サバイバルスローライフ   作:鶏キャベ水煮

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13話

 森の住人の朝は早い。今日は初めて手作りした鉄の鍋を使って朝のティータイムというのをやっている。俺の居た世界では飲み水は貴重だった。一日に飲める量は決まっていて値段も高い。アーコロジーの中に住んでいる人はそんな貴重な飲み水を使って毎朝お茶を飲んでいるというのを聞いたことがあったけど正直信じられなかった。

 変わり果てた俺の顔が鍋に映る。エルダーリッチのように骨と皮だけだった俺の顔は女の子の顔になってしまった。瞳の色は宝石のように赤くてほっぺたを手のひらで触ると柔らかい。髪の毛はユグドラシル金貨のような色をしてて耳は横に長く突き出ている。これが今の俺か。外装にお金をかけただけのことはあるな。

 俺は「ずずずー」と朝の冷気で冷え込んだ心を温めるようお茶を味わう。こっちに来てから好きなだけ水を飲んでるけど現実ではこんな贅沢できなかった。パックに詰められた水をわざわざ取り出して、これまた貴重な火を使ってお茶を飲むだなんて正気じゃない。この一杯のお茶で俺の三か月分の食料と家賃は余裕で吹き飛ぶ。そんなものにお金を使うなら俺は課金するし。

 

 「あああーー~~~。うめえー」

 

 爽やかな緑の味と少しだけ口に広がる甘さに喜びを感じながら一息つく。自然と口元が緩むくらいに気分が良かった。そうか。お金持ちたちはこの爽やかな気分を味わうために毎朝ティータイムというのをしてたのか。体験してみれば三か月分の生活費を払う価値は……、まあないかな。お金持ちの趣味だな、うん。でもまあ未知の体験ができたという意味ではこの世界に来てよかったかもしれない。

 俺は最後の一滴を飲み干すと自分の拠点を見まわした。食べ物はある。料理するための道具もある。次は……。

 次は自分の家をもっといいものにするか。せっかく何のために生きていたのか分からなかったあの地獄から解放されたんだしこの世界を楽しまなくちゃね。

 俺は頭の中でどんな家を作るか考えた。最低限、俺のアパートよりかは大きな家にしたい。となると、ここだと結構狭い気がする。でもなあ、ここを離れるのもめんどくさい。どうしよっかなー。うんうん唸りながらどうすればいいか考えていたらあることを思い出した。確か父親が遺した冒険映像の体験版ではこう言っていた。「家を作るなら川の増水に巻き込まれない場所がいい」と。そういえば近くに小川が流れていたな。ひょっとしてここに家は作らない方がいいんじゃ? うわー。どうすればいいんだ。

 

 「壁を作ればいいのでは?」

 

 なかなかいい考えだと思わないか? と、誰もいないのに独り言を呟いてみる。もちろん返事をしてくれる人はいないんだけどね。でも細かいことは気にしない。だって、ぼっちプレイはずっと続けてきたから。

 でもちょっと寂しい。

 気分転換に俺は自分が取得している職業のスキルで使えそうなものがないか調べてみることにした。助けて俺の趣味ビルド!

 そうしたら狩猟採集民(ハンター・ギャザラー)の上位クラスのスカウトの中に【堤防建造】というスキルがあった。運営すげー。これには川の増水に対抗するための壁を建設することができるって書いてある。ユグドラシルをプレイしてた時は正直何に使うのか全然分からなくて一瞬で存在を忘れたけど運営はこだわってシステム作ってたんだなと思った。クソ運営だなんて思っててごめんね。それじゃあスキルを使って小川の方角に堤防を建造しよう!

 

 「〈堤防建造〉」

 

 材料【石、木の板、粘土、苗木】。ふむふむ。石は昨日の岩を砕けば手に入るし木の板は周りの木を裂けばいい。粘土は穴を掘れば手に入るし苗木は魔法でいっか。

 俺は転移魔法で持ってきた岩を殴って石を作る。

 --パシン。

 --パシン。

 --パシン。

 そして砕いた石を小川のある方角に撒いていく。

 --ぽい。

 --ぽい。

 次は粘土を使って小川の方角に盛り付けてと。俺の身長くらいでいいかな?

 --もりもり。

 --もりもり。

 --もりもり。

 そして盛り土の周りを木の板で囲む。隙間ができたら木の枝をねじ込んで、と。

 --ぺたぺた。

 --ぺたぺた。

 最後に苗木を植えて根が張れば堤防が補強される。

 --わしゃわしゃ。

 --わしゃわしゃ。

 よし!

 

 「<豊穣の息吹(ヴァーダント・グロウス)>」

 

 俺はドルイドの魔法を使用して苗木の成長を早めた。こうすることで根が張る時間を一気に早めることができる。これで堤防が完成した。次は家を作るぞ!

 スカウトのクラスにあるスキル【拠点建造】を発動する。俺の頭に拠点を建造する方法が流れ込んできた。

 材料【石、粘土、丸太、枝、葉っぱ、苔】。なるほど、それじゃあ材料を集めからやろう。

 

 「あれなら使えそうだな」

 

 目についた大きな木の前で足を大きく踏み込んで木の幹をがっちり抱え込む。少し力を込めれば木の根元がもこもこしながら盛り上がってくるのを感じた。さらに力を籠めれば次の瞬間に木が根元から抜けた。頭の中でおかしいだろと思いながらも変なところでゲームっぽい事に感謝する。たぶんレベルが低い状態でここに来てたらこんなことはできなかっただろうから。

 引っこ抜いた木を地面に優しく寝かせて、また目についた木を引っこ抜いていく。途中で枝と葉っぱを分けていくことも忘れない。これは屋根の材料にするんだ。

 

 「こんなもんでいいかな?」

 

 小川の方に行って苔を回収してきた後で休憩を取ることにした。温めておいたお茶を手にして堤防にぺたんと座りこむ。

 

 「ああ~。うんめえー」

 

 お茶を飲んで積み上がった丸太を眺める。ちょっとした山みたいになってて少し感動した。

 森を切り開いたことでちょっとした空間ができたからか風が舞い込む。風に揺れる髪を耳にかけて青く広がる空を見上げた。

 本当にいいところだよな。ここ。ガスマスクをつけなくてもいいし鼻を刺すような異臭もしない。水は飲み放題だし味のある食べ物もある。最高の環境だ。

 俺は目を閉じて風の声を聞く。遠くで木の葉っぱが揺れる音。動物が歩き回る音。水の流れる音。昆虫が花の上で踊る音。そして……。おっと、いかんいかん。ついつい新鮮な体験に集中していたら時間を忘れてしまった。家づくりを再開しないと。

 俺は休憩もそこそこにして山積みにした丸太を加工していく。道具はないけど俺にはレベル百のパワーがある。手を使って木の幹を力任せに引き裂いていく。

 --ミシミシ。

 --ミシミシ。

 木を裂く音が静かな森の中に吸い込まれていく。こうやって必要な長さに整えていけば加工は完了だ。

 

 「これで準備はできた」

 

 まずは地面を踏みつけて地面を平にしていく。レベル百のパワーで地面を踏みつけたら酷いことになるから慎重にやろう(一敗)。そこに細かく砕いた石を撒いていく。その上に加工した丸太を並べて隙間に粘土を挟んで上から苔を重ねていく。この行動に意味があるのか分からないけど【拠点建造】スキルがそうするように訴えかけてくるから従うだけだ。

 

 「次は壁かな?」

 

 ある程度、床が出来上がったら壁を作ろうと思った。

 加工した丸太を地面にしっかりと置いて積み重ねていく。工匠(アーティサン)のパッシブスキルが発動している感覚がしながら作業を続ける。丸太の端を指で削って別の丸太と嚙み合うようにくっつけていく。だんだん楽しくなってきた。

 俺は時間が経つのも忘れて夢中で家を作る。そうして、ついに頭の上まで丸太を積み上げ終わった。

 

 「次は屋根だ」

 

 ここで問題が発生した。手が届かない。これじゃあ屋根が作れない。

 うーん、仕方ないけどこれくらいならいいか。

 

 「<飛行(フライ)>」

 

 俺は禁じ手の飛行(フライ)の魔法を使ってふわりと飛び上がった。へえー。飛行(フライ)の魔法を使うとこんな感覚なんだ。

 初めて空を飛ぶという感覚に感動しながらも屋根作りを再開する。このまま飛んでみたいとも思ったけど今は屋根を作っているんだ。遊ぶのは家ができてからにしよう。

 まずは大きな丸太を使ってAの形を作って壁に被せる。次に枝を組み合わせて屋根の形を整えた。そして上から隙間をなくすように葉っぱを重ねた。何のためにやってるのか分からないけどスキルの影響で体が動くんだから仕方ない。気づけば空が赤くなっている。結構時間が経っていたみたいだ。

 

 「たぶんもう少し」

 

 だんだんと家っぽい形になってきたことで興奮してきた。あと少しで屋根が完成する。

 

 「できたー!!」

 

 俺は飛行の魔法を解除してゆっくりと地面に降りる。目の前には葉っぱの家から進化した丸太の家が出来上がっていた。広さはワンルーム六部屋あるの俺のアパートのと同じくらいだ。高さは敵わないけどそれでも前に住んでいた所よりも六倍は広い。これが俺の住む場所になるんだと思うとワクワクしてきた。あとは玄関と窓を作れば完成だ。「ふふふふ」としゃっくりするような笑い声を出しながら作業を進めていく。そして、ドアを作ったらついに!

 

 「いよっしゃああああ」

 

 できた! できた! ついに俺の家が完成した! これは課金ガチャで流れ星の指輪(シューティング・スター)を当てた時より嬉しい。心の奥から笑い声が出るのを抑えられない。

 俺は声を必死で抑えながら焚火に照らされた家を見渡す。こんなに大きな家を一人で使ってもいいだなんて。会社勤めしていた時は自分の家を持つだなんて考えたこともなかった。自分の家を持つのは会社の社長かアーコロジーの中に住む人だけ。俺には関係ないと思っていた。そんな俺でも家を持てる。葉っぱの家じゃなくてちゃんとした家を。そう考えたら嬉しくて仕方がなかった。今日はお祝いだ!

 俺はビーストマンの所に行って死体に集る白い芋虫を回収して大きな葉っぱに包み込んだ。この芋虫はアンネリーネと素材をはぎはぎした時に見つけた。オムレツを全部あげちゃってお腹がすいてたから試し食べてみたらなかなか美味しかった。死体は臭かったけどこれはそんなに臭くない。焚火で温めるとぷちぷちした感じと口の中に広がる甘さが癖になる食べ物だ。お祝いにはピッタリさ。

 

 「おいしかったー」

 

 たくさん食べて満足した俺は家の中に入ると苔を乗せたふかふかの床に寝ころぶ。ベッドを作るのはまた今度だ。

 

 「空に浮かんでるあの白く輝く玉は何だろう」

 

 俺はのぞき窓から見える綺麗な玉を眺めていた。今まで天井は葉っぱに覆われていたから真っすぐに見るのは初めてだった。ここに来る前の空と言えばいつも茶色の雲で覆われていたし、こんな綺麗な玉は見たことがなかった。

 

 「きれいだなー」

 

 綺麗な玉をずーっと眺めていたらいつの間にか寝てしまった。

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