私は独立傭兵のケイト・マークソンです!   作:その辺の残骸

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今回ケイトちゃんは出ません。申し訳ない。



くべる者達

 

 少し先が視えないほどの猛吹雪だ。イグアスはヘッドブリンガーを慎重に歩行させながら、振り返った。

 後方に位置するG6レッドの様子をモニターで確かめる。吹雪に煽られて制御を誤り、すっ転ぶ様子はない。

 

 この破落戸は第四世代強化人間であるが、ある晩の賭けで拵えた多額の借金のために施された施術は粗悪なもので、その恩恵は最低限だ。

 

 どこぞの野良犬のように機体のセンサ情報を直接"視る"ことはできず、モニターとHUDに頼っている。

 つまり、イグアスの戦闘技術はレッドガンで培ったものが殆どを占めているということだ。

 

『調子良さそうじゃねえか。ええレッドよ?』

 

『はい! ミシガン総長が調達してくださったパーツのおかげです!』

 

 年下とは思えない迫力のある大声で、レッドは返事してきた。殆どが訳ありのレッドガンACパイロットの中で、末席を預かるレッドは唯一の志願兵だった。

 レッドのハーミットはジェネレータやFCSなどの内装を交換して性能を向上させていた。

 イグアスの僚機であるキャノンヘッドも調整中である。その立ち合いのためにヴォルタは猛吹雪の中の哨戒任務をパスすることができた。

 

『そうかい。俺のほうも前よりいい。得体の知れない連中のおかげってのがムカつくがな』

 

 失敗した『壁』攻略作戦で本社部隊が大きな損害を被って以来、レッドガンは独自の行動を取っている。

 物資の調達は社を通さず、兵器ブローカーから仕入れるようになっており、皮肉にも以前より装備が充実している状況だ。

 

 特にMT部隊の半数以上がBAWS製のE-104から一小隊でACに匹敵する高性能重MTスクータムに更新され、大きな戦力アップを果たしている。武器商人にレッドガン流の交渉を持ちかけて良心価格で調達したものだ。

 

 一方、軍資金調達のためにドーザーの依頼を請け負い、土着間の縄張り合いに加勢している。栄えあるレッドガンが傭兵仕事に手を出しているのだ。

 

 中央氷原に一番乗りする任務に端を発する動きに、イグアスは我慢ならなかった。ベイラムの最終的な勝利のためだ、とミシガンは公言していたが本心ではないはずだ。

 じきに自分は否応なしにミシガンと一蓮托生になるのではないかとイグアスは危惧していた。

 

 

『そういえば先輩、オールマインドから提供されたパイロットスーツは着ないんですか? 今使ってる耐圧服より軽くて薄くて高性能という触れ込みのようですが』

 

 少し前の話だ。オールマインドは各勢力に対して独自開発した製品を無償提供し、レッドガンも幾つかのACパーツを受け取ると同時に強化人間用に開発されたパイロットスーツの提供を受けた。

 アーキバス製品のようなボディスーツ型で、ヘッドブリンガーに寄せた配色。どういうわけか、イグアス宛の代物であった。

 

「G5! 貴様に新しいおべべが届いた! 少しは役立たずがマシになるかもしれん! 着るかどうかは好きにしろ!」などとミシガンから直々に手渡しされたピチピチのスーツを手にした時、憎たらしくて不愛想な銀髪の小娘が無表情でピースするのが思い浮かんだ。

 

 その横ではチチとケツが無駄にでかい女が、胸を反らして腰に両手を当てるポーズをしていた。

 殴りたくなる自信満々の笑顔を浮かべていたので、頭の中で殴り「ごふぅ!」と鳴かせてやったイグアスである。

 

『馬鹿野郎、俺達はパイロットだ、戦争してんだ。舞台に上がってバレエを踊るわけじゃねえ。あんなこっぱずかしい服着られるかよ……何ならお前に譲るぜ?』

 

『はっ! ありがとうございます先輩! お気持ちだけいただき、遠慮しておきます!』

 

『だろ? 分かったら金輪際この話はするんじゃねえぞ』

 

 珍しく敵襲のない、退屈な哨戒任務での先輩と後輩の会話はミシガンの怒鳴り声がコクピットに轟くまで続いた。

 

 

 

 

 ベリウス中部。ルビコン解放戦線は今後の主戦場となる中央氷原に進出するべく、戦力の再配置を急いでいた。しかし、ツィイーが守るキャンプは引き払う直前、アーキバスの部隊に襲撃を受けた。

 

「畜生、企業め!」

 

 叫びながら、少女はBASHO型フレームの機体に向かって駆けていく。艶のある髪は動きやすいよう、後ろ髪を高めの位置で纏めてある。リトルの名の通り、小柄でまだ若い。

 少女闘士はシュナイダー製の軽快なパイロットスーツに身を包んでおり、その年齢からすれば驚くほど鍛え抜かれたツィイーの肉体が、隙間なく張り付くスーツで浮き彫りになっている。

 

「行くよ、ユエユー!」

 

 ヘルメットを被り、ACを起動する。アサルトブーストで強引に格納庫から飛び出したツィイーは機体を右に回頭させる。敵はACだが、動きがぎこちない。

 レーザーライフルを向けてくる前にグレネードを撃ち込む。その反動をあえて抑えず、機体のブースターを駆使して後退する方向を調整することで、別の敵機からの攻撃を避ける。

 慣性を殺さないように回転をかけ、左腕のグレネードを発射。爆炎の中から損傷したアーキバスACが飛び出す。

 

 若さと熱意と幸運に任せた、極めて強引な戦い方だ。

 

「くうぅ!」

 

 激しい動きでコクピットが揺れて、ツィイーは呻く。両脚を広げて踏ん張る。戦意に溢れた眼差しで二機を捉えながら、パルスシールドで身を守り、反撃の機会をうかがう。戦闘中ツィイーは恐怖を感じ、スーツの下の柔肌に汗を滲ませていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 恐怖を振り払うようにトリガーを引く。敵は少数のACだが、キャンプの戦力でまともに対抗できるのはツィイーのユエユーだけだ。

 負ければツィイーや他の適性があると見なされた者はファクトリーで部品に加工され、そうでなくても再教育施設に放り込まれる。洗脳され、アーキバスの奴隷にされてしまう。

 

「そんなことは絶対にさせない! 私だってコーラルの戦士なんだ! 皆を守ってみせる!」

 

 両手のグレネードを正面に補足したACに浴びせて、木っ端微塵にする。

 決死の覚悟で一機撃破したが、その間に味方は殆どやられてしまった。孤立したユエユーに人間だった部品を積んだACがゆっくりと接近してくる。

 

「うあっ!? しまっ!?」

 

 時間差をつけて飛来したプラズマミサイルを避け損ねた。プラズマに煽られ、ユエユーが転倒する。

 

「くっ……!」

 

 ツィイーは怯える自分が情けなかった。雄々しく開いていた脚を閉じ、操縦桿を握る両腕を震わせる。

 どうにか己を奮い立たせ、こちらを無力化したと思い込んだ敵に一太刀浴びるべくユエユーを駆り立てようとする。

 

「新手!? けどアーキバスのIFFじゃない!?」

 

 接近してくる新たな機体の反応が表示された。物凄い速さでまっしぐらに突っ込んできたその機体にファクトリーのAC部隊も気付き、銃を向けた。

 連射されるレーザーをコアで弾きながら、新手のACは進路上にいるアーキバスの機体を蹴り飛ばした。

 

 それはまさに突撃(ブーストチャージ)と呼ぶもので、思わずツィイーが身を竦めるほどの衝突音で弾かれたアーキバスACは見るも無残な有り様になっている。

 

 低速の通常ブーストでスライドする白一色ACの姿をはっきりと見た。初めて見るフレームだった。

 多数の装甲板を折り曲げ、重ね合わせて無理矢理人形に成形したかのような無骨過ぎる機体。大口径の手持ち火器を撃ち放ち、あっという間にまた一機撃破する。二丁のライフルは大型兵器の砲を流用したものだった。

 

 ブースト速度は遅いが、クイックブーストは爆発的な速度だ。瞬間移動のように、距離を取る。ACの肩部装甲板が開き、キネティックミサイルの群れが装甲を貫き、最後の一機を破壊する。

 

 暴力を具現したような荒々しさに少女闘士は息を呑んだ。MTや建物から体を引き摺り出した闘士達が救援を見つめた。

 

『味方だ。撃たないでね』

 

 少女のマイペースな印象の声が聞こえてくる。ACの左肩には崩れた塔の上に立つカラスが描かれ、ツィイーに陽気に笑いかけていた。如何なる終末をも笑い飛ばしてしまう、そんな笑顔。

 

『助かったよ。けどあんたは一体?』

 

 ACを立ち上がらせ、ツィイーは訊いた。

 

『キリカ・クロウハート』

 

 ボーイッシュな黒髪の少女が素っ気無く名乗った。澄んだ空色の瞳。殺人的な加速度を発揮するACに乗っているというのに、フライトジャケットを羽織っているだけのラフな私服。耐G装備を一切身に着けていない。

 

『ここのキャンプの人達を中央氷原に運ぶ依頼を請けた運び屋(ミグラント)なんだけど、その様子だとまだ話が行ってなかったみたいだね。

 とにかく、アーキバスの本隊を片付けて安全を確保するから少し待っていて』

 

『それとヘリが来るから着陸許可よろしく~』背部のブースターを全開にして、飛び去りつつキリカは告げた。AC部隊の全滅に動揺していたアーキバス部隊に白いACが襲い掛かると、阿鼻叫喚が始まり、すぐに静かになった。全てが真っ黒に燃え尽きている。

 

 キリカの言葉通り、接近してくる大型ヘリに描かれているのは、大荷物の番をする二羽の鳥のエンブレムだ。片方は黒、もう片方は赤。

 それはキリカと今回のビジネスパートナー二名が一緒になって考案した、運び屋としてトレードマークだった。

 

 

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