私は独立傭兵のケイト・マークソンです!   作:その辺の残骸

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未確認C兵器撃破Ⅱ

 

 コーラルの放出によって穿たれ、溶かされ、崩れた渓谷地帯。咆哮を響かせ、白い魔獣アクゼリュスの巨体が天高く跳ぶ。セリアは、ドルマヤンを抱きながら歌っている。

 

 轟音、蒼い噴射炎。白銀のトランスクライバーは断崖に沿って急加速上昇していた。純白の大型C兵器は、巨体の鈍重さを感じさせない加速度で上昇しており、ケイトはそれを追跡しているのだ。

 

 襲い掛かる弾幕が炸裂し、弾頭から放たれるコーラルの粒子をパルスアーマーの薄緑の防御幕で中和しながら、爆煙を抜ける。

 

 ケイトは食らいつくような激しい動作で操縦していた。ブースターを噴射して姿勢制御をかけることで、防ぎきれない攻撃を辛うじて避ける。

 空中で高出力クイックブーストを吹かしているドルマヤンの大型機の位置は目まぐるしく替わる。

 

「逃しはしません!」

 

 損傷したトランスクライバーに残された唯一の射撃武器となったKRSVを発射する。過剰チャージされたライフルのコンデンサが限界に達する寸前での攻撃だった。爆発的なエネルギーの放出で暴れ狂う銃口を抑え込む。

 

 空中に固定した機体のコクピットで、ケイトはホワイトアウトしたモニター越しに白い装甲の巨大兵器を睨んでいた。

 

 執念の攻撃はアクゼリュスに直撃し、コーラル粒子装甲を打ち抜き、本体にも大きなダメージを与えていた。再び苦悶するが如くフレームを軋ませて吠えながら、回転墜落する巨大兵器。損傷部位から漏れるコーラルは流血さながら。

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 

「――――セリア」

 

 ドルマヤンの意識がアクゼリュスを動かし、砲撃させた。回転しながら、背部の大型キャノンからコーラルエネルギーを際限なく解き放ち、回転と併せて接近を防ぐ。

 コーラルが遠方にある解放戦線の前線基地にまで達して、地下エリアまで切り裂く大損害を与えていた。

 

『申し訳ありませんが、私はここまでです。どうか幸運を!』

 

 火花を噴き始めたKRSVを投棄しながら、ケイトはトランスクライバーを操り、コーラル流に呑まれないよう必死で避けながら降りていく。

 

 C4-621、あるいは独立傭兵レイヴン。銀髪の少女は静かに頷いて応えた。

 

「ケイトがつくってくれたみちだ。かならず、やりとげる」

 

 621はアニヒレイターのアサルトブーストを起動して、最高速度で溢れ狂うコーラルの閃光を縫うように飛ぶ。

 

「これはもういらない」

 

 レーザライフルとグレネードキャノンをパージし、パルスブレードだけを残す。二つの兵装が深紅の粒子を浴びて、爆散し、燃え尽きる。

 

「ともにいこう、エア」

「はい。どこまでも貴女と共に、レイヴン」

 

 友人と心を重ね合いながら、レイヴンはかつてないほど深く機体に没入した。エアのサポートを受けて、アニヒレイターが持つ絶大なパワーの手綱を取りながら、ついに姿勢制御に成功した白い巨体、セリアとドルマヤンに真っ向から相対する。

 

「――――ッ!! はぁぁっ!」

 

 アクゼリュスが振り上げた脚を右腕を犠牲にしつつも避け、クイックブーストで懐に飛び込む。

 怪物的な意匠の頭部めがけて、アニヒレイターはパルスブレードを最大出力で突き込んだ。KRSVを浴びて融解した箇所を狙い、重厚な装甲を突き抜け、アストヒクの頭部にまで刃が達する。スパークが散る。

 

 浅い。ドルマヤンは淡々と被害を分析し、呟いた。セリアの同胞であろうと、邪魔はさせない。青みがかった黒い装甲のACを叩き潰そうとする。

 

 しかし、機体はドルマヤンの意志に追従しなかった。まるで石に変わってしまったかのように、自由が効かない。

 

 さらに突如生じた未知のノイズパターンが苦痛となってドルマヤンを苛み、何よりも

 

「セリア」

 

 彼女の悲鳴がした。

 

 

 エアはクラッキングをかけ、セリアを浸食していた。レイヴンと意志を共鳴させることで、彼女の能力は飛躍的に増大していた。

 

 狂気を煌かせる深紅の光の中を突き進んでいく。エアは自我を強く維持し、意識下空間内での活動を容易にするため人の姿になっていた。レイヴンの身体データを模倣した、白い少女。その手には巨大な黒の剣を握っており、セリアが展開する防壁を易々と切り裂いている。

 あらゆる光を拒むような極限の黒で象られたそれはレイヴンの意識が具現化したものだ。

 

 この意識下の世界では、エアが自ら動き、レイヴンがサポートするという逆転が起きていた。

 

(レイヴンは常にこのような選択を)

 

 文字通り、セリアが支配するコーラルネットワークの空間では全てが敵。エアを助けるものはなく、彼女は自ら選んで道を決めなければならなかった。

 

「くっ!」

 

 光が巨大な腕となってエアに襲い掛かる。横薙ぎの一閃で迎え撃ち、腕とその本体であるコーラルの光の巨人を叩き切る。飛び去ったエアの後方で、数多の絶叫が響いた。

 

 セリアの一部にされたコーラルの意識体だ。エアは同胞を自らの手で屠ったのだ。既に数えきれないほど。

 しかし、後悔も罪悪感も今、この瞬間だけは振り切る。エアは加速する。

 

 襲い掛かってくる敵を切り裂き、ついに中核にたどり着いた。意識下におけるセリアの姿は稲妻を纏い、炎で形作られた双頭の大蛇であった。揺らめき、形を変え続ける狂気の化身。

 

「レイヴン、力を貸ります」

 

 極黒の大剣が震え、肯定する。エアは深紅の世界が生み出す防壁の全てを突き抜け、大蛇の頭の片方、セリアの側を刺し貫いた。少女達は魂を共鳴させ、世界を塗り替えていく。

 

 

 私は君を守れなかった。すまないセリア。コーラルと人類の未来を拓けなかった

 大丈夫よサム。これからはずっと一緒。皆もいる、だから寂しくない。それにね、安心して。これからは、もう何も失われない、何も尽きることはない。だってあの娘たちが――――

 

 

『すぐに離脱を! レイヴン、エア、聞こえていますか!? 返事をしてください!』

 

 どうにか谷底に不時着した愛機トランスクライバーからケイトは叫んだ。アニヒレイターは崖の上に墜落したC兵器の頭部にしがみついており、両機ともに動きがない。

 

 ケイトの声が通じたのか、アニヒレイターが動いた。応答はないが、ブースト噴射で飛び上がり、下がっていく。

 

『今向かいます、待っていてください!』

 

 中破して黄色や赤のコンディション表示に覆われた機体に無理をさせ、離脱するレイヴンと合流する。通信画面が開くと、ケイトは身を乗り出さんばかりだった。

 

『レイヴン、鼻血が!』

 

 銀髪の少女は極薄のパイロットスーツに覆われた腕でケイトが指摘した出血を拭う。

 

『だいじょうぶだ、しんぱいない。はっきんぐはうまくいった。あれはもうこうげきしてこない』

 

 エアがハッキングで敵機を無力化したという筋書きだが、その実態が変異波形の力によるものだと把握している。

 

『みろ』

 

 レイヴンがC兵器を示す。全身からコーラルが噴き出し、天へと昇っていく。

 

(コーラルが"喜んでいる"? あり得ない、こんなパターンは)

 

 検出されているコーラルの波形パターンは既存のデータと一致しておらず、活発なリズムを刻んでいる。変異波形ほどではない、原始的な情動が形成されているのを示していた。

 

 未知の現象に考えを巡らせていると、巨大兵器のジェネレータが爆発し、コーラルが深紅の光柱となったので、ケイトは驚き、魅惑的なデカいお尻がシートから跳ねた。

 

「ひぃっ!――――はあ、びっくりした」

 

 衝撃波がACにまで届いたが、爆発のエネルギーはC兵器がジェネレータに抱えていたものから大幅に減少している。コーラルが高エネルギー状態から鎮静状態に逆転するという、これまた不可解な現象が起こっていた。

 

 先に放出されたコーラルの群れが深紅の光柱を見送っている。エアは目の前の光景にただ、圧倒された。とても自分の意志が成し遂げたことだとは思えなかった。

 彼女はレイヴンと力を合わせることで、セリア達の機体アクゼリュス内部に相変異を起こさせることに成功した。

 コーラルに自意識を芽生えさせ、燃焼に対して選択の自由を与えたのだ。

 ジェネレータの爆発はセリアとドルマヤンの昇天であり、彼らとともに燃え尽きることを選んだコーラルも多くいた。ヒトに似たエアとも異なる意識なのだ。

 

 

 レイヴンとエア、そしてケイトまでもが深紅の光が揺らめく幻想的な光景に見惚れていた。

 

『好機です』

 

 オールマインドからの秘匿通信がケイト・マークソンを現実に引き戻す。

 

『強化人間C4-621レイヴンとCパルス変異波形エアを確保してください。相変異を制御可能な二個体を確保することができれば、我々のリリース計画は盤石になります』

『はっはあ……それはそうでしょうけども』

『何か問題でも?』

 

 レイヴンという極めて強力な傭兵が消えることはケイトにとって好ましくない、ような気がした。

 

 人を超えた能力を持つ上位者としてデザインされたケイト・マークソンにとってさえ、ルビコンは危険な場所だ。

 そんな惑星で傭兵として活動していくのなら、レイヴンという存在はこれ以上にないほど頼りになる。

 指図ばかりで、手の打ちようがなくなると通信を切る自分の本体とは比べ物にならない。

 

 批判的思考を躍らせながらも、とりあえず『やってみます』と前向きに返答。

 

『レッレイヴン、貴女はコーラル管理デバイスを用いた旧世代型強化人間ですよね』

『うむ』

『実は私のヘリには旧世代型にも対応したメンテナンス設備があるのです。せめてものお礼に、こちらで調整や治療をと思いまして』

『ケイトのいえ、みたいかも』

 

 少女の深紅の瞳が興味深そうに反応する。いける!と手応えを感じる一方で騙してスリープ状態に陥れることに物凄い罪悪感を感じるケイト。

 

 表情は冷静を取り繕い、微笑んでいるが、汗が滲んでおり、特に腋と臀部に強く緊張が出ていた。

 

『マネージャーとしてお断りさせていただきます。今回の一件を早急にウォルターに報告しなければなりませんし。それにメンテナンス設備であれば私達のヘリにもありますから不要です』

 

 ケイトの友好的な言葉の裏を感じ取ったのかエアの口調は鋭く、レイヴンにも有無を言わせない。

 

『続けてくださいケイト。ここで逃がせば次の機会はないかもしれません』

(言うのは簡単でしょうけども~~!)

 

 オールマインドの無情の続行指示にケイトは心の中で叫んだ。様々な口実で自分の輸送ヘリに621を誘い込もうと食い下がり、ついに秘技"ポンポンペイン"を発動した。

  急に腹痛がして操縦不能になったのでヘリまで曳航してほしいと大人の女として情けなさすぎるお願いをする。

 

『それはたいへんだ』

『レイヴン!』

『ケイトはせんゆうだ。せんゆうがくるしんでいるのは、みすごせない』

『……!』

 

 引き締まったお腹を抑える演技をしているケイトは、少女の眼差しにときめきを感じ胸を高鳴らせた。

 アニヒレイターが残っている左手のマニピュレーターでトランスクライバーを掴む。

 

『いたかったらスーツのなかにだせ。はずかしいことじゃない』

『はっはい、お気遣い痛み入ります』

 

 ケイトの頬の紅潮が体調不良によるものだと誤解したレイヴンの気遣い発言であった。

 

 二機が進路を変更しようとした矢先、通信回線に割り込みが入った。表示された通信者の名前に嬉しくなったレイヴンが受け入れる。

 瞬間、アニヒレイターとトランスクライバーのコクピットに通信者の傍で轟いているらしき、大音量のサウンドが木霊する。

 

 鼓膜を殴打されたようになりながらも、ケイトはその曲の情報を反射的に呼び出した。ある星系の紛争地で発見されたデジタルアーカイブからサルベージされた作曲者不明の曲"DIRTY WORKER"。

 

『キリカ、音量を下げろ。これじゃ僕の美声が聞こえない』

 

 初手で、なんだこいつと思わせる傲岸不遜な幼い少女のセリフ。しかし実際、澄んだ声である。

 

『はいはい』

 

 キリカと呼ばれた少女が面倒臭そうに返事をして、音量を下げた。

 

『やあ621、久しぶりだね。オペレーターのエアとケイト・マークソンには初めましてだな』

 

 621がエディス・キュビックスとして知るゴシックドレスの少女だった。

 

『私のことをご存じなのですが?』

 

 エアが訊く。

 

『中々優秀なオペレーターでついでに凄腕のハッカーだと風の噂でね。そちらもケイトというのもアーキバスの人気者だと聞いているよ』

 

『御機嫌よう、エディス・キュビックス。伝説のアーキテクトにお目にかかることできて光栄です』

 

 突然の邪魔者に焦りながら、冷静沈着にして妖艶な黒髪の女傭兵として、ケイトは挨拶する。

 

『おっとその名前はもう使ってないんだ――――まあ積もる話もある。今しがた壊滅した解放戦線の基地に用があったんでヘリで傍を飛んでる

 知ってるかもしれないが、今の僕らは新しいビジネスパートナーと一緒に運び屋をしているのさ、クロウハート・エアサービスだ覚えておいてくれよ。武器弾薬と整備をサービスするから遊びに来なよ。お菓子もある』

『いくいく! すぐいく!』

 

 レイヴンはエディスの誘いに大はしゃぎ。超音速で飛んでいきそうな勢いだ。

 

「ええっ!?」

 

 突然のイレギュラーに計画が破綻し、腹痛の演技が無駄になったケイト。

 

『ケイトはおなかがいたい、といれはつかえるか?』

『なにっそれは大変だな! 勿論、いいとも』

 

 ケイトは追い撃ちを食らい、赤面して俯いた。

 

『見えてきました。あれがクロウハート・エアサービスのヘリですね』

 

 アニヒレイターのカメラ情報を借りてエアはオールマインドが運用しているAC輸送ヘリとは異なるシルエットのより巨大な機体を視認した。それは、惑星封鎖機構の"AH12 HC HELICOPTER"を改修したものであった。

 

『さきにいけ、ちゃっかんはおーとでできるか?』

『はっはい。問題ありません、お気遣いありがとうございます』

 

 ヘリ後部から着艦するべく、腹痛で苦しんでる設定のケイトのトランスクライバーが先行していた。

 

 

 

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