私は独立傭兵のケイト・マークソンです!   作:その辺の残骸

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再会

 

 巨大兵装ユニットに搭載されたアーマードコアIB-C03:HAL826のサブシートでエディス・キュビックスは尊大に腕を組んでいた。

 ルビコン3の光に照らされた巨大な封鎖衛星を不満げに睨む。

 金髪の少女は幼く、繊細な身体をしていたが、猛烈な慣性荷重はそれほど問題ではなかった。

 

 アラートがコクピットに木霊して、モニターに敵影が拡大表示される。

 パイロットは素早く戦闘態勢を取り、システムが戦闘モードに切り替わる。

 

「機構の迎撃機が嗅ぎつけてきたか」

 

 戦闘用MTやACの装着を前提とする巨大な装備を苦も無く操り、惑星封鎖機構の艦隊を無傷で突破してみせたパイロットは冷静だった。声はヘルメットでくぐもっている。

 

「軌道戦闘機、機種はハイペリオン。艦隊ほど楽じゃない相手だね」

「わかってる。そこで見てろ」

「任せるよ」

 

 エディスはシートに身を預けて、戦闘の高Gに備える。

 

 接近してくる四機の敵機。一機は封鎖衛星の陰から飛び出して三機編隊と合流していた。

 つい最近、声明と共に封鎖機構が軌道上に放った番犬、ハイペリオン特務軌道戦闘機だ。

 

 重戦闘機の機体に駆逐艦クラスの攻撃力を有しており、装甲も分厚い。推力に至っては怪物的だ。

 艦隊を丸ごと滅殺して余りあるディープストライカーだが、機動性の差から相性が悪い敵だ。

 なお、アイランド・フォーの動乱で活躍したアーキバスのエースパイロット、現V.Ⅰであるフロイトは同種の軌道戦闘機を真っ向勝負で撃墜していた。曰く、「突っ込んできたところを撃っただけだ」とのこと。彼の数多の伝説の一つだ。

 

 ディープ・ストライカーの最強武装である高出力プラズマキャノンは既にフルチャージしてある。

 大型粒子加速器によりAC用のプラズマ兵器と比べ物にならない高速で放たれた光条が宇宙を照らす。強襲艦による大艦隊を撃滅した攻撃だが、軌道戦闘機は散開してこれを回避。

 

 高速ミサイルが戦闘機側面から放たれ、空間を埋め尽くしながら真紅のACに殺到する。ディープ・ストライカーも残っていたミサイルを撃ち、誘導弾同士が貪り合う。

 

 弾幕密度では圧倒的に機構側が勝る。兵装ユニットの各部スラスターを急速噴射して機動する。

 稲妻のような軌跡を刻みつつ、ハイペリオン達がそれを追尾する。編隊を組み直した四機は開花するような散開機動、高速ですれ違う。

 

「んなろ!――――だが一機殺った!」

 

 レールキャノンとレーザーの散弾がパルスアーマーを叩き、拡散させた。コクピットが揺れるが、損傷はごく軽微。

 

 一方でハイペリオンの一機は著しく損傷し、火達磨になってから爆発四散した。

 敵機の動きに対応したパイロットが、ディープ・ストライカーに搭載してある近接防御用ガトリングレーザーキャノンで集中砲火をかけたのだ。

 

「おーおー食いついてきたな」

 

 パイロットが後ろを振り向き、青い噴射炎に向かって咆えた。

 生き残った空間戦闘機は急旋回。後ろを取っていた。こうなると、ディープストライカーの運動性では振り切れない。

 

 ハイペリオン部隊は火線が重なるポジションを取り、同時攻撃。

 しかし、被弾からの誘爆による大爆発が起こる前にディープストライカーは分解していた。

 

 真後ろに陣取っていたハイペリオンが飛んできたプロペラントタンクに激突し、爆発に飲み込まれた。

 

 残る二機は天文学的なスピードで爆発から逃れたコアを走査するが、真紅の光を宇宙に刻みながら駆けるその機体はあまりにも速過ぎた。

 無人機ならではの超高速機動で飛び回るハイペリオン、それを凌駕して追い込むHAL826。

 

 深部強襲用武装ユニットをパージして解放された、技研の遺産たるACのスペックは桁違いだ。

 現行世代のACを軍団規模で揃えて、どうにか単機と釣り合う。

 強襲性能を的確に活用すれば人類の築き上げた星間文明を著しく後退させることさえ可能だ。

 破滅をもたらす光を纏い、洗練されていながらも歪なその姿形は破壊天使と呼ぶのが相応しくさえある。

 

 外見上は幼い少女に見える謎めいたアーキテクトが連れてきた操縦者は、異次元の性能を備えたACに適応する腕前の持ち主であった。

 

 逃げ惑う軌道戦闘機をロックオンして、エネルギーライフルのトリガーを引く。解放型バレルから解き放たれたコーラルの閃光が二機纏めて撃ち抜く。

 

「仕上げにかかる」

 

 爆発に目もくれず、パイロットは封鎖衛星に吶喊していく。横に振りかぶった左腕では鋭い三日月の刀身を持つブレード・ユニットに光が纏わる。

 パイロットは獰猛な山猫の目で標的を睨んだ。

 

「ウォルターの頼みだ、何よりあれを片付けないと僕らが帰れなくなる。確実に壊してくれよ」

「言われなくとも!」

 

 ついに機体そのものが一筋の光となり、全長数kmの衛星砲の強固な外殻をぶち抜いた。

 

 

 身に纏うコーラルの絶叫を勝利の凱歌に最後の騎士は大気圏に侵入した。かつて憧れと共に己を見上げた少年を乗せ、この惑星を燃やすために。

 

 各勢力はアーレア海の空路と海路を封じていた封鎖衛星の爆発を観測。競い合うように中央大陸への進出を開始した。

 

 それはオールマインドにとっても喜ばしい事態であったが、同時に突如宇宙から乗り込んできた真紅のACは彼女を大混乱に陥れた。

 

 

 グリッド444で待つハンドラー・ウォルターの元に預かっていた機体を届けるとエディス・キュビックスを名乗る少女は早々に着替えた。

 耐圧服を脱ぎ捨て、お気に入りのゴシックドレスを身に着ける。蝋人形めいた白い肌に漆黒の装い。

 

 超然と優雅に立つ少女の背後で、パイロットは「暑い、疲れた、死ぬぅ~~~」などと呻いてシャワールームに流れていった。

 

「やあ、お待たせ」

 

 エディスは待っていたウォルターに歩み寄る。初老を過ぎようとしているハンドラーの顔付きは険しく、常に苦悩を滲ませている。

 それがエディスに老婆心を焼かせたし、強化人間の少女C4-621は無性に世話をしたくなる娘だった。

 

「衛星の件も含めて世話をかけた。遠路はるばる――――」

「気にするなよ。僕が好きでやっていることだ」

 

 挨拶も早々にエディスは紙束をウォルターの胸に押し付けた。

 

「これは?」

「僕が個人的に纏めた要注意人物リスト。そっちで把握している分もあると思うけど、傭兵とか武器商人とか今まで以上に妙な連中がルビコンに密航してきてる」

 

 ウォルターは資料の最初のページに目を通した。ブランチを名乗るハクティビスト傭兵グループの情報が詳細に記されている。

 

「気を付けろ、ハンドラー・ウォルター。預かった機体は完璧以上に仕上げたし621の活躍も調べたが、今のあの娘に並ぶAC乗りがルビコンにいるとは思えない。だが、傭兵仕事は常に罠と隣り合わせだ」

 

「それは理解しているつもりだ。友人達のためにも道半ばで死ぬわけにはいかない――――協力に感謝する。脱出の手筈はこちらで整えよう」

 

 ルビコン星系は燃え尽きることになる。そこに協力してくれた者を巻き込むわけにはいかない。

 

「ありがたいが断らせてくれ。少しばかりこの惑星で仕事をすることにした。アーキテクトではなく運び屋(ミグラント)としての仕事をね。そのためにパイロットを連れてきたし、もう一人都合が合う奴がいた。ここでは別の名前を名乗るつもり。心配しないでくれよ、僕らもむざむざ焼かれるほど間抜けじゃない」

 

 アーキテクト、エディス・キュビックスは少女の名前の一つでしかなかった。琥珀色の瞳は挑発的で、笑みは貪欲な鮫のよう。

 

「次は敵同士になるか?」

 

 ウォルターは少女の姿をした者の意図を察した。

 

「一度くらいは君とレイヴンのところにお邪魔させてもらうよ。アニヒレイターの強化とかあの娘のための新しい機体の組み立てもやりたいしね」

 

 やがてエディス達が去り、格納庫にウォルターは独り残った。真紅の機体を今一度見上げる。

 少年は老いたが、異形の機械天使はさらなる力を身に着けた。父の被造物は何も答えてくれない。

 

 コーラルを弄んだ者達の罪の具現たるアーマードコアが手元に舞い戻った。ならば、燃え残った全てに火を点けなければならない。  

 

 

 

 

 一方。中央氷原を飛ぶ一機の輸送ヘリ。ペン先のエンブレムが誇らしげに記されたその機体は今やルビコン屈指の傭兵と名高い黒髪の美女を運んでいる。

 

 ケイト・マークソンの私室。最低限の生活スペース中央にあるシャワーカプセルの内側に白い裸身が躍っていた。

 

 ボディスーツはベッドの上に雑に投げ捨てられている。その内側は濃厚な汗の匂いなどを放っており、着用した期間の長さを示していた。

 

 コーラルリリース計画の推進と、それに必要なアーキバスの支援、封鎖機構への偵察といった任務は過密スケジュールで敢行された。

 やっとのことでシャワーを浴びる時間を得たケイトは、熱いお湯を全身に浴びる快楽に浸っていた。

 

 両手は頭の後ろにやって、腋を晒した魅惑のポーズを頼まれるでもないのに取っている。豊かな胸の谷間にはお湯で水溜まりができていた。

 狭い空間で身動ぎしながら、たっぷりと時間をかけて、躯体の隅々まで洗い清める。温風で乾かすと、全裸のケイトがシャワーから出てきた。

 

 白い肌の妖艶な女は股間を布で覆うこともせず歩き回る。衣服で抑えていないデカいお胸とお尻が揺れる。

 

 ケイトは出撃までの時間を裸で過ごすことにした。汗臭いボディスーツを洗浄する時間はない。次の補給で予備のスーツを頼んでいた。

 

 

「さてレイヴンの様子はっと……ふむふむ、相変わらず素晴らしい活躍です。その力、大きすぎる――――」

 

 タブレット端末を手に取ると、独立傭兵レイヴンの活躍をチェックする。ルビコンのローカルネットワークには傭兵間の非公式な交流の場があり、オールマインドに替わってそれらをチェックするのも任務の一つだ。

 特にリリース計画を成就させられる存在であるレイヴンの情報には注視せねばならない。

 

(むっ! 匿名だからといって好き放題書き込んでいる。ここは私がレイヴンの実力を理解させねばなりませんね)

 

 レイヴンの活躍ぶりにいちいちケチをつけるアカウントが一つ。言葉遣いも悪く、目立っているネットの破落戸とケイトは時間一杯まで言葉の刃を交わし合った。

 

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