フィクサー事務所68   作:バラのレバー

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整合性は投げ捨てるもの。
(超展開)捉えられまい...



「白鯨怒涛」

「船員達よ!」

義足の老婆が巨大な銛をデッキに突き刺し叫んだ。

「「「「「はっ!」」」」

風が吹き荒れ、見上げるほどに高く上がる波の中、誰もその声を聞き漏らしはしなかった。

全員が嵐に備えて忙しなく準備をしながらも、船長の言葉に意識と期待を向けている。

「我々はついに辿り着いた!」

「あの嵐の中に我々が目指すものがある!」

「我々が探すものがある!」

「我々が殺すものがある!!!」

「お前たち!」

「それはなんだ!!!」

「「「「「蒼白な鯨!!!」」」」

「違う!」

船長は大きく首を振る。

「我々が殺すのはこの湖の五つの災いのひとつであり、全てを飲み込み白く塗りつぶす悪の鯨だ!」

「山のように巨大で!この世の何よりも硬く!死神のように蒼白な湖の悪魔!」

「私たちは今夜それを狩る!」

「恐れをなしたものは居るか!!」

船員たちが沈黙する。

だが、その顔に恐怖はない。

何かに憑かれたような危うさもありはしない。

あるのは数多の波を乗り越えてきた自負と、航海の終着点への覚悟、そして、「やってやる」という笑みだ。

言葉を介さなくても船上で過ごした時間が、共に困難を乗り越えた結束が、彼らを一つの巨大な生き物にしていた。

船長は満足そうに頷き、叫んだ。

「そうだ!笑え!」

「我らがピークォド号の船員は恐れない!」

「マグロ津波も脳圧嵐も火水流域も鋼刃潮も我々は超えてきた!」

一等航海士、スターバックが胸を張る。

「八脚の暴君を切り刻み、断鱗の大魚を釣り上げ、無数の人魚を貫き屠った!」

銛使い、クィークェグが笑う。

「我々は恐れない!どんな怪物にも、どんな波にも!歯を剥き出し笑え!」

「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」

「船長!嵐の中に何か見える!」

双眼鏡片手に、料理人にして銛使いのフウカが叫んだ。

「よし!フウカは銛を持て!船尾で奴の急所を狙え!操舵はイシュメールに任せる!」

「「了解!」」

「ピップ!嵐が来るぞ!帆をたため!」

「わかった!」

「ジュリ!甲板で油売ってないでオールを漕げ!」

「はい!船長!」

「クィークェグ!スターバック!私の周りに立て!」

「「アイ!アイ!」」

ピークォド号が決戦を前に準備する中、

一瞬の閃光が闇夜を切り裂き、雷鳴が轟く。

その音と光に呼ばれたように、打ち付けるような暴風雨の中、海面から巨大な影が隆起する。

山と見紛う程の巨躯。

計り知れない神秘を秘めた深淵のような黒い目。

蒼白いその体表には無数の傷が刻まれ、背には塔のように巨大な銛がいくつも突き刺さっている。

その傷が、その巨躯が、この鯨の生きた悠久の時を何よりも雄弁に物語る。

エイハブは歓喜する。

恋に焦がれる乙女のように。

契りを交わした戦士のように。

彼女の規定した全ての悪の顕現に、歓喜する。

エイハブは考える。

この鯨はいつ生まれ、どれほど生きたのだろうか、どれほどの船を砕き、どれほどの船乗りを喰らってきたのだろうと。

エイハブは大きく笑った。

お前が何年生きたかは知らないが、私の70年余りの生涯は、お前に『捧げたぞ。

「私はあの日からずっとお前を殺す日を夢見て来た!」

『ブオォォォォォォオ!!!!!!』

蒼白の鯨が咆哮する。

巨大な目をさらに見開き、奈落のように暗黒の広がる口を開いた。

それに応えるようにエイハブは巨大な銛を肩に担ぎ、ガスを灯す。

内部エンジンが振動し、銛の先端はたちまち赤熱した。

触れる雨粒が蒸発する程のその銛は、エイハブの執念であり、憎しみであり、怒りである。

「ようやく逢えたな!」

「この時を待ち焦がれた!」

「我が船員達よ!」

「我が誇りにして、我が銛達よ!我々の航海の最後が見えたぞ!」

「これが最後の船長命令だ!」

「蒼白な鯨を狩り殺せ!」

響く雷鳴、狩人の雄叫び、神の咆哮。

吹き荒ぶ風の音も聞こえぬほどの、猛り滾る神殺しの火蓋が今、切って落とされた。

 

 

 

ここはマカジキ漁港。

穏やかな波と、暖かい日差し、ぷかぷかと浮く土台の上に作られた街並みは今日も観光客で賑わっている。

のどかで平穏な一日が今日も来たのだと思っていたとき、

何人かが突如ざわつき始めた。

皆一様に遠い水平線を指さしている。

太陽の光に照らされた輝く水面を一隻の船が走ってくる。

チグハグな素材をツギハギし、マストも折れかかりのまるで幽霊船のような見栄えのボロ船。

それに、乗組員は皆、体の一部が白く覆われていた。

例の鯨に飲まれ、吐き出された成れ果てだと人々が騒ぎ出した途端。

「成し遂げたぞ!」

エイハブは銛を高く掲げ叫んだ。

人々のざわめきはもっと大きくなる。

彼女らがあの蒼白な鯨を討ち取ったというのか。

にわかには信じ難いことだったが、船の横に付いて進んで来た小舟から降りた人物の一言で人々はそれが事実だと悟った。

「先を越された。」とフードを羽織った老人は言った。

その場の誰もが驚いた。

彼は、特色フィクサーの『藍色の老人』。

五大災害の1つ、全てを貫くマカジキ鯨を釣り上げた伝説のフィクサーだ。

彼は人が集まって来るのを嫌い、いつの間にかまた海へと漕ぎ出して行ったが、それに気付くものはいなかった。

なぜなら、凄まじいお祭り騒ぎになったからだ。

多大な被害を出していた憎き鯨が死んだのだ。

港ではピークォド号の船員達を讃える宴が三日三晩続いた。

永遠に思えた大宴会も、やはり終わりが来るもので。

飲み食い騒ぐうちに、人々は1人、また1人、と段々と日常に戻って行き、浮かべられた巨大なイカダにはピークォド号の面々が残された。

輝く水平線には夕焼けが沈んで行き。

煌めく魚の群れが飛び跳ねていた。

その光景に何か思うことがあったのか、

誰からともなくポツリポツリと船上の思い出を語りはじめた。

「最初に海賊の野郎どもが来た時はビビったよなぁ...」

「マグロ津波なんかはマジでもう駄目かと思ったよ。」

「イシュメール。お前が。鯨の死体に落ちた時。流石に。ヒヤリとした。」

「クィークェグ...言うならちゃんと言ってよ。あんたの縄が切れたから落ちたんだけど。」

「なんとか言ってくださいよ。スタッブさんも見てたで...」

言いながらイシュメールが振り返った所には誰もいない。

「あっ...」

喉の奥から溢れた一言はじんわりと空間に溶けた。

「良い人…でしたね。」

ジュリが言う。

「うん...」

長い航海の中で多くの別れがあった。

勇敢に戦い死んだ者、人で居られなくなったもの。波に飲まれて消えた者。

船員達は酒を煽り在りし日を語る。

涙は落とさずに。

 

 

 

皆が寝静まった夜。

私、愛清フウカは1人で宿を抜け出した。

他の人ほど酒をドカ飲みしていなかったからか、久しぶりの動かないベッドでは寝付けなかったからだ。

淡い月明かりが降る港を行く。

押しては引く波の音を聴きながら当てもなく堤防へと歩いていくと、人影があった。

「船長...?」

「ハハハ!」

「ピークォド号は解散しただろう?私はただのエイハブだ。」

船長は船上とは打って変わって穏やかな表情で答える。

本当に船上で檄を飛ばし、誰よりも先頭に立って銛を振るったあの船長なのか?

満足げな一方どこか切なげなその様子は人生の仕事を終えた老人のそれである。

一時は荒れ狂い、今は凪のように静かで落ち着いている。まるで大湖のような人だとフウカは思った。

「御苦労だったなフウカ。お前の料理で船員達は楽しみが出来ていたからな。」

「人魚のヒレ肉ジャーキーの味がもう少し良ければ仕事が減ったんですけどね…」

「ふむ。お前もアレは嫌いなクチか?クィークェグの奴とジュリは好きだったが。」

ジュリもよく食べれるよねアレ...

フウカはジュリがあの悪名高いジャーキーを美味しそうに食べる姿を思い出し、心の中で呟いた。

「ところで、船長はこれからどうするんですか?」

「さあな。老後困らないくらいの金は貰った。釣りでもしながらのんびりやるさ。」

「私は結局、この湖が好きだ。この義足で硬い陸を歩くのはあまり好まない変わり者さ。お前はどうする?」

「スターバックさんが開く鉄板焼きのお店に置いてくださるそうなので、ジュリとお世話になろうと思います。」

「お時間あったら来てください。サービスしますよ!」

「ハハハ!スターバックの奴はピッタリな看板娘を捕まえたようだな!」

「奴は案外甲斐性のある奴だ。選択肢の一つにはなるだろう。」

「いやまぁ長いこと船乗りましたけど、まだ婚期逃してませんよ。」

「それにあんまりそう言うの分かりませんし…」

「そうか。お前は料理が上手いし気立てがいいから、私のような変わり者でなければ家庭を持つべきだな。」

「イシュメールとクィークェグみたいな奴らは貰い手がいるかも怪しいものだからな!」

船長は豪快に笑う。

「考えておきます…あっ船長。」

「エイハブだと言っただろう。」

「お世話になりました。」

フウカはぺこりと頭を下げる。

フウカはエイハブと船上で何度もぶつかったし、地獄みたいな船旅に巻き込まれたことを幾度となく恨んだ。

しかし、砂粒のように人知れず沈んで忘れられていく運命だった自分とジュリを救い上げ、生きる道を与えてくれた恩はそれでも消えはしない。

船を降りた彼女の望みはそれだった。

「……」

船長はパイプに火をつけた。

「……お前は我がピークォド号の勇敢な船員で、私が誇る最高の船乗りの1人だ。」

「だから、これからは自分で人生の舵を取るんだな。」

「船長…わっ!?」

船長は私に上から帽子を被せた。

「お前の船出に。」

そう言って見慣れた笑みを見せたのち、

義足の老人はパイプを吹かしながら何処かへと歩き去っていった。

片足だけでも、誰よりしゃんと立ちながら。

 

 

 

「ええ!?」

ホール仕事をしているジュリが素っ頓狂な声を上げる。

「どうしたのジュリ!?」

私はジュージューと音を上げる鉄板から目を離さずに聞く。

調理への集中半分見たくない気持ち半分だ。

この多忙な時間帯にトラブルなんてゾッとする。

お願い。大したことないことであって。

「フウカさん…?」

聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。

「ハルナ…?」

久しく会うハルナはあの時と変わらない朗らかな微笑を浮かべていて、その目には涙が溜まっていた。

「良かった…まさかまた会えるなんて…」

「何泣いてるのよ、いつもあんたは大げさなんだから。いっつも私を連れ回してた時みたいに笑いなよ。」

話すうちに私の視界がぼやける。

涙を誤魔化すため、汗を拭うふりをして、鉄板の方に向き直る。

ハルナは確かに困った客だったし、振り回されて散々な目に合ったけれど、間違いなく私の料理を一番愛してくれた者の一人だ。

なら、その想いに報いなくては。

「注文は?」

私達の間ならこれだけで十分でしょ?

「うふふ、そうですね。」

「海鮮鉄板焼き四つで。」




どうしてもフウカを船に乗せたかった。
後悔はしていない。

御職業は?(展開の参考にするかもしないかも。)

  • 管理人(プロムンユーザー)
  • 先生(ブルアカユーザー)
  • その他(どっちも知らない)
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