私は独立傭兵のケイト・マークソンです! 作:その辺の残骸
仕留めにかかる。エンタングルは前方に広がる火炎にトップスピードで突っ込み、車輪を回転させる技研製の
バックブーストで距離を取りながら、デトネーティングバズーカを発射。ヘリアンサス型の機内に残った大量の燃料に引火して大きな爆発が起こる。
雪原には燃え盛る残骸が何機も転がっていた。中央氷原への脚を手配したグリッドに向かっている際、スッラは奇襲を受けたのだ。
エンタングルもスッラ自身も万全だ。ウォッチポイント・デルタを偵察中に負傷したという報告はオールマインドを欺くための虚偽であった。
あの存在の思考パターンを把握しているつもりだったが、今回ばかりはしくじってしまった。
襲撃部隊を率いているのは胴体などの円盤状パーツが目を引く細身の人型、ゴーストだ。恐らく予備機を引っ張り出し、ベリウス地方を徘徊する無人機をハックして部隊を編制したのだろう。
『お見事です、C1-249スッラ。その力、まさに我々が理想的とする傭兵です』
氷崖の上だ。レーザーウィップを油断なく構えたゴーストからオールマインドが告げた。その姿が消え、雪が舞い上がる。光学迷彩。
スッラは不敵に笑い、センサをフル稼働させてのスキャンと併せて、姿を消した敵機の気配を追う。
感覚で当たりをつけてバズーカを射掛ける。しかし、砲弾は氷崖に着弾して連鎖爆発を起こした。
「ぬぅっ!?」
予想外の位置からしなる鞭が襲い掛かり、エンタングルの脚部を損傷させる。
スッラはアクチュエータ複雑系の再割り当てを行いつつ、パルスガンを掃射。泡状の電磁パルスを浴び、ゴーストを守る薄緑の保護膜が一気に減衰する。
『そちらこそ。その手際はケイトから学んだのか?』
二機は互いの背後を取るように旋回戦を繰り広げる。
『その通りです。ケイトにより我々はさらに進化しつつあるのです。貴方には万に一つの勝ち目もありませんよ、老兵。
それにしても解せませんね。アイビスの火以来、我々に協力してきた貴方がここにきて我々の敵との内通を試みるとは。貴方もリリースがもたらす新世界を恐れたのですか?』
跳ね回るように動くゴーストだが、オールマインドの声音は淡々としている。
『おや、気付いていなかったのか? 最初からさ、コーラルリリースなどクソくらえだ』
『なっ――――!?』
オールマインドの動揺を引き出したスッラは、デトネーティングミサイルを射出。
トップアタックを仕掛け、冷却が終わったパルスガンを浴びせる。
パルスアーマーを失ったゴーストが、雪原でたたらを踏み、そこにミサイルの爆導索が弾けて連鎖爆発を起こした。
ゴーストは破壊したが、オールマインドの声が変わらずコクピットに木霊する。
『この程度は想定の範囲内です。貴方の最期は今後のモチベーションになる形でケイトに伝えておきましょう。安心して果てなさい、C1-249スッラ』
声が消える。スッラはオールマインドが寄越した新たな敵機の方向に機体を向けた。ACだ。
「なるほど、ブランチの二機か。悪くない選択だ」
晴天の空から接近する二機はアンバーオックスとアスタークラウン。オールマインドが手配したのは強力な傭兵達だった。
機体の損傷は問題ではないが、技研兵器による波状攻撃のために弾薬が底を尽きかけていた。いかにスッラが優れた傭兵とはいえ、この状況では殆ど勝ち目がない。
だが、こちらも生き残るための手は打ってある。間に合うかどうかは分からないが。
それに未来のための種も蒔いてある。後はあの小娘の選択次第だ。
「来い、アーマードコアの格闘戦を教えてやる」
マニピュレーターを使った格闘戦を膨大な戦闘経験から呼び起こし、交戦に備える。どちらにせよ、むざむざ狩られるつもりはないのだから。
地表を切り裂きながら迫ったレーザーが重厚な装甲を溶断した。パイロットごと真っ二つになり、
上空からの一方的な攻撃に一矢報いようと反転し、キャノンを構えた
惑星封鎖機構が部隊を配備した観測拠点の確保を命じられたヴェスパー第六部隊は当初順調に作戦を遂行していた。
しかし、決まり文句の警告と共に強襲艦が飛来し、対地攻撃を始めたことで戦況は一転してしまった。
不運にも、隊長機であるV.Ⅵメーテルリンクが補給のため後退したタイミングでの襲撃だった。
単独で低空飛行する艦に対して、アーキバスのMT部隊が取れる選択は退却のみ。反撃は艦の装甲に易々と弾かれるばかりで早々に諦めた。
『第六隊長殿はまだなのか!?』
パイロットの一人が悲鳴を上げた直後、先行していた味方機の残骸に躓いて転倒し、そこをレーザーが薙ぎ払った。
味方の亡骸を踏み越えながら逃走する最中、接近する機影が捉えられ、レーダーの輝点が部隊のデータリンクで共有された。
「この速度はACのアサルトブースト!? ならば!」
所属不明を示す輝点の色が変わるのを待つ。友軍を示す緑に切り替わると通信チャンネルに歓声が起こる。
『味方だ! 傭兵のAC!』
『俺達はツいてるぞ、トランスクライバーだ!』
『おお、あのケイト・マークソンか!』
中央氷原への進出後、アーキバスは独立傭兵に対して救援報酬を設定していた。
対惑星封鎖機構の戦力不足を補う、V.Ⅱスネイルの施策だ。
一方、各部隊は救援のACが撃破された場合、コクピットブロックを持ち帰るよう命じられている。
強襲艦は高出力レーザーの一撃で側面からブリッジを射抜かれ、あっけなく墜落した。
MTのパイロット達が沸き立つ声をバイクタイプのシートに跨ったケイトは心地良く聴いていた。
トランスクライバーをMTの前に降下させる。ケイトが駆るACは大地を踏み締め、コアから排熱する。
『救援信号を受信し、急行させていただきました』
ケイトはコクピットを開くと、バイクシートから立ち上がって、姿を晒す。
長身の女の艶やかな姿と魅力的な笑顔に、一部のMTパイロット達がさらに湧き上がる。
無断で動画や写真を撮影する者も複数いたし、強化被膜に覆われた双丘や銀色の装甲が光る股間部分にもズームされていた。
光沢のある黒い被膜に銀色の装甲を取り付けたボディスーツ姿で堂々と立つケイト。
お尻も引き締めて、ミステリアスでクールな女傭兵を完璧に装っているつもりである。
ケイトは大急ぎで飛来するヴェスパー部隊のACインフェクションの機体を見て取った。
メーテルリンクと親睦を深めるべく、切り出す話題を考える。
(アーキバスの中核たるヴェスパー部隊とのコネを得る絶好の機会ですね。上手くこなさなければ)
曲者揃いのヴェスパー部隊にあってこの若い女パイロットは、組みしやすい相手であるとオールマインドはプロファイルしていた。
今やケイトはアーキバスが最も信頼する傭兵だった。中央氷原に進出し、救援に応じるようになってからはMTなどを扱う末端兵士達の間で絶大な人気を獲得している。
しかし、これは自然に醸成された評価ではなく、オールマインドがネットワーク上で行ったプロモーション工作の成果だ。
ルビコンの星内ネット上にケイトの活躍を示す動画を多数アップロードしており、第三者を装ったニュースや記事も出回っている。
その中には射撃や格闘技の訓練に励む映像も含まれていた。
ACパイロットだけに留まらない、多才さをアピールする狙いの動画で、ケイト自ら気合を入れて撮影に臨んだ物だ。
視聴回数が桁違いに多いのは遮蔽物に身を隠し、しゃがんだ姿勢で銃を撃つケイトを背後から撮影した動画だった。
股間を護る銀色の装甲板が尻間に続き、"Iバック"状に食い込む煽情的な構造のため、否応なしに視聴者の視線を吸い寄せた。
黒いボディスーツに包まれたお尻は射撃の反動で震え、柔らかさを魅せる。
今やアーキバス勝利の女神と讃えられることもあり、その名声はケイトの自尊心を大いに満たしていた。
『こちらV.Ⅵメーテルリンク、援護に感謝します』
部下の前に降り立ち、トランスクライバーと相対するインフェクション。
コクピットのメーテルリンクはバイザーの下で警戒の眼差しを送った。アーキバスに協力的とはいえ傭兵であり、ケイト・マークソンは得体の知れない女だ。
同時にケイトの美貌やあり得ないほど魅惑的なスタイルに圧倒されてもいた。
(一体何を食べたらあんな大きさに……)
メーテルリンク自身、スキンタイトなパイロットスーツを着こなせる非の打ちどころがないスタイルなのだが、胸と尻のサイズでは完敗だ。
単に大きいだけでなく、肢体と見事に調和して魅力を演出している。
(まずは挨拶から、ですね)
アーキバスのACが発する緊張を察したケイトは、それを解すべく動いた。
「私の名はケイト・マークソン。独立傭兵で――――ぶっぶえっくしょい!!」
滔々と名乗ろうとするが、突然吹いたルビコンの風の冷たさにケイトは盛大にくしゃみして、メーテルリンクを筆頭にアーキバス側を呆気に取らせた。