目の前の切り株にちょこんと座ってるのはこの前ビーストマンに襲われていた新規ちゃん。いや、この世界が現実のものだとするなら子どもかな? なんか傷だらけになってたからとりあえず<
強くなるだけなら簡単にできる。パワーレベリングをすればいい。俺は残念ながらぼっちプレイヤーだったからキャリーしてくれる人には恵まれなかったけど要はモンスターのヘイトを稼ぐ壁になって低レベルプレイヤーにひたすら攻撃させればいいんでしょ。あとはどういった
うーん、聞いてみるしかないか。
「ねえ君、一体どんな
「えっ」
えって何? 俺何か変なこと聞いた? 黙ってると分からないよ! ええと、どうしよう。どうしよう。
「びるど?」
そんな小さい声で言わないでよ。どうすればいいか分からなくなるじゃんか!
「びるどってなあに」
「えっ」
そっかー! 初心者だもんな! 自分がどんな職業を取りたいかだなんて最初は分からないよね。俺だって最初は気に入った構成にするために何度も作り直したしな。よーし、よーし。そういうことなら一から教えるとするか。
「うーん。職業構成っていうのはまあ簡単に言えば強くなったら何をしたいのか? かな」
俺は目の前の子どもに向かって軽く説明した。そしたら急に目を見開いて「強くなったら! 強くなれるんだ!」とかぶつぶつ言いながら興奮し始めた。なんか鼻息がすごいし。まあでも分かるよその気持ち。強くなるのって男の憧れだもんな。
「ぼく、ぼく! お姉さんみたいに、強く、強くなりたい! です」
「うんうん。俺みたいにって、俺ーーー!?」
ウッソだろお前! 俺みたいな
本気か?
「それはちょっと……。他にしない?」
「嫌だ! ぼくは絶対お姉ちゃんみたいになるんだ!」
「あっはい」
えぇぇ……。本気だぁ。この子、本気であの地獄に直行する気なんだぁ。こういうのって掲示板で見たなー。なんだっけ? ああ、そうだ。勇者って言うんだった。まあ、とりあえず戦闘職を取らないことには身動きができなくなるしレベル上げしているうちに気も変わるでしょ。真の勇者でない限りは、ね。そうだなー。それじゃあまずはスナイパーから取得してもらおうかな。確か装備するのにレベル制限のないものがあったな。
俺はインベントリを探って一つの弓を取り出した。<ウェポンスミス>のスキルで初めて自作した思い出の一品だ。初期の頃に作ったからその後に取得した<ルーンスミス>の恩恵によるルーンが装着されていない分性能はお察しだけどね。奮発してダメージ計算式の最終ダメージに加算の中級データクリスタルを使ってる。ダメージなしでもダメージが入る--カスダメだけど--から初心者にはこれで十分でしょ。
「はい、これ貸してあげる」
「えっ!? いいの?」
おいおいおい。そんなに目をキラキラさせながら大事そうに抱えられるとなんだか胸が熱くなるじゃんか。プレイヤー基準で見たらゴミもいい所なのに。あー、初心者っていいなあ。
「あ、ありがとう!」
「いいよ~」
あああーー~~~。癒されるーーー。心が浄化されるーーーー。なんてカワイイんだあああ。
くぅぅぅーーー。これはもう鬼キャリアーになるしかないね! 胸を張り給え初心者よ。この俺が責任を持ってパワーレベリングしてあげる。俺の実力だと七十レベルくらいまでしかできないと思うけど……。あとは、この<無限の矢筒>も渡さないとだね。一番性能の低いNPC売りの矢だけど残数を気にしないで撃てるのは嬉しいよね。初めから高性能な武器を渡してもあんまりよくなさそうだし。
「さぁ、準備ができたら早速いくよ?」
「え? どこに?」
「決まってるじゃん! 狩場!」
きょとんとした顔がまたカワイイなあ。そんなにカワイイ顔をしてると、あっ! やべ! よだれが出てきた。
「お姉ちゃん? お腹すいたの?」
「えっ!? 大丈夫大丈夫! 気にしないで!」
「うん」
あぶねー。でも何だったんだろ今の気持ち。俺って子どもを見たら興奮する性格だったっけ。でも実際に目の前の子はかわいいのは事実だけど。まあいいか。
俺は子どもを抱きかかえて<
「うわぁ! なにここぉ!」
ダークエルフの子どもは急に景色が変わったことに驚くどころかはしゃぎまわっている。あぁ、眩しいなあ。トコトコと周囲を走り回ったり地面に生えてるコケを観察したり。「すっげぇ!」とか言ってる。かわいいなあ。一緒に遊ぼうかなあ。悩むけど遊ぶのはまた今度にするかあー。
周囲を見渡せばすぐにウサギの耳を短くして顔を不細工にしたような異形を見つけた。
「ごほん。それじゃあ少年、パワーレベリングを始めるよ」
「ぼくはしょうねんって言わないよ! アーっていうんだ!」
「アー?」
「そう! アーだよ。お姉ちゃんは何ていうの?」
アー? あいうえおのあ? やっつけ仕事すぎない? ニックネームなのかな?
「お姉ちゃん! 聞いてるの!?」
「えっ。あ、ごめんね。俺の名前はエイダだよ」
「えいだ? ふーん。変な名前」
あぁ!? アーの方がよっぽど変な名前だろうが! こんのクソガキ! 許さねえからなぁ? おでこの辺りがぶちっという音を立てた気がする。見てろよアー!?
「それでは改めて、アーくん。パワーレベリングを始めるね」
「はい! ししょー!」
「うん」
師匠かあ。ついに俺もぼっち卒業か! よし! 張り切るぞ!
「<
「うわ! うわ! うわぁ! なにこれ! すっごい! すごいよお姉ちゃん!」
はしゃいじゃって。かわいいなあ。さて、モンスターのヘイトを稼ぐか。
「<
「ギャルルルルルルル!!!」
うげぇ。やっぱきしょいなこいつ。さすが異形種なだけある。分身した個体にも魔法をかけて。スキルで支配の魔法に対する抵抗力を落とせば攻撃された時にヘイトが外れることもない。これでアーくんが攻撃する準備は整った。「うわぁ」とか言いながらきっしょいモンスターに釘付けになってる。わかるわかる。気持ち悪いよな。あとはこいつを倒せば経験値が稼げるはず。見た所レベル十前後だろうしすぐに倒せるでしょ。
「全ての異常を無視して俺だけを見ろ」
「「「ギァルルルルルルル!!!」
「じゃあ、アーくん。矢を使って攻撃してみて」
「はい! ししょー!」
「よいしょ」、「よいしょ」と言いながら力いっぱい弓を引こうとするけれど、支援魔法をかけてもまだステータスが足りてないのか何本かの矢は前に飛ぶことなく足元に墜落していた。その様子にやっぱりここは現実なんだなと思いながら必死に矢を射るこの子を応援した。ゲームでは矢が飛ばずに墜落するなんてことはなかったからな。そうして、一体目のモンスターを倒した時「えっ」とアーくんが呟くと明らかに矢が的を射るような軌道を描くようになった。
「えっ!? なんで? こんなに簡単に? でも、すごい。すごいよ。真っすぐ飛んでいく? すごい」
アーくんが二体目を倒したのは早かった。一体目とは比べ物にならないくらい正確に早く矢を射る姿は立派なスナイパーだった。これは確実にレベルが上がりましたね~。
自分がやったことが信じられないのかアーくんは目をぱたぱたさせながら興奮している感じだった。そんな姿を見て俺は頬が緩んだような気がした。
「その調子だよアーくん」
「はい! ししょー!!」
よしよし。俺は別の個体のヘイトを稼ぐとまた同じ作業を繰り返した。この調子なら今日中に木登り判定をクリアできるくらいにはステータスもあがるはず。アーを見守りながら、さらにレベルアップを促す。パワーレベリングの効果は確実に現れている。アーくんがどんどん成長していくのがとても嬉しかった。
どれくらい時間が経ったんだろうか。ふと俺が洞窟に開けた穴を見ると大きな水たまりが赤く染まっているのが分かった。そろそろ今日のレベル上げを終わりにしないとな。
「アーくん、そろそろ帰るよ」
「えっ? もうちょっとやりたい!」
「だーめ。外が暗くなってきたし早く帰りな」
「え、帰りたく……ない」
「どうして?」
「だって、クーちゃんが」
あー。そういえば友達を怪我させたとか言ってたなー。アーくんの友達だとするとやっぱりレベル一桁なのかな。それならあれを使えば良さそうだな。俺も自傷したときに回復魔法で怪我が治ったし。十分だろう。
インベントリから一本の小瓶を取り出す。改めて眺めてみるとお金のかかってそうなデザインだなー。と思いながら中の赤い液体を振った。どんな味がするんだろ。少し気になる。
「お姉ちゃん、それは?」
下級治療薬《マイナー・ヒーリングポーション》。体力を回復するときに使えるアイテムだ。アルケミストのクラススキルで自作したから腐るほどある。一本くらい減っても問題なかった。
俺はこれをアーくんに無言で手渡した。ポーションの瓶を不思議そうに見つめている。
「魔法の薬だよ。お友達に使ってあげな。たぶん飲ませれば怪我が治ると思うよ」
「ほんとに!? すごい! お姉ちゃんって何でもできるんだね!」
「ふふふ」
そんなに褒められるとうれしくなっちゃうだろ。
「じゃあ、家に帰ったら早く友達に飲ませてあげるんだよ」
「うん! わかった!」
その後、拠点に転移してからアーくんと別れた。
アー君の設定こんな感じです
限界レベルC
出身D-
能力値A
特殊アイテムB+
タレントS
コネクションE