小悪党、又は異常者の狂逸譚     作:這いずる蛞蝓

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第十二話 発芽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二千二十三年三月二十九日現在。全百層からなるアインクラッドの二十四層までが攻略され、攻略組と呼ばれる存在はその大半がアインクラッド解放隊や血盟騎士団、青龍連合等の大型ギルドに所属し生産職の支援を受け、最近では最低限邪魔にならない程度のパフォーマンスを見せてくれるようになった

 

 

 

 

 

「アレ! アレやろうよヘッド! お仲間同士で殺し合って生き残った奴だけ助けやるぜゲーム!」

 

 

 

 

「そう言って結局生き残った一人も殺しちゃったじゃん。効率悪いしちゃっちゃとやろ。どうせ大した経験値にならないだろうけど」

 

 

 

 

 

「もーそれを言っちゃゲームにならないじゃないっすかぁ! 」

 

 

 

 

 

勿論、私もなにもしていなかった訳ではない。限界まで自己強化に専念し、行き詰まれば攻略組にフロアボスの情報を提供し、レイドでのフロアボス攻略に挑み、次の階層への道を開く

 

 

 

 

 

階層プラス十レベルが安全マージンとされているらしいが、私のレベルは七十六。一つの指標を大幅に超過している

 

 

 

 

 

ここまで来ると経験値をたんまり溜め込んだプレイヤーをいくら殺してもレベルが上がらない。かといって攻略組に手を掛ける訳にもいかないし、雑に殺しすぎてこの事が露見すると攻略組を利用できなくなる

 

 

 

 

 

 

「ザザは剣士が良いよね。私が三人貰うから、ジョニーはメンバーと余ったので適当に遊んでおいで」

 

 

 

 

「わかっ、た」

 

 

 

 

「えぇーまた余り物ですか~ あんまりですよヘッド~! 」

 

 

 

 

 

「はいはい良い子良い子。今度埋め合わせはするからさ」

 

 

 

 

 

 

まだ正体はバレていないが私の犯行はアインクラッド中に知れ渡ってしまっている

 

 

 

 

 

主に迷宮区に出現し、攻略組に匹敵する実力のパーティーをいとも容易く壊滅させる正体不明、神出鬼没のレッドプレイヤー。何故かプレイヤーネームが表示されておらず、看破や追跡も不可能

 

 

 

 

 

標的は確実に始末しているので、今はまだ真偽も定かではない状態だが、都市伝説的な扱いで電脳世界の幽霊としての地位を着実に築き上げてしまっている

 

 

 

 

 

 

手駒になりそうな優秀な才能を持つ二人をスカウトした時はそのお陰でスムースに勧誘できたし、悪いことばかりじゃないけど

 

 

 

 

 

 

「イッツ、ショータイム! ほらほらほらこのまま死んじゃうぜぇ! ハハハハ! 」

 

 

 

 

 

 

「逃げ、るな。戦え」

 

 

 

 

 

短剣使いのジョニーブラック。細剣、エストニック使いのザザ。二人を手駒に加えたのはPKを行うために、その時の攻略最前線のいくつか下の階層で、獲物を吟味していた際の事だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻痺毒が付与された攻撃を受けたのか地面に転がり身動きの取れないプレイヤーを前に高笑いをしているプレイヤー。殺し合いになにかしらの価値を見出だしているのか純粋な闘争に身を投じるプレイヤー

 

 

 

 

 

その時期は私の行った殺人の噂が広まり始めた頃で、同じようにPKを行う模倣犯が各地に現れていた。そういう奴らのは他のプレイヤーに比べ、経験値とレアアイテムを溜め込んでいる事が多かったので、私にとってレッドプレイヤーは絶好の獲物

 

 

 

 

 

 

 

二人も同じ部類の素人かと思い、交戦を仕掛けてみたが、エストニック使いのプレイヤーの剣捌きはアスナと比べれば見劣りするものの、迷いのない剣筋で

 

 

 

 

 

麻痺毒の塗られた短剣を振るうプレイヤー、こちらは戦闘経験が乏しいらしくお粗末な攻撃を繰り返す馬鹿だった。しかし不意を突いた麻痺毒入りの瓶の投擲や、体勢をわざと崩し不安定な姿勢からの想定を逸れた一撃等の命懸けで私のペースを崩そうとする試み、アイデアは評価に値する

 

 

 

 

 

が、それだけで私を殺せるのであれば既に私はそこらのガキに殺されて死んでいる。エストニックを叩き斬り、二人のHPをレッドゾーンへ。残念なことに麻痺毒は耐性の指輪のお陰で効かなかった

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、私の手駒になるつもりはない? 今なら潤沢な支援と、怯える必要のない安全地帯付きだけど、どう? 」

 

 

 

 

 

レッドカーソルの偽装とプレイヤーネームの非表示化に使用しているすべてのスキルを解除し、赤黒く変色したカーソルを久々に人前に晒す

 

 

 

 

 

 

レッドプレイヤーとしてではなく、善良なグリーンカーソル。それも英雄として。私の名前はアインクラッド中に知れ渡っている

 

 

 

 

 

軍所属の攻略組トッププレイヤー。それが私の表向きの役職だ。それが裏では夥しい数の殺人を犯しているなんて、機密を、あえて二人には晒した

 

 

 

 

 

二人は殺すには惜しい才能だ。かといって先程まで殺し合っていた相手に下に着けと言われ、素直に従うとは思えない

 

 

 

 

だからこそ私なりの誠意を見せた。今の私の姿を記録結晶で撮影し、情報屋にでも売れば莫大な富を得られる。私は失脚し、黒鉄宮に収容されることになるだろう

 

 

 

 

 

「ハハハハ! あんた最高だ! 俺はあんたに着いていきますよ! 」

 

 

 

 

 

「……これれから、よろしく、頼む」

 

 

 

 

 

 

だがそんな詰まらない選択肢を二人は選ばない。そんな事にはまるで興味がない。私は二人が望む場を提供でき、私は彼らを手駒として利用できる。利害の一致だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

階層攻略が進むにつれて、攻略組の中でギルドに所属していないソロプレイヤーについて問題提起される事が増えてきた

 

 

 

 

 

万が一の時にカバーが遅れるやら、連携が取りづらいやら、不用意に場の空気を乱しているなんて難癖を付けられた事も一度や二度じゃない

 

 

 

 

 

あまり助長するようであれば攻略組は処分しようかなんて以前はは思っていたが、最近の攻略組は最低限の仕事はしてくれているし、この程度の事で潰してしまえば今後の階層攻略に支障が出る

 

 

 

 

 

 

であれば私が何処かのギルドに入らなければならないのだけど、独断専行のせいで私と攻略組の面々との関係は冷えきってしまっているし、情報伝達以外の会話なんてしたことない。なにより顔と名前が一致しないし

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

 

 

 

 

「なんや藪から棒に、あんさんの方から話しかけてくれるなんて珍しいやんか。ワイに出来る事ならなんでも言ってや」

 

 

 

 

 

 

第一層ボスの討伐戦で虎の子の回復結晶を使用し、恩を売ったのが効いているのか、あれからキバオウはなにかと孤立しがちな私と攻略組との間を取り持ってくれている

 

 

 

 

 

 

これまでも攻略組関連で面道な事があればキバオウに一言言えばすぐに解決していたし、今回もキバオウに相談してみよう

 

 

 

 

 

 

「いやね、ソロでの攻略に限界を感じてきててさ。私もそろそろ何処かギルドに入りたいなって思って。何処か良い所紹介してくれない? 」

 

 

 

 

 

「ほ、ホンマかいな。それならワイのギルドに新しく工作部隊を設立する事にもなっとるさかい、そこの部隊長の椅子を用意しておくわ」

 

 

 

 

 

 

やけにあっさりとギルドに入れてくれた。いくらなんでも気を許しすぎじゃない? それにいきなり役職までくれたし。まぁ、ヒラよりは動きやすそうだし、貰えるなら貰っておくけどさ

 

 

 

 

 

 

 

「きみだけが便りだったんだ。ありがとう。助かったよ」

 

 

 

 

 

耳障りの良い言葉を並べ、キバオウの好感度を稼いでおく。既に殺人、窃盗、恐喝なんかの行為を除けば、キバオウの思考を誘導する事は容易ではあるが、感謝の言葉はコストゼロ

 

 

 

 

 

手間がかかる訳でも、何かを消費する訳でもない。その費用対効果は絶大だ

 

 

 

 

 

「ま、また困った事があればいつでもワイに言うてくれや。いくらか融通は効かせれる。ほなまた」

 

 

 

 

 

 

うっはちょれー。この調子なら殺人の正当化、青竜連合のようなレアアイテムの為なら一時的なオレンジ化も厭わない犯罪者予備軍に出来るかも。倫理観が緩くなればなるほど扱いやすくなるし。駒に正常な判断能力は邪魔なだけだ。

 

 

 

 

 

迷いなく、疑うことなく私だけの命令に盲目的に従ってくれた方が扱いやすい。さして駒としての実力を備えている訳でも無いのだから、私の言葉に背く駒なんていらない。それなら経験値に変えた方がマシだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「隊長? お身体の具合が悪いのでは? ここは我々にお任せを」

 

 

 

 

 

「…そうだね。そろそろ寝ないとバットステータスの蓄積値がそろそろ不味そう。きみたち。五分間、私のことを守っててね。そこのオレンジは私の経験値にするから生け捕りで」

 

 

 

 

 

 

アインクラッド解放軍において私の所属、指揮する特殊工作部隊の役割はPKK(プレイヤーキラーキラー)。犯罪を置かしたプレイヤーの殺害、及び捕縛

 

 

 

 

 

特殊工作部隊と他の部隊との間には明確な違いが存在する。通常の部隊の指揮系統とは違い、私の特殊工作部隊は形式上はアインクラッド解放軍に所属している事になってはいるが、実際は独立した個別の組織としての扱いを受けている

 

 

 

 

 

 

申請さえすれば資金やアイテムは自由に取り寄せ放題だし、他の部隊への懲罰権も有している。お陰で面倒な上下関係に頭を悩ませる必要もない。ほんと楽だ。キバオウを傀儡化しておいて良かった

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ、もう五分か」

 

 

 

 

 

ちくしょう。結局眠れなかった。目を瞑り身体を休めた事で蓄積されたバットステータスは解除されたし良いか

 

 

 

 

 

「隊長。不躾ながら申し上げたい事が」

 

 

 

 

 

「ん。発言を許そう」

 

 

 

 

 

 

短剣を軽く振るい、調子を確かめていると、最近私の部隊に入った新人が発言権を求めてきた。私の部隊では必要最低限の連絡事項以外の非効率なコミュニケーションは禁じている。使い物になる駒にはそれを認める場合もあるが、それでも雑談なんて無駄な行為は行わない

 

 

 

 

 

 

空気が悪くなるかもしれないなんて心配はいらない。私の部隊に所属している人員はもれなく私の信者と化している。余程の事があっても裏切る事はないだろう

 

 

 

 

 

 

「隊長のお身体が心配なんです。先輩から聞きました。隊長、一層のフロアボス攻略後から一睡もしてないって、そんなんじゃ潰れちゃいますよ! もっと身体を大事に──」

 

 

 

 

 

「言いたい事はそれだけ? わたしの身体はわたしだけの物だ。きみのじゃない。ならどう使おうと私の勝手だろう? 」

 

 

 

 

 

「っ…でも! 」

 

 

 

 

 

どうやら魅了の効果が強すぎたみたいだ。わたしに恋をしてしまっている。目を焼かれてしまっている。まるで話が通じない。めんどくさいな。処分しよう

 

 

 

 

 

「上官に対する命令違反。不敬だね。そういう事にしておいてよ。そうだろう? みんな」

 

 

 

 

 

 

私の言うことは絶対だ。私が黒と言えば黒になる。私の身を案じる善意すらも、私の号令一つで信者の声によりかき消される

 

 

 

 

 

 

一歩、二歩と近付く。不必要な心配をした隊員はオレンジプレイヤー同様、信者により縛り上げられている

 

 

 

 

 

麻痺毒は投与していない為、ストレージかポーチから移結晶を取り出す事くらいは出来るかもしれないが、無駄だ

 

 

 

 

 

「転移、ドール…」

 

 

 

 

 

声帯を裂いてしまえば発声は出来ない。結晶アイテムを取り出せたとしても、発動キーである転移先の街の名前を言えないのであれば私がら逃げる事は出来ない、が、対策は一応しておこう

 

 

 

 

 

 

『私を見ろ』

 

 

 

 

 

目を合わせる。視線を向ける。意識を向ける。認識する。彼という一人の、矮小な人間を認知する

 

 

 

 

 

 

私が見ている。彼が見ている。信者が、捕縛したオレンジプレイヤーまでもが、私だけに視線を向けている

 

 

 

 

 

 

あとは処理するだけだ。無防備な身体へと作業的にソードスキルを叩き込み、一人の規律違反者とオレンジプレイヤーを経験値へと変換。渋いな。やはりこの程度のレベルのプレイヤーを数人殺した程度ではもう私のレベルは上がりそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

仕方ない。そろそろ次の段階に進むべきか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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