失恋した! 天使が現れた!   作:凄い人

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第1話 失恋した! 天使が現れた!

 失恋した。

 

 俺が好きだった子は、中学からの同級生。俺の幼馴染である大親友の男と三人、馬が合い、そのままつるんでいた。

男子高校生なんて単純なもんで、常日頃一緒にいたら好きになるに決まってる。俺もその例に漏れず、その子のことを好きになった。

 

 それを伝えないまま過ごしていたら、ある日大親友とその子から付き合いました報告。その瞬間、俺は前世でとんでもない大罪を犯し、一族諸共滅ぼされた挙句、それでもまだ罰として足りず、今世の俺にまで影響が出ているんじゃないかと本気で思った。

 

 言われた直後は、うまく笑えていたと思う。本心とは真逆の「よかったな!」という言葉を送ってからしばらくは記憶がない。気づけば、夕焼けの公園で、遊ぶ子どもをベンチから眺める不審者になっていた。最近の子どもはしっかりしているからか、俺の方をちらちら見て不審がっている。よかった、俺が高校生で。俺がおっさんなら秒で通報されるところだった。

 

 意識しないため息が落ちる。マジで何考えてんだよ。いつもつるんでるのが四人とかだったらまだいいけど、三人だぞ? 余った一人の疎外感やべぇだろ。周りから見た時の俺の印象最悪だろ。「え? あの二人付き合ってるのに、なんであいつ一緒にいるの?」って目で見られるに決まってんだろ。そこんとこちゃんと考えたのか? 俺を除け者にして楽しいのかよ、コラ。

 

 いっそ、空から美少女でも降ってこねぇかなと空を見上げる。もちろんそんなはずもなく、白い羽が俺を煽るかのようにふわりと顔に落ちてきた。

 

 それを手に取って、どんな鳥チクショウが俺の顔を汚しやがったんだと周りを見ようとした。

 

 そう、見ようとした。けど、見れなかった。別に目がつぶれたとかそんなんじゃなくて。

 

 俺の目の前に、随分立派な真っ白な翼を蓄えた、金髪碧眼の美少女がいたからだ。

 

「私は天使!!」

 

 どうやら天使らしい。降ってきてほしいとは言ったけど思ってたのと違う。

 

「どうやら、私の美しさに見惚れて声も出ないみたいね」

 

 いきなり目の前にコスプレ美少女が現れて度肝を抜かれてるから、あながち間違いじゃないかもしれない。ただ、ふふんと得意気な表情が癪に障ったから、ちょっと攻撃しようと思う。

 

「は? 思い上がんなよコスプレ激イタ電波女。テメェくらいのレベルなんてテレビん中にゴロゴロ転がってるし、見た目いいだけなら骨董品と同じなんだよ。大事なのはその人に興味があるか好意があるかだろ。わかったらさっさと視界から消えろ」

 

 ちょっとどころじゃなかった。失恋のストレスのあまり見ず知らずの人に暴言を吐いてしまった。これは反省しないといけない。

 

「ハァ!!? 骨董品!!? なによそれ!!」

「いや、悪かった、言い過ぎた」

「骨董品って何!?」

「そっちかよ」

 

 骨董品って言われたことに腹立てたんじゃなくて、骨董品を知らなかったのかよ。アホな姿してると思ったら、本当にアホだった。

 

「いいから、ほっとけよ。俺は忙しいんだよ」

「忙しい人は、一人で公園でぼーっとしないと思うけど?」

 

 言いながら、馴れ馴れしく俺の隣に座る。ちょ、翼邪魔なんだよ!!

 

「じゃあしまうわね」

 

 ぎゅるん! と音を立てて翼が消えた。掃除機のコードかよ。

 

 自称天使は、ぱたぱたと足を揺らしながら、俺の顔を覗き込む。変なやつだけど顔はいいから、なんか照れくさくて顔を逸らすと、自称天使は柔らかく笑った。

 

「なんかあったの? 話くらいなら聞いてあげるわよ」

「話しても仕方ねぇよ」

「じゃあいいわ」

「食い下がれよ。こういう時って『吐き出すだけ吐き出せば?』みたいな感じで食い下がるんじゃねぇのかよ」

「ハァ? 人間の常識押し付けないでくれる? せっかく私が話聞いてあげようとしたのに、それを無下にするからよ。どうしてもって言うなら聞いてあげないこともないけど?」

 

 なんでこいつはこう上から目線で喋るんだ……? マジで天使なのか? 天使じゃなかったらむしろマズいだろ。初対面の相手に上から目線で、そうじゃなくても天使のコスプレして平気で公園までくるなんて、どう考えてもまともじゃない。無理に褒めるならおもしれー女ってやつだ。

 

 胸を張ってちらちら俺を見てくる自称天使。なんとなく、話さないと解放してくれない気がした俺は、別にもう二度と会うことはないだろうしと、口を開いた。

 

「失恋したんだよ。親友と好きな子が付き合っちまって」

「へぇ。寝取り散らかされたのね」

「どういう教育受けたらそんな下劣な言葉出てくるんだ?」

 

 あと寝取られたわけでもねぇし。元々俺のもんでもなかったから、俺は普通に負けただけだ。

 

「それで落ち込んでるってわけ?」

「おう」

「ふーん。恋だとか愛だとかペイだとかよくわからないけど」

「ペイは支払うって意味だぞ」

「そんなに落ち込めるくらい本気で好きだったんなら、あんた素敵なやつなのね。まっすぐ人を好きになれる人ってそんなにいないわよ? 誇っていいんじゃない」

 

 少しどころかめちゃくちゃ意外だった。どうせ「えぇ!? 失恋!? 可哀そう!! 私くらいの美少女にもなるとそんな経験まったくないのに!! ステータス低い人って失恋なんてするのね!!」くらい言われるかと思った。そう思うくらいこいつの印象は最悪だった。

 のに、普通に慰められるなんて。少し調子が狂いつつも、「ありがとな」と返す。

 

「ふふん。まぁ天使だし? こういうお悩み相談とかはお手のものよ! なんなら、あんたが好きな子と結ばせてあげるわよ!」

「いや、いいよ……ってよりんなことできねぇだろ」

「できるわよ。さっき言ったでしょ? 私は天使だって!」

 

 再び、自称天使の背中から真っ白な翼が生えた。かと思えば自称天使はそのまま宙へとふわりと飛んで……。

 

「飛んでる!?」

「だから天使だって言ってるでしょ?」

「ま、マジで天使なのか?」

「マジよマジ、大マジ。なんなら触ってもいいわよ?」

「下ネタかよ」

「翼の話に決まってんでしょ」

 

 そりゃ失恋するわねと、やかましいことを言いながら、俺の目の前に翼が差し出される。恐る恐る触れてみれば、触れているのがわからないくらい柔らかく、奥には骨のような固さを感じた。作り物にしては出来過ぎている。けど、

 

「そもそも翼触ったって天使かどうかなんてわかんなくね?」

「ハァ……これだから私以外は」

「自己至上主義すぎだろ。だから男ってとか、だから人間ってとかじゃねぇのかよ」

「仕方ないから、天使の力を見せてあげるわ」

 

 天使の力? なんか加護とかそういうのか? こいつの加護ならないほうがマシだろ。むしろ呪われそうな気もする。

 

「エンジェル・スナイプ!」

 

 そんな失礼な俺の思考は、雲を突き破る光の矢に打ち消された。

 

「どうよ?」

「直接攻撃かよ。天使の証明にしてはバイオレンスじゃねぇか?」

「あぁいえばこう言う。そんなんじゃモテ……あっ」

「気ぃ遣ってんじゃねぇよ。みじめになんだろうが」

「それは元々だけど……」

「それは元々なのかよ……」

 

 まぁ、認めるよ。そう言うと、天使は満足気に笑って、「わかればいいのよ、わかれば!」と上機嫌。なんで笑ったらこんなに可愛いのに、口を開けば上から目線でどうしようもねぇんだこいつは。

 

「で、結局その天使は俺に何してくれんだよ?」

「だから言ったでしょ? 好きな子と結ばせてあげるって」

「だから言っただろ? いらねぇって」

「ほんとに?」

「ほんとに。それこそ俺が寝取り散らかすことになんだろ? そんなあいつらを裏切るような真似できるかよ」

「綺麗ごとウザ」

「お前本当に天使か?」

 

 天使にしては思考がカスすぎるだろ。天使なんて綺麗ごとを進んで実行する生き物じゃねぇのかよ。こいつのせいで俺の天使像がボロボロになってんだけど。天使ってもっとこう、慈愛に満ち溢れてるもんじゃねぇの? なんでこうもカスなんだよ。天使全員こうなのか? こいつだけだよな? こいつだけだとすんならなんでよりにもよってこいつが俺の目の前に現れたんだ?

 

「ま、あんたがなんて言おうともう無駄なんだけどね!」

「は?」

「天使の翼は、羽が抜けたりなんてしないの。羽が抜けるのは死ぬときか、自分の意思で抜くか、人間になるかのどれか。で、自分の意思で抜いた羽を人間が拾った場合、守護天使契約が完了ってわけよ!」

「は?」

 

 いきなり何言ってんだこいつ。守護天使契約? なんでそれを俺と? ふざけんじゃねぇよ勝手に契約しやがって。負ける気しかしねぇけどやってやったっていいんだぜ?

 

「なんで俺とそんなもん結ぼうとしたんだよ」

「……」

「?」

 

 よく口が回るこいつにしては珍しく、俺の質問に返答がない。天使を見れば、汗をだらだらと流していた。

 

「ちょっと、ふらふらーってしてたらね」

「おう」

「暇だったから羽ちぎろーって思って」

「は?」

「ちぎった羽があんたの顔に降っちゃって」

「え?」

「守護天使契約が完了しちゃった」

「えげつねぇアホだな」

「仕方ないでしょ! 暇だったんだもの!」

 

 暇だったからって、触れたら守護天使契約が完了しちまうような羽をちぎるか? 羽ちぎって契ってんじゃねぇよ。

 いや、でも、守護天使契約ってのは悪いことなのか? 人知を越えた力を持つ天使がずっと近くにいてくれるんだろ? むしろいいことしかねぇと思うんだけど……それじゃあこの天使が汗を流して焦っている理由がない。

 

「お前、なんか隠してることあんだろ」

「……守護天使契約を結んだ時、その人が一番感じてる不幸を幸福に変えてあげると、ひとまずは守護天使契約が切れるの」

「……それはつまり?」

「まぁ、その、あんたが好きな子を、親友から寝取り散らかせば、守護天使契約が切れるってことね」

「ちなみに、守護天使契約が切れないとどうなるんだ?」

「一年以内に守護天使契約が切れなかったら、力のない天使はいらないって感じで。私は人間になるわ」

「……」

 

 ……。

 

「さ、戸籍とかどうする?」

「いやよいやいや!! 人間なんて自分の時間を削って働いて、へーこらへーこら頭下げたりくだらない自尊心保ったりするだけの非効率極まりない種族じゃない!」

「テメェ!! ハン、いいのか? 俺の気持ち一つで、お前が人間になるかどうかが決まるんだぜ?」

「ちなみに、守護天使契約を結んではいるけど、あんたに対しての直接攻撃は可能なのよ?」

「さぁ、一緒に寝取り散らかそう!!」

 

 失恋したと思ったら天使が現れて、命を握られて、好きな子を親友から寝取り散らかすことになってしまった。

 俺、どこで間違えたんだ?

 

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