私は独立傭兵のケイト・マークソンです!   作:その辺の残骸

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グリッド086侵入

 

 BAWS第二工廠での戦闘から数日後。高密度のコーラルを浴びた機体のオーバーホールは完了。ケイト自身も躯体の調子を完璧に整え、新たなミッションに臨もうとしていた。

 

 オーバーホールのついでにコクピットの座席を変更した。トランスクライバーのシートはバイク型に様変わりしている。躯体の運用データを元に最適化したコクピット・レイアウトだ。

 

 座席に跨り、上体を沈めるようにして左右の操縦桿を握る。肉感的な太股でシートを両側から挟み、ケイトは身体をしっかりと固定した。座面に押し付けられた股間は銀色の装甲プレートに護られ、その下のトイレパックは新品に交換してある。後ろに向かって突き出されたお尻は溢れる自信で張り詰めていた。

 

 パイロットの搭乗に呼応して、計器が灯り、モニターが格納庫を映し出す。同時に神経直結により、機体のカメラとセンサが捉えた感覚が伝わる。ボディスーツに身を包み、颯爽とパイロットシートに跨る黒髪碧眼の美女と白銀色のアーマードコアという二つの躯体でケイトは世界を認識した。

 

「前のシートよりも響きますね」

 

 還流型ジェネレータが始動した瞬間の強い振動が股座に伝わったため、思わず腰を浮かせて、ケイトは座り直した。

 

『ブリーフィングを開始します』

 

 傭兵支援システムとしてのオールマインドのエンブレムがアニメーションを伴い視界に表示され、電子的な女性の声が心地良く響く。

 

 今回は傭兵としてのミッションではない。オールマインドの使徒として本来の目的を前進させるための作戦だ。

 

『数日前に起こったBAWS第二工廠の消滅に伴う急激な噴出現象により、大気中に拡散したコーラルは中央氷原へと流れています。そこで我々は他勢力に先んじて氷原に渡り、今後の活動の準備を整えます』

 

 要注意存在として第二工廠下層部の"井戸"のコーラルを励起したCパルス変異波形が表示される。ノイズに塗れた波形はオールマインドによって分析され、その個体名が推定されていた。アイビスの火以前に観測されたセリアを名乗る個体だ。

 

 波形の断片化。それを人間的に表現するのなら、セリアは正気を失っている。如何なる行動に出るか予想できない。また、他にも秘匿されていた強力なC兵器を制御下に置いている可能性がある。

 

『そのためにグリッド086上層に設置された大陸間輸送カーゴランチャーを利用します。上層への到達にはRaDから協力を取り付けてください。ベイラム・インダストリーより中央氷原先行調査の依頼を請けた強化人間C4-621レイヴンが既にRaDと接触しています。RaDの現状を鑑みるに、便乗する形でシンダー・カーラの協力を得るのは難しくないでしょう。

――――先の噴出の際、ウォッチポイント・デルタを破壊したコーラル噴出に巻き込まれたためゴースト部隊は大破多数。C1-249スッラからも負傷したとの報告が入っています。我々の実質的な実働部隊は貴女一人のみの状況です。細心の注意を払い、行動してください』

 

『了解しています。私単独でも任務の失敗確率は殆どありません。完璧に達成してスッラに自慢してみせますよ』

 

 中央氷原到達の偉業を成し遂げ、スッラに褒められる妄想をして「ふふん」とデカいお胸を張るケイト。

 

『行きなさい、ケイト・マークソン。本ミッションの完遂は貴女の傭兵としての名声を大いに高めるでしょう』

 

 ヘリの後部ハッチが開き、トランスクライバーは空中に躍り出た。雪風穏やかな白昼。数千メートルの高さまで伸びた支柱に支えられたプラットフォームという巨大極まる構造物を間近に仰ぎ見る。

 

 今回のトランスクライバーは脚部をRaD製のRC-2000 SPRING CHICKENに換装してある。逆関節機となる次世代オールマインド製AC マインドγのデータ収集のためだ。

 流麗な曲線を描く装甲のマインドαフレームに対して、無骨な逆関節脚部を装備した姿は不格好に思えるが積載性能に優れた優秀なパーツなのだ。

 

 脚部の跳躍力を存分に発揮して、白銀のACはグリッドを登っていく。文字通りノンストップで。時折ドーザーの縄張りを警備するMTやその他の戦闘兵器から攻撃を受けたが、弾薬を節約するため反撃はしなかった。

 

 立体的なグリッドでの行動は必然的に上下の動きが激しいものになる。艶やかな黒色の保護被膜に形をそのまま包まれた双丘が、豊かさを誇示するように大きく揺れ弾んでいた。

 

 人体と異なる関節をした脚と肉体とのギャップに少々戸惑ったが、動かしているうちにすっかり馴染んだ。サスペンションがしなる感覚を楽しみながら、ケイトは機体を操る。

 

「我ながら素晴らしいタイムですね。これこそオールマインドに相応しい。完璧です」

 

 マーカーが示すポイントへの隔壁を開くとケイトは片手間で到達時間を記録した。想定時間より二秒早い。

 

 トランスクライバーは露天区画の壁に設置された垂直カタパルトに接近するとブースターを切り、減速をかけた。鈍色の通路に火花が散る。

 

 さらに「とおっ!」と意気揚々と跳ねた機体を空中で反転させて、カタパルト・リフトに乗せる。無駄のない無駄な動作の極み。この一帯に版図を伸ばしたジャンカー・コヨーテスのIDがなければ本来使用できないが、ハッキングをかけて使用権限を奪い取る。

 

「カタパルトロック解除、スチームシリンダー圧力正常――――射出!」

 

 一連の流れを止めるものはなく、トランスクライバーはリフトアップ。ブースターをかけて上昇しつつ、今更侵入者に気付いたMTの群れに好戦的に笑いかけた。ぴっちりとした黒いスーツで浮き彫りになった腹筋を引き締め、股間と太股の圧力でより強く躯体をシートに固定する。碧眼の動きに連動するトランスクライバーのアイカメラ。

 

 長大な複合型エネルギーライフルKRSVからは高温のプラズマが、オービットからは鋭いレーザーが放たれる。BAWS製MTをはじめ、数こそ多いが程度の低い戦力ばかりのコヨーテスはひとたまりもない。命からがら脱出し、逃げ出ていくドーザー仲間達を後目に生き残りが通信でがなり立てる。

 

『敵襲!? RaDの差し金か!?』

『この階層は安全って話じゃなかったのかよ!』

『関係ねえよ! とにかくぶっ壊して、コヨーテスを舐めた中身もぶっ殺す!』

 

 暗号化も禄にしていない通信である。傍受できた中で人語として成り立っているものの内容は概ね似通っていた。

 ACに襲撃されているというのに、大部分はコーラルに酔ったドーザーらしい支離滅裂な発言だった。

 

 コヨーテスのMT隊は広く散らばっていた。乗り込んできた白銀のACに向かって搭載している武装を闇雲に撃ち込んでくる。

 

 マシンガンやライフルの弾を装甲で弾く。トランスクライバーが振り切った数発のミサイルはプラットフォーム間を結ぶ鉄橋上にあるクレーンやキャットウォークに命中した。巻き起こった爆発をバックに左腕部に装備した銃を構える。上部に大容量マガジン、下部に書類鞄のようなケースが装着された重機関銃だ。

 

 今回協力を取り付ける予定のRaD製のWR-0555 ATTACHEはその商売仇であるコヨーテスにぶっ放すにはうってつけだろう。

 

 機動性の差を思い知らせるようなトップアタックを仕掛ける。大口径砲弾は易々とMTの装甲を貫通する。ケイトは反動を制御して、百発百中の精度で重機関銃を振り回す。重い反動も馴染んでくると、心地良い。

 

 薬莢は足場の縁に向かって転がり、どこか鈍い日差しを浴びて煌めきながら遥か下方へ流れ落ちていく。

 一掃射を終え、トランスクライバーを簡易的な屋外整備場に着地させる。赤熱した重機関銃の銃身がアームによって素早く交換される。

 

 周辺の区画もコヨーテスの支配下にあり、多数のMTが配されていた。それらが続々とトランスクライバーを撃退するべくこの区画に集まってくる。

 

 レーダー上の敵性反応の数に臆することなく、ケイトは愛機を駆り立てた。

 

『このAC、只者じゃねえ! エセ灰被り女め、いったい何人傭兵を雇いやがったんだ!?』

 

 高低差を利用した機動戦でドーザー達を翻弄し、重機関銃から切り替えたプラズマスロワーを振り回し、爆雷と鞭をお見舞いしている時、気になる通信を拾った。エセ灰被り女はRaDの現在の頭目であるシンダー・カーラのことだろう。

 実際、オールマインドとしても彼女が自称している経歴は疑わしい。アイビスの火の生き残りにしてはあまりにも若い姿をしている。

 

(RaDはレイヴン以外にも傭兵を雇っている、ということでしょうか)

 

 ドーザーにありがちな幻覚からくる誤情報でなければ、他に接触した傭兵がいるような口ぶりだ。その発信源の四脚MTが僚機を伴い、四つの脚をせわしなく動かして接近、積み込んだ重火器を垂れ流してくる。動けるコヨーテスはその二機だけだ。装甲を重ねた重装タイプのため、しぶとい。

 

 連続でクイックブーストをかけて無駄弾を吐かせ、隙をみてジャンプ。ケイトはトランスクライバーを戦闘の余波で破れた隔壁から屋内に侵入させた。

 

 ACの速度でも長い通路だ。直角な曲がり角に向かって突き進む。遅れて追いかけてきたMT二機が白銀色の逆関節ACの背中を狙う。背負った大量の実弾兵器をMT二機が一斉に吐き出す着前、ケイトは素早く一連の動作を行った。

 

 曲がり角手前でサイドブースターを噴射。横回転するトランスクライバーのコクピットで、突き出されているケイトの豊満な臀部が挑発的に閃く。強烈な横の慣性と腰の動きが合わさり、大きく振られたヒップが魅惑のダンスを踊った。

 

 MTの方向に向き直るとKRSVからレーザー照射。薙ぎ払うように放つことで、MTが露出させた弾頭を一気に爆破する。そのまま、曲がり角にクイックブーストで飛び込む。通路に沿って向き直り、トランスクライバーはアサルトブーストで一気に駆け抜けていく。

 

「楽しい、楽し過ぎます……!」

 

 スピードのめくるめく快感に色っぽく息を吐く。ACをかっ飛ばして純粋にその速度とパワーを感じることに、ケイトは魅了されつつあった。おまけに今回の戦った相手は頭のおかしい虚言癖の怪人物に牛耳られるコーラル中毒のならず者集団。正直、気兼ねなく殴れる存在である。

 

 独りコクピットで昂るケイト。目的地であるRaDの縄張りはもうすぐだ。

 

 

 鉄橋に敷設されたリニアレールを滑り、目的地にたどり着いたケイトを出迎えたのは、青みがかった黒色の二脚ACと高所にポジションを取ったMT部隊だった。

 

 ケイトは機体のFCSをロックし武器を下ろし、ゆっくりと接近した。それに合わせて真正面にいるACがレーザーライフルを下ろす。ハッチが開き、銀髪の美少女が顔を見せる。ぴったりとした黒灰色のボディスーツ姿で、せり出した胸部装甲の上に立つレイヴン。無感情で抑揚もないが「ケイト」と呼ぶ声は喜んでいる。

 

 警戒を解かないRaDの部隊に対して、ケイトは自分の姿を晒した。足場になったコアの装甲の上に立つ。その所作だけで、巨乳が揺れて視線を引き寄せた。

 裸同然のボディスーツ姿で、拳銃はおろかナイフすら帯びてない。

 

(うっ! 予想していたけど寒い……! 早く挨拶を済ませてしまいましょう)

 

 ケイトは吹き付けてくる風の冷たさに身震いしそうになるのを堪え、微笑みかける。

 

『なんだいビジター、あいつも知り合いかい? 随分と年上のお友達が多いんだね』

 

 スピーカーから響く妙齢の女の声。RaDの頭目であるシンダー・カーラだ。

 ケイトが是が非でも協力を取り付けねばならない相手であると同時に、いずれ排除せねばならない敵でもある。

 

『うん、ケイト、まえにいっしょにしごとした、とってもつよいようへい』

『なるほど、ビジターが保証するなら本物なんだろうね。おっと挨拶が遅れたね、私はここの頭目を張ってる"灰かぶり"のカーラ。用件を伺おうかケイト・マークソン』

 

 レイヴンのおかげで話はすぐに纏まりそうだ。

 ケイトは今一度気合を入れた。背筋をピンと伸ばし、スーツが陽光を反射して黒く艶光るお尻に力を込める。

 

『はじめましてRaDの皆さん。まず無許可の侵入をお詫びさせてください。私の名はケイト・マークソン、独立傭兵です。そちらのレイヴンと同じく上層への案内をお願いしたいのです。無論、相応のお礼をさせていただきます』

『随分と耳が早いね。どうやってビジターの動きを知ったのか気になるところだけど、今はよしとしておこう。なにせ腕利きの傭兵が何人も入用な状況だからね』 

 

 情報源を疑われた瞬間は少々焦ったが、概ねケイトが望む流れになってきた。当然だ。RaDは惑星封鎖機構の圧力に直面しているのだから。

 女狐めいた邪悪な笑みを浮かべそうになるのを堪え、柔和な笑顔をキープする。

 

 機を見計らい、道中でコヨーテスを丸ごと蹴散らしたことを話して好感を得つつさらなる実力のアピールを――――と計画を練るケイトであったが、予想外の発言が灰かぶりの女から飛び出した。

 

『レッドガンの坊や達が戻ってきたら作戦会議をする。それまで中で待ってな。先に言っておくけど、とびきりキツい仕事をしてもらうよ。覚悟しておきな』

 

 そんな話はオールマインドからの情報になかった。ちょうどACの駆動音が後ろから聞こえた。二機、ベイラム製の内燃型ジェネレータの音だ。中量二脚の足音と履帯が回る音もする。

 G4ヴォルタとG5イグアスもまたRaDの協力を乞うために派遣されたのだろう。それもオールマインドの情報網に引っ掛からないほど極秘裏に。

 

 突っ立ったまま硬直するケイトの前で、レイヴンは嬉しそうに手を振っていた。

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