私は独立傭兵のケイト・マークソンです! 作:その辺の残骸
『さて、ビジターズ。仕事の時間だ、上でふんぞり返ってるお客さん達をまとめてぶっ飛ばしてもらうよ』
ブリーフィングと武器弾薬の補給を完了すると四機は出撃した。
敵は惑星封鎖機構。
機構は突如グリッド上層部に精鋭部隊を送り込んで制圧すると、下層にまで圧力をかけてきた。
おかげでRaDは特に大きな被害を被り、コヨーテス如きに付け入る隙を与えてしまった。
夕日がルビコンの大地を赤く染める。
青黒色の二脚ACアニヒレイターを筆頭とした鋼鉄の巨人達が甲板を闊歩し、恐ろしいほどに大きな影を落としている。
即席部隊を歓声で送り出すRaDの構成員たち。汚れたツナギやタンクトップがオイルと汗の濃い匂いを放つ男女の中で灰かぶりの女頭目の形姿は異質だ。
服装こそRaDのロゴ入りのジャケットに長い脚の大部分が露出したショートパンツとラフなのだが、才気溢れる女学者という風な整った顔立ち、綺麗に纏められた灰色の髪、シャープな眼鏡。どうにもミスマッチだ。
そんなシンダー・カーラは険しい表情で最後に乗り込んできた女傭兵の逆関節ACを睨んでいた。
『その通路を進みな。道順はこっちでナビする』
カーラに頷き、レイヴンは隔壁を開いた。
ぴっちりとした黒灰色のボディスーツを張り付けた銀髪の少女の「おー」という感心の声。老朽化した遠大な通路は暗闇に覆われている。
ACパイロット達は反射的にモニターを暗視モードに切り替えた。
『AC二機分とちょいの幅だな。どっちが先に行く?』
大豊製の平たい頭部が特徴的なタンク型キャノンヘッドがグレネードを装備した赤い腕を振って通路を示す。
ヴォルタとイグアスのペアか、レイヴンとケイトかという話だ。
『いつ噛み付いてくるか分からねえイカれた野良犬に背中を晒せるかよ。俺はいかねえぞ』
ヘッドブリンガーのコクピットで腕を組み、テコでも動かぬという態度のイグアス。
筋肉と体格に恵まれた相棒に対して痩身。身体の迫力が足りない分は荒々しさでカバーしている。
深夜、ミシガン直々に叩き起こされ、ヴォルタ共々ありがたい任務を拝命したのである。中央氷原に渡るG13レイヴンに同行せよと。
徹底した隠密行動が二人に厳命された。グリッドへの侵入を手引きしたのは敵対企業であるアーキバス諜報部。ミシガンらしくない、陰謀の匂いがプンプンする任務だ。
全てが腹立たしかったが、イグアスにとって最悪だったのはコーラル中毒者の女頭目に頭を下げなければならなかったことだ。
付け加えると、シンダー・カーラはイグアスの数少ない良き思い出の中の女教師によく似ていた。
レイヴンの傍にいるせいか増した頭痛にも苛立ちを募らせる。
『行きましょうレイヴン』
『うん』
そんなイグアスを余所にケイト達は前衛を担った。ACの重厚な足音が遠くなっていく。
『油断するなよヴォルタ。片方はアーキバス、もう片方は土着に尻尾を振る野良犬だ。怪しい素振りをしたら即座に撃て』
『分かってるぜ。だけどよ、イグアスちゃんよ。そうカリカリしてたら本番まで持たんぜ。このG4ヴォルタ様のようにどっしりと構えろや』
言ってからヴォルタのキャノンヘッドは前進した。その隣にぴったりとつき、前方のレイヴンの機体にレーダー照射をかける。
文句の一つも言ってこないのが余計にムカつくぜ、あの
上層にアクセスする通路は封鎖機構に軒並み抑えられている。
そこでカーラが見出した警戒網の穴を突き、グリッド建造当初に用いられた区画を進んでいた。
ヒリついた空気がレッドガンの二機から放たれている。無理もないと記録を見ただけの変異波形でさえ思う。
『レイヴン、貴女は大胆な方ですね、ミッション中に寝返るとは。ルビコニアンに味方してくれたのは非常に嬉しいのですが』
エアは言葉を選び、彼女の現在の主観としては隣にいる銀髪の少女に言った。その声は脳深部のデバイスを通してレイヴンに直接響く。
「うん」
レイヴンはなんだか分からない返事をして胸を張った。
通信画面のバストアップで、でっかい双丘を黒いぴっちりスーツに包んで晒し弾ませているケイトと対照的なお胸である。
しかし、腰は引き絞られていて、シートに押し付けている丸い臀部はケイトに並び立つ未来を示している。
エアと同じく変異波形であるセリアが引き起こしたコーラルの逆流という惨事が二人を引き合わせた。
狂乱を続けるセリアをそれでも懸命に説得していたエアは、コーラルの紅い嵐に翻弄されるACの中に少女の魂の形を感じ取ったのである。
それは不吉な大鴉の形を取り、老いて気高い山猫に生まれ変わった。
山猫の背から飛び立った渡り鳥は真っ黒に燃え尽きて地に墜ち、一匹の猟犬が起き上がる。
無数の獣の姿に変わり続ける、美しい混沌が名前のない少女が内に宿す形だった。
ルビコンに生きる全ての生命に破滅をもたらしかねないセリアを止める、エアの目的にレイヴンが協力を約束してくれたのは有難かった。
セリアはC兵器のジェネレータを"井戸"で起爆することで、コーラルに劇的な指向性を与えた。
逆流現象は地下のコーラル流を制御していたウォッチポイント・デルタのセンシング・バルブの許容限界を超え、施設の一部ごと消滅させたのだ。
狂奔するコーラルの流れを介して、エアは各地で起こった混乱と破壊を聞き取っていた。
なんとしても狂った同胞を見つけ出し、これ以上の凶行を阻止しなければならない。
(たとえ、彼女の命を奪うことになっても)
エアの決意は悲壮だった。
レイヴンのACの中で起こるコーラルのパルスをケイトは微かに聞き取ることができた。
会話を盗み聞きすることに罪悪感を覚えながらも、その内容を翻訳していた。
変異波形とコーラルに啓かれたヒトとの間にあるのは偽りなき精神の繋がり。
対してオールマインドに創造されたケイトが行っているのはパルスの波形を翻訳する単純な行為だ。
リリースの二つの引き金はオールマインドが蒐集してきた多種多様な高度技術を用いても再現できない神秘。
それを取り込み、我が物とするため奇跡の如き偶然を求め続けてきた。
ケイト・マークソンはヒトを超えた力を持ちながら、決してヒトより高みには昇れない。使い捨てられる人形だ。今はそれが少し恐ろしく、悲しかった。
雌の猛獣の力強さを秘めた丸い臀部を突き出すライディングスタイルでシートに跨りながら、物憂げな顔をして俯くケイト。レイヴンの視線に気付いたケイトは顔を上げ、優しく微笑んだ。
「ケイト、ぐあい、わるいの?」
「心配させてしまいましたね。少しお腹が空いただけですよ、これで元気になります」
「なら、よし」
上体を起こすと、ケイトは裸同然の薄さのボディスーツの左肩装甲部を開いて、アーキバス系列の食品メーカーが販売している栄養チューブを取り出す。
無味無臭だが、完全な栄養食で水分も取れる。
中身を吸い尽くし、戦闘前にエネルギーを蓄えようとする。
『レイヴン。申し上げにくいのですがケイト・マークソンの経歴には不審な点が幾つか見られます。念のため警戒を』
「!!――――げほっ! げほっ! うぅ……大丈夫ですちょっと咽ただけなので」
その途中、Cパルス変異波形の発言にびっくりして盛大に咽ていた。
『おいおい大丈夫かよ、まさか具合が悪くなったから帰りますなんてことはないよなケイトの姐さんよ』
『ご心配なくG4ヴォルタ。私は常に高いパフォーマンスを発揮できるよう訓練されていますから』
揶揄うヴォルタに、口元を拭うと余裕溢れる大人の女の態度で言い返すケイトであった。
『そろそろ終点だ。準備できてんだろうな?』
神経質に操縦桿のトリガーを弄びつつイグアスが訊く。
通路の終点は縦穴になっており、その天井をKRSVの照射で打ち抜いて上層に出る計画だ。
姿を見せれば即座にLC部隊と衛星からのレーザーによる激しい迎撃に晒される。
トランスクライバーの右手に握られた異形の長銃は力場を蓄え、解放の時を待っている。
『勿論です』
他の三機がスタンバイすると、ケイトはKRSVの銃口を真っ直ぐに掲げ、引き金を引いた。極大の光柱が空間を照らし、上層部の甲板を融解させた。
タイミングを見計らいケイトを除くACは離陸しており、イグアスを追い抜いて一番乗りで高空に躍り出たアニヒレイターがLC部隊を殲滅しにかかる。
続いてイグアスが戦闘開始。ヘッドブリンガーはパルスシールドを張りながら、手ごろな獲物を見定める。
『急げ、ヴォルタ!』
鈍重なタンク型のため、キャノンヘッドは遅れている。
一方、トランスクライバーはアサルトブーストを吹かし、機体を空に向けて一気に上昇した。
『お先に、G4ヴォルタ。貴方が着くまでG5イグアスは私がフォローします』
『おう。悪いけど頼むわ』
『ちっ勝手にしやがれってんだ!』
ACを捕捉した封鎖衛星からレーザーが照射される。その合間を縫ってLCが襲い掛かる。
敵の圧力を弾き返すようにケイトは猛然と操縦桿を押し込む。
高速飛行する物体を狙撃する精度のレーザーを難なく躱して、最初の目標をロックオンした。夕焼けの空、アーマードコアが乱舞する。