サバイバルスローライフ   作:鶏キャベ水煮

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7話

 黒い毛並みの亜人、なかなかリスポーンしねえな。装備のドロップもないしプレイヤーの可能性はまずないだろうからモンスターで間違いなさそうだけど死体が消えないのも不思議だ。

 試しに死体に向かって「起きますか?」と蘇生を提案してみたけど返事がなかった。まあPKしてきた相手から蘇生の提案を受けても普通は応じないけど。

 亜人の傍に腰をおろして体を揺すってみたり毛皮を漁って装備品を物色してみても丸腰なのが分かっただけで特に収穫もない。

 俺は拠点破壊してきた犯人を放っておいて新規ちゃんの様子を見に行った。

 かわいい。

 ヨダレを垂らしてだらしない寝顔をしながらスヤスヤ寝てる。ソシャゲに登場しそうなキャラクターが画面からそのまま出てきたような日本人離れした顔を見ているとだんだんと胸がキュンキュンしてくるのを感じる。そっと頬を撫でて柔らかい肌の感触を堪能していると顔がにやけてきた。

 デュフフフフ、かわいい。思わず舌舐りをしてしまう。うん? かわいい?

 

 「うわぁ」

 

 ふと我に返った俺は自分のやってることに嫌悪感を覚えた。かわいいってなんだよ? 相手は子どもとは言え男の子だぞ? 男の俺が男の子を見てかわいい? どうかしてんだろ。さっきもこいつに「綺麗」とか言われて舞い上がってしまったし。

 頭を抱えて変な気持ちを振り払う。

 ああああ! ヤメ! ヤメ! 新規ちゃんの顔を見てるとおかしくなってくるから他のことをしよう! そうだそうしよう。とりあえず破壊された拠点を作り直さないとな。

 俺は固い地面に寝かせている黒い肌をした子どもちらりと見た。さすがに地面に直に寝かせるのはかわいそうな気がする。

 

 「何かあったかな」

 

 俺はインベントリの中に手を突っ込んだ。一時期、自作の家具を製作して自作の拠点に設置するのに嵌まってたことを思い出しながら目の前の子どもに合いそうな工作物を探る。大きなベッドは何か違う気がするし和式布団も背景に合わないよなあ。そんなことを考えながら虚空の中で手を動かしていたら随分懐かしい物を見つけた。

 

 「……おお、こいつはいいな」

 

 俺は水色のハンモックを取り出し、しげしげと眺める。

 森の中で使う寝具としてピッタリなこのハンモックは、分類上“全身鎧”扱い。中位物理無効+空腹緩和のデータクリスタルを使用した、なかなかの高性能品だ。

 

「これなら安全だし、背景にも馴染むな」

 

 近くの木にハンモックを設置し、新規ちゃんをそっと乗せる。

 相変わらず、能天気にヨダレを垂らしている。

 

 「……だめ、ずっと眺めていたくなる」

 

 俺は邪な心を振り払い、拠点作りに取り掛かった。

 幸い一回目の拠点作りで余った資材がインベントリに保管してあるから再建築するのにそれほど時間はかからない。俺は慣れた手つきで破壊された拠点と同じものを組み立てていく。

 ギルドフラッグを立てて、と。

 

 

 

 拠点を再建し終え、新規ちゃんの様子を見に行くとまだ寝てた。よく寝るなあ。

 そういえば、拠点にお客様を迎えるのは久しぶりだ。何かもてなしてやりたいな。

 

 「……やっぱりお菓子かな?」

 

 かつての職場で、客が来たときにプルプル震える黄色と黒の菓子を出していたのを思い出す。だが、ここにはそんなものを作る設備はない。

 

 「……うーん。」

 

 人差し指を顎に当て、考え込む。こういう時どうすればいいのか全くわからん。誰かを家に招くとかやったことないし。ほとんどぼっちギルドだったからユグドラシルでの経験もないんだよな。

 試しにスキルを使ってみるかな。

 

 「〈クッキングⅢ〉」

 

 俺は解決の糸口を探すためにコックのクラススキルを使用した。頭の中に作成可能な料理のレシピが浮かんでくる。その中でこの場で作れそうなものを探し出していく。

 

 【もちもちバナナパンケーキ】

 【サクサクハッピークッキー】

 【ほろ苦ココアマシュマロ】

 【ぷるぷるスライムゼリー】

 【アイススルーツ】

 ……。

 

 この中でいま材料が一番揃っている料理は、と。

 

 「よし、アイスフルーツを作ろう!」

 

 作成可能な料理を選択して必要な材料を用意する。

 --薪、火種、鍋、果物、湧水、レモン、砂糖、オブラード、氷塊……。--一部はインベントリから用意することになるけど大体揃ってる。本当は全部現地の物でやりたかったんだけど。もてなすわけだから細かいことはいっか。

 俺は鼻歌を歌いながら手際よく調理を進め、最後に煮汁をかけて完成させた。料理なんかしたことがなかったけど意外と簡単じゃん。もしかして天才か? 匂いに誘われて味見をしてみると。

 

 「……うんめええええええ!?」

 

 なんだこれは!? 口に入れた途端に口の中が魔力系魔法詠唱者のブラックホールみたいによだれが吸い込まれていったぞ!? ふっふふふふ。この出来なら問題なく新規ちゃんに出せる。食べたい。俺も食べたい。だが我慢だ! これは新規ちゃんのために作ったんだ!

 身体を丸めてしまうほど辛くて苦しい気持ちだけどここは我慢! だ!

 

 「いい匂い……。」

 「うぇっ!?」

 

 突然の声に驚き、思わず振り返る。新規ちゃんが起きた!? 落ち着け、落ち着け俺! 自信作だろ! 胸を! 胸を張れ!

 

 

 「何これ!? お姉ちゃんが作ったの!?」

 「っ!!?」

 

 やばい、直視できない。もし俺の作った料理をまずいって言われたらどうしよう……。そう考えたら自身がなくなってきた。

 

 「お姉ちゃん、どうしたの? 顔赤いよ? 気分悪いの?」

 

 あああああああ!! ち、近い! 吐息が近い! なんだこのかわいい生き物は!? やばい、直視できない。無邪気な笑顔、キラキラした瞳。眩しすぎる。

 

 「僕が治してあげる!」

 

 ふぁっ!?

 頭を撫でられた……。

 

 「へへへ、こうすると痛かったり苦しかったりするのがどこかへ行っちゃうんだ。」

 「……。」

 「へ? なあに?」

 「……っ!」

 

 うわあああああ!! もっとしてほしいとか、恥ずかしくて言えねえ! 可愛すぎる! これは反則だろ!!

 ヒッヒフー、ヒッヒフー。ここから逃れる策は!? 何か、何か策はないのか!?……そうだ、お菓子!

 これで注意を逸らそう!!

 

 「食べて。」

 「え?」

 「君のために作った。」

 「いいの?」

 

 おお、食いついた! この隙に距離を取るぞ!!

 あー、死ぬかと思った。やっぱり俺、人見知り酷いよな……でも、あの子可愛すぎるし仕方ない。そうだ! 前いた会社では菓子のお供にお茶を出していたな。ちょうど温めておいたお湯もあるしこの前拾った匂いのする葉っぱでも入れてお茶を作って気持ちを落ち着けよう。

 

 「美っ味ぁぁぁあああ!!!」

 

 ……嘘!? 嬉しい……めっちゃ嬉しい!!

 なにこの感情? 胸が締め付けられるような、でもすごく幸せな気持ちが溢れてくる。

 こんなの知らないけど、悪くない。むしろいい。

 

 「そうだ、お茶も作ったよ! これもどうぞー!」

 「これもいいの? ありがとう!」

 

 ……はぅ。

 光り輝く鉱石よりも眩しい笑顔だ。こんなの不意打ちで放ってくるなんて、チートだろ。

 

 「うぇぇ……まっっっずぅぅぅ!! オロロロロロ!!!」

 

 ……は"ぁ"!?

 お前、調子に乗りすぎだろ!?

 これはもう、殺しても殺しても許されるやつだわ。っていうか、スキル使ったのに、そんなに不味いわけ――。

 

 「オロロロロロ……」

 

 ……なにこれマッず。一番苦い錠剤よりマズいわこれ。やべえ。

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