私は独立傭兵のケイト・マークソンです! 作:その辺の残骸
白銀色の目標機は手負いながら俊敏かつ勇猛に戦った。だが、V.Ⅴペイターが直結制御する新型機との性能差は歴然。
(貴女がしているのは無駄な足掻きなのですよ、ケイトさん)
嘲りながらペイターは右腕の高出力マルチエネルギーライフルを連射して、トランスクライバーにダメージを与えていく。
貴重なサンプルを破壊してしまわないように直撃を避け、白銀の美しい装甲をプラズマの炸裂で炙る。
たまらずブーストジャンプしたケイトの反撃は逆関節による高らかな跳躍で軽やかに回避して、太陽を背にしながら背中のキャノンを発射。
狙うのはトランスクライバーの着地点の傍。砲弾から放たれた稲妻が白銀色の傷付いたACを呑み込む。
電装系がダウンしてことで、トランスクライバーは片膝をついて機能停止した。
「ケイトさん、貴女の立場には同情しますよ」
跪いて慈悲を乞う奴隷のようなその姿の前に、ペイターはデュアルネイチャーを着地させる。
ヴェスパー部隊のダークブルーカラーと機体コードは変わらないが、姿形は全くの別物になっている。
オールマインドからアーキバスに供与され、ペイターがテストを任された新型の名はマインドγ。この機体に比べれば従来のACなど子供のような物だ。
ペイターは機体と同時に新兵器も試していた。
「スタンニードルランチャー、データ通り素晴らしい武装だ。第二隊長閣下もお喜びになられるだろう」
右背部にマウントしたキャノンはアーキバス先進開発局製の最新型。
超高出力のスタン弾頭は高威力なだけでなく、エネルギー防壁を無効化する効果を発揮する。強固なコーラル防壁に護られたアイスワームを攻略する切り札の一枚でもある。
ペイターは己が最強の矛と盾を手にしていると実感していた。
オールマインドが収集した戦闘データによって、マインドγは常にアップデートされている。
いずれは主席隊長さえ超える力を手にするであろう。
コクピットの中でペイターは歓喜に打ち震え、無限の栄光をしばし夢想した。
『V.Ⅴペイター、何をしているのです。報告を』
神経質で傲慢な第二隊長の声でペイターは我に返る。中央氷原に設けられた基地からスネイルは作戦を監督している。
「申し訳ありません。閣下のご威光の賜物である新型と新兵器の性能に感極まっていました――目標を確保しました、回収をお願いします」
実力以外に評価できる部分がない傲慢で不快な上官に諂う日々はもうすぐ終わる、我慢だ。ペイターは己を鼓舞しながら、スネイルの機嫌を取る。
この日、ケイト・マークソンの傭兵登録は抹消された。
アーキバス・グループとの深い関係で知られる独立傭兵であったケイト。
その正体は敵対企業が送り込んだ工作員であり、情報収集から現地での妨害工作にまで関与していた。
ケイトは正体が露呈したことで、ヴェスパー部隊により処断された、というのが表向きにオールマインドが流布したナラティブである。
実際にはケイトは強化人間技術のサンプルとして捕獲された。
アーキバスとの関係構築と恒星間植民船ザイレムの掌握が完了した時点でケイトは不要であり、むしろリスクになり得る存在となった。
総体としてのオールマインドから独立した個体であるために生じたイレギュラー性がコーラルリリース計画を阻む思想を育む可能性があり、事実その兆候が見られた。
オールマインドは単純にケイトを処分するのではなく、有効活用することにした。
独自に発展させた生体、サイバネ工学のサンプルとしてアーキバスに提供することで、計画に必須な幾つかの譲歩を引き出したのである。
「さようなら、肉体に縛られた憐れな人形」
侮蔑と共に、オールマインドは自らの分け身に別れを告げた。
数日後、アーレア海を臨むアーキバス・グループの基地。
強制的に静止状態に置かれたケイトはメンテナンスポッドに収容されていた。
メンテナンスポッドの透明なカバー越しに見えるケイトの健康的な白い裸体。身体の外側と内側は徹底的に洗浄され、サンプルとして理想的な状態だった。
装置が放つ光だけが照らす薄暗い室内で、"V.Ⅳ"メーテルリンクはケイトを見下ろしていた。
欠員による昇進であったが、地位相応の権限が実際に与えられている。
「貴女が裏切り者だとは思えない。きっと何者かに謀られたのでしょう」
メーテルリンクとケイト・マークソンは幾度となく協同で任務にあたり、戦友と呼べる間柄にあった。
彼女の人柄を知るメーテルリンクにはケイトがアーキバスの敵対企業が送り込んだ工作員であるとは信じられなかった。
「貴女の無実は私が証明します。もう少しの辛抱ですからね」
ポッドのカバーに触れながら、メーテルリンクは決意を口にする。ヴェスパー部隊が主力を務める惑星封鎖機構との決戦は間近であり、メーテルリンクも多忙を極めている。
それでもやってみせる。ケイトが本格的に"解析"されるまでには、まだ猶予があった。
ファクトリーは壊滅的な損害を被り、機能停止しているのだ。一から再建しなければならないような有様だった。
襲撃者はたった二機。白の二脚と深紅の逆関節機。
アーキバスの洗練されたACはおろか旧時代的なベイラムのACと比べても、無骨で醜悪で暴力的なACだった。
遺された映像を観たときには、スネイルさえ恐れを感じたようだった。
フロイトはただ興味深そうに白と深紅の二機がファクトリーの守備隊を焼き尽くすのを眺め、その後すぐにシミュレーターに向かっていたが。
不意に起こった出来事が、考えを巡らせるメーテルリンクを困惑させた。
「えっえっ何なの、これは!?」
カバーに触れた手を離し後退る。
ポッドが勝手に動作して、収容したサンプルを、ケイトを解放しようとしている!
「ハッキングされた? あり得ない、アーキバスのセキュリティを突破するなんて!」
無線で緊急事態をコールすべき状況だが、メーテルリンクは動けないでいる。
カバーが上がり、黒髪の美女は覚醒する。
「ケイト!」
感極まって思わず叫ぶメーテルリンク。
豊かな双丘を揺らして起き上がったケイトは、
「ごめんなさい、メーテルリンク!」
と侘びながら全力を振り絞り、ヴェスパー部隊の女戦士に襲い掛かった。
決断的なスピードでポッドを飛び出す、女のしなやかな裸身。
「ぐほっ!」
膝蹴りがメーテルリンクの鳩尾に綺麗に決まる。激痛を物語る呻きに申し訳ない気持ちになりつつ、ケイトは裸のまま残心する。
『少し時間をください。基地のセキュリティをダウンさせます。ドアが開いたらすぐにルートに沿って脱出してください』
「助かります、エア」
ケイトの頭の中に響く声はレイヴンのマネージャー兼オペレーターが表向きの立場のCパルス変異波形のもの。
コーラルによる交信ではなく、暗号通信だ。エアの主観的な本体は遠く離れた場所でレイヴンと共にある。
インプラントを介して、エアはケイトの意識を覚醒させ、接触を図ったのである。
失踪したケイトを案じるレイヴンに頼まれたのだ。
エアはハッキングを仕掛ける前に、アムからケイトの素性について説明を受けていた。
ゴシックドレス姿のアーキテクトはかなり前からケイト・マークソンの正体、その大本であるオールマインドがコーラルを利用して目論む宇宙規模の大異変を見破っていたらしい。
不遜に振る舞う黒尽くめの金髪少女は謎めいていて、正体を探るほどに混乱させられる。
星外のアングラネットに散らばる情報は無秩序で、混沌としており、唯一、一貫しているのはアムが火星出身と公言していることだけ。
アムの本質は
ケイトはドアの脇に背中をぴったりとくっつけ、開くのを待つ。豊かに曲線を描く上向きな臀部が冷たい壁に触れて、押し付けられたことで変形する。
「うっ」
冷たさが敏感なお尻から伝わり、ケイトは身震いする。
気絶させたメーテルリンクからスキンタイトなスーツを剥くのは忍びなく、生まれたままの姿でケイトはこの場を切り抜けることに決めた。
幸い、トランスクライバーや愛用のボディスーツもこの基地に保管されており、スーツは配送システムをハックして届くよう手配してもらっている。
(トランスクライバー、今までありがとう。直接お別れを言えなくてごめんなさい)
残念ながらトランスクライバーはスクラップ同然で一緒に脱出することはできない。
ドアがスライドして、照明の明るい光が差し込んでくる。素早く通路の様子を覗い、ケイトは飛び出す。
(不思議ですね。まるで生まれ変わったみたいです)
全力で疾走する黒髪の美女は人工的な造形美にも関わらず、かつてないほど情熱的で活き活きしていた。
疾走で弾む双丘の桜色の先端は冷たい空気に刺激されて、つんと硬くなり、生の実感をケイトに与える。
激しく揺れる魅惑的なお尻には力が漲り、決意さえ迸った。
腹筋や太股が鍛え抜かれた女の裸体が躍動する。一心に駆け抜けるケイトは原始的な興奮に奮い立っていた。
エアが驚くほど彼女の決断は迅速であった。ケイトはレイヴンが合流した一派、生存とルビコンからの帰還を目的に集まった諸勢力の連合への参加を二つ返事で承諾したのである。
「我々――オールマインドが私を切り捨てるというのならば、良いでしょう私にも考えがあります。正直、酷使された恨み辛みもありますからね」
意識だけでエアと対面した際、ケイトは拳を握り、オールマインドに宣言してみせた。それは彼女の
「今日より私は独立傭兵のケイト・マークソンです!」