家の中で寝転がりなら〈クッキング〉のスキルにある料理を眺めていたらこんな記述を見つけた。材料【
もしかしたらと思って、俺はなんとなしにインベントリに手を伸ばす。指先にサラサラの粉が付く。それを舐めてみることにした。
「おいしい」
初めて感じる味に起きたばかりの眠気が吹き飛んだ。砂糖を舐めればほっぺが溶けるような味。塩を舐めれば目がぎゅっと閉じるんだけどおいしい味。初めて感じる味だけど体が喜んでいるのが分かる。
現実世界では栄養補給の錠剤しか味わったことがなかった。あれは舐めたら「おえっ」となるけど砂糖や塩はこんなにおいしいだなんて知らなかった。もしこれを料理に使ったなら? もしかしておいしい食べ物がもっとおいしくなるんじゃないか? そう思った途端、ワクワクしてきた。〈クッキング〉のスキルにあるフレーバーテキストによるとこの白い粉は調味料っていうらしい。なら今日の予定は決まりだ! 今日は調味料を森から回収するぞ!
と、意気込んだはいいんだけどこの調味料っていう白い粉が元々どんな形をしていたのか分からない。今までの探索で白い粉が落ちているなんてことはなかった。集中して探してたわけじゃないから見落としてるのかもしれないけど、それでも少しは落ちててもよかったと思う。けど落ちてなかったということは岩石から鉄を作ったみたいに最初は違う形をしてる可能性もある。もしそうなら探しようがないよ。
しかーし! 俺には趣味ビルドという強い味方がいる。ユグドラシルをプレイしていた時は手頃なモンスターから食材アイテムのドロップがあったからスキルを使っての生産をしていたのは最初だけだった。でも今はサバイバルをしている。ならばこの職業の出番だ!
俺は
「見つからない」
頭の中である程度スクロールしたんだけど砂糖や塩の表記を見つけられない。だけどまだまだ表記は続いてるから根気強く探してみる。【……サトウキビ……、Asplenium acrobryum複合体】。
ふぁっ!? いきなり知らない言葉がきた?
俺はびくびくしながらテキストを読んでいった。なになに?
【サトウキビ。水辺や川沿い、湿地などの水分が豊富な場所に自生する植物。湿地帯や川の近くなど、十分な水分を得られる場所で育つ植物です。外皮を剥いた内側が食用とされます。そのまま食べることもできますがこれを加工することで砂糖を精製することも可能です。
特徴。高さは3〜4メートル程度に達します。細長い葉が茎に密生し、茎は太くて丈夫で、内部に甘い汁を含んでいます。茎は節があり繁殖力が強く、周囲に広がりやすい特徴があります。
加工方法~】
「湿地帯。湿地……」
うわぁー。湿地帯かよぉ。まーた赤いペロロンチーノがいた場所にいかないといけないのか。あそこなんか嫌なんだよね。はぁー。でも仕方ないか。
【Asplenium acrobryum複合体。暖かい地域の山地の森林内で見られ、湿り気のある山の谷間や斜面に生育します。地面に直接生えるほか、苔のある岩の上に根を張っていることもあります。
特徴。葉の付け根が黒く、光沢があることや葉先から新しい芽が出るのが特徴です。葉が羽状に裂けて複数の小葉があります。つまり、一見すると大きな羽のような形の葉を持つのが特徴です。葉の長さは平均40~80cmほどにもなり、幅15~25cmほどの細長い槍の形をしています。葉身は厚みがありますが柔らかく、表面は滑らかで濃緑色をしており、美しい光沢があります。
加工方法~】
こっちは山に行かないと手に入らなさそうだな。でも塩が手に入るのなら行かない理由はないよね。よし! そうと決まればサトウキビから手に入れるとしますか。
俺は魔法で転移すると意を決して血の湿地帯に足を踏み入れた。
「最悪……」
深さは膝くらいまである。それに湿地特有の湿った血生臭い空気が肌にまとわりつき、足元はぬかるんでいて歩きづらい。すぐにでもこの湿地帯から出たいんだけどサトウキビを探すためには、この広大な範囲をくまなく調べる必要があるんだよな。運のいいことに赤いペロロンチーノの姿が見えない。こんなところで戦闘するのは嫌すぎるから今のうちにサトウキビを見つけたいところだな。
視界の先に広がる背の高い草むらをじっくりと見渡す。湿地帯には多くの植物が自生しているが、あんなにたくさんの草の中からサトウキビの特徴的な姿を見つけるのは意外と難しい。細長い葉が太い茎に密生し、太い茎には節がある。そんな草をあの草むらから探しださなければならない。ツンと鼻を突くこの血生臭さに耐えながらだ。
「帰りたい」
草むらをかき分けて進むにつれて、足元が沈む湿地帯の歩き方に慣れてきたが、それでも油断すると転びそうになる。それでも、砂糖を得るために諦めるわけにはいかない。
「こんなことで!」
俺は集中して辺りを探し続けた。それにしても見つからねー。たまに吹く風に運ばれてくる湿地の匂いに顔をしかめながらもひたすら探し続けた。
何度も何度も草をかき分けてもサトウキビらしきものは見つからない。それでも根気強く探しているとようやく水辺の近くで他の草とは全然違う特徴的な茎を持つ草が隙間から見えた。
「…やっとか」
全身草まみれになりながら俺はその方向に歩いていく。目の前の草をかき分けて視界が開けると、サトウキビの特徴に似ている草が生えていた。背はかなり高くて、太くて節のある丈夫そうな茎が特徴的だ。そこからは甘い香りが漂ってきて、俺はほっと息をはいた。
「探したぞ…」
サトウキビの茎に手を伸ばし、根元から引き抜く。ねっとりとした茎の感触はちょっと気持ち悪かったけど皮をむいた赤い茎からは甘い匂いのする汁があふれ出す。
「ちょっと味見」
俺は我慢できずに赤い茎にかぶりついた。
「うんまぁ」
サトウキビを口に入れた瞬間、口の中がきゅーってなってよだれがどんどん出てきた。噛めば噛むほど甘い汁が出てきてシャキシャキとした感覚が心地よい。生まれて初めてこんなにおいしい食べ物を食べてフワフワした気持ちになる。あっという間に草一本食べちゃった。
これがあれば砂糖を生産することができる。だけどサトウキビが欲しくなる度にここに来るのは嫌だなあ。拠点で生産できればいいんだけど。
俺は
ウキウキ気分でいくつかのサトウキビを血の湿地帯から引っこ抜く。これだけあれば十分でしょ。
俺はインベントリにサトウキビを収納すると転移魔法で拠点に戻った。