小悪党、又は異常者の狂逸譚     作:這いずる蛞蝓

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第四話 夢見妄者の世迷言

 

 

 

 

病院を抜け出し繁華街の裏路地辺りまで距離を取った。この辺りまで逃げれば倉橋も追っては来られないだろう

 

 

私は息を整えながら、現状の再確認を行う

 

 

 

私の望みを叶えるためには、ユウキ一人を治療するだけでなく、両親と姉の治療も行わなければならない

 

 

 

親しい隣人が死んでしまえば、彼女の笑顔には影が差し込んでしまう。表面上笑顔を浮かべていたとしても、心の中に隣人の死は残り続けてしまう事だろう

 

 

 

 

それでは駄目だ。それは妥協である。甘えが過ぎる。犠牲の上で成り立つ笑顔など赤点だ。彼女は救われない

 

 

 

 

しかし私に許された願いは残り二つ。簡単なさんすうの問題である。これでは全てを救えない

 

 

 

 

願いを増やすように願うことは出来ない。ルール。必要最低限の法則という奴である

 

 

 

 

ならばどこぞの王妃さまのようにエイズが根絶するように願えば良いじゃないという至極凡庸な、考えが真っ先に浮かぶが、これも無理だ

 

 

 

 

繰り返すようだが叶えられる願いには制限が存在している

 

 

 

 

自身以外を対象に、願いを叶えるには繋がりが必要だ。例えば倉橋。彼は私にとって仮にも命の恩人であり、そこに関係が生じている。そこから派生して一等親までが願いの対象範囲内となっている

 

 

 

 

自分自身にならある程度応用が聞く力だか、他者に使うとなると著しく幅が狭くなる。全くもって扱いにくい力だ

 

 

 

 

対象を一人に絞れば、例えば相手が無関係の人間だったとしても、瀕死状態からの蘇生や迷子の子供探しくらいは出来るが、それでは本末転倒である。

 

 

 

 

本当の意味で彼女を救うにはエイズの治療薬を完成させる必要がある。ならば残り二つの願いは知識と資金を願うべきか

 

 

 

いや、いやいや、残された時間を考えろ。万人の天才が長い年月をかけて成し得なかった偉業を、一介の小悪党ごときがそれを成し得るとでも? 

 

 

 

それはどんな夢物語だ。現実を見ろこの能無しが

 

 

 

仮に願いの力で天才と呼ばれる才能を得たとしても、エイズの治療薬を作り上げる事が出来るかなんてわかったもんじゃない

 

 

それこそ、比較対象がいないくらいの、図抜けた才能がなければ

 

 

星星が曙の空の上で激しい自己主張を続けている。道路のに並ぶ信号機は一斉に色を持ち始める

 

 

夜が明け、朝がやってきたのだ。人によれば絶景だと絶賛する日の出であったとしても、今の私からすれば塵芥となんら変わりなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

平日の、真夜中に大型ショッピングモール近くのベンチに寝転がり空を眺めている私が言うのも何だが、残された時間はあと僅かだった

 

 

 

「おさないでくださーい! 最後尾は此方です。あっ、そこ! 割り込まないでください! 」

 

 

 

再度申し上げるが現在時刻は午前二時。真夜中であるというのに、正面の家電量販店は随分賑わっているようだ。それにあの行列は一体何行列なのだろう? 

 

 

「チキショウ! トイレに行っとくんだった。このままじゃ漏れ……いや、ここまで並んだんだ、ぜってぇに手に入れてやるぜ!! 」

 

 

頭にバンダナを巻いた巻いたサラリーマン風の男はとんでもないことを口走りながら行列と格闘していた

 

 

 

 

「くっそ、徹夜なんかしなけりゃよかった……」

 

 

 

「こりゃ、ナーブギアの時並みに長い戦いになりそうですな」

 

 

「はは、なんのこれしき。つい先程まで仮眠をとっていましたからな。余裕ですぞ」

 

 

 

どうやらあの行列はソードアート・オンラインの初回ロット分を購入する為に並ぶ、未来の被害者達の集まりらしい

 

 

 

ゲームであって遊びではない。茅場昌彦はインタビュー記者にそう答えていたらしいが、その言葉の意味を真に理解している者は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天啓とでも言うべき、一つの案が浮かんだ

 

 

なんだ居るじゃないか。とびきりの天才が。ここではないどこかに想いを馳せ、一つの世界を作り上げてしまった天災が、この世界には存在する

 

 

 

何故気が付かなかったのだろう? 無意識下でいくらなんでも茅場昌彦に会う事は出来ないと諦めていた? 

 

 

出来る筈だ。それくらいの事ならば、願いの対象範囲内だ

 

 

活路が見えてきた。まだ終わりじゃない。私は茅場昌彦の潜伏地点の位置情報を願いの力で確認し、一縷の望みにかけ、行動を開始した

 

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 

ヴァルゴ・カザルスという男がいた。両親に愛されず、相乗した不幸により悪魔の名を受け、生まれてからずっと、誰かの道具として生きてきた。既に死んだ男の符号である

 

 

 

 

この作戦においての一番の問題はナーブギア及びSAOのROMの入手であったが、運良く回収出来て良かった

 

 

 

 

 

 

進行の妨げになる木々の枝や、背の高い雑草を切り捨てながら、私は樹海の森林の奥深くへと進む

 

 

 

キチンと整備はしていたつもりだが、大型のサバイバルナイフの切れ味は大分酷い事になっている。それに刃毀れも目立つ

 

 

 

買い換えの時期だろうか。あと少しだけ持ってくれと願いながら鬱蒼とした森の中をひたすらに進み続ける

 

 

 

前回の睡眠から六時間程歩き続けた頃だろうか。ようやく茅場晶彦の潜伏先である山奥の別荘が見えてきた

 

 

 

最悪警備兵なんかが巡回しているかもしれないと警戒し、装備を予め取り出していたが、杞憂であったようだ

 

 

 

 

「警告する。そこから先は私有地だ。許可なく立ち入れば日本国の法律で罪に問われるだろう。そして私はこの土地の所有者である。道に迷っている遭難者であるならば手助けをしたのだが……どうやら君はそういう訳では無さそうだ。一体何の目的があってこんな山奥までやって来たのか。良ければ教えてはくれないだろうか」

 

 

 

 

変声機を使用しているのかノイズがかった声が聞こえる。異世界への渇望を抱き、一つの世界を作り上げた異常者の声にしか聞こえなかった

 

 

 

「話をしに来たのさ、ゲームマスター(茅場晶彦)。私と取引をしないか」

 

 

 

私は少しでも茅場の気を引き、心の中に動揺を産み出すために、大袈裟に見せ付けながら能力で大型のサバイバルナイフを収納し、茅場晶彦との交渉に移った

 

 

 

▲▽

 

 

 

場所を茅場晶彦の別荘のリビングに移し、私と茅場は相対する

 

 

「君の要求はおおよそ理解した。して、取引と言うからにはそれなりの見返りを期待しても良いのかね」

 

 

 

「私に出来る事ならなんだってやる。逃亡の中の護衛でもなんでも好きなように使ってくれ」

 

 

「いや、その必要はない」

 

 

「どうしてだ! タイムリミットが問題なのはわかってる。だけどお前なら何とか出来るだろうが! なぁ頼むよ。お願いだ」

 

 

 

必死さを演出する必要は無かった。口から吐かれた言葉は偽りの無い、心の底からの懇願だった

 

 

 

「勘違いをさせた事は謝罪しよう。取引に応じない訳ではない。ただ、見返りの部分の変更を申請したいのだよ」

 

 

 

落ち着いた声で淡々と物事を語る茅場と私では、生きている世界が違う。縋ることしか出来ない私では埋められない。決定的な溝。モノが違えど、茅場もソレと同じものを私に視ているらしい

 

 

 

「私と勝負をしてもらおう。異世界人(・・・・)

 

 

 

静かに、しかしそれでいて確かな熱量を持った声音。瞳には狂気的なまでの歓喜の色が浮かんでいる

 

 

 

「超能力者か、異世界人かどちらでも構わんよ。私と勝負をしてくれないか」

 

 

 

要求と茅場は言ったが、もし断ればこの男は私をアインクラッドに招く為ならどんな手段でも用いるだろう。憧れと茅場は言ったが、それは偏執狂に近い性質だ

 

 

 

「私は君達に。いや、君達の世界に強い憧れを抱いていてね。空浮かぶあの城にずっと執着して生きてきた」

 

 

 

夢見妄者の声だった。子供のまま大人になり、夢を追い続け、ついにはそれを掴み取った勝ち組(エリート)の言葉だ

 

 

妄言だと切り捨てる事は出来ない。その言葉には重みがある

 

 

 

「つい最近。ようやくそれを実現まで漕ぎ着けた所だ。本物の異世界を知るであろう君に、是非見て貰いたい。ナーブギアとROMはすぐに用意する。是非とも私の世界で、私と勝負をしてはくれないだろうか」

 

 

 

 

「此方には時間がねぇんだよ。先にエイズの治療薬を渡せ」

 

 

 

「ふむ、確かにその通りだ。しかし先に物を渡したとして、私の要求が反故にされない保証が無いじゃないか」

 

 

それを言ったらキリがないとでも言いたげにすました仏面顔で珈琲を口に運ぶ茅場昌彦には余裕があった。既に代案を頭の中で纏め終わっているのだろう

 

 

「…ではこうしよう。SAOが完全攻略されるまでの間、三年間程度を想定して、患者には延命処置を講じる事にしよう。SAOの攻略が終了次第、全プレイヤーのログアウト処置を行うタイミングでエイズの治療薬のデータを全世界に向けて公開する。これなら文句は無い筈だ」

 

 

 

「ユウキはそれで助かるとして、ユウキの両親はどうする。明日明後日も危うい人間を、どうやって三年間も生かし続けるんだ」

 

 

 

「どれだけ手を尽くしたとしても、両親の方は一年持てば良い方だろう。姉の方も二年が限界だ。これ以上は諦めてくれたまえ」

 

 

 

 

私では茅場の示す二年の延命すら行えなかったのだから、文句を言える立場ではない。しかし本来想定される約三年のクリアタイムに対して、その時間はあまりにも短すぎる。一年でのクリアを目指す事になれば三日に一層のペースで攻略してもギリギリだ

 

 

 

それこそ、原作のように七十五層で主人公(黒の剣士)ユニークスキル(二刀流)を用いて、何らかの手段でラスボスを呼びつけ、滅多刺しにした原作ストーリー(あやふやな記憶)を当てにしたとしても実現まで二年と少しかかる

 

 

 

 

しかし茅場の提案に乗る以外の選択肢が無いのも事実だ。交渉という体を取ってはいるが、決定権を持ち得るのは茅場の方だった

 

 

 

 

「わかった。望み通り殺してやるよ。茅場晶彦」

 

 

 

 

 

 

 

こうして私は、私自身の願いを遂行する為に。茅場晶彦とのゲームに勝利する為に。浮遊城アインクラッドに途中参加する事になった

 

 

第一層フロアボス攻略後の展開について。階層スキップして二十五層のクウォーターポイントの話から赤鼻のトナカイやら圏内事件の流れに入ろうかと思うんですが、二十五層までの主人公の話は冒頭でさらっと開示するだけで良いですか?

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  • 駄目だ。一話分使ってちゃんと書け
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