サバイバルスローライフ   作:鶏キャベ水煮

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15話

 さてと。次は塩の材料を取りに行くぞ。--Asplenium acrobryum(アスプレニウム・アクロプリュム)複合体は暖かい地域の山地の森林内で見られ、湿り気のある山の谷間や斜面に生育します--。だったよな。暖かい地域っていうのがちょっと分からないから空から周りの様子を見るとするか。

 俺は最初に水源を探すために使った大きなのっぽの巨大樹に登った。

 

 「今日は雲が多いな。それに木の上にいるのに湿った匂いもする」

 

 なんとなく不安になりながらも装備を変更して朱雀(ヤング)を召喚してから視界を借りる魔法を行使する。

 視界を回しながら前見た時よりもっと遠くの景色を注意深く見ていくと南東側の山の向こうに砂の大地が見えた。あれはたぶん砂漠だ。ユグドラシルでは砂漠のフィールドにいると暑さによるデバフを受けたのを思い出した。ということは、だ。ここから東に見える山脈。その山の南東側にある森林が暖かいということになるはず。そこに行けばAsplenium acrobryum(アスプレニウム・アクロプリュム)複合体を見つけることができるということだろう。そうと決まれば早速出発だ。

 俺は巨大樹を降りるとすぐに南東に向かって進んでいった。だんだん地面の上が草に覆われてきて進みにくくなってくる。そこからは木に登って太くなってる枝を足場に飛ぶように駆け抜けていく。しばらく進んでいくと山の麓にたどり着いた。

 

 「あっ。草の色が変わった」

 

 目の前の景色が森の中にいた時と違う。森の中では草の色が明るい緑色だったけどこの先の草の色は暗い緑色になったいた。俺の髪にまとわりつく風は湿った土の匂いがするしなんとなくひんやり冷たい。ふと、空を見上げたらどんよりと濁った白色をしている。

 

 「ここが、東の山か」

 

 俺は視界の先に転がる苔のついた小岩を見つめながらつぶやいた。よく見たら草に隠れた小岩がごろごろある。湿地帯のようなぬかるんだ地面と違って、ここでは小岩に足を取られないよう注意しながら進む必要がありそうだった。でも、他にもここに足を踏み入れた瞬間から気になることがある。それは未知の視線を感じることだった。

 --何かいるな。Asplenium acrobryum(アスプレニウム・アクロプリュム)複合体は湿気の多い谷間や斜面にしか生えていないらしいから、サトウキビの時みたいに探索で時間がかかるかもしれない。その間に未知のモンスターに出会う危険もあるけれど。

 

 「いくぞ」

 

 それでも塩を手に入れるために俺は一歩踏み出す。草に隠れた小岩に足を取られないようにザクザクと音を立てながら進む。視線は下に、周囲の状況確認は大きな耳をひくひく動かしながら少しずつ。たまに森の中で風に揺られた葉っぱが立てる音を聞きながら、湿気でだんだん重くなってくる道を慎重に進みながらさらに山の上を目指して奥へと進んでいった。

 --うん?

 突然、空気が重くなったような気がした。そういえば音が消えたな。俺の周りから何か不気味な雰囲気も感じる。それに霧も出てきた。

 ふと腕を見てみたら寒い時にできるぶつぶつとしたものがあった。何かにつられるように視線を上げて前方の木々の間を見れば白いモヤモヤとしたものが漂っているのも見えた。

 

 「なんだあれ?」

 

 そのモヤモヤは急速に広がる。目を凝らしてそこを見つめると突然ぼんやりとした人影が現れた。影はすぐに消え、また現れる。その繰り返しに、俺の心臓が跳ね上がった。

 

 「ふぁっ!? 死霊(レイス)か!?」

 

 すげえビビったわ! いきなり現れやがって! あれ?

 なんか霧が深くなってきたな。それに周りの景色も違うような? と思ったら景色は元に戻った。

 

 「幻術か?」

 

 あの死霊が俺に幻術をかけようとしたなら今の怪奇現象は説明がつく。単純に幻術に対して抵抗(レジスト)したんだと思う。そんなことを考えながら視界の先のモヤモヤを見ていたらかすれた声が聞こえてきた。

 

 「お前…も、同じ…だろう…?」

 

 その声は俺の耳に直接響くような感じだった。

 

 「はぁ?」

 「お前も…この森に迷い込んだ者…戻れぬ…道…」

 「……なんだって?」

 

 答えはない。ただ、モヤモヤが少しずつ近づいてくるだけだった。

 

 「戻りたくば…今すぐに…」

 

 その声はさらに近づき、とうとう目の前に来たかと思うと冷たい風が俺の顔面を叩いた。

 

 「冷たっ!」

 「お前も…私と…同じ…」

 

 その瞬間、モヤモヤの中から青白い人影が姿を見せた。顔がぼんやりと見えるが、その目は何も映さない。まるで、すべてを失ったような虚ろな目をしていた。

 

 「こんな顔のアンデッドいたかな」

 「お前が…迷い込んだ道の先に…何が待っているか…知っているか?」

 「倒しちゃうか」

 

 そのモヤモヤは霧の中に溶け込んだ。背後に気配が移ったから振り返ると。

 

 「すべてはもう…遅い…」

 「雷げ(ライトニン)……」

 

 あ、いねえし。気づいたら目の前のモヤモヤは消えていてただ冷たい風が吹くだけだった。雷撃(ライトニング)の閃光がむなしく空を切って離れた地面に着弾する。

 

 「なんだったんだろ」

 

 俺はきょとんとしながらも先を急ぐことにした。まだまだ山に入ったばかりだし。雑魚モンスターに構ってられない。

 もくもくと足場の悪い道を進んでいくけど周囲の音は復活しなかった。原因は分かってる。

 

 「お前のような者は…戻れぬ…永遠に迷い続ける…」

 「これ以上は、無駄だ…」

 「…どこに行く?逃げられない。」

 「迷え、迷い続けろ。戻れぬ道の先に待つのは、さらなる迷宮だ。」

 「無駄だ…お前のすべては、我がもの…」

 

 先へ進めば進むほど周りの景色が変わりそうで変わらず。気にせず歩けば霧の中から次々と死霊(レイス)が現れて俺の耳に囁きかけてくる。

 山登りで火照った体を冷ますにはいい冷気なんだけどいい加減めんどくさくなってきた。

 --消すか。

 

 「<陽光爆裂(シャイニング・バースト)>」

 

 俺は第七位階の範囲型の攻撃魔法を行使した。悪の生物やアンデッドにはこれが一番だ。カルマ値が低ければ低いほどダメージが増える。第七位階にしては威力は控えめだけどこいつら弱そうだし十分だろ。

 太陽のような輝きがゆっくりと溢れ出し次の瞬間、灼熱が炸裂する。霧の中の影を飲み込むようにしてその光は次第に強く、そして明るくなり半球状に広がった。

 

 「うあああああああああ!!!!」

 「なんの光ィイ…!?」

 「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 「グオオオオオオ!!」

 

 光がさらに増していき俺の周囲は神聖な輝きに包まれる。不気味な断末魔を響かせたかと思うと死霊(レイス)の影は跡形もなく消えていた。まだ魔法のダメージエフェクトが残ってるのに。

 

 「……弱っ」

 

 たぶん最初の接触で消滅したんだろうな。もうちょっと抵抗するかと思ったんだけど。

 周囲に広がっていた輝きが収まったとき、霧も一緒に消えた。あれ? 陽光爆裂(シャイニング・バースト)にフィールドエフェクトに対する干渉能力ってあったっけ? まあいいか。

 

 「うわぁ……」

 

 霧があったから分からなかったけど結構高い場所まで登っていたことに気づく。視界一杯に広がる雲のベッドを見て自然と左手を右手で掴んで両腕を胸に乗せながら感動した時に出す声が出てきた。

 

 「おぉぉ! きれい」

 

 ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ空を覆っていた雲の隙間から光が差し込み雲のベッドを照らした。その綺麗な光景に「ごくり」と息を呑み込んでこの一瞬を目に焼き付ける。

 --スクショ撮りてえ。そう思った瞬間この綺麗な光景が終わってしまった。残念。

 まだしばらく雲のベッドを眺めていたい。そんな気持ちを振り払うようにして山の斜面に向き直った。念願の塩を手に入れるためには先に進まないといけない。まだまだ先は長いんだ。

 俺は山の斜面を這うようにして登っていく。気づけば周囲に生える緑も少なくなってきてゴツゴツとした岩が目立ち始めた。足元の不安定さに気を取られながらも一歩一歩確実に登っていく。時々、俺よりも大きな岩が上から落ちてくるのを丁寧にやり過ごしながら慎重に。どんよりとした厚い雲が俺の気力を削っていくが諦めるわけにはいかない。もう少しで山の上に辿り着ける。あそこまで頑張るぞ。

 俺の額に汗が流れる。息をするのも段々辛くなってきたし風も強く吹いている。岩をよじ登り、どんどん大きく、数も増えてくる巨大な岩を避けながらもひたすら前へ進んでいく。その時、突然地面が揺れて「ドシン」という大きな音が響いてきた。音は視界の先にある山のてっぺんの先から聞こえてくる。何だろう?

 山のてっぺんからヒョイっと顔を出すと、そこは大きく窪んだ地形になっていた。周りの岩壁は苔と蔓のような草に覆われていて自然の力を感じさせる。窪地は大小様々な岩が事がっていて中央は小高い丘のようになっている。その下側は洞窟になっているようだった。

 俺は窪地に降りられそうな場所を見つけると、その細い山道を下っていく。静かな雰囲気に似合わない生暖かい風が吹いていることに不気味さを感じながら窪地に足を踏み入れた。

 まだ空は分厚い雲に覆われていて周りは薄暗い。そのせいか一瞬のうちに足元が暗くなったことに気づくのが遅れた。立っているのもやっとと思えるくらいの大地震が起きる。

 

 「…お前、どこから来た

 「……っ!」

 

 頭上から頭を揺さぶられるくらい大きな声が響いた。その声は低く、重く、そして冷たかった。声のした方に振り向くとそこには岩石の巨人(ストーン・ロック・ジャイアント)が立っていた。毛が生えてない体は岩石色でスラっとした筋肉をしている。片手にはこん棒を握っていてもう片方は手ぶらだ。服はマジックアイテムじゃなさそうな普通の腰巻に上半身は左側だけ布を被っている。顔はシワが目立っていて髪の毛はない。その岩石の巨人がその場に立ち止まりって俺を見下ろしている。目には強い警戒心と、何かを試すような冷ややかなものを感じた。

 俺は警戒しながら巨人を睨みつける。急に大声出してきやがって。耳がキーンってなったわ。

 

 「あそこから降りてきた」

 

 細い山道を指差して岩石の巨人(ストーン・ロック・ジャイアント)に教えてやる。

 

 「そうか

 

 巨人は低い声で呟くと顎に手を当てて何かを考え込んでいた。注意深く様子を見ていると地震を起こしながら大きな岩の足を踏みしめて俺に近づいてくる。

 

 「この地には、私の許可なくして近づいて良い者は一人もいない

 

 巨人はゆっくりと口を開き俺を冷たく見下ろした。

 

 「この山は私のもの。お前のような小さき者がここに来る理由は…私の許可を得ていない限り、存在しない!

 

 俺の背中に汗が流れる。なかなか様になってるロールプレイなんだけどこのままだと襲われるのは確実っぽい。なんとか戦闘を回避することはできないかな。俺は油断することなく身構えた。

 

 「あんたの許可を得ずにここに入ったことは謝る。だから平和的にいかないですか?」

 「平和的?

 

 巨人はまた一歩進み、その大きな指を俺に向けた。人のこと指さしたらいけませんって小学校で習わなかったのかな?

 

 「駄目だ! お前は私の警告を無視した

 「警告って……」

 「お前が外界から登ってくる時に小石を転がしたはずだ。よもや気づかなかったとは言わせぬぞ?

 「え?」

 

 あれかあああ! なんか岩が落ちてくるのが止まらないと思ってたらこいつが落としてたのかよ! それが警告だと!? そんなん気づけるわけねーだろ! なんかこの巨人、鼻で笑ってるし。なんかムカついてきた。

 

 「お前みたいに警告を無視するような者には、選択肢はない。それに気が変わった。お前は中々に美しい。その瞳は宝石のように赤く、空が曇っていてもなお輝くその髪はオリハルコンよりも美しい。喜べ小さき人間。お前を私のコレクションの一つにしてやろう!

 「そりゃどーも。はぁ、PVPは苦手なんだけどな」

 

 相手は岩石の巨人だ。ユグドラシルではこの亜人種のカルマ値は中立だったはず。それなら<陽光爆裂>のようなカルマ値に影響を受ける魔法は効果が薄い。それに相手のレベルが分からないから貴重な先手に有効打になるか分からない弓を選ぶのもな。とりあえず行動阻害から入るか。

 一瞬で判断して初手の魔法を選択する。使うのは<泥沼(クワグ・マイア)>。指定した範囲内の岩石や地面を泥沼に変えてそこに入った敵に対して素早さに関わるステータスを激減させるデバフだ。その魔法を詠唱しようとして、岩石の巨人の周りから生まれる殺気に気づいた。

 

 「フハハハ。抵抗するなよ?

 

 ただの岩石だったものが霧に覆われて、そこから現れたのは暗い岩のような、周りの景色と同化できそうな色のした大きな狼だった。四つの足で地面を踏みしめているけど目線は俺よりも高い。手足は太くてパワーがありそうだ。そして目は金色に輝いていて見ていると吸い込まれそうにもなる。そして一番の特徴は頭部から生えた角だった。尖った岩のような角が頭の左右から分かれて突き出している。俺がユグドラシルでプレイしていた時には見たことがないモンスターだった。

 くっそ! この巨人ビーストテイマーかよ!

 前方を五体の敵に囲まれる形になり、さらに危険度が増したことでつい舌打ちをしてしまった。俺の背後はそそり立つ崖になっていて簡単には逃げられない。

 

 「我が友の火炎の巨人(フレイム・ジャイアント)にいい自慢話ができそうだ

 「好き勝手言いやがって」

 

 岩石の巨人が指示を出すと狼たちが襲い掛かってきた。そんなにPVPがやりたいなら応えてやるよ! 装備が腰巻とこん棒だけだからって後で言い訳するなよ!

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