サバイバルスローライフ   作:鶏キャベ水煮

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第3話

 「ヒッヒッヒヒヒヒ。はははぁー」

 

 小川を見つけた俺は奇声を発しながら奇妙なダンスを躍りながら流れる水面に飛びついた。

 ――水だ! 水だ! 飲むぞ!

 いや、冷静になれ! サバイバルの掟その一を思い出せ。もし上流で動物の死骸があったらこの水を飲むのは危険だ。濾過しなければならない。いや、ステータス的にバフの一つでもかければ毒に対する完全耐性を得られるけど! ロールプレイ的にあり得ない! あー、ダメだ! バフかけて今すぐ喉を潤したい。てか、仮に毒状態になっても数秒で回復するから問題ないと思うけど! そういう問題じゃないんだ!

 俺は頭をかきむしりながらインベントリからスコップを取り出すと穴を掘ろうとして思いとどまる。

 ――このスコップはダメだ。このスコップは今回のサバイバルで作ったものじゃない。道具は現地で調達してこそだろ。初心を思い出せ。

 ついつい目先の利益に囚われて禁忌を犯すところだった。危ない。

 インベントリにスコップを戻して穴を掘るのに手頃な道具を探そう。何か、何か穴を掘るもの。お、投擲するのに良さそうな石があるじゃん。この大きさなら穴を掘るのに丁度いい。これでいいや。

 小川の傍で穴を掘ればじわじわと水が染み出してくる。天然の濾過装置の完成だ。

 

 「ふひー。ふひひひひ。ふふふ」

 

 穴の中に水が満ちるのを穴があくほど見つめている。もういいんじゃないか? いや、もう少しか? あーもうたまらん!

 俺は四つん這いになって穴の中に顔を突っ込んで「じょぼぼぼぼぼ」という音を立てた。――土の味がする! いや土は食べたことないけど!

 あーー、うんめえ! 生き返る~。

 何度も何度も同じことを繰り返して漸く喉の渇きが癒された。顔中泥塗れだ。

 よーし、水場を確保出来たことだし近くに拠点を作ろう。まずは家だな。周りを見渡せば骨組みに出来そうなしなやかなる細い木々がそこかしこに生えている。グリーンシークレットハウスのようなログハウス風には出来ないけれど秘密基地みたいな家なら作れそうだ。。

 俺は適当な木の前に立つと照準をして力任せにグーパンした。ユグドラシルではポピュラーな材木獲得手段だ。

 

 「えぇ・・・」

 

 「スパァン」と渇いた音が鳴って目の前の木が弾けた。材木どころかパルプのように粉々だ。どうして?

 もう一度、試してみても結果は同じだった。仕様変更だろうか? 分からない。

 うーん、叩いてダメなら引っこ抜いてみるか。もし仕様変更だったのならやり方を変えてみないとならないし。ユグドラシルのセカンドタイトルは未知への挑戦がキャッチフレーズだしな。やれやれ。

 俺は優しく握りこむようにして木を握ってゆっくりと手を上げた。何の抵抗もなくするりと木が抜けた。

 

 「おぉぅ」

 

 思わず声が漏れてしまうくらいの簡単さだ。いや助かるんだけどさ。これ材木が欲しかったら加工できるスキル持ちのクラスを新しく取得しないとダメくないか? 便利なんだか不便なんだか。

 とにもかくにも目的の素材が手に入ったからこれを骨組みにして家を作っていこう。

 まずは足元の整地からだ。魔法を使えば楽にできるけどそんな勿体無いことはしない。周りの雑草を引き抜いてっと。ぽんぽん抜けて面白いな。よしよし、積もった落ち葉をどかしてっと。軽く地面を耕してからこのしなやかなる木を差 し 込 む! っと。折らないように気をつけて反対側も差し込めばドーム型の骨組みができた。まだ一本だけだけどね。繋ぎ目に使うのは、あの蔓でいいか。

 風に揺られて擦れる葉っぱの歌声を聴きながら家作りは続く。

 ふう。15本も使えばある程度の広さになるな。てか俺の部屋より広いな。入り口は、これくらいでいいか。よし。今度はドームを囲うように横向きに木を張り付けていこう。覗き窓も作るぞ。楽しくなってきたな。

 鼻歌を歌いながら家作りは続く。リアルの俺の声とは全然違う女の声が出てくるがこれも仕様変更なのだと思い込むことにした。てかバードのクラスを取得しているからか無駄に上手いと思えてしまうのが逆にウケる。自分の歌声を聞いているとまるでバフでもかかってるかのように気持ちよくなってくる。

 そんなこんなで周りの木から葉っぱ付きの枝を骨組みに敷き詰めれば家の完成だ。

 ――うん。トロール(ヤング)の住み処みたいだな。草。文字通り草で草。

 あとは火を起こして食糧を調達してくれば自給自足生活が始められる。

 あ、そうだ! インベントリから一つの旗を取り出すと拠点の前に突き刺した。これはユグドラシルで何度もギルドブレイクされたことで量産するようになったギルドフラッグだ。ストックは100本くらいある。

 うんうん、らしくなったな。小さな小さなギルドホームの完成だ。コンソールが行方不明だからギルド申請はできない。見た目だけなのが寂しいけどこういうのは気持ちをが大切だよね。

 

 「ふわーぁ。安心したら眠くなってきた。少し寝るか」

 

 俺はやりきった満足感から家のなかで横になるとすぐに意識が沈んでいった。

 

 

 

 

 「腹が減って眠れん」

 

 空腹のあまり目が覚めてしまった。家から外に出ると外壁の葉っぱに朝露が滴っているのが分かった。なんだかんだ言って昼から朝まで寝てたってことだ。

 小川に行って水だけで腹を満たした俺は火をおこすことにした。父親が残した冒険映像の体験版では錐揉み式や火打石を打ち合わせたやり方、日光をガラスにかざして光を一点に集めるやり方があった。

 日光を利用するやり方はなしだ。見上げれば陽射しを逃すまいと葉っぱが生い茂っている。これじゃあ上手くいかなさそうだ。ならば火打式はどうか。これは金属を含んだ石同士を打ち合わせることで火花を散らして着火材に落とすやり方だ。よーしよし、これにしよう。問題は金属石を見つけることなんだけどこの小川に目を凝らせば見つかるはずだ。無駄のあるビルドで隙のない幸運値を獲得したエイダにならやれる。

 俺は確信を持って行動に移した。贅沢は言わない。ユグドラシルではクズ石もいいところだった鉄鉱石を探しだせばいいんだ。イージーミッション、チョロインだろ。

 【ハンターギャザラー/狩猟採集民】。その上位クラス【スカウト】。さらに上位のエクストラクラスの【プラネタリー】による鉱石発見に関するパッシブスキルと幸運値によるシナジー効果で目的の鉄鉱石は小一時間もせずに見つかった。ついでに石器にも火打石にも使える黒曜石も見つかって本当にラッキーだ。

 

 「ヒヒ~。ハッハッハー」

 

 嬉しくて喜びのダンスも踊っちゃうぞ。あとは着火材としてキノコなんかあればいいな。こんなに緑豊かな環境なんだから探せばそこらへんに生えているとは思うけど。

 

 「ふふふーん♪ ふんふんー♪」

 

 俺は幹の太い木や地面をしらみ潰しに探索した。途中、食べられそうな木の実や甘い匂いを放つ花なんかも採集していく。そうして片腕では抱えられないほどの量が集まった時、手のひらより二回りほど大きなキノコを見つけた。こいつはいいや。拠点に戻って早速火おこしだ。

 キノコを割って中の繊維をほぐす。その上から鉄鉱石と黒曜石を持ってカン、カン、カンと打ち鳴らすと火花が散った。この火花がキノコに着火するまで同じことの繰り返しだ。

 お? 火種が出来たぞ。次に木を殴って獲得したパルプに火種を移す。そーっと、そーっとだ。ふー。ふー。ふー。

 火が消えないように優しく。ふー。ふー。ふー。煙が出てきた!

 ボフッという音を立てて火の手が上がる。あとは小枝をくべて火力を上げる。いいぞー。あとは星形に枝を並べれば火おこしの完了だ。

 

 「ハハハハハ。くぅーっ。クックックックックック。ひぃーひっひっひっひっひっ」

 

 ダメだ。達成感で笑いが止まらない。これだよこれ! 魔法を使っての火おこしでは体験できないこの達成感だよ。俺はこのためにロールプレイしてるんだ。

 

 「あったけー」

 

 火に手をかざしていたら俄然やる気が出てきた。水を確保して暖かい寝床を拵えたら残すは食だ。アーコロジーの外に住んでいた時は食糧といえば舐めてたら、うえってなるカプセルや錠剤だけだった。けど今は夢にまで見た「たんぱく質」や「炭水化物」を食べることができる。それを思うだけでも元気が漲ってくる気がする。

 昆虫がいいか。動物がいいか。はたまたジューシーな塊根か採集したばかりの木の実がいいか。夢が広がる。

 決めた! 今日は人生初の料理をしよう。ユグドラシルで映像越しに料理をしたことがあるからきっと上手くできるはずだ。【コック】と上位の【スーパーコック】のクラスを取得したのはこの日のためだったんだ。やはりユグドラシルでプレイしていくには無駄のあるビルドには隙がなかった。レベル九十くらいまでなら楽に上げられるらしいけど生産職を取ってるとレベル三十くらい九十くらいまで狩場が変わらないという全然楽じゃない現象に直面しても投げ出さなかった過去の自分を褒めてあげよう。

 待ってろ! 俺の晩飯! アーコロジーの中の連中でも食べたことがない料理を作ってみせるぜ!

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