私は独立傭兵のケイト・マークソンです! 作:その辺の残骸
白銀の逆関節機が強襲する。ケイトは既に二機のLCを落とし、後方にいるより脅威度の高い敵機に向かって突っ込んでいた。
シールドを構えつつライフルを射掛ける、指揮官仕様機だ。他の機体よりキレのある動きで、左右に振れながら引き撃ちを続けているが、トランスクライバーの突進推力が勝っている。
『えんごしゃげき』
『助かります、レイヴン!』
相手していたLCを纏めてブレードで斬り捨てた青黒色のAC、アニヒレイターはレーザーライフルでバースト射撃。咄嗟に防御したことでシールドを破壊された指揮官機LCめがけて、逆関節による強烈な蹴りを見舞う。
激突音を伴う、心地良い衝撃が機体を通してバイクシートに跨ったケイトに伝わり、快感の吐息さえ漏れる。しかし、機体の両脚を前方に出した姿勢のため、コクピットが傾き、振り落とされないようシートにしがみつかなければならなかった。
ケイトの豊満なバストが座席にむにゅっと押し付けられる。快感に浸る暇はあまりなかった。
既にケイトとレイヴンは衛星の射界から出ている。遅れてモスグリーンの各所に赤を配色した悪名高きレッドガンズが抜けた。
『G5、いきてた』
『たりめえだ野良犬! レッドガン舐めんな!』
『わたし、G13、れっどがん、なめんな』
『~~~~っっっ!!』
纏わりつく敵機をマシンガンで追い払いながらイグアスは吼え、唸った。
『お喋りしてるトコ悪いがカバー頼むぜ、イグアス』
ヴォルタもどうにか機体を破損させずタンク型ACを上層の甲板に降ろし、搭載している火器で残り少ない敵を撃墜し始める。
すぐにイグアスが掩護に入った。ブースターが轟き、炎を噴く。
ベイラムの標準的な二脚ACをカスタムしたヘッドブリンガーは素早くキャノンヘッドの側面につき、跳躍と同時にパルスシールドを広げた。ミサイルを受け止め、ぎりぎりでレーザーを防ぐ。
イグアスは爆風越しに敵を感じ取っていた。耳鳴りと頭痛が増しているが、その分感覚が飛び澄まされている。
「衛星からの攻撃がなけりゃ、てめえらなんざ!」
俺達の敵じゃねえんだよ!リニアライフルでLCの没個性的な頭部を撃ち抜く。バランスを崩した人型機動兵器が墜落していく。
「なっ!? 死ぬのが怖くないのか!」
吠え面かいて脱出するパイロットを拝んでやろうとしたが、損傷したLCはなおも銃を向け攻撃してきた。ヘッドブリンガーは慌てて身を捻る。一筋の閃光が装甲を叩いていた。
レーザーを乱射するLCの胴体が吹っ飛ぶ。イグアスが冷や汗を掻きながら放った攻撃によるものだ。
コクピットに着弾するのが見えた。パイロットは間違いなく即死だ。
『こっちは片付いた。G4、カーゴランチャーを確保するぜ!』
言ってから、ヴォルタはキャノンヘッドを爆進させる。その横に胡散臭いエロ女が乗る白銀色の逆関節機が並ぶ。
イグアスは封鎖機構執行部隊の命さえ惜しまぬシステムへの献身ぶりに怖気を感じていた。不意に頭上を通り過ぎようとする気配に顔を上げる。
宙返りを打ち、反転したアニヒレイターの鋭いバイザーアイが地上のヘッドブリンガーを見下ろしていた。
独立傭兵レイヴン、G13。ラッキーなコールサインを拝命したミッションで多重ダムを守るルビコン解放戦線に寝返ったイカれの小娘。
『野良犬! 怖気づいたか!?』
『G5、チェックシックス』
『――――なにっ! うぁぁ!』
インメルマンターン機動を終えて機体を起こしたレイヴンが鋭く言い放つ声に反応し、後ろに意識を向けた。
空中から真一文字に照射され、大気をイオン化させながら迫ってきた高出力レーザーを浴びる直前、クイックブースターで横に跳ねた。
小破し、バランスを崩したヘッドブリンガーを立て直し、起き上がらせる。頭を押さえて、痛みに悶えるイグアス。
「うん、エア、ありがと」
一応ヘッドブリンガーの様子を確かめ、621は増援を見つめた。遠目には重戦闘機めいたシルエットのそれは、人型MTに無数の火器とブースターによる複合ユニットを装着したものだった。
エアが一瞬で取得した詳細情報によれば、惑星封鎖機構が運用するバルテウスなる特務機体。パルスアーマーによって強固な防御力さえ兼ね備える一騎当千の戦闘兵器であった。
「ウォッチポイント・デルタの防衛任務を与えられていた機体がこちらに再配置されたようです、MTの手持ち武装は標準モデルから変更され、レーザーキャノンになっていますね。弾速が速く、極めて強力です、警戒を」
音速の数倍で迫る怪物マシンの兵装コンテナが可動。帯状のランチャーから無数のミサイルが放たれ、アニヒレイターただ一機に襲い掛かる。
食らえばACなど一たまりもないほどの誘導弾の群れにレイヴンもミサイルで応戦する。アニヒレイターは背中にRaD製の散布型ミサイルを装備していた。RaDで補給を受けるついでに購入したものだ。
二基の三段式ランチャーを背負ったアニヒレイターの姿は魔鳥さながら。
アサルトブーストしながら突っ込み、バルテウスのミサイルとレーザーを回避しながら接近戦を挑む。
射撃戦で弱まったパルスアーマーを右側面からパルスブレードで切り裂く。
必殺の威力で敵をぶっ斬る高周波パルスの光刃は兵装ユニットを僅かに掠めただけだ。
「あさい、もういっかい」
「この空域は衛星砲の射程内、危険です!」
「もんだい、ない、しんじる」
交差した二機が旋回して再び、激しく銃火を交える。
一方、カーゴランチャーまでたどり着いた三機も巨大な敵の奇襲を受けていた。轟音、地響き。真紅の光が迸り、触れた物を消し飛ばしていく。
『おやおや、特務機体の次はシースパイダー型かい? そいつはコーラルを動力にした大型機だ。赤い光は全部コーラルを使った兵器、当たったら装甲が分解されるよ! 気を付けな!』
シンダー・カーラが通信で警告する。マジかよとドリフトするキャノンヘッド。
その名の通り、蜘蛛のような六脚大型機から発射された真紅の光が掠り、左肩の一部を易々と融かしたことで、カーラの発言を全面的に信じた。
「心配する必要はなさそうだな、ボス」
「そうみたいだね。これなら笑いながらビジター達を送り出せそうだ」
管制室から戦況をモニタリングするカーラにシステム担当の人工知能チャティ・スティックが言った。灰かぶりの女は煙草を咥え、火をつける。
バルテウスはあっという間に各部から黒煙を噴き、ブースターからの噴射炎を剣のように振り回してACを追い払おうと必死。
コーラルジェネレータの高出力を頼りにした重装甲と有無を言わせぬコーラル兵器の火力で当初ケイトとレッドガンズを圧倒したシースパイダーであったが、弱点を見破られてからは一気に圧された。
『下がるのはむしろ危険です。ここは敵の懐に飛び込みましょう』
『けっ言われるまでもねえ』
『俺からいくぜ! 二人は援護してくれ!』
ケイトはイグアス達の動きに完璧に合わせた。
シースパイダーが振り上げた脚の一撃を空振りさせる。硬直で生じた隙をつく。
三機は僅かにタイミングをズラしたクイックブーストでその脇を掠めつつ、手持ちの武器を一気に解き放った。それはG1ミシガンが直々に叩き込んだ対大型兵器戦術であった。
銃弾が、ミサイルが、榴弾が、さらにはレーザーとプラズマを浴びたシースパイダーが巨体を揺るがせる。
「これで、終わりです!」
露出した内部構造がコーラルの光を放つ。そこを狙ってトランスクライバーはプラズマスロワーをぶつけようとした。しかし、
『飛んだ、いや変形した!?』
ケイトだけでなく、カーラまで驚き咥えた煙草を落とす。
シースパイダーは跳躍すると、球果植物を彷彿とさせる飛行形態になり、コーラル兵器を周囲にバラまいた。慌てて後退しながら、ケイトはカーゴランチャーの無事を確かめている。
上昇と下降を繰り返しながら飛び回るシースパイダー下部にコーラルエネルギーが収束し始める。
「いい加減にしやがれ!」
「イグアス、その動きはダメです!」
イグアスは強まる耳鳴りに怒りを煮え滾らせた。彼も第四世代強化人間であり、変異波形との接触に成功し、理想的なリリーストリガーとなったC4-621に比べれば優先度は低いが、懐柔の対象だ。
引き留めるケイトを余所にイグアスはシースパイダーの真下に潜り込む。
パルスアーマーを起動してコーラルから身を守りながら、フルチャージしたリニアライフルでジェネレータ付近の損傷した箇所を狙う。
真っ直ぐに掲げられたライフルから放たれた電磁加速弾は狙い過たず大型兵器の動力炉を射抜き、断末魔の爆発を起こさせる。
真紅の光でモニターが死んだ。イグアスはスピンする機体を制する。コーラルの閃光が晴れ、空からこちらに向かってくる青黒色のACを見た。その後ろでは巨大な機体が爆散し、甲板に墜落していく。
「どんなもんだ。俺だってこれくらい」
激しい消耗に力なく呟くイグアスであった。
『あはははっ! 大物だよあんた! G5イグアス、その名前、覚えておくよ!』
レッドガンの破落戸の蛮勇に、カーラも手を叩いて大笑いだ。
管制室での大歓声を聴きながら、ケイトはカーゴランチャーに接近して、アクセスする。問題なし。
『ランチャーに損傷はありません。中央氷原への輸送をお願いできますか?』
『わかっているよ。あんたらのヘリを積み込めるコンテナもある。うちの技術者を総動員して準備するから明日の朝まで待ちな』
『ご厚意に感謝します、シンダー・カーラ』
ミッションは達成した。レッドガンの参戦というイレギュラーはあったが、中央氷原への足は手に入った。オールマインドからの労いのメッセージが入る。惑星封鎖機構への偵察、アーキバスの進路確保、観測機器の設置等々、氷原到着直後からの行動計画も同封されていた。
(ところで、このカーゴは人間の輸送を想定しているのでしょうか?)
データを漁るが物資はともかく人間を運んだという記録はない。ぴったりとしたボディスーツの下で、ケイトは冷や汗を掻いた。
翌朝。アーレア海を越えての、初の大陸間有人輸送が敢行された。巨大なカーゴは極超音速の弾道を描き、遥か彼方の氷原へと向かう。空にはコーラルの流れ、命知らずな偉業に挑むAC乗り達の道を示すかのようだ。
「おおー」
「楽しそうですねレイヴン」
「イッイグアス! 生きてるか!? おっおれはヤバくて死にそうだぜクソォ!!」
「ミッミシガン! お前は俺の俺はお前のぉぉぉぉぉ!!??」
無感情ながらも前人未踏の加速感を楽しむC4-621。
ヴォルタとイグアスは支離滅裂なことを叫びつつも地獄の訓練で培った肉体と精神で我慢する。
ケイト・マークソンはというと。
バイク型パイロットシートが災いして盛大に弾き飛ばされ、気絶していた。黒髪の理知的な美女はコクピットでみっともない大股開きでひっくり返っている。
股間部を守る銀色の装甲板がよく見えるポーズではあった。
氷原にカーゴが滑り落ちた時、ケイトはもう一度弾き飛ばされ、今度はその痛みで覚醒した。
「うう、痛い……」
身体の大部分を強打して、特に強く痛めたお尻をさすりながらコクピットハッチを開く。中央氷原の景色を臨み、空高くから地下へ集積しつつあるコーラルを感じ、己の使命の終わりが近づいたことを悟った。
ほぼ同時刻。ベリウス中部グリッド444にて。野暮用を済ませてくると告げ621のヘリを離れたウォルターは航空機発着用の甲板で待っていた。
父から受け継ぎ、幼き日に星系の外に運び出されたルビコン最後の火守りを。彼の宿命の具現たる機体を。
並外れた技術を持つとはいえ、オーバーシアーの同志ではない者にこの機体を預けるのは大きなリスクを伴った。
しかし、封鎖機構が不法占拠者の強行的な排除を開始し、惑星の内外に封鎖艦隊を展開した現状にあっては、それはベストな選択であった。
星系を突っ切るべく、ディープストライカーの通称で知られる巨大兵装ユニットを装着した真紅の機体が主の元に参じるために宇宙を駆けていく。
仮初の操者は宇宙服を兼ねた分厚い耐圧服に身を包んでおり、顔は装甲化されたヘルメットで隠れている。
後ろの簡易シートに身体を固定している小柄な人物もまた同じ装い。金髪に琥珀色の瞳、超然とした笑みの幼い少女こそ鬼才アーキテクト、エディス・キュビックスであった。