サバイバルスローライフ   作:鶏キャベ水煮

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タグにも書きましたが残酷な描写入れます。
苦手な方はブラバしてください。


6話※

 大森林の南方と砂漠の外縁には両者に挟まれるようにして草原地帯が広がっている。その草原地帯から大森林に向かって一つの黒い影が移動していた。よく見るとそれは毛色の黒いビーストマンだった。そのビーストマンの腹から時折大きな音が聞こえる。

 ビーストマンのライオは腹をすかせていたのだ。本来ビーストマンははるか東方の巨大な湖より更に東側が生息地域となっている。ではなぜこんなところに居るのか? それははぐれビーストマンだからだ。ではなぜ群れではなく逃げるようにして大森林へ向かっているのか。それは現在地よりも少し東に位置するとある国の南西の草原地帯で人間たちに襲われたからだった。

 ライオは群れのなかでハーレムを築くためにより強いオス同士で争っていた。そこへ横から殴りつけられるように同じ布を纏って天使を率いた人間たちに邪魔をされたのだ。仲間もメスたちも全員人間たちに殺された。多勢に無勢を悟ったライオは命からがら草原から森へと逃げ込んだのだった。ネズミなどの適当な小動物などで腹の虫を誤魔化していたがそれも限界だった。ライオの胸中には仄暗い感情が渦巻いていた。

 ――人間が食べたい。

 仲間たちを襲った人間たちを八つ裂きにして恐怖に慄く顔を眺めながら内蔵を食い荒らしたい。そんな暗い感情に支配されたライオは荒い呼吸を整えるとスンスンと鼻を鳴らした。

 ――この匂いは間違いない。人間だ。群れを襲った奴らとは少し匂いが違う気もするが。そうか。この匂いは子どもだ。それに、方角は違うが離れた位置からは人間のメスの匂いもする。

 難しい顔をして何やら考え込んでいる様子だったライオの相好が崩れる。

 ――フハハハハ。そうか。人間の母子か。

 

 「ウオオオオオオオオオオ~~~!」

 

 人間の子どもといえば捕食対象の中でもなかなかお目にかかれない珍品だった。草原で出くわすのはどれも武器を持った人間の成体ばかりだったからだ。その中で人間の子どもを見つけたとなれば群れの中で血で血を洗う争いが起きる。その中でも上位に君臨していたライオでさえ人間の子どもは一度しか食べたことがなかった。それに加えて母親のオマケ付きだ。妊娠している母親なら捕食者の間ではその価値は計り知れない。

 ライオはさらに真剣に鼻を鳴らす。人間に対する数多の襲撃経験から近くに番がいる可能性が高い。鉄の匂い。武器を持っている番がいないのかかを慎重に探っていた。

 

 「クククククク」

 

 ――鉄の匂いがしない。それ所か番らしきオスの匂いもしない。丸腰だ。丸腰の人間の母親だ。どうやらツキが回ってきたようだ。早く食べたい。憎き人間の子どもを八つ裂きにして恐怖にひきつる親の前で腕を噛み砕いてやればどんな鳴き声をあげるだろうか。そう考えただけで気が猛った。待ってろよ、ニ ン ゲ ン。

 

 「ウオオオオオオオオオオン!」

 

 ライオは狂喜の雄叫びを上げたかと思うとしなる鞭のように駆け出す。ヨダレを振り撒きながら微かに漂ってくる獲物の匂いを頼りにして一心不乱に。

 

 

●○○

 

 ふふん。懐がホクホク暖かいぞ。

 大蜘蛛の素材は何かと便利だし何よりウギンナードさんと出会えたのが大きい。多分? 同じロールプレイをしている人だから仲良くなれそうな気がする。

 俺は拠点に戻る途中の木の枝に止まった。改めてウギンナードさんから提供してもらった素材を確認する。

 まずは蜘蛛の糸。これは家の固定具や釣糸、そして動物を生け捕りにする罠なんかにも使用できる。丈夫な蔓なんかでも同じことができるけど道具の数は多いにこしたことはないから素直に嬉しい。

 次に蜘蛛の毒液。これはそのまま武器に塗りつけて酸属性を付与するも良し、有毒物質と有効物質を分離抽出してデバフの付与や治癒のポーションに製薬するも良しと便利なアイテムだ。アルケミスト製薬ランカー2位の腕が鳴るぜ。

 そして蜘蛛の牙。これは簡単な木の棒にでも差し込んでおけば念願の現地調達での武器の完成だ。〈ウェポンスミス〉のクラスを取得したのはこういう時のためなのだ。

 俺は木の枝の上に広げている素材をインベントリに戻すと今度は手のひらサイズの子蜘蛛を取り出した。これもウギンナードさんからいただいた献上品のうちの一つだ。そういえば今日の昼食がまだだった。水筒に入れた水を一口呷ると手の内にあるおかずをまじまじと見つめる。さすがに生で行くのは勇気がいるから火炙りにするのがいいだろうな。

 木の幹を這い降りて適当なスペースの草木を引っこ抜く。露になった地面を踏み鳴らしてその上に乾燥した草を敷いた。続いてインベントリから鉄鉱石と黒曜石を取り出して打ち付ける。火種ができた! あとは乾燥した草に火種を移してやさーしく息を吹きかける。ふー。ふー。

 ボッという音を立てて火が点いた。

 ひひー。もう火起こしは楽勝だな。あとは適当な木の枝を火にくべて細い枝に通した蜘蛛を炙れば準備完了。

 サバイバル動画の体験版では登場人物が毒蜘蛛を食べていたから俺でも食べられるはず。中途半端に焼くのが良くないらしいからじっくり焼かなきゃいけないらしいけど一体どんな味がするんだろうか。

 こういう時にアーコロジーの中に住んでる人が近くに居たら聞けて便利なんだろうな。

 お? いい匂いがしてきた。表面が焦げてきたからそろそろ反対側も焼いていいでしょ。

 火炙りにしている蜘蛛をひっくり返して更に熱を加える。

 明日はウギンナードさんの居るところから更に西へ行ってみようかな。それとも南に行こうか。いやいや、三日月の形をした湖に行ってみるのもいいかもしれない。やっべぇ。ウキウキ過ぎて選べないな!

 お? そろそろ焼けたかな? いただきまーす。

 外はカリカリ、中はホクホク、味は旨味が沁み出してきて何だこれは!? うっま! 旨すぎる!

 あっ! 牙が生えてるところはちょっと固いかな。それに唇の所はちょっと苦いな。毒が分解されてないってことかな? エイダはハイドルイドの防御寄りの上位クラス取ってるから総合耐性が高いけど一応、吐き出しておくか。ペッぺっ!

 あー、美味しかった。ごちそうさま! おいしいお昼ご飯を譲ってくれたウギンナードさんに感謝感謝。

 

 「ゥォォォォォォォォ!」

 

 ん? 何だ? 拠点の方から咆哮が聞こえるぞ? 戻ってみるか。

 俺は足元の火消しをした後に木の枝に登って家路についた。

 

○●○

 

 より強い匂いの元へとたどり着いたライオは辺りを見回す。空腹の限界を迎えたのかその眼は血走っていた。匂いはすれど気配がないことに苛立ちを覚えたのか雄叫びを上げながら周囲の草木を薙ぎ倒す。

 ――人間のガキは!? メスは!? ガキ! メス! ガキ! メス!

 

 「ウオオオオオオオオオオ!」

 

 そんなライオの目に地面に突き刺さったギルドフラッグが映った。そこにあるのは草木で作られたドーム型の拠点だった。

 ――なんだこの草の盛り上がりは! この中から濃厚なメスの匂いがする! そこにいるのか! 息を殺した所で俺から逃げられると思うなよ!

 ライオはその豪腕を振り抜いてエイダの拠点を破壊した。簡素な作りで出来た拠点の中には誰もいない。

 

 「ウオオオオオオオオオオ!」

 

 ――このオレ様を騙すとは味な真似を! 食ってやる! 八つ裂きにして食ってやる!

 ライオは拠点とギルドフラッグを足蹴にして地団駄を踏むと鼻を鳴らした。

 ――ここに巣を作っているなら近くにいるはずだ。餌は目の前なのだから落ち着いて探せばいい。

 黒いたてがみをヨダレでベトベトにしながら注意深く匂いを探っていると馴染みのない香りが漂っていることに気づいたようだ。よく思い出してみればそれは母親とは別の方角から漂ってきていたことに。

 ライオは裂けんばかりに口角を上げる。間違いない。鼻を刺すような匂いの中にガキの匂いが混じっている。木陰に隠れて息を殺しているようだがライオの鼻は誤魔化せなかったようだ。匂いを辿って一歩、また一歩と進む。匂いの元はあの木の裏側だった。木の幹に鋭い鉤爪が食い込む。

 ――みーつけた♪

 木の裏側には肌の黒い人間の子どもがいた。アー君だ。アー君は歯をガチガチ鳴らしながら小刻みに震えている。この光景はライオ自身何度も見たことがある光景だった。種族として弱い人間が敗北を悟ったときに見せる姿だからだ。こうなってしまえば後は強者に捕食されるしかない。

 ライオは舌舐りをするとアー君を一舐めした。

 ――微かに塩気があって丁度いい。このまま一思いに丸呑みしてしまうのはどうか? ダメだ。せっかく手に入れた人間の子どもなんだ。もっと味わうべきだ。ではどこから食べるのが一番いいのか。頭から食べるか。手を噛み砕いて流れ出る血を飲み干すか。

 楽しい楽しい宴の構想に興奮の抑制が効かないのか白目を剥いて思考に耽っている。

 アー君の命が繋がっているのはライオの猟奇的な考えがまとまらないでいるおかげでもあった。

 そんな時、ライオの鼻先に生暖かい湯気が昇る。意図せずその匂いを嗅がされたライオの顔が曇った。せっかく楽しい事を考えていたの強制的に中断されたからだ。

 ――餌の分際で!

 

 「あああああ! 痛い! いたいいたいいたい!」

 

 ライオは苛立ちを隠さずにアー君を蹴飛ばすがすぐに我に返る。

 ――これじゃあ母親の前で獲物を痛みつけるという楽しい宴が台無しだ。

 

 「嫌だよ! 誰か助けて! エグニアお兄ちゃん。アップルお兄ちゃん。助けて!」

 

 獲物が鳴き喚くのをただじっと見つめている。母親は一向に姿を見せないのが残念だが。この獲物を絶対なる死という絶望に叩き落とすのもそれはそれで乙なものか。

 捕食の醍醐味の一つとして納得したのかライオは獰猛な笑みを浮かべながら一歩、一歩、獲物に恐怖を与えるように近づいていく。

 

 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 来ないで! 食べないで! 助けて! ママ!」

 「グルルルルルルル」

 「痛い。痛い痛い痛い! クーちゃん・・・痛い。助けてクーちゃん!」

 

 ライオは喉を鳴らしながらアー君を組伏せると大きな口を開いて細い腕を咥えた。少し顎に力を入れれば簡単に噛み砕かれてしまいそうな細くか弱い腕だった。

 

 「うわぁ。拠点が破壊されてるんだけど」

 

 ――来た! 来た! 来た! オマケが来た!

 

 「ぐぎゃあああ! ぅぁぁ、ぅぇぇん。」

 

 思わずアー君の腕を噛み千切ってしまったライオの瞳孔が開いていく。新しい獲物の登場に喜色の笑みを浮かべながらボリボリと肉塊を咀嚼する。これだけ子どもが鳴き喚いていても母親が現れないから逃げたのかと思ったがどうやら勘違いだったようだ。幸運の連続にライオの顔面崩壊が止まらない。千切れたアー君の細い腕から口を離すと立ち上がって声のした方へ振り替える。そこには確かに人間のメスがいた。

 

 「一応、確認するけどさ。俺の拠点を破壊してくれたのはそこの亜人か? それともそこの悪戯小僧・・・。え、グロ」

 

 ――このメスは当たりだ。人間の村を襲った時に腹の中に子どもを入れているメスは武器を手に向かってくるメスよりも体が膨らんでいた。その時のメスよりもこいつの体は膨らんでいる。だったら、必然的に腹の中にも子どもがいるはずだ。

 人間を食糧と見なしている種族にとって妊娠している人間のメスはまさしく極上品だった。

 

 「〈ライフ・エッセンス/生命の真髄〉、〈マナ・エッセンス/魔力の真髄〉」

 

 ――どうやら手負いの子どもを見て鳴き声を上げているようだ。ククク、残念ながらお前もこのガキも俺の餌になる運命は変わらないぜ。

 

 「うげぇ・・・。小僧の方は出血ダメージもあるだろうし見た目どおり死にそうじゃん。偽装してる可能性もあるか。〈マジックディストラクション/魔法解体〉、〈ライフ・エッセンス〉〈マナ・エッセンス〉。マジか。レベル一桁もあり得るなこれ。・・・新規ちゃんか?」

 

 ――長い鳴き声だ。どうやら絶望的な状況だということが分かったようだな。

 ライオは新たな獲物を舐め回すように注意深く観察する。体躯はビーストマンである自身の半分にも満たない。腹から上側が妙に盛り上がっているがこれは妊娠してるからだろう。脆弱な人間の、しかも身重のメスに負ける道理はない。予定通り母親の前でガキを八つ裂きにしてやろう。

 

 「亜人の方はレベル30いかないくらいか? うーん、クリティカルが出なくてもギリギリワンパンでいけるかな。殴打属性とか等倍だよな。普通の矢でいいとして・・・、オリハルコンにするか」

 

 ――おうおう、どこから取り出したのか分からないが弓なんか用意しても無駄だぜ? お前ら人間は少しガキを痛め付けてやれば武器を手放すのは知ってる。クククククク、ガキを食ったらお前も味わっt。

 勝利を確信したライオはアー君の足に爪を立てようとして、弾けた。

 

 

○○●

 

 「ひーひー、っ(す、すごい)。」

 

 「ドスン」という音を立ててうつ伏せに倒れるライオを横目にアー君は消え入りそうな掠れた声を出した。右手以外は無事ではなく泥にまみれた顔を起こすことで精一杯という様子だが必死にライオとエイダを交互に見ている。しかし、とうとう力尽きたように倒れこむ。「ヒューヒュー」という力ない呼吸音が聞こえてくるがそれもだんだん聞こえなくなってきた。

 出血の致死量を迎えたのかアー君の顔から血の気が引いていく。

 ――このまま死ぬんだ。という感情が心を満たしそうになった時、柔らかな光が幼い体を包んだ。

 

 「新規ちゃんには優しくしないとな。〈ヒール/大治癒〉」

 

 ――あったかい。やわらかい。お母さんよりもいい匂いがする。

 

 「えぇぇ・・・。目も当てられないくらいグロかったのに綺麗な体になったんだけど」

 

 所々で骨が剥き出しになっていたアー君の怪我が完治した。今は致命傷を負っていたのが嘘のように幸せそうな表情を浮かべながらエイダの胸の中にいる。安心しきった飼い犬のような寝息を立てていた。

 

 「おーい、勝手に寝るな。俺の体は寝床じゃねーんだぞ」

 「うん?」

 

 アー君は怪訝な表情をしながら目を閉じたまま瞼を動かした。確認するように手足を動かしてハッとしたように首をピーンと伸ばす。さっきまでは指一本動かすのでさえ激痛が走っていたのにそれが来なかったのだ。もう一度、来るべき痛みに怯えながら手足を動かすが痛くなさそうだ。しばらく沈黙した後に納得したのかまたすうすうと寝息を立て始めた。

 

 「あああああ! 新規ちゃんだからって調子に乗るなよ! 起きろー!」

 

 頬をむぎゅっと挟まれ、アー君は渋々目を開ける。そして、ぼんやりとした瞳でエイダを見つめ――。

 

 「きれいな妖精のお姉ちゃん」

 「ぅぇっ!?」

 

 エイダを見たアー君はそう呟いた。ロングヘアのハイポニーテール。プラチナブロンドで艶のある髪。両目はルビーのように赤く肌は白い。目鼻立ちはキリッと整っており、種族特有の長い耳も相まって少し高飛車な感じのする美しいワイルドエルフだ。

 アー君の言葉を聞いてエイダが変な声を上げて赤面する。「落ち着け、落ち着けよ俺。俺は男だ。男なんだ。だから、いくらかわいい男の子とはいえ美人とか言われて舞い上がる気持ちになるのは何かの間違いなんだ」などとブツブツ独り言を言いながら自分の体をまさぐり始めた。ひとしきり股関をまさぐっていたが次第に微妙な顔色を浮かべていく。

 

 「触れば触るほど自分が男だったのか分からなくなってくる。一度も使うことがなかったマイサンズはもういない。エルダーリッチのそっくりさんだった俺の体はどこにもないのか。代わりにあるのは絵師に作ってもらったエイダの体。俺は女の子になってしまったのか?」

 

 息子の捜索を諦めたのか今度は自分の乳に腕を沈みこませた。ぐにゃぐにゃと形を変える脂肪の塊を見て「女の子だよなあ。意識したら恥ずかしくなってきた」とため息を吐いている。

 カサカサという木の枝に生えた葉っぱがそよ風に擦れる音。すーすーとエイダの膝枕の上で寝息を立てているアー君の声。穏やかでゆったりとした時が流れていく。

 

 「よだれ垂らしながら寝やがって。俺はこれからどうしようか悩んでるのに呑気なもんだな」

 

 そう呟きながら、エイダはそっと額をぽんぽんと撫でる。その顔には、なぜか楽しげな笑みが浮かんでいた。

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