力で粋がりやがって! お前らのせいで俺らは死にかけたんだ! レアアイテムやら情報やら吐き出して保証しやがれ! 」
「あなたねぇ…私たちは…」
「…く、くははは。ベータテスター? あんな素人連中と一緒にされちゃ困るな。当選した千人の中でマトモに戦える奴なんて数えるくらいしか居なかった。正直今のアンタらの方がマシさ」
私としては全百層からなるアインクラッドの下層の情報しか有していないベータテスターにさほど旨味は感じないし、ベータテスターが虐げられ、最悪死に絶えてしまっても別に構わないのだけど、情報があった方が効率が良いのは確かだ
「でも俺は違う。俺は本物だ。ベータテストで誰よりも経験を積み、誰よりも高く階層を登った。さっきのボスのスキルに対応できたのだって上層で嫌になるくらい刀スキル持ちのmobとの戦闘を経験してきたからだ」
「なんだよ…なんなんだよそれ…チートと変わらねぇじぇねぇか! 」
「ベータ上がりのチーター野郎が! 」
罵る声が耳障りという訳ではないが、ここでキリトが犠牲となり、潰れてしまうのは惜しい。それに一応この階層を出るまでの間、二人はパーティーメンバーだし
「いいなぁそれ、気に入ったよ。俺はビーターだ。これからはくれぐれも元ベータテスター如きとは一緒にしないでもらおうか」
「ねぇリンド。これなんだと思う? 」
先程から視界の邪魔をしていたポップアップを他者にも視認出来るように設定し、リンド達に見えるように配置
「どうやら君がさっき私の手を無理やり掴んだのがハラスメントコードに引っ掛かったらしいよ。これで君は私の一存でいつでも監獄送りに出来る訳だ。やったね」
「は? え? え、いや、ちが」
「いやらしい手つきだったしね。私の美貌に欲情した? 気持ち悪いなぁ。ま、喚いてないで檻の中で頭冷やしてきなよ。それじゃあね」
女性の権利を悪用しているようで気が退けるが、前世が男だったとしても今世では私も立派な女性だ。それにシステムが先程のアレをセクハラだと認識し処理したのだし、私は何も悪くない
「さて、私は行くよ。パーティーは解散だ。 まぁ頑張って、次に会う時にまでは私のレベルに追い付いておいてよ。じゃあね」
▲▽▲▽▲
第二層へと上がり、すぐ近くの街の転移門を
フロアボス討伐得た経験値は莫大なもので頭打ちになっていたレベルが三つも上がり、コルもかなりの額が手に入った
経験値を独り占め出来なかったのは少し惜しいが、仕方ない。私一人でのソロ討伐をやろうとすれば確実なタイムロスが生まれてしまう所だった
時間をかけすぎてしまっている。第一層攻略を終えるまで、経過した期間はサービス開始日から数えて二週間。本来であれば既に最低でも七層まで進んでいなければならないと言うのに、私はまだ二層に到達したばかりだ
延命処置には限界がある。このペースではとても期限に間に合わない
出来ないじゃないだろ、私。やるんだ。やってやるんだ彼女の為に、諦めるな。彼女を救う。今度こそ。死なせやしない
ふと目を見やるの四人組のプレイヤーが視界に入った。装備もお粗末なものもので、おそらく攻略組ではないだろうに何故二層の圏外に居るのだろう? 物見見物のつもりだろうか?
そんなことどうでもいいか。この辺りは見晴らしが悪い。私の索敵スキルの範囲内にはプレイヤーはあの四人しか存在しないし、潜伏スキル等で辺りにプレイヤーが潜んでいる訳でも無さそうだ
雀の涙だろうけど、回収しておこうかな
右手にショートソードを、左手にはロングダガーを装備し、私は四人のプレイヤー達の元へと駆け迫った
第一層フロアボス攻略後の展開について。階層スキップして二十五層のクウォーターポイントの話から赤鼻のトナカイやら圏内事件の流れに入ろうかと思うんですが、二十五層までの主人公の話は冒頭でさらっと開示するだけで良いですか?
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いいよー
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駄目だ。一話分使ってちゃんと書け
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作者に任せる