私は独立傭兵のケイト・マークソンです!   作:その辺の残骸

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アングル・レイヴン-狩りの下準備-

 

 巨怪、現る!

 最大級の巨体を備えたC兵器の存在は一夜を経たずしてルビコン全土に知れ渡った。

 

 アーキバスによるバートラム旧宇宙港襲撃作戦において執行機体を撃破された惑星封鎖機構が投じた切り札。それこそが後にIA-02アイスワームの名で知られる鋼鉄のミミズと掘削機のキメラであった。

 

 サム・ドルマヤンの突然の乱心によりルビコン解放戦線は分裂状態。組織的な抵抗を行っているのはミドル・フラットウェル指揮下の一派のみでドーザーの類に堕したグループも多い。

 

 ベイラムグループは何処からか主要な拠点の情報を得た独立傭兵の襲撃で戦力を削がれ続けていた。本社と露骨に距離を置き、独自に戦力を拡充しているレッドガン部隊を除けば十全と言えない有様。

 

 そのような状況下でアーキバス主導の元、アイスワーム撃破までの一時的な休戦協定が纏められた。アーキバスを主としてベイラムが戦力を供与する形での討伐作戦も協議されている。それは、コーラル争奪戦の実質的な勝者が誰であるか明白にしていた。

 

 

 強化人間C4-621あるいはレイヴンはウォルターと合流。RaDが廃材から手掛けた輸送機に乗りベリウス中部に戻っていた。

 現在はルビコン解放戦線が放棄した補給基地の掩体にて、ACのコクピットに収まっている。

 

「僕が強化したばかりのアニヒレイターは派手にやられたみたいじゃないか」

 

 キャットウォークから黒ゴスの金髪少女が笑いかけた。

 

「めんぼくない」

 

 頭を下げて詫びようとするのをアムが片手で制する。

 

「気にするなよ。マシンは壊れるのも仕事の一つだ」

 

 アムと再会してから彼女たちのヘリでレイヴンのACは重量二脚、それもアーキバスの最新型VE-42Aに換装され、諸々強化された。にも拘わらず、アイスワームとの戦闘では手痛い損傷を被ったのである。

 

 あの時は調子に乗り過ぎたと反省しながら、レイヴンはアイスワームとの交戦を回想する。

 

 

 一目でヴェスパー部隊と分かるダークブルーカラーに戦闘機を彷彿とさせる空力重視のフォルム。スティールヘイズと共に特務機体を片付けた直後だった。

 

 絶対的な防御力を持つアイスワームには新たな姿となったアニヒレイターでも打つ手がなかった。

 

『遺憾だが、ここは撤退するしかない』

 

 スティールヘイズを駆るラスティの判断はもっともだった。しかし、レイヴンは相手がコーラルで動くC兵器ならばエアと共に干渉し無力化できると踏んだ。

 

『いくら君でも無茶だ! 下がるんだ戦友!』

 

『まかせろ。おくのてをつかう』

 

 自信満々に言って、地中から上体を出して、三基のドリルが付いた顔をこちらに向けてきたアイスワームに一息で肉薄。ACに反応してコーラル防壁が生じたのを幸いにと、エアと共に内部のコーラルに干渉したのだが。

 

『これは――――!? コーラルを護ろうとする意志!?』

 

 アイスワームを動かすエネルギーとなっているコーラルは一つの使命に突き動かされており、レイヴンとエアの呼びかけを拒んだ。

 

 ドリルに巻き込まれアニヒレイターの強固な装甲は砕かれてしまった。

 

「まずい。だけど、なんとかする」

 

 全損する前にアサルトアーマーを使ってアイスワームの追撃を弾き、全速力で離脱してどうにか事なきを得た。

 

 初出現以来、アイスワームはその中に宿る意志に従い、旧宇宙港を離れ、コーラルの集積地点と推測されているエリアの防衛に専念している。封鎖機構は二度、制御を取り戻すべく攻撃を仕掛けたが、いずれも失敗に終わっていた。

 

 ラスティに格好悪いところを見せてしまったし、エアを危険な目に遭わせた。この件を痛く反省している621である。

 

 そんな銀髪赤眼の強化人間少女の心情を察してか、あるいは偶々か。アムは告げた。

 

「今回のACは乗り潰してもらって構わない。タンクだからね、弾を食らってナンボというものだ。僕としては運用データが残ればいい。生きて帰ってこいよ」

 

「りかいした」

 

 アニヒレイターは修理中なので、アムが組み立てた別のACを使う。それは重火器を満載したタンク型のACだった。ベイラムグループのフレームを組み合わせているが、全身が改造品。

 

 クロウハート・エアサービスの二機のように左右非対称の追加装甲が各部にゴテゴテと張り付けられていた。

 

 ウォルターに同行してやってきたカーラが、このタンクACの最終調整を担当してくれた。彼女は今回の依頼人であり、裏切り者のクソ野郎に奪われた物を取り戻すまたとない機会の情報を掴んだのだ。

 

「それにしてもこいつは笑えるじゃないか」

 

「だろう。オートキャノンは最高さ」

 

 キャットウォークを降りたアムにカーラは言い、ACが両手に装備した巨大過ぎる火器を見上げた。四つの砲身を持つ大型機関砲がそれぞれの手に保持されているのだ。

 オートキャノン。これは全く馬鹿げた武器で、左右合わせて八門の砲身から一斉に砲弾が飛び出し、大抵の敵を瞬く間に蜂の巣にする。

 近距離戦向けというのと、弾薬を浪費するのがネックだが、オートキャノンの威力には麻薬的な中毒性さえある。

 

 今回レイヴンに供与された機体は白色のAC"EZ"に乗る運び屋少女キリカ・クロウハートが母星から持ち込んだパーツとルビコン3で流通しているコア理論型ACの融合だった。

 

 聞けばキリカの星ではタンク型ACはこうした過剰な武器をわざわざ手で持って扱うのだという。それがカーラの笑いのツボに嵌っていた。

 

「うちの商品開発の参考にさせてもらってもいいかい?」

 

「いいとも、お友達価格で提供するよ。こっちもRaDの商品にいい刺激をもらっているからね。何ならこういう代物がたんまり転がってるキリカの星に案内するよ」

 

 最終的な目的はともかく、この二人には技術者として通じ合うものがあった。

 

 

 ミッションは滞りなく開始された。

 

『621、仕事の時間だ』

『わかった。"パンツァー"をそとにだす』

 

 ヘリの管制室に移ったウォルターの合図に頷き、レイヴンは「ぱんつぁーふぉー」の掛け声と共にACを前進させた。

 

 突然出撃までに機体名を考えておいてねとアムに振られ考えたのがこの安直な名前である。

 しかし、ウォルターとしてはタンク型ACの本質を突いているようで、シンプルながら良い名前であると思ったし、自らの感性で考える力を621が取り戻したことは嬉しかった。

 

 パンツァーは通常の戦車など玩具扱いできる、大きく分厚い履帯を回転させながら進出した。装甲は雪原迷彩。雪を跳ね飛ばしながら滑走路に到達する。

 

『先行させたドローンが目標を捉えている。警備の数は多いが、動きは素人だ。装備の質も悪い。RaDから奪ったMTの整備は満足にできていないようだ』

 

 ドローンのカメラが捕えた映像が621の視界に表示された。今回の標的であるジャンカー・コヨーテスが奪取したRaD製のMTを中心にした大部隊が巨大なコンテナを警備している。

 コーラルの空中への噴出に伴う被害が少なかった地域だ。北側にはかつて中規模の都市だった廃墟が見える。

 

『あのデカいコンテナに入っているのがオーバードレールキャノンだ。コヨーテスの連中のMTはいくら壊しても構わないが、あれだけは無傷で確保したい。頼んだよ』

 

『いらいははたす。あのキャノンはひつようだから』

 

 かつてカーラが手掛け、オーネスト・ブルートゥなる裏切者に強奪されたオーバードレールキャノンはコーラルへの道を阻むアイスワームを撃破するために必要な兵器だった。

 自らの手を離れたアイスワームを破壊するべく、惑星封鎖機構は軍門に下ったコヨーテスが保有するレールキャノンを軌道上に運び出そうとしている。

 それを阻止し、レールキャノンを奪還するのが今回の依頼だった。

 

 機構は強襲艦を下ろしてレールキャノンを積み込み、宇宙に上げるつもりだ。わざわざベリウス中部で受け渡しを行うのは、中央氷原で勢力を伸ばしたアーキバスによる妨害を嫌ってのことだ。

 傭兵やヴェスパー部隊を用いた鹵獲作戦が成果を上げており、執行部隊はおろか特務部隊でさえ絶対的な戦力ではなくなっているのだから。

 

『システム スキャンモード』

 

 火器管制システムをOFFにして、索敵に特化したモードに切り替える。

 余剰エネルギーが推進系に再割り当てされるので巡航にも適したモードだった。

 

 COMのナビボイスはいつもと違っており、新鮮な感じがする。621に施された強化手術と彼女の生来のセンス、そして脳に埋め込まれたチップがもたらす経験はコア理論と異なるACに621を適合させていた。

 

『滑走路進路クリア』

 

『周辺に不審な機影なし』

 

 警戒に当たっているキリカのEZとヘルのスカーブランドから報告。

 

『いってくる』

 

 それを受けてパンツァーはアサルトブーストの推力で一気に離陸した。航空機が飛び立つために敷かれた滑走路から半人戦車の機体が飛び立つのは、どこか異様な光景であった。

 

 621が駆るパンツァーは航空力学に真っ向から挑戦するようにブースターの推進力だけで飛翔していく。雪を被った針葉樹群が眼下を流れる。作戦エリアに向かって巡航している時、エアは決心を口にした。

 

『この作戦が終わったらウォルターに話そうと思います。私の素性、セリアやドルマヤンの意志。そしてコーラルリリースのことも』

 

「それがいいとおもう」

 

 Cパルス変異波形は恐らく人類が初めて遭遇した異種知性体――――エイリアンである。交信という嘘偽りのない形でのコミュニケーションができるレイヴン相手はともかく、全くの他者に正体を打ち明けるのは憚られた。

 

 しかし、いつまでも隠すことはできない。ウォルターがカーラに自分を探るよう頼んだ痕跡が見つかったのだ。

 

 情勢は大きく変化しており、コーラルを巡る戦いが終局に近づいている予感さえある。

 疑惑や不信による災いを招かないためにもエアは決意したのだ。たとえ、その先に何があっても受け入れるつもりであった。

 

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 同時刻。ケイトは再びの超音速を体験していた。シートに跨り、雄叫びをコクピットに木霊させている。

 

 洋上都市、真の姿は恒星系を跨いで人類を運んだ入植船であるザイレムに派遣され、そこでの任務が片付くと返す刀でベリウス中部に向わされた。

 トランスクライバーは長大なロケットブースターを背負い、長距離を高速で移動している。

 

 バイクシートにしがみついてGに耐えているケイトはくたくただった。最近のオールマインドの人遣いは荒過ぎる。使われる立場とはいえ、疲れは溜まるし、レイヴンの機体がアイスワームと交戦して損傷した話は心配だった。

 何よりスッラの件だ。

 

『スッラを処刑せよ、と近いうちに命じる日がくるでしょう。確実な遂行を期待しています』

 

 ハッキングから数日するとオールマインド自らがスッラを裏切り者だと伝え、その粛清がいずれケイトの任務になることを通告してきた。とりあえず、ハッキングはバレていないようだった。

 

 電子音が響く。視界に直接投射されたターゲットマーカーが、強襲艦が射程に入ったことを報せた。

 目標は大急ぎで地上に降下し、回収を命じられたコンテナを収容しようとしている。護衛は小隊規模のLCのみ。

 

 ケイトはフルチャージしたKRSVを発射。オールマインドが確立した理論に基づきプラズマとレーザーの二種のエネルギーを複合させた弾体が強襲艦のブリッジを真横から撃ち抜く。直後、用済みになった追加ブースターをパージ。

 

『強襲艦の撃沈を確認。これでオーバードレールキャノンが回収されることはなくなりました。引き続き、敵勢力を一掃してください』

 

『了解』

 

 ケイトもアーキバスに提供するためにレールキャノンを狙っていた。一気にトランスクライバーを急降下させる。守るべき艦を沈められ、その爆発にも巻き込まれたが残った二機のLCがレーザーを浴びせてくる。

 

「今更LCごときで!」

 

 ケイトもトランスクライバーもアップデートされている。疲労していても、LCはもはや敵ではない。射撃をするりと抜けながら地上を目指し、KRSVからプラズマを連射して撃ち落とす。

 

『新手が来やがった! 頭目はまだ中なのかよ!?』

 

『企業め! 面倒な傭兵を送り込んできやがったな!』

 

『ありゃ"アーキバスの雌犬"ケイト・マークソンじゃねーか! チチとケツがデカいぞ!』

 

『関係ねえ! オレが殺る! コーラルとあの女のケツで乾杯してやる!』

 

 トランスクライバーに銃を向けたMTの操縦者たちが好き勝手に叫ぶ。

 

(レイヴンと競合する任務になってしまいましたね)

 

 既にタンク型ACとコヨーテスのMTが砲火を交え、後者が一方的に撃破されている。ACがレイヴンの機体であると識別信号でケイトは察した。

 

 アニヒレイターの代わりらしきACはオールマインドが取り扱っていない改造品であり、あのいけ好かないゴス娘の手が入っているのは間違いなかった。

 

 無限軌道の走破力で機動しながら、ダブルトリガーで放たれる四連機関砲。それは轟音と共に冗談みたいな口径の砲弾を連射し、耐久力に優れた四脚MTだろうがお構いなしに打ち抜いている。射線に入った機は文字通り、一機残らず撃墜されていた。

 

『好機です、コヨーテスを利用して彼女の機体を確保してください。レールキャノンとC4-621双方を手中に収めれば我々の計画は大きく前進します』

 

 オールマインドの要求にケイトは顔を顰めた。万全でも彼女と真っ向勝負するのは不可能だ。それを我々も解っているはずなのに、手駒を失うだけの指示を出すのは理解できない。

 

『ケイト、応答してください』

 

『わかりました。やってみます』

 

 しかし、やれと言われたらやらねばならないのがケイト・マークソンという存在だ。コーラル漬けのジャンカーどもを蹴散らしながら、コンテナの反対側に回り込み、KRSVをタンクACに向ける。

 

『ケイト!』

 

『貴女とこうなってしまうとは。昨日の友は今日の敵。理解していたつもりでしたが――――』

 

 本心からの言葉だった。左腕のマシンガンで牽制しながらKRSVで攻撃しようとする。

 

 その時、コンテナが内側から破られ、飛び出してきた大質量物にトランスクライバーは跳ねられた。咄嗟にクイックブーストで後退したが、スタッガーに陥るほどの衝撃を受けてしまった。

 

『ようこそカーラのご友人、そして道に迷えるお客人! 名高いお二人に我が子であるミルクトゥース・ユニサスを披露することができたのは光栄の極み!』

 

 パンツァーから中継されている映像を見た時、カーラは思わず悪態をついた。

 

 それはかつて彼女が組み上げたACをコアとした特務機体カタフラクトであった。車体側面には乳歯を組み合わせて造られた有翼のユニコーン(アリコーン)のエンブレムが刻まれている。

 

「機構のそれも特務まで奴の口車に乗せられたのかい」

 

 何よりも。我が子だと?ただカタフラクトにドッキングさせただけで!?

 ブルートゥの破綻した人格は裏切りで痛いほど分からせられた。しかし、その言い草にカーラは憤怒を堪えられなかった。

 

『ドーザーが特務機体を!』

 

 エアの声が脳裏に響くなか、レイヴンはオートキャノンと背部のプラズマミサイルを同時発射してカタフラクト、搭乗者曰くミルクトゥース・ユニサスに浴びせる。

 

 陸上戦艦めいた巨機は高速でドリフト。厚い装甲で反撃に耐えつつ、上部に装備されたレールガンでパンツァーを狙う。青白い閃光を伴い発射された電磁加速弾をパルスアーマーで弾きながら攻撃を続行する。

 

 その間にトランスクライバーは立ち直り後退していた。各部から火花が散っているが、離脱するくらいはできそうだ。

 

『さあダンスを楽しみましょう! ああ、貴女とのダンスはきっと素敵でしょう。親元から引き離された不憫なミルクトゥースの悲しみも癒えるほどに!』

 

「ようすがおかしいのでころす」

 

『私も賛成しますよレイヴン』

 

 ケイトの無事に安堵すると、レイヴンは虚言を吐き散らす正直者に向き直った。偽りの魔術(フェイク・イリュージョンズ)を断ち切る拒絶の力の具現となってパンツァーは地を駆ける。

 

 

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