うおおおおおおお!素材が捨て値でNPC売りされてるううう!ははははは!サ終1ヶ月前だからって生産上位ランカーは微動だにしてねえ!最後の花火だ!
a few weeks later...
ランカー1位馬鹿じゃねえの? ほぼ1ヶ月生産漬けでもランカーポイントが数千億も足りねえ。俺の悪あがきを面白がって他のランカーがくれた神器級生産装備を着けても全然足りねえ! ボスレアを、器も!湯水のように使っても 全 然 だ! パパ諸君、すまねえ俺はもうね帰る! おうち帰る! みんなログアウトしてるってことはこの装備と素材貰ってもいいんだよね? 貰っちゃうよ? 貰っちゃうよ? 神器級生産装備貰っちゃうよ? レア素材貰っちゃうよ? 製造と製薬ランカーが2位。ぐっふふふ。2位!2位かー。嬉しくてスクショ100枚は撮っちゃったゾ。拠点に戻るか。
はー、俺の青春もあと15分か。色々なことがあったな。自給自足のロールプレイで何百回ギルドブレイクされたか。PKもそうだがモンスターやフィールドエフェクト、果てはアプデの地形変更でギルドブレイクとか何のクソゲーだよ。そりゃ、竹と葉っぱと丸太で作った定員一人のギルド拠点でさ、入り口から一歩で最後の扉で開けたらすぐギルド武器なのはまずかったと思うけど設立自体は成立したんだからシステム的な保護があってもいいじゃん。アリアドネ仕事しろ! 流石の俺も堪忍袋の緒が切れたから運営に所信表明したわ!運営はちゃんと運営しろと。そしたらどうしたと思う?
調査だなんだ言って3ヶ月も音沙汰がないと思ったらある日突然テンプレ謝罪文と一緒にワールドドリフターとかいう不名誉な職まで押し付けやがって完全に俺のこと馬鹿にしてるだろ! 何が世界の漂流者だチクショオオ! 専用スキルは転移制限を無視して一日に一度だけ九つの世界のランダムな座標に転移可能とか良さげなんだけど俺は生産職なんですけど!? 制限エリアは大体ハイレベルダンジョンだしソロで行ったら瞬殺されるわ! せめてパーティー全体とか融通しろよおおお!
それでもまあ楽しかったけどな。
23:59 51.52.53.....このまま寝て起きたらユグドラシル! なんてことはないか。
――俺はぜんまい仕掛けのおもちゃのように家に帰ったら死んだように眠る両親を見て育った。遊んだ記憶も話をした記憶もない。やつれて疲弊した両親の顔を見続けていたら俺の心にわがままは言わない、いい子でいようという思いが生まれた。無理して通信制の小学校で二年も学ばせてくれただけでも恵まれていたと思う。
数年後、力尽きた両親が残した少ない遺産で食い繋いでいる時にDMMO機材を見つけた。そこにはいくつかの映像コンテンツの体験版があり、大気汚染が今ほど深刻ではなかった昔の映像に裸一貫で大自然を闊歩する男の冒険モノがあった。それには現地のありあわせの素材で火起こしから建築、道具の作成をしていたし食糧も周囲を探索して得ていた。その一つ一つの行動を映したものが俺にとって新鮮で、興味をそそられて、経験してみたいと思えた。特に昆虫を旨そうに食べている時なんかこっちも涎が出てきたくらいだ。いつか昆虫を食べてみたい! 海老みたいな味ってなんだろう? 鼻くそ味の泥ってどんな味なんだろう?
家の外に出るには防毒マスクが必要で、そこから見える景色はいつも薄暗かった。チョコレートの塊をぶちまけたような街並みはいっだって俺の心を憂鬱にさせた。そんな時に手にしたのがユグドラシルだった。色鮮やかな世界を自由に冒険できるユグドラシルはサバイバル動画を見て渇いた井戸に水が染みだすようになっていた俺の心から感情を噴き出させるのに十分だった。
うおっ。眩しい。
両目を閉じていてもなお眼球を焦がすかのような光りに俺は反射的にまぶたをぎゅっと閉じた。変だな。電気代を節約するために部屋の照明は全て取り外してあるし外では重酸性雨が止むことがないから窓は閉めきっているはずなんだが。サ終のゲーム回線切断の衝撃にしても光量が強すぎる気がする。それに何だか変な匂いもする。これは辞めた会社のお局様が自慢気に見せびらかせてきた給料3ヶ月分の高級シリアルバー牧場物語に似ているぞ。なんでも、サプリメント錠剤とは違って甘い食べ物だとかなんとか。甘い食べ物か。甘いって何だろうな。サプリメントのうえっ、とする感じとは違うのだろうか。あー、気になる。俺もいまペロペロすれば感じるのかな。ぺろぺろ。
ん? なんかつやつやするな。何だこの感じ。何だ? 頭が一気に冴えてくる感じがしてそして。
「う!? うんめええあええ!?」
何これ!? 何これ!? サプリメントのざらっとしてうえっ、とする感じがしない!? つやっとしてほわわわんてして何だか分からないけど課金ガチャで当たりを引いた時みたいな高揚感がする! すげー! これが? これが甘いってことなのか!? もっと欲しい! もっと俺にくれ!
「ううっえぇ!? うっうぇ!? うぇ?」
知らない天井だ。目を開けたらそこには緑色の景色が広がっていた。俺は驚いて立ち上がった拍子におかしなポーズを取っていた。
手には綺麗な花の花びら。下を向けば光沢のある緑色の布を押し上げる風船。プラチナブロンド色の髪の隙間からチラチラとした光が差し込んでくる。鼻腔を刺激するのは牧場物語。舌に残るのはねっとりした心地いいもの。これは。
「ここここれは!? ユグドラシルの続編か?」
俺は手で顔をぐにゃぐにゃと揉んでみたり自分の風船を弄ってみたり手についた花の液を嗅いでみたりした。それは牧場物語だった。
おー。触覚に嗅覚と味覚まで実装されてるとは。運営なかなかやるじゃん。ふーん。てか、ここどこだ? ギルドホーム(仮)に居たはずだがあんなに背の高い木々はなかったはず。
俺は天高く聳える大木に目をやりつつインベントリを開いて地図を取り出そうとした。確かアルヴヘイムにいたよな。ほとんどマップ埋めを終わらせてる俺の推測だとここはアルヴヘイムでないことは言える。さてとここは? うん?
視界を虚空へと向けていた俺の手元に一枚の紙が出現した。ユグドラシルでは地図のアイテムを選択すれば視界に地図が表示される仕様だったはず。それが待てど待てども表示されない。代わりに俺の手元に地図がある。
?????。
俺は首を傾げて手元の地図を見た。
――【アルフヘイム】大陸の絵が描かれている。
?????。
肝心の俺の現在地はおろかここがどこなのかも分からなかった。
何だコレ!? チクショオオオ! こんなん意味ねーだろうが!
俺は地図を地面に投げつけると次にコンソールを開こうとして。コンソール、コンソール、コンソールさん!? コンソールさんが行方不明だ! ログアウトして掲示板で現状確認しようと思ったのにログアウトできねえ。何てことだ。ログアウトができない。一体何が起きてるんだ? クソ運営は何かやらかしたのか? 友達リストを、開けない! 日付が変わる前に確認したら誰もログインしていないっぽかったけどこれじゃあ情報を得る手段が何もない。どうすればいい。
ん? そういえばさっき投げ捨てた地図がロストしてないな。確かユグドラシルでは自らの意思で所有権を放棄したアイテムは一定時間経過すれば消失するはずなんだが。ちょっと様子を見てみようか。
5分、10分。
いつまで経ってもアイテムがロストする気配がない。地図を拾い上げると確かにインベントリに入れることはできた。だが決定的な違和感があることに気づいた。
――入手ログが出ない。
思えば違和感のヒントはたくさんあった。それが五感だ。ユグドラシルでは電脳法により味覚と嗅覚が排除されている。それに触覚についてもかなりの制限がされているはずだった。それが今はどうだ。試しに胸に着いている風船を真顔で揉んでみれば沈み込むような感覚と反発するような感覚。それに微妙なくすぐったさがある。こんなことしようものならセクシャリティの規約に引っ掛かって大変なことになるはずだった。匂いにしたってそうだ。今も芳ばしいまでの牧場物語と何年も体を拭いていない奴の突くような匂いを僅かに感じる。地面に落ちているひしゃげた花を咀嚼すればほのかな甘味も感じる。これはDMMOーRPGではあり得ないことだ。
「現実、なのか?」
いやいやいや、流石にそれはない。通信制小学校中退の俺でも流石に騙されないし。何よりの証拠は俺の体だ。今の俺はユグドラシルで作った女ワイルドエルフのアバターで現実はヒョロヒョロの男だしな。エルダーリッチに親近感を覚えるほどだ。唯一似てるのは身長160センチの背丈くらいか。身長と言えば俺の背の高さを母親は褒めてくれたっけ。懐かしいな。はぁ。
「グオオオオオオオ!!!」
俺がため息をついたとき突然目の前に今住んでいる俺のアパートの二階部分までくらいのデカさの熊が現れた。アプデで追加されたモンスターだろうか。硬そうな毛を纏っている。そいつをよく見ても名前が表示されないしHPバーも何もなしだ。
「戦闘UIの根本的な変更とかやりすぎだろ」
そうやって呆けていたら巨大熊の爪が俺の腕に迫る。その動きは走馬灯を見ているかのように遅い。このまま攻撃を受けてやってもいいが何かムカつくから迎撃することにした。ゼロ距離だけど十分間に合う。
俺はインベントリから月白色の弓と始まりの街のNPCが売ってる矢を取り出し構える。狙いはセオリー通り顎辺りかなあ。呑気にそんなことを考えながら狙いを定めていると俺の鼻を強烈な匂いが襲った。
「くっさ」
涙が出るくらい強烈な獣臭に虚を突かれたせいで巨大熊の攻撃を甘んじて受けてしまった。ダメージはほぼない。やはり雑魚モンスターか。いや、そんなことよりこの匂いは何なんだ? 電脳法の改正? 現実? そんなことよりくっさ。とにかくくっさ。く、くせえ。とりあえず死んどけ!
俺は大振りの攻撃の後で隙を曝している臭い熊に対して再び弓を構える。
「単なる矢の攻撃でも確殺を取れると思うけど」
しっかりと顎を狙い打てる場所に位置取りしつつ、第一位階魔法〈キ・ミサイル/拳の投擲〉を無詠唱化して発動すると臭熊の顎目掛けて矢を放った。
「は?」
水風船が破裂するような音と共に臭熊の頭部が蒸発する。ユグドラシルをプレイしていた時にはありえないエフェクトの発現に驚いてしばらく固まってしまった。目の前には物言わぬ骸となった臭熊。そいつの返り血を浴びて立ち尽くす俺。鼻を突く異臭だけは変わらず存在し続けている。
「そんな、まさかな」
藁をも掴む思いでGMコールを試みたが反応がない。まあそもそも一プレイヤーの応答に応えるGM自体まずあり得ないんだけどな。ログアウトもできないし、五感は妙にリアリティーがある。
俺は月白色の弓をインベントリにしまって代わりに短剣を取り出した。ユグドラシルではデメリット効果を除いて装備中の装備で自傷することはできなかったはずだ。だからこれがゲームなら何も起こらないはず。
俺は短剣を高く掲げて、そして自分の腕に思い切り突き立てた。
「gmmtdgapfg?!?!? ああアア!? あああああ!」
その瞬間、言葉に出来ない激しい痛みが俺を襲った。やはりこれは現実なのか? 死にそうなくらい強烈な痛覚の実装なんてあっていいはずがないだろ。
「ヒール! ヒール! ヒールヒールヒールヒールヒールヒール!」
第六位階魔法〈ヒール/大治癒〉を連続で発動する。痛みが引いても、MPが尽きても、声が枯れても気持ちが落ち着くまで発動し続けた。
信じられない。信じられないけどこれってもしかして。
――現実なのか? 嘘だろ。